アイディア

 いいアイディアを朝から3つも思いついた日がある。ショートエッセイにしようか、たまには掌編小説を書いてみようかとワクワクした。出勤途中にそれぞれのテーマについて思いを巡らせていた。ペンと紙をすぐに出せなかったのでスマホに書き込んだ。
 そして一日が終わり、朝のアイディアを少しずつ形にしようとメモを確かめようとした。
「無い。」
 スマホのメモ機能はいつも使っているので操作を間違えることは考えづらい。キラキラ光る朝日のようなアイディアは一つとして書き残されていない。最新のメモはどこかの電話番号をメモったものだ。何かの問い合わせの番号だった。でもそれじゃない。どこに行ってしまったのか。
 行きがけに寄ったコンビニに行けば思い出すかもしれない、と同じコンビニに行ったペットボトルを2本買って、店先でしばし考え込んだがもう欠片すら出て来ない。自分が信じられなくなりそうで、そこからもう考えるのは止めた。本当に大切なことならば何度もしつこく確認したはずだから。
 最後の1つの数がずれていたせいで取り損ねた宝くじのように。あれから長い時間が経った。そんな人生のエピソードになりそうなアイディアはたぶん海に還った。

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