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未来という名の港にて

その港には、かつて父親が卒業実習で乗船した昔の帆船が停泊していて、だからというわけではないけど、若い頃の僕は、たびたび訪れていた。

と言っても、昔のポルノグラフティ化する前の日活映画の主人公みたいに、イカリをかけるための丸い突起物に片足を置いて、ひとり夜霧に目を細めていたわけではなくて、行く時はたいがい女の子か友達と一緒で、まあ要するに、はしゃいでいたわけだ。

うん、僕にとっての横浜は、どちらかというと、地に足がついた日常の延長線上にあったのだけど、桜木町駅の南側に位置する、この人工埋立地だけは、非日常なハレな場所だった。

特に、遊園地のイルミネーションが地上をオレンジ色に染めあげ、その上には大観覧車がまるで月が落っこちてきたみたいに、丸く光り輝く夜の雰囲気がたまらなく好きだった。

あのとき、僕たちは、その雰囲気に完全に飲まれて、人目もはばからず、はしゃぎ回っていたよね。

そう

みなとみらい

と呼ばれるその場所で、僕らは未来のことなんかこれっぽちも考えずに、ただその瞬間を楽しむことに全集中していた。

いや、本当はやがて訪れるだろう僕らのみらいを予感していたからこそ、あんなにも、そう、思わず帰りの電車の中でぐっすり眠っちゃうくらい、全力ではしゃぎ合ってたのかもしれない。

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