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40 ハルワーの謎 (インド、ミャンマー)

 ハルワーをハルワーと認識したのは2002年の南インド、マドゥライで。
 宿のスタッフがある朝、葉っぱに乗ったぷるぷるしたものを、
「食べたことある?食べて。ベリベリグッド」と、ひと口くれたのが、それだった。ぷるぷる甘甘。
「なにこれ」
「ハルワー」
 それは角のお菓子屋のスペシャル・ハルワーだそうで、さっそく朝ごはん代わりに買いに出る。いつも人だかりしている店なのだが、そうか有名店だったのか。
 インド菓子はおしなべて1キロ何ルピーという量り売りで、この店もそう。でも、みんな葉っぱに乗った適量を立ち食いしている。とりあえず、ひとり分の意味で人差し指を1本立ててみたら、バナナの葉っぱに、いい感じに乗せてくれた。

値段は忘れた。日記にも記載なし。

 いやもう大好きだハルワー。

 宿の近くの書店(英語本が豊富だった)でたまたま立ち読みしたレシピ・ブックによると、ハルワーをぷるぷるに導くのはキャッサバ粉らしい。なるほど、キャッサバ澱粉といえばタピオカだ。ぷるぷる、納得。

 マドゥライを発ってからも折々にハルワーを買ってみたけれど、しかし、ぱさぱさだったり四角くカットされていたり、せいぜいグミの食感。それはそれで美味しいんだけど、あの、つるるんぷるるんとは別物だった。八ツ橋煎餅と生八ツ橋の違いみたいなものだろうか。(違うか。)

 しかしまあキャッサバ芋は、チップス屋台があるほどインドではよく食べられているので、その澱粉を利用したお菓子があるのも頷ける。

 そうして数年後。
 2006年の春先(といっても現地は酷暑期)、2週間ほどの予定でミャンマーを訪ねた。ヤンゴンに用事があり・・・って怪しい用ではないけど長くなるのでそれはまた別の機会に書くとして、ハルワーよ、ハルワー。

 ヤンゴンの用事が済むともう、することがなくなった。マンダレーとパガンは前回行ったし、北部は遠くて慌ただしい。
 行きやすくて面白そうなところはないかと『地球の歩き方』をぱらぱらめくり、ぼんやり欄外コメントを読んでいると、なに? パテイン・ハルワー? 

 パテインという町に、” ハルワーというお菓子の人気店があり、国中から何箱も買いに来る" みたいな投稿が載っていた。
 ハルワーって、あのハルワー?
 そうやんね、ミャンマーの隣りインドやし、インド人沢山住んでるし、そうやわそうやわ。食べてみたいわ。行こ。パテイン行こ。
 あらためて「歩き方」を読み込むと、パテインへはバスも船もある、らしい、が、なかなか面倒で、ぐずぐずするうちになりゆきで同宿のアメリカ人ジューンさんとタクシーをシェアすることになってしまった。そのへんのこともまた別の機会に。

 で、パテインは川沿いの、じつにのんびりした田舎町だった。立派なお寺が二つあるけれど、地元の人ばかりでパテイン・ハルワーを買いに来た観光客などいないと思われる。
 目的の店はおおよそ「歩き方」に示された位置にあった。お客は誰もいなかった。シーズンオフなのかもしれない。
 ハルワーは見覚えのある半透明の茶色で、ああやっぱりインドと同じ。インドから来たんだな。A5サイズぐらいの紙箱の中で平たく四角く、それがひと口大にカットされてあった。
 ひと箱くださいと言うと、えっ、たったひとつ!?と驚かれたので、なんとなく3つ買ってしまった。やはりここではまとめ買いがお約束なのだろうか。でも、3つもどうするんだ。ひと箱でもずっしり重いのに。
 そう、パテイン・ハルワーはやたら重かった。

 店の奥が工場のようだったので、ここで製造販売しているのか尋ねると、店員或いはオーナーが、そうだよ、この新鮮なライスで作ってるんだよ、と大きな袋を開けて見せてくれた。
 え? 米? もち米だ。
 ミャンマーのハルワーはキャッサバじゃなくもち米から作るのであった。

 宿に戻って食べてみると、日本のういろうに近かった。重さも原料も、そうだ、ういろうだ。食べ応えがあり、ひとりでひと箱食べ切るのは無理である。
 ヤンゴンに帰り、宿のスタッフと宿泊者に2箱半を託して帰国した。

 さて。
 ミャンマーとインド、どっちが先にハルワーを作ったんだろう。ミャンマーかな。で、インドにはもち米がないからキャッサバで代用した、とか。
 そうそう、ミャンマー以西ではもち米を食べないってことも、旅を始めた頃からの謎である。食文化は不思議でおもしろい。

 なんてことを思いながら、あるとき中東好きの知人に「ハルワーはトルコにもエジプトにも、名前を変えて中東各国にもある」と聞いて驚いた。原料も各地で違うらしい。でもハルワー。
 ハルワーって、なに。
 ブッダ、アッラー、イエス、ハルワー・・・。

 まあ、謎を謎のままにしておくのが楽しいこともあるので、以後、あんまり必死で調べたりせず、今に至る。

暑いミャンマーでは冷えたクインチを

 

 

 


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