多様性が重要視される今、「インナーブランディング」を見直す必要性
最近では多様性、インクルーシブ社会などの言葉が飛び交い、学校の校則が見直されるようになったり、個人の多様なあり方が従来よりも尊重されるようになったりと社会の既存のルールの見直しが行われる流れが生まれてきています。
ルールの改定や自由化の中でも、特に話題に上がった事例として『スターバックス』のドレスコードの自由化は記憶に新しいのではないでしょうか。
制服を代表とした「きまり」の自由化・多様化は一見、組織の立場からすると
意識統一や一貫性を大事にしていくインナーブランディングとは相反するのでは
ないかと感じてしまうかもしれません。
しかし、多様な価値観を認め合うこれからの時代においては、
様々な考えを尊重しながらも、組織として同じ方向を向いて進んでいくために
必要な一体感の醸成が重要なポイントとなってきます。
今回は、いくつかの事例を紐解きながら、今後そのような状況下で
ますます重要性が増すと考えられるインナーブランディングにおける重要なポイントをいくつか取り上げたいと思います。
【CASE1 : スターバックスの取り組み】
『スターバックス』といえば、これまでも画一的な広告を出さずに店舗ごとに店員さんが作成したメニューボードを掲示していたり、インテリアにおいては、それぞれの店舗ごとに合う絵を飾ったり、また接客に関してもマニュアルを作成することなく自主的な行動を重視していたりと自由度の高いブランディングで有名でしたが、今回、ある一定の範囲内であれば従業員が自分らしい服装を選べるようになったことで、ますますその流れは加速しました。
実際に店舗に足を運んでみると、ピンク色のヘアスタイルの店員さんや、帽子をかぶった店員さんなど、思い思いのファッションに身を包む様子が見受けられました。そんな自由度の高い環境下でも、「スターバックスといえば居心地のいいサードプレイス」といったように、人々が思い描くイメージは一貫しており、どこの『スターバックス』に行っても共通のイメージを受けます。
それは一体なぜなのでしょうか。
その理由の1つにインナーブランディングが成功している点が挙げられます。
つまり、「企業の哲学・価値観への共感を醸成し、企業文化として浸透させること」に成功しているといえます。
本記事においての哲学とは、「なぜ存在するのか」といった普遍的な意義を示し、「その哲学に基づいたあるべき考え方」を価値観、そして「それらが浸透し体現されている行動の蓄積」を文化と示しています。
『スターバックス』の企業哲学には、「人々の心を豊かで活力あるものにするために」が掲げられており、価値観には「お互いに認め合い、誰もが自分の居場所と感じられる」こととあります。
これらの哲学や価値観を社員が理解し、行動できるようにするために、
『スターバックス』ではたとえアルバイトの一員であっても、企業哲学を浸透させるインナーブランディング のプログラムが数多く取り組まれていることが一つのポイントとして挙げられます。
例えば、従業員同士が業務の中で、”スターバックスらしい”と感じた行動に対して、コメントを書き込んだカードを張り出す「GABカード」の習慣があります。
マニュアルや正解がない中で、個人が日々の業務の中で、従業員同士で”スターバックスらしい”と感じた行動に対し、言語化していくことで社内における共通認識として落とし込んでいきます。
その結果、”スターバックスらしい”と確信を持って行動できる従業員が増え、アウターに対して様々な場面で『スターバックス』の哲学や価値観を発信できているのです。
今回の制服の自由化に関しても、一見すると「自由でバラバラまとまりがなくなってしまうのではないか」という懸念が生まれそうですが、しっかりとスターバックスの哲学・価値観を個人に落とし込めているからこそ成り立っている事例であると言えます。
日々、”自分らしさ”と”スターバックスらしさ”の合致点を見つけ理解し、行動に落とし込むことで、自分ごととして捉えられ、企業への共感や愛着を醸成できています。
自由化を図ることは一見、一貫性を大事にするブランディングの手法に反するように思えますが、単なる表面上の統一ではなく、企業と従業員の哲学・価値観が共鳴し、文化へと変化していくことで、ブランディングを成功へと導くのです。
そのためには、日頃から企業の哲学を自分ごと化して体現できる、インナーブランディング のプログラムの実行が必要になります。
また、多様化の側面からではなく、現代のもうひとつの社会トレンドの観点からも、インナーブランディングの見直しは非常に重要です。
「モノ」から「コト」を重視する社会になり、「何を買うか」よりも「誰から買うか」「どんな想いが込められているのか」を見極めるようになった消費者は、
「その企業がどんな思想を持っているのか」、そして思想を持っているだけでなく、「どう行動に移しているのか」を見て、購買を決定していると言えます。
それゆえ、もっとも顧客接点が多い従業員が、企業哲学、価値観を行動としてしっかりと体現していることが重要になります。
今後、企業の哲学や価値観への関心が高まる消費者が増える中で、インナーブランディングを強化することが、アウターに対しての発信力を高めることを意味しています。
【CASE2 : 無印良品の取り組み】
『無印良品』では「アドバイザリーボード」という制度があり、経営陣の外部パートナーとして原研哉氏や深澤直人氏などのデザイナーが参画し、商品企画からビジョンの形成などに携わっています。経営の部分からデザイナーが関わることによって『無印良品』らしいビジョンを、言葉だけでなくイメージとしても強く提示することが可能になります。
『無印良品』が大切にする「生活美学」という目指すべき姿を明確なイメージとして提示することにより、商品企画から店舗づくりまで”無印良品らしさ”が生まれ、従業員が共感し、行動・文化へと浸透しているのです。
「無印良品といえば生活に馴染むそぎ落とされたシンプルさ」というイメージは、そのような明確なビジョンの提示のみによるものではなく、従業員の”無印良品らしい”行動からも醸成されています。『無印良品』らしい無駄なく効率的な行動をつくり出すために、「MUJIGRAM」といわれるマニュアルが存在するのです。
誰にでも分かる具体的な内容で示された行動基準が記載されているだけでなく、
1つ1つの行動に「なぜやるのか」といった行動の理由が記載されており、従業員が納得感をもって自身の行動に移せる仕組みづくりが行われています。
また、マニュアルは店頭の従業員の声から常に修正が繰り返されており、それにより、企業の哲学を実現するための実際の行動がよりリアルで明確なものとなり、
アウターへの発信がより強固なものになります。
【CASE3 : Hubspotの取り組み】
『スターバックス』や『無印良品』は、従業員の主体的な行動を促す施策として「GABカード」や「MUJIGRAM」といった手法をとっていますが、その他にも近年では行動規定する方法の1つとして、カルチャーコードを規定・公開する企業も増えてきています。
カルチャーコードとは、「こうありたい」という企業の哲学・価値観を具体的な行動として明文化したものであるため、従業員は企業の哲学・価値観を自分ごと化しやすく、文化として浸透させることに役立ちます。
例えば、企業レビューサイト「Glassdoor」から「2020年に働きたい会社」第1位と評された『Hubspot』はカルチャーコード をとりいれた会社の一つです。
『Hubspot』では、日々の行動の指標となるものを言語化、スライド化し、全社員に共有しています。そこに記載された言葉を日々のミーティングで積極的に使用することで、自分自身の行動に落とし込みやすくなり、文化としての浸透も促進されています。
企業のコンプライアンス規定のような文体で書かず、社員が日常的に使っているボキャブラリーや表現を用いて作成されていることでより社員が自分ごととして受け止められるような工夫があったり、また、トップが作成した後、全社員にフィードバックを募り、修正を加えたり日々改定していくことで、従業員の意思を取り込み、行動へと落とし込みやすくしている点は非常に優れたポイントです。
まとめ
今回は、多様化の流れが進む中で、インナーブランディング活動の必要性が今後ますます高まること、そしてその際に重要なポイントを取り上げました。
企業の哲学・価値観を提示された従業員が、自らの哲学・価値観とすり合わせ、自分ごととして捉えることで文化として浸透し、その結果、アウターへの力強い発信が可能になるのです。
そのためには、自発的な行動を促す力強い哲学・価値観を提示できているか、また実際に指針となる行動が明確になっているかといった点でのインナーブランディング の見直しが必要になるのではないでしょうか。
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