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雨くんとボク

火曜日の朝

目覚めた瞬間、週末の息子との卓球の練習で筋を痛めたせい(たぶん)で腰に激痛が走って起き上がれなかったため、会社に「午前休みます」とだけメールを打った後、安静にしてたら爆睡してて、昼前に目が覚めた。

「や、やべぇ、午後の始業時間に間に合わない!」

慌てて着替えて家を出る。

腰はまだ違和感はあるけれど、どうやら大丈夫そうだ。

外は小雨まじりの曇り空で、この季節にしては少し肌寒かった。

「せっかく咲いた桜の花もおまえのせいで散ってしまうじゃないか!」

ふと、そんなふうに、この間の悪い雨のことを責め立てている人たちの姿が思い浮かんで勝手に胸が痛んだ。

彼は何もみんなに嫌がらせをしたいわけじゃなくて、ただ雨である自分を生きているだけなのに。

一方で、僕はといえば、本当に、ぽつぽつと控えめに頬を叩いてくるクールなしずくたちがとても心地よかったから、彼となら友達になれるな、と思ったのだった。

何より僕も彼も似たもの同士だから、ね。

そう、僕も彼と同じように、ただ自分らしく、でも、出来るだけ誰にも迷惑をかけないように、そして、出来ることならこんな自分でも誰かの役に立てたら、という思いを胸に秘めながら、これまで生きてきたつもりなのに、気づいたら、いろんな人たちに(息子曰く「人の気持ちが分からない」僕は知らず知らずのうちにみんなを傷つけていたのだろうか)

嫌われてしまっていた。

今なんか会社のお偉いさんに嫌われてしまったばっかりに、どんなにいい仕事をしても全く評価されないという憂き目にあっているし。

もちろん、誰だって人の好き嫌いはあって当然だと頭では分かっているつもりなんだけどね。

そもそも自分にだって嫌いというか苦手な人はいるわけだし。

でも、時々、この世界に自分のことを嫌っている人たちがいるという(当たり前の)事実にたまらない気持ちになってしまうときがある。

そんなときは、いつだって、

こんな自分に果たして生きている価値なんてあるのだろうか?

とまで思い詰めてしまう。

で、今がまさしくそのときだったりする。

「……(涙)。」

とんとん

そんな僕の肩を叩く音が聞こえた。

さっきの彼、そう

雨くんだった。

雨くんは、モールス信号みたいに、僕の肩を叩きながら、こんなことを言ってくれた。

「嫌われているのは何も君だけじゃないよ。」

「ボクだって、さっきボクを睨みつけていたあのオジサンだって、みんな等しく誰かに嫌われているんだ。」

「でも同時にみんな誰かに愛されてもいるんだよ。」

「そう、君がボクを好きでいてくれているみたいに、ね。」

その言葉を聞いた瞬間、さっきまでの僕は片目だけでこの世界を見ていたことに気がついた。

そして、今、ちゃんと見開いた両目に広がる世界を見渡しながら、僕はこんな誓いを立てたのだった。

もうすぐ訪れる別れと出会いのあの季節に、

僕は

これまでに出会った、たとえ一時の間だったとしても素敵な時間を共に過ごしてくれた人たちに対して、別れる前にちゃんと

「ありがとう」

の一言を伝えよう。

そして、これから新しく出会う人たちに対しては、決して嫌われてしまうことを恐れずに、今までどおり自分らしく、でも、今度こそどんな人に対しても相手に対する敬意を忘れずに接することを心がけよう。

うん、もうすぐあの約束の春がやってくる。







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