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【DESTINATION】プロローグ5 幻の大地


母なる星「ティエラ」は、誕生から現代までの約46億年間、さまざまな星や生命と協力し合いながら、絶えず進化をつづけてきた。

地層の調査から「44億年前には海と陸が存在していた」と明らかになっている。

当時、ティエラにあった大陸はひとつのみ。

それは北半球から南極にかけて広がる、陸続りくつづきの広大な大陸。これが集合と分裂を繰り返し、7つに分断されていくこととなる。

大陸が分かれる秘密は、ティエラの表面を隙間なく覆う、十数枚の硬い岩盤板がんばんいた「プレート」の動きにある。

プレートは「ゲンブ岩」という重い岩石からる「海洋プレート」と、軽い岩石「カコウ岩」からできた「大陸プレート」に分けられる。

この2種類のプレートは、マントルの流れに乗り、沈み込んだり、盛り上がったり、すれ違ったりしながら、ベルトコンベアーに似た動きで年に数cm「個別に移動」。

「個別に移動」それは、ティエラの内部から新たに陸がつくり出されていることを意味する。

大陸が分裂した場所には海がつくられ、衝突した所には山脈ができあがる。

海底の山脈や谷はプレートの境目にあたり、このような場所では、大きな地震が起きやすい。それは、海水が岩盤の割れ目を濡らし、滑りやすくしているため。

「地震が起きる仕組み」

地震が起こる原因は「大陸プレート」と「海洋プレート」のぶつかり合い。

「重い海洋プレート」は「軽い大陸プレート」の下に潜り込み、さらにティエラの深部にある「マントル」のなかまで沈んでいく。このプレート同士の押し合う力が地震を起こすもととなる。

地震にはいくつかのタイプがあり、そのうちのひとつが「海溝型地震かいこうがたじしん」。プレート境界地震きょうかいじしんとも呼ばれるもの。

海溝型地震は「大陸プレート」の下に沈み込んでいく「海洋プレート」のストレスに耐えきれず「大陸プレート」が、もとに戻ろうと跳ね上がったときに起きる。

100年に1度くらいの周期で繰り返し起こり、巨大地震につながる可能性が高く、津波が発生しやすいのが特徴。

また、境目では地震のほかに活火山の噴火も多発。 

「大陸プレート」の下に沈み込んだ「海洋プレート」が、海水の働きによって上部マントルの一部をかす。けたマントルが上昇していきマグマを形成。

その過程で、いったんマグマは地下のマグマ溜まりに蓄えられ、けていた水や二酸化炭素などの火山ガス成分が発泡し、地表に噴出。

これが海溝沿いの火山。

よく振った炭酸飲料のボトルを開けて減圧させると、一気に発泡して吹き出るのと同じ原理。噴火の多くは、このようなマグマの発泡によって引き起こされる。

火口から飛んできた軽石を観察すると、たくさんの小さな穴が見られるが、これはマグマが発泡した痕跡である。

現在の諸大陸は、もともと単一のかたまりであったが、地下の岩盤がズレて発生する「巨大地震」、星の中心部「核」のまわりに溜まった熱によって起こる「マントルの対流」。

このふたつが大きな要因となり、何万年、何億年のときを経て7つに分断されていった。

「大陸は動いている」

根拠となるのは次の4点。

・大陸を形成する地層は軽いため、重くて流動する地層の上に浮いて移動する。
・分かれた大陸の地層をパズルとしたとき、ピタリとつなぎ合わせられる。
・大陸間で同種の化石が発見された。
・過去の気候分布の一致。

以上の事実が、過去、大陸がひとつだったことを裏づけている。

「幻の大地 エルシド」

大陸が7つとなった約1万年後、海底火山のマグマ堆積たいせきにより、8つ目の大陸「エルシド」が姿を現した。

面積は約20万平方km。青い海と青い空、美しくまばゆい景色が魅力。平均気温は約22℃と、年間をつうじて南国のように温暖な気候。冬でも10℃以下になることはほとんどない。

大陸の北部には、巨大な木が根を張った大平原が広がり、その外側を海面からそびえる高い山々が取り囲み、山のふもとには美しい密林がしげる。

密林地帯では、樹木からコパル樹脂香じゅしこうが採れ、大地には希少な地下鉱物のほか「ダイヤモンド」「アメジスト」「ヒスイ」などの宝石が採掘でき、富の象徴となる金脈も発見された。

平原には多くの野生動物が生息。そのエサとなる草木や木材、 ハーブなどの香料植物、穀物、野菜、果実なども豊富。自然の恩恵おんけいをおおいに受ける大陸であった。

この「エルシド」を最初に発見したのは「新人・サイエレス」から、1000人にひとりの割合で生まれる、神の使いともくされた「聖人せいじん・リュクラス」。

「リュクラス」が生誕する日は、雲ひとつない晴天。そして、かならず夜空に「ヴェルスタ座」が光り輝く。いちばん最初の聖人が産まれたのは、乙女座流星群が流れる夜だった。

※ヴェルスタ
慈悲深じひぶかく心優しい女神。乙女の守護神。

新生児は胎外に出たストレスから、泣いて産まれてくるのが一般的。だが、リュクラスの子は、天使のような笑顔と愛らしい笑い声をあげながら産まれ、感覚のみで母を認識。

温もりを求め、小さな手を必死に伸ばして抱きつこうとする。また、さまざまな抗体をもっており、病気や感染症にもかかりにくい。

大人になった「リュクラス」は、一切の煩悩ぼんのうをもたず、差別や争いをしない深い人徳と、きわめて高い学識をもつ。脳の容量は現代人をも超える脅威の1900ml。

「リュクラス」は造船技術のなかったこの時代に木製の船をつくって、エルシドに移住し、高度な都市文明を築きあげていった。

農業では、とうもろこしの栽培を中心とする焼畑農法を編み出し、用水路も開発。

用水路を利用した潅漑農業かんがいのうぎょう(雨水だけに頼るのではなく、人工的な水路や、ため池などの用水をつかって収穫量を増やす農業)で効率的に穀物を生産。

青銅器や鉄器などの金属器をつくり、牛や馬などの大型家畜を飼育。水車や車輪も実用化。

水の流れを動力源にした水車をつかって、粉を挽き、菜種油なたねあぶらをしぼる。そのほか、小川からやや高い所にある田んぼに水をくみ上げるなど、水車は幅広く利用された。

もうひとつの発明品「車輪」は「人類最大の発明のひとつ」ともいわれる。円形のものは自然界に存在しない形。完全な人類のオリジナル作品。

このときの車輪は、厚い板を数枚重ねてクギを打ち、円形に切って車軸の両端に取りつけたものであった。

リュクラスはそれを、物や人を運ぶための乗り物「荷車にぐるま」として活用。

また、建築では石造で独自のアーチを有した神殿と階段式ピラミッドを建設。

そのアーチのつくり方、石の積み方、運び方など正確な建築法は、現代の技術をもってしても、詳しくわかっていない。

学問においては「20」を最終とした数を表す記数法「二十進法」を使用。

そこから「0」の概念を導き出し、こよみを用いて火星や金星の軌道を計算する「天体観測」をおこなっていた。

時計や暦も存在しない時代に、太陽や月、星の動きを観察する「天文学」を駆使して「季節」を知り、その周期性を把握。

生命の危機脱却と文明の発展、食糧の安定生産のカギとなる「時間」をつくりあげた。

さらに言葉を伝達・記録する文字も開発して、それを石碑に刻み残す。一見イラストのようであり、複雑難解ふくざつなんかいで、読み書きできる者は、リュクラスのなかでも限定されていたという。

石碑に刻まれたものが自分たちの歴史、または別のなにかを後世に伝え残そうとしたのか、目的は定かではない。

このように、高度な文明をもつまでに発展を遂げたエルシドは、誕生から約3000年経過したある日、一夜にしてリュクラスもろとも姿を消し、幻の大陸となってしまう。

「地殻変動により海の底に沈んだ」「隕石の衝突で大陸が粉々になった」「大地震によって起こされた津波に飲み込まれた」。いくつか仮説は立てられるが、どれも核心をついたものではない。

やがて、エルシドは人々の記憶から忘れ去られ、消え失せていった。


【DESTINATION】プロローグ5 幻の大地 END


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