鼻で笑う男

先月のこと。僕はコーヒー・ショップでスマホを操作していた。コーヒーを飲みながら、スマホでチケット応募か何かの入力作業を続けていた。腰を落ち着けて時々窓の外を見ながら美味しい珈琲を楽しむ。休日の好きな過ごし方だ。その店のコーヒーはいつも美味しい。

聞き耳を立てるまでもなく、隣席の会話が聞こえてくる。二人の男が話していた。どちらも勤め人風だ。

一方的に話している男Aは30代後半から40代前半ぐらい。一方的に言葉を浴びせかけられている男BはAよりも明らかに年上で白髪混じりだ。Bがどうやら何かで大きな失敗をしたらしく、Aが責め続けている。「ですからね、今さら僕に謝ってどうするんですか?」と半笑いで話すと「スッ」と鼻で息を吐く音が漏れ聞こえる。鼻で笑う男ってこういうことなのか。スマホから目を離さずに、コーヒーを飲みながら聴いていた。

「本当に申し訳ない。皆に迷惑をかけたと思います」と消え入りそうな声でBが言う。Aが「でも今更僕らでかぶるしかないでしょ?(スッ) 他に方法がないですよね?(スッ)」。30秒ぐらいの沈黙のあと、 Bは絞り出すように「だから本当に申し訳ないと」と返す。「僕らが迷惑してるってことを理解してくださいよ。(スッ無し) どうなんですか?(スッ)」 僕はもう隣の会話が気になって仕方がない。スマホの操作は一通り終わり、視線を窓の外に向けて自分の時間を取り戻そうとしたがだめだった。隣の会話が気になる。

「わかりました。あなたがそういうお考えなのはわかりました」(スッ無し)と言って、Aが席を立ち、Bが続いた。詳しい事情はわからないがコーヒーが不味くなるからああいう話は他でやってもらいたい。森の中はどうか。野生動物以外誰も聴いてないからそこで存分に話せばいい。野生動物も嫌なら嫌と彼らに伝えてもよい。半笑いのAは森の中でも鼻で笑うだろうか。


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