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25 中高年が行く南インド57泊59日① (関空→チャンギ空港→トリヴァンドラム)

 2016年1月、バックパッカーをやめて5年。まさかふたたびリュックを背負ってインドへ向かうとは。しかも帰国後に夫となる通称マリーさん(森永マリービスケットを嗜好)を連れて。わたし49歳、マリーさん62歳。人生にはいろんなことが起こる。

 私ごとで恐縮ですが、って私ごとしか書いてないわけですが、その半年ほど前にバツイチ同士付き合い始め、ぽつぽつと昔の旅話をするうちに、マリーさんが「そういう、インド旅をしてみたい」と言い出した。尊敬するガンディーの国に行ってみたいとのことである。
「ゲストハウスはエアコンないし、水シャワーやし。レストランも行かへんよ。屋台とかでゴハン食べるよ。荷物は自分で背負って歩くねんで」
 念を押したが、大丈夫だと言う。心配なら短い旅行にしておけばいいわけだが、そこは、わたくしのかつての旅魂が許さない。1週間で「場」に慣れて、2週間目からが面白くなるんやんか、概ね。

 ちょうど年末に何度目かの仕事を辞めていた。まるで旅に出ることが決まっていたかのように。マリーさんはもとより年金生活者である。最初の目的地はとりあえずケララ州、コヴァーラム・ビーチに決めた。ガンディーの故郷グジャラートも考えたが、初バックパッカー(高齢)には南インドの方が旅しやすいだろうし、マドゥライまで行けばガンディー記念館がある。

 航空券をS社に相談した。前回2002年、シンガポールエアの”関空発チャンギ空港乗り換えトリヴァンドラム行き”に乗ったのだが、便利なので今回もそれで行きたい。すると、チャンギ空港からは子会社のシルクエアに乗り継ぐが、そのルートはまだあるという。予約した。何かあったらすぐ帰れるように帰国便を変更できるチケットで、57泊59日。ビザの申請も任せることにする。

 それから、30リットルのバックパックをマリーさんに譲り、自分用に20リットルのを新調し、荷造りを伝授した。
 着替えは2、3組でそれ以外は現地の天候によって買い足す。日用品は何でもすぐ買えるから持参するのは歯ブラシぐらいでいい。あとは、貴重品バッグ、普段 服用している薬、ビーチサンダルとサングラス。

 しかし。90年代と違って困るのがカメラであった。もうフィルム式コンパクトカメラはアンティーク。スマートフォンはまだ持っていない。母のデジタルカメラを借りて行くことにしたのだが、バッテリーがたぶん2ヶ月もたない。充電器と変圧器は重くて嵩張る。
 しょうがない。バッテリーが切れたら写真撮影はそこまでということで。

 持ち物問題はもうひとつ。
 わたしたちは当時「塔短歌会」という結社で短歌をつくっており、毎月の誌に載せる歌の締め切りと、年に一度の「塔短歌会賞」「新人賞」の締め切りが旅の途中に巡ってくる。欠詠したくないし、賞に応募もしたい。そんなんだから、原稿用紙と電子辞書、愛用の筆記用具をリュックに入れねばならなかった。・・・それぐらいええやんと思うかもしれませんが、いや、「それぐらい」も積もれば大荷物となるのです。

 それでもまあ何とか準備はできた。到着が夜遅いので、バススタンドに近いホテルをインターネットで予約もした。
 飛行機はつつがなく出発し、大きく揺れることもなくシンガポールに着き、スムーズに乗り継いで、こじんまりしたトリヴァンドラム空港に着いた。ああ!またインドに来れた!

 何かと評判の悪いインドのイミグレーションだが、わたしは運よく空港でも陸路でも嫌な思いをしたことがない。今回も、久しぶりのインドが嬉しくてたまらずイミグレ窓口で「グッド イーブニン」とパスポートを出すと、係員も「グッド イーブニン マダ〜ム」とにっこり、ポンポンとスタンプを押してくれた。
 しばらくして出てきたマリーさんは「何か訊かれたみたいやけどわからんかった」と笑っている。何でもそうやって、なんとなく通過できてしまう人である。

 両替し、プリペイドタクシーでホテルに着いた。大通りから路地に入ったので方向がわからない。真っ暗。もう真夜中近いから周りの店は閉まっているのだろう。
 エアコン付きツインで1200ルピーだったが(1ルピーは当時2円ぐらい)、高いわりに狭くて汚くてベッドが小さい。わたしはいいけど、マリーさんは大丈夫やろか。帰りたいとか言わへんやろか。
 ベルボーイ(おっさん)がドアをノックして、飯は要らんかと訊く。飯は要らんが、冷たい水を2本所望する。
 ほどなくペットボトルを携えてきたおっさんが、胡散臭い値段を言う。が、まあ一応ホテルだし、無事に着いた御祝儀に、多めに払ってお釣りはチップということで。こういうときにいちゃもんつけると忘れた頃にしっぺ返しがあるのだな。旅していると因果応報がめっちゃわかりやすく顕れる(ような気がする)。

 マリーさん、冷たい水やで。ペットボトルを渡す。朝早く出発して、時差を追って到着して真夜中。疲れたよね。シャワーする?エアコンつけとこか?ブランケットけばけばやからわたしの万能布(タイなんかで売ってる手触りてろてろの気持ちいい布)掛けて寝る?・・・気遣うわたしをよそに、その人はベッドに横になり、けばけばの毛布を被ってくうくう眠っていた。
 エアコン要らんのかい。そんな汚そうな毛布にくるまって寝られるんかい。こんな・・・
 意外と順応できるのではないか、インドに、貧乏旅に、マリーさんは。
 明日から放っとこ。
 とにかくわたしも眠い。とにかく明日はコヴァーラム・ビーチだ。

②につづく

あんまり関係ないけど

 

 


 


 

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