我がオイルライター

 昔、ライターに火が着かなくて悲しい思いをした。
 知人の誘いを受けてバスツアーに参加した時のことである。バスは観光地を巡りながら時々停まり、土産物の購入やトイレに行くための休憩がある。その日のバスは座席の前後に余裕が無く窮屈で、座っているのは大変だった。気分転換と足の関節をほぐすために休憩時間に車外に出て煙草を吸おうとした。しかし、その日は風が強くてライターに火が着かない。結局、煙草を吸わないままに休憩時間が終わってしまった。その時のライターは使い捨ての百円ガスライターだった。

 その後、風が強く吹く日でも煙草に火をつけられるようにとオイルライターを購入した。メーカーはアメリカのジッポー。信頼の老舗ブランドである。製品やデザインの種類も豊富であり、その中で二十年近くスリムタイプを使ってきた。スリムタイプは小さいがためにポケットの中で存在感が無く、邪魔にならないのが利点である。
 先日、2台目が壊れて3台目を購入した。しかし、どうも火の着きが悪い。着火を二十回ほど繰り返さないと火が付かないのである。オイルが滲み込む綿をほぐして詰めなおし、着火の芯は綿の中を這うように再セットした。発火石も交換して、ようやく普通に着火してくれるライターになってくれた。
 オイルライターは、寒風の中でも火を起こせる頼もしい相棒である。そしてライターに常に火が着くことは当たり前の事だけど安心する。
 道具というのは使わないと調子が悪くなったり、使わないのに壊れてしまう。車やスクーターも年に数回しか乗らない方が痛みが早い。タイヤにはいつの間にかヒビが入っていたりする。
 道具は、使わずとも時々見てあげて、手入れが必要なのだろう。調子が悪いときは、何とか直してあげると長持ちするものだ。
 3台目のライターも、「俺は道具だけれど、気にかけて、よく見ていてくれよ」と言いたかったのかもしれない。

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