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『女子高生に殺されたい』

粗筋 

可愛い女の子に殺されたい…。春人はそう願って生きてきたが、己に課した条件によって悩んでいた。しかしある事件がきっかけで、彼は理想の女性にめぐり合ってしまう。
 9年にわたる「自分殺害計画」の果て、春人は二鷹高校に赴任する。真帆という名の、女子高生に殺されるために。


『悪の経典』×『スプリット』でした、M中です。

 「原作に忠実なのが良い実写化」…。そんな風潮に反してこの映画、大幅に改変がされながらも面白い。とは言っても、古屋兎丸の原作に粗があったってワケでもない。漫画と映画の違いを理解したうえで、きっちり映画に落とし込まれているんです。
 以下、原作との異同を中心に語ります。

原作漫画

 原作漫画は、全2巻の中編作品です。原作の面白さは、前半の焦らしと後半の畳みかけにあります。

上巻:キャラ提示

 (最近の)連載漫画には、スピード感が求められます。原作者も、

今は(読者の)漫画を読む目が肥えて、ゆったりとしたスピードについてきてくれないので、まず1話目で「僕は生徒会長になることが目的だ」と、ハッキリとブチ上げないといけません。(中略)
昔の漫画(の流れ)で「帝一の國」を描くと、(中略)3巻くらいかかると思います。今はそれだと、3巻が出る前に打ち切られてしまいます。

『帝一の國』古屋兎丸先生インタビュー 第2弾

少年誌連載ではそれを意識していた。しかし対照的に『女子~』は全2巻であるにも関わらず上巻はほぼキャラ説明に費やされています。春人、真帆、その友人のあおいと雪生、カウンセラーの五月…。1話ごとに話者が変わり、時間軸も巻き戻って多面的に二鷹高校の学園生活が描かれる。
 とはいっても、①春人の被殺願望②心理学的バックボーン③真帆の多重人格などの核心部分は既にして触れられており、後半への伏線になっています。

下巻:ドンデン返しの連続

 上巻での焦らしから一転、下巻は急転直下に事が進みます。身辺を整理し、完全犯罪を目論んだ春人。いざ行動に出るのだが、不測の事態が立て続けに起きます。真帆への付き添い、殺人人格の不在、五月の明かす真相…。1話ごとにハプニングが起き、完全だった筈の計画が崩れていく様がスリリングに描かれている。

映画『女子高生に殺されたい』

 映画版は、「時間」の使い方が上手い。「被殺計画の伏線」「実行トリック」の2点から説明します。

前半:遠大な計画

 漫画に比べて、春人の計画は大掛かりになっています。漫画では「記録上蒸発し、人の来ない山中で殺される」というもの。一方映画では「文化祭の中で事故に見せかけて殺される」ことを目指す。そのため、春人は1学期の間に様々な仕込みを開始する。
 映画版の春人は、魅力的な変態策士です。前任者を追い込み採用枠を得る、真帆を孤立させ手を差し伸べ依存させる、クラス演劇を誘導する…。春人は人間関係を巧みに操り、女心を手玉に取って周りを支配する。
 一見して不明な行動も、後々になって意図が分かって来る。漫画と違って自系列を1本にしたからこそ、ミステリ的な伏線回収が楽しめます。

トリックと時間表現

 映画における被殺手段は、クラス演劇を利用したトリック仕立てになっています。「キャサリン」の名をトリガーにして、真帆の中の人格が目覚める。そのため「事故に見える位置で首を絞めてもらえる」よう、彼女を誘導する。
 ここの面白さは、時間にあります。そもそも春人がキャサリンを割り出したのも、殺人時刻と番組欄を照らし合わせて推理したからです。いざ文化祭当日を迎えてからは、分刻みで事態が進行する。脚本の相談・リハーサルで予め展開が提示されているからこそ、「ああ、もう直ぐで『キャサリン』連呼のシーンが来てしまう」とハラハラ出来る。これは映画のような映像媒体ならではの表現でしょう。

結びに

 肯定的な評をして来ましたが、一つ難を挙げるならサブキャラが弱い。これに尽きるでしょう。古屋兎丸作品の魅力と言えば、(映像化された『帝一の國』『ライチ☆光クラブ』のように)アクの強いキャラのぶっ飛びぶり
 原作『女子高生に殺されたい』でも、あおいの「アスペぽよ」、雪人の「匂いフェチ」が春人の野望を打ち砕く切っ掛けになっていました。

 ところが映画版では、主演二人以外は背景の書き割りに退いてしまった。その割にあおいの予知能力設定は残っており、「キャサリン」に殺人を踏み止まらせるのも「泣き落とし」が通じたため。……ぶっちゃけサブキャラは全部削った方が良かったかな…。

 だからこそ、主演・田中圭のセクシーサイコを押し出した作りになったのでしょうが、本作の興収は爆死街道を驀進中。それなりに面白い映画だから、ここまでNoteを読んでくれた人には、観に行って欲しいな…。







 

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