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信者でも擁護しがたいPOVホラー、『オカルトの森へようこそ The Movie』

粗筋

 森に隕石が落ち、怪奇が放たれた。電波染みた主張をする取材対象に会うべく、黒石監督と市川ADは山奥へ赴く。ところが山には既に、異星のバケモノとその狂信者が溢れていた。
 逃げ惑う一行。絶体絶命に思われたが、銃を持った変人・霊能者の変人が助っ人に現れ…!?


 僕は白石晃士監督の大ファンです。ホラー界の至宝だと思ってます。…ただまあ、作品にバラつきがあるのも事実でして。

 若くして評価され、『ノロイ』は全国公開!…しかしJホラーの衰退と共に低調になり、アイドル×ホラービデオを撮る期間が長かったり…。しかし傑作『オカルト』以降は低予算ながら良質なホラーを連発し始め、『コワすぎ!』は大いに盛り上がりロングシリーズとなった。
『貞子vs伽椰子』で大作シーンに返り咲き、ホラー・アングラ系の”漫画原作もの”を手掛けるようになります。が、『不能犯』『地獄少女』主演がリアル犯罪者と判明し頓挫した『善悪の屑』…と最近は微妙な流れが続いてきた。

 しかし『恋するけだもの』は白石節の爆発する傑作に回帰した。続く今作は、監督のトレードマークとも言えるPOVホラーと聞く!それならハズレはないだろうと観に行った結果…大ハズレでした
 以下、監督への愛憎入り混じる長文レビューとなります!


白石成分の全部乗せ

 本作、云わば白石作品のセルフサンプリング映画になっています。過去作の要素が、これでもかと詰め込まれている。

ヤバい家のディティールも健在

・お馴染みPOVジャンル:完全ワンカット(風)で言えば『ボクソール★ライドショー』
・黒石監督:お馴染み、監督自身の変名キャラ
・毒舌家の女AD:『コワすぎ』(役名も同じ”市川”)
・過去の傑作『オカルティズム』:『オカルト』、或いは”10年前”で言えば『コワすぎ!』始動の年
・貼り紙、汚部屋で生理的嫌悪感を催させるリアルキチガイ:『ノロイ』『コワすぎ:お岩さん』
・電波系宗教:『コワすぎ:震える幽霊』『カルト』
・霊体ミミズ始めCG感ありありの怪物:幽霊系ホラー全般
・噛ませ系大物霊能者:『カルト』『貞子vs伽椰子』
・ホスト系最強霊能者:『カルト』のNEO様。”名無し”と名乗るのも、NEOの「仮名ならなんだって良いよ」を想起させる
・江野くん:常連の宇野さん
・羽屍人:常連の大迫さん
・直接物理除霊:『コワすぎ』
・殺人による救済:『オカルト』『ある優しき殺人者の記録』『殺人ワークショップ』
・倫理的ジレンマのある選択:『コワすぎ:最終章』
・道ならぬ恋:『超コワすぎ:蛇女』

などなど…。いつもの白石タッチの映画に、売れ線の若手俳優をメインキャストして間口が広く取られています。 

 僕はディティールで映画を観る派なので、この手のくすぐりは本来大好物なんですよ?でもこの映画は駄目でした。

散漫なテーマ性

 白石作品の良さって、1作品1テーマなところにあると思います。ところが本作は、各キャラに味付けしてあるせいでどれにも感情移入出来ない。

 例えば、”道ならぬ恋”要素。これは『超コワすぎ! file-2【暗黒奇譚!蛇女の怪】では泣けた話なんですよ。取材相手は、無職・童貞・おまけにストーカーというド底辺。本当にダメな中年なのだけれど、工藤Dに「泣くな!男だろ!」と叱咤され奮起。犠牲を払って怪異との仲を成就する様に、不覚にもグッとくる訳です。
 或いは、”倫理的ジレンマ”要素。これも『コワすぎ!最終章』でシリーズ掉尾を飾るに相応しいテーマでした。6作通してヘタレキャラだった田代くんが、仲間と世界を救うべく江野くんの課すミッションに挑む。シリーズを追ってきたからこそ、彼の決意たる

「工藤さんと市川を呼び戻すために…私は間違っていることを自分の意志で…やります!」

の台詞にアツくなるんです。

 一方の本作、各人の前フリが厚くないので感動「げ」な空気を出されてもピンとこない。
 ダブルカップルの恋愛展開見せられても唐突なだけだし、市川が殺人を犯すのも「いや、世界滅亡寸前だし仕方ないじゃん?」くらいの感慨しか湧かない。せめて子供好きだとか、生贄の幼女と顔見知りだったなどの伏線は欲しいのだが…。

 とはいえ、オタク的な観方はここまでにしましょう。この映画が問題なのは、ホラー映画としてふつうに詰まらないからです。

(転調系)ホラー映画として

 子どものころには「少年ジャンプ」を読んで育ったので、”少年漫画感”が多分染みついているんでしょうね。
 それに映画を観ていて、うおーっ!てアツくなるのは好きなので、盛り上がるような展開やセリフをキャラクターが要ったり行動したりしてくれるといいなと… 

パンフ、special talkより

 白石ホラーの特色として、半ばでダークヒーローものに転調する点が挙げられます。最強霊能者が出てくる作品で言えば『カルト』『貞子vs伽椰子』がそうですし、『コワすぎ!』シリーズも工藤Dの暴走ぶりをヒーロー像として観るならその範疇でしょう。
 このジャンルに必要なものは何か。転調に入る前のパートをきちんと恐く作ることです。『オカルトの森~』にはそれがない。

前半恐いからこそ…

 ホラーの怖さはビックリ加減にはない。前フリであり、段取りです
 『カルト』『貞子vs伽椰子』においては、一般人の受難→噛ませ霊能者の敗北という流れがあります。「この悪霊には本職でも勝てないのか…!」と絶望感が高まったところに外連味ヒーローが出るからこそ、観客は喝采に沸く。
 或いは『コワすぎ!』シリーズは、前半部に(それなりの幅で)投稿映像パートがある。ここをきちんと恐く作り「バケモンにはパンピーやヤンキーでは勝てない」と観客に刷り込むからこそ、工藤Dが暴力解決する様にカタルシスがある。

外連味キャラの登場はカッコいい

『オカルトの森~』はどうか。投稿映像パートは冒頭僅か数分だけ、バケモンによって発狂/死亡する犠牲者が出ぬまま江野くんが登場するため、「あ…銃とか手裏剣が効く程度のバケモンなのか」と肩透かしを食らう。
 噛ませ霊能者の中野英雄が江野くんの「後に」出るのは完全に失敗でしょう。これではバケモンの”対処不可能感”が減じてしまい、恐くなくなってしまう。

 どうして駆け足なホラーになってしまったのか。それは本作が、元は連続ドラマだったからです。

興行形態へのダメだし

『オカルトの森~』はWOWOWで全6話放送されたドラマであり、新録プロローグを冒頭に張り付けて再構成されたのが今回の劇場版となります。
 ドラマを6本繋げて何が起きたか。マンネリです。同じような展開が、6回繰り返されている。

①承前:出だしの設定説明、前回の状況整理
②移動:道々で行動指針を決める
③アクション:会敵
④逃亡:倒し切れず、その場を後にする

概ね、20分単位でこのパターンが繰り返されます。
 ドラマならね、この構成で良いと思うんですよ。でも、ホラー「映画」では違う。怖がらせる段取りが杜撰なまま、変なバケモンが出てきてパニックになり逃げ惑うだけ。
 『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』の場合は、25分ポッキリ且つ4DXというライド感溢れる上映形態だったため勢いで乗り切れました。でも本作は2時間映画なんすよ!2時間ワンカット(風)のまま同じ展開が続くのは…ダレるに決まっている。

シネコンにかかる、夏映画として

 スンマセン、CGがショボいです。
 繰り返しになりますが、ドラマなら良策なんでしょうね。1話ごとに盛り上がりが作れるから。でも映画という形態では話は別になる。ホラー映画って、極端な話見せ場は少なくても良いんですよ。怖い目に遭って、一度立ち向かって敗北して、覚悟や知恵を元に再起して勝利する。映像的に凝るのは2回だけでも話は成り立つ。
 ところが本作は、見せ場が散発的なため(ただでさえテレビ映画の予算なのに)個々のクオリティがショボくなっている。ゆえに、恐くもなく映像的な迫力もない誰得映画に陥ってしまう。

皆(?)大好き白石空間

 加えて言えば、本作が全国のシネコンに掛かっているのも歯痒いところですね。従来の白石作品は、渋谷アップリンクとかシネマスコーレみたいなミニシアターで掛かることが多かった。この手の映画館に来る観客は、キモイ発言ですがリテラシーが高い。だからCGがチープであっても、
「あのCGはぬぇ…諸星大二郎先生から影響は受けてるんだなぁ…直ぐにクトゥルーとか言い出すヤツは素人ォ…フヒィ…」
とキモオタ的擁護をする土壌があった。

 一方の本作、配給の角川が夏ならホラーは売れると短絡的に欲目を出したせいか、全国のシネコンで公開してます。…夏休み映画でさ、『ジュラシックワールド3』とか『ソニック2』やってる横でこの映像はキツいっすよ。  
 前述した通り怖がれるホラーではなく、アクションホラーに振り切っているのだから、本来は映像クオリティで張り合わなければいけない筈なのに。

暴力映画として

 更に今作の陳腐さをいや増す要素として、暴力性の漂白があります。

 白石ワールドには暴力が溢れていました。残虐表現の極北たる『グロテスク』『殺人ワークショップ』、イヤーなヤカラが暴走する『暴力人間』、パワー系キチガイに戦々恐々とする『ノロイ』、スラッシュ感溢れる『テケテケ』『恋するけだもの』など…。それらと比べて、『オカルトの森~』は圧倒的に過激さが足りない。
 バケモノとのバトルはまだ良いでしょう。しかし対人戦闘においても、何ら残酷な表現はない。銃で撃っても弾着はなし、刃物で切っても切り株どころか切り傷も見えず。人体を刺した刃物には血糊一片たりとも付かない。
 一応、「異界の存在に影響を受けた人間は血を流さない」って理屈はあるんですよ。でもそれ、製作側の都合じゃないですか。

…怪しげな教団内部では阿鼻叫喚の展開も。野副Pは「放送に乗せる作品ですから…」と控えめながらも…

パンフ、production notesより

はい、ここでもやっぱりテレビドラマだから、って留保が付きますね。
 じゃあ劇場公開の時に別撮りなりでクオリティアップして下さいよ!対人バトルはラスト20分に集中してるから、撮り直しも無理な話じゃないでしょ!こっちは劇場料金(とパンフ代)払って観に来てんだよ!ドラマ6本繋げてハイ終わり!なら、それって客舐めてんじゃん!

 しかし、単に表現がヌルいからダメだという話でもありません。この映画は、「バトル映画」であって(白石作品の美質である)「暴力映画」ではないんですよ。

バトル映画 is not 暴力映画

  バトルと暴力の違いは何か。僕個人としては「物語の推進力足りえるか」にあると考えています。

 白石ワールドには、「そんなに酷くない」暴力もあります。頭を叩く、恫喝する、蹴る、胸倉を掴む、偶にはバットで殴る、二千円で懐柔する…。これらが物語で果たす役割は、スピード感です。

 詰まんねぇJホラーは、怪異の撃退に「真っ当であるがゆえにまどろっこしい」方法で立ち向かおうとします。土地/伝承のルーツを探る、キーパーソン/幽霊に共感して情報や成仏を引きだす…。しかし、白石ワールドは違う。人でなしだからこそ、暴力という最短ルートで問題解決を図り出す。

…もちろん実際の社会では「間違ったこと」をやってはいけないわけですが、倫理的に間違っているとされること、犯罪とされることを、映画の中ではエンタテインメントとして描くことができる…

パンフ、special talkより

監督のこの言が示す通り、(創作物において物語を動かす)暴力は「面白い」んですよ。彼らは世間的なしがらみを超越した行動をする。だから敵に回せば心底恐ろしいし、味方側に立ってくれるなら不謹慎ながら格好良いんです。

 では、暴力を輝かせるにはどうすれば良いか。「真っ当な」キャラを置くべきなんですよ。それが今作には居ねぇんだ!だから詰まんねえバトルものに成り下がる!ツッコミ不在で皆暴走するなら、それタダのキチガイ集団だから!
『暴力人間』におけるカメラマン、『コワすぎ』におけるAD市川が、今作には居ない。「警察呼びませんか?」「もう引き上げましょうよ」「助けを待ちましょう」といった、常識的な(その実、非常時に対応出来ていない)小市民キャラを出す。そうすれば、その臆病さをぶっ壊す破天荒ヒーローに、格好良さが見えるんだろうが!
 それなのに、黒石監督は撮影厨、市川助監督は毒舌、取材対象の三好は電波系、江野くんはハイテンション、ナナシは敵なし超能力…と各自暴れ回るだけ。ホラー論と同じ理屈ですが、”溜め”の無いところに、”カタルシス”は生じようがありません


…散々クサしましたが、バトルの殺陣そのものは結構良かったですよ。アクション監督の富田稔さんは、『ミスミソウ』『ザ・ファブル』を担当とされていたと知り、それは納得。

 ただ、ホラー映画としてはやっぱり出来は酷い。癖ツヨ系アクションで言えば阪元監督の『グリーンバレット』が同時期に封切られているから、観るならこっちじゃないかなあ…。あ、『バイオレンスアクション』は超ド級のクソ映画らしいので止めた方が良いですよ。


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