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ヨーグルトの作り方~概要編~

おウチで本格的な自家製ヨーグルトを作りたい方は必見です!

嘘です。

まあ、自分で工場つくるくらい本格的な方なら話は別ですが…。あと13万字くらいあります(笑)。もしこれ読み切ったら、賞金を差し上げたくなるくらいのレベルです。つまり、誰も読まなくて大丈夫です。

というか読まないでください!(懇願)

ただ、たまたま訪れた優秀な学生さんがこれを読んで、自分の進路を決めてるきっかけになったら…、なんて淡すぎる妄想を0.0001%くらいは抱いていたりもします。

それではおそらく世界で一番有名なヨーグルトの技術書の抜粋訳(翻訳ソフトの力は一切借りておりません。あと、図はありません。あしからず)の

はじまり、はじまり。

はじめに

 ヨーグルトの製造工程は何千年も前にさかのぼる太古の技術であり、おそらく牛、羊、ヤギの家畜化の時期と同じ時期に始まったが、19世紀になるまでは様々な製造工程がほとんど理解されていなかったと仮定して間違いない。よって、年数の経過の中で工程が生存しえたのは製造規模が比較的小さかったことから、その技術が親から子へと伝承されたという事実によるものと考えられる。しかし、この数十年で製造工程はより合理的になった。それは主に以下の分野における様々な発見と改良があったためである。

 ●微生物学と酵素学

●力学とエンジニアリング

●化学と生化学

 今日の産業技術の基準で見ても、ヨーグルトの製造工程は芸術と化学の両方を組み合わせた未だに複雑なプロセスである。

 ヨーグルトスターターカルチャーの微生物はヨーグルト製造中に重要な役割、例えば酸と風味(フレーバー)の産生を行う。その分類、挙動、特徴の詳細は第7章で触れる。ヨーグルト製造の基本を理解するためには、様々な製造工程とそれらのヨーグルト品質に与える効果を個別に分けて記述することが役立つだろう。製造工程の技術、つまり、小規模、大規模製造に必要な設備については第3章で触れている。

 ヨーグルトの伝統的製法と改良した製法を図2.1に図示した。前者の製造工程には以下のような欠点がある。

●連続的(継代的)なスターターカルチャーの接種はS.サーモフィルスとL.ブルガリクスの比率を乱す傾向にあり、経代培養が15-20回目を超えると突然変異を引き起こす

●低い培養温度(例えば室温)は、40-45℃という最適な条件であれば発酵時間が2.5-3時間ですむのに比べて乳の酸性化を遅らせる(18時間以上かかる)

●酸度上昇の遅れは例えばホエイ離水などのヨーグルトの品質に悪影響を及ぼす望ましくない副作用を促す

●伝統的な製造工程は発酵中に産生される乳酸濃度をコントロールできない

  このような欠点にも関わらず伝統的な製造工程は現在、工業的に行われているヨーグルトの製法にとっての基盤となっている(図2.1)。伝統的ヨーグルトからの基本的な変化は以下の内容に沿っている:

●市販のスターターメーカー、スターターバンク、研究機関から入手できるヨーグルトスターターカルチャーの純度

●滅菌条件下で滅菌乳にこのようなカルチャーを繁殖できる乳業メーカーの能力、それにより活性の安定なスターターが得られる。しかし、現在はスターターカルチャーのダイレクトバッチ接種法(DVI:他にダイレクトバットセット-DVSとしても知られている)が普及している。

●培養温度を正確に制御できるため、酸度上昇率や工程時間を予め知ることが出来る

●求められる酸度で速やかにヨーグルトを冷却することが出来、ヨーグルトの品質はより均一になる

●乳中の酸度上昇率を測定する簡単な方法(pH計や酸度計を使用)が開発されたことで未熟なオペレーターでも適切に工程管理できるようになる

2乳ベースの予備的処理

 乳の化学組成は主に水だが、たんぱく質、炭水化物、脂肪、ミネラル、ビタミンといった成分の複雑な混合物でもあり、若年期の哺乳類にとって乳は食品からのこれらの栄養素の主な供給源となっている。それぞれの化学成分の特徴は他でその詳細が議論されており、より完全な議論をまとめたいくつかのレビュー(総説)がある(Jacob, 1994; Pearce, 1995; Swaisgood, 1996; Fox, 1997; Fox and McSweeney, 2003, 2006; Farrellら, 2004)。

2.1 原料としての乳

様々な哺乳類の乳がヨーグルトの製造に使用されており、表2.1にこれらの乳の化学組成の主な違いをまとめている。結果として、ヨーグルトの品質の変化は使用している乳の種類に依存する。例えば、脂肪含量の高い乳(羊、水牛、トナカイの)は脂肪含量が低い、または無脂肪乳(例えば脱脂乳)と比較して、‘口当たり’の素晴らしいリッチでクリーミーなヨーグルトを作り出す。乳中の乳糖はヨーグルトスターター菌のエネルギー源だが、たんぱく質は凝集物の形成に重要な役割を果たし、製品の硬度/粘度はたんぱく質含量に正比例する:何も成分を強化していないロバの乳から作ったヨーグルトは羊やラクダの乳から作ったヨーグルトよりも粘性が低い。ヨーグルトの風味は主に微生物活性によって発現する複雑な生化学反応の結果だが、乳ベースの風味は種によって異なり、このような特徴も最終製品に反映される。

 牛乳は世界中のほとんどの国で広く使用されているので、ヨーグルトの製造には牛乳が重要視される。しかし、牛乳の場合でもその組成は大きく異なっている(表2.2)。乳の主成分は水、脂肪、たんぱく質、乳糖とミネラル(灰分)であり、これらの成分の詳細な落とし込みは図2.2に示している。

 必然的に、新鮮な乳の化学組成はどんな種においても、泌乳ステージ、牛の年齢、搾乳間隔、その年の気候、環境温度、牛の種類、飼育方針、搾乳の有用性、搾乳の間の間隔、栄養、ホルモン、乳房の疾患といった要素に依存して時間によって変化する。酪農およびその農場の衛生面についてさらに読みたい場合は以下を推奨する(Larson and Smith, 1974a-c; Larson, 1978; Phillips, 1996; Wienerら, 2003; Hutchisonら, 2005)。表2.3はイングランドとウェールズの異なる種の牛の乳脂肪およびたんぱく質含量の違い(最小値、最大値)を示している(Pikett、1996も参照)。このような組成の固有の違いを克服するために、乳を標準化または成分強化しなければならない。: 

●ヨーグルトの法的基準を満たすために、脂肪と(または)無脂乳固形分(SNF)(第10章参照);

●ヨーグルトの品質を標準化するため、すなわち、凝集物の酸度、甘味度、硬度/粘度を消費者の要求レベルに合致させるために;前2者は製造工程で管理できるが、ヨーグルトの硬度/粘度は乳中のたんぱく質含量に影響を受けるため、乳中の無脂乳固形画分を強化することが非常に重要となる

2.2 乳中の細胞成分とその他の汚染物質の分離

液体乳には、上皮細胞、白血球など牛の乳房由来の細胞成分が含まれており、ある場合には乳製造の不注意によって含まれることもある。乳は藁、葉っぱ、種子、糞などによるさらなる汚染を起こしがちである。乳加工業者の主な目的は最終製品をよりよい品質を保つために乳からこのような汚染物質を取り除くことである。乳業界で採用されている方法は様々であるが、最も普遍的な方法はろ布か金属製のふるいである(図2.3)。しかし、ろ過による方法には限界があり、そのうちの一つは乳中に存在する大きなデブリしか取り除けないことである。

 しかし、ヨーグルト製造ラインでのバクトフュージセパレーター(遠心除菌機)や精密ろ過は乳ベースの加熱処理がヨーグルト中の望ましくない細菌を殺菌する、または少なくとも劇的に低下させるのに十分高温であること、ヨーグルト製造において胞子形成菌は主要な問題を引き起こさないことから、実際には必要ではない(2.9.1参照)。そのため、ろ布の使用が生乳にとっては十分以上である。時には、乳全固形分の強化を目的に乾燥乳製品が使われるときにインラインの金属ふるいが用いられる。;金属ふるいは焦げや不溶性の乳粉粒を分離する

2.3 乳の受け入れと保存

 先進国では農場からの乳の収集はタンクローリー(時には電車)を使って大量に行われる。;基本的な乳業における乳の受け入れで利用可能な設備については第3章で議論されている。しかし、乳業者で現在、行われている乳の取扱法には以下が含まれる:(a)温度を約5度に保持する(b)おそらく約65-67℃の加温や5℃以下の冷却(MuirとTamine、2001)、そして低温細菌の発育を制御するために乳酸菌またはその他の細菌叢を乳に接種する、といった様々な処理を乳に行う。(c)ギ酸添加、CO2で洗い流す、(d)結合二酸化炭素、加圧、冷蔵下で生乳を保存して生乳の微生物学的品質、安全性を改善する(Rajagopalら2005)。Muir(1996)は乳を保護するこのような方法と新鮮な乳製品に対するその効果についてレビューしている。しかし、CO2の使用はプレート式熱交換器での乳固形分の沈着を引き起こすため、加熱処理の前にガス抜きすることが推奨される。(CalvoとDe Rafael、1995)。

 体細胞数(SCC)が250000ml-1以上あるとヨーグルトの感覚刺激特性に影響を与える(Rogers and Mitchell、1994)。しかし、Oliveiraら(2002)は乳中にSCCが400000ml-1以上になるとヨーグルトの感覚刺激特性に悪影響を与え、ヨーグルト産業に重大な損失を与える、と結論づけている(Hillerton, 1999; Smith and Hogan, 1999; IDF, 2004; Larsenら., 2006も参照)。しかし、乳にたんぱく質分解酵素(低温細菌、プラスミン由来)を予備接種させたり、乳を約7℃で最大6日間延長保存するとスターターカルチャーの生育が刺激されて、ヨーグルトに異なる物理的特性を与える(Reinheimerら, 1990; Gassen and Frank, 1991; Prabba and Shanker, 1997; Srinvasら1997)。新しいアプローチとしては駆虫剤(エピノメクチン)を与えた牛の乳をヨーグルトに使用しても品質に影響がなかったというものがある(Rehebeinら2001)。

 温暖な国々では、乳は生産方法と取扱方法に依存してより早く劣化する。国際酪農機関(IDF,1990)からハンドブックが出版されており、このトピックの詳細や乳の細菌汚染を最低限に抑える方法について触れられている。しかし、ラクトパーオキシダーゼ(LP)システムは牛乳のゲル形成を1.5時間まで遅らせ、ヨーグルトの風味に影響を及ぼした;ただしボディと組織には影響を与えなかった(Mehanna and Hefnawy, 1988;Kumar and Mathur, 1989; Abdouら, 1994; Nicholら, 1995; Nakadaら., 1996)。しかし、ヨーグルトの品質に対する添加LPの作用について以下のような最近の研究がある:

●乳ベースに4.5units g-1以上のLPを加えるとLPを加えていない製品に比べて柔らかく滑らかな組織のヨーグルトとなる。;見かけの粘度もゲルの貯蔵弾性率と共に減少するが、周波数依存の特性は変化しなかった。スターター菌から産生されるエキソ多糖類(EPS)の量またはたんぱく質分解度はLP添加によって影響を受けなかった(Hiranoら、1998a; Hirano, 1999)。別の研究では、Hiranoら(1998b)が乳中のLPによってゲル化pHの上昇が認められたが、これは乳たんぱく質の疎水性が増したためであると推察している。

●トルコでは、Gursel and Atamer(1998)がLP処理乳でヨーグルトを製造できたが、添加量が60μgg-1だと、製品硬度が低くなり、滴定酸度と粘度が低下し、ホエイ分離が増えた;乳ベース中のLPとH2O5の活性化はヨーグルトのレオロジー特性(modukus G* tanб)に影響を与えるが、これはゲル形成中のSH基の可触性によるものであると報告している(Ozerら; 2003)。

●冷蔵水牛乳のLPシステムの活性化はzabadi(エジプトのヨーグルト)の感覚刺激特性に影響を及ぼさなかった。(Saleh and Mehanna, 1999)

●Johoら(1998)の報告によるとLPのヨーグルト乳への添加によってpHの変化なくカード形成が促進された;LPヨーグルトの複素弾性率はコントロールヨーグルトのわずか半分だった。

 サイロ乳の処理における他の有用な技術は保存期間中の微生物の増殖を制御するために乳酸菌またはCO2を添加することである。CO2による微生物の生育・代謝抑制、プレート式熱交換機(PHE)での付着物の形成、そしてヨーグルトの品質についてさらに読みたい場合には以下を推奨する(Robert and Torrey, 1988; Dixon and Kell, 1989; Calvo and de Rafael, 1995; Ruas-Madiedoら, 1996; Calvoら., 1999; van Hekkenら.,2000; Calvo and Balcones, 2001; Gueimondeら., 2003)。

3乳中の脂肪含量の標準化

世界の様々な場所で作られているヨーグルトの脂肪含量(g/100g)は最低0.1から最大10まで変化し、ヨーグルトの成分基準に合致するためには、乳の標準化が必要となる。例えば、

一般的な乳中のバター脂肪の平均含量は3.71~5.66g/100gであるが(表2.3)、市販されているヨーグルトの平均脂肪含量は約1.5g/100g(中脂肪ヨーグルト)または0.5g/100g(低脂肪ヨーグルト)である。標準化の方法は以下の通りである:

●乳から脂肪分を除去する

●脱脂乳と全クリーム乳を混合する

●全脂乳または脱脂乳にクリームを加える

●上記の方法をいくつか組み合わせる;標準化遠心分離機の使用

上述の方法のいずれかを使用して標準乳を得るために必要な成分はPearsonの正方形法を用いて簡単に産出できる。

A 最初の原材料中の脂肪(g/100g)

B 2番目の原材料中の脂肪(g/100g)

C 標準化乳の脂肪含量(g/100g)

(B-C)または(C-B)=原材料A中のD

+(A-C)または(C-A)=原材料BのE D+E=正確な組成の加工乳のF

言いかえると、例えば、標準化乳1000l辺りに必要とされる各原材料の含量を計算すると

 A=

 B=

 

例1

脂肪1.5g/100gのヨーグルト乳1000l作るのに必要な全クリーム乳(脂肪4g/100g)と脱脂乳(0.1g/100g)の量はいくらか?

全クリーム乳必要量=

脱脂乳必要量=

例2

脂肪1.5g/100gのヨーグルト乳1000l作るのに必要なクリーム(脂肪50g/100g)と脱脂乳(0.1g/100g)の量はいくらか?

クリーム必要量=

脱脂乳必要量=

例3

脂肪1.5g/100gのヨーグルト乳1000l作るのに必要な全クリーム乳(脂肪4g/100g)とクリーム(脂肪50g/100g)の量はいくらか?

クリーム必要量=

全クリーム乳必要量=

4 乳中の無脂乳固形分の標準化

 ヨーグルト製造向け乳の無脂乳固形分(SNF)(主に乳糖、たんぱく質、ミネラル分)の含有率は国の法的基準によって直接的に、もしくはある物理的特性と風味を持つ最終製品を製造しようとしている製造メーカーによって間接的に影響を受ける。現行の法的基準の場合、ヨーグルトに求められるSNF含量は8.2~8.6g/100gの範囲であり(10章参照)、この最小値は単に消費者保護を目指したものである;そのため、SNFレベルは液体乳中のレベルと大体同じとなる。製造者の視点から、ヨーグルトの物理的特性、例えば凝集物の粘度/硬度は非常に重要であり、一般的にヨーグルトミックスの固形分が高いほど、最終製品の粘度/硬度は高くなる。乳中の固形分とヨーグルト硬度の関係はTamime(1977)によって研究されており、彼は乳固形を12gから20g/100gへ増やしたときにこの特性が大きく改善することを確認している。図2.4は針入度計で測定した時のこの硬度の改善効果を示している。針入の深さが深くなるほど、凝集物はやわらかくなる(逆もまたしかり)。しかし、16g~20g/100g間の硬度の変化はあまりはっきりしないため、16g/100g以上の固形分を使用することは製品品質という点ではほとんど価値がない可能性がある。

 1970年代以降、ヨーグルトおよびその他の発酵乳製品に関する多くの書籍が発売されている(Humphreys and Plunket, 1969; Robinson and Tamime, 1975,1986,1990,1993; Rasic and Kurmann, 1978; Tamime and Deeth, 1980; Olano and Ramos, 1982; Bottazzi, 1983; Kilara and Treki; 1984; Merilainen, 1987; Shuklaら, 1987; Roginski, 1988; Tamime and Robinson, 1988; Morgensen, 1988; Chandan, 1989; Ferguson, 1989; Krogerら, 1989, 1992; Schmidt, 1992; Chandon and Shahani, 1993, 1995; Rossi, 1994; Varnam and Sutherland, 1994; Sarkar, 1995; Tamime and Marshall, 1997; Tamime and Muir, 1998; Marangonら, 1998; Oberman and Libudizisz, 1998; Staff 1998; Schkodaら, 1998, 2001a,b; Jie and JingMin, 1999; Ramana and Tiwari, 2000; Panagiotidis and Tzia, 2001; Vingola, 2002; Sxhkoda, 2002; Robinson, 2000a,b; Robinsonら, 2002;Puhan, 2003; Jaros and Rohm, 2003a,b; Krasaekooptら, 2003,2004; Sodiniら, 2004; Salvador and Fiszman, 2004; Nip, 2004; Batish and Grover, 2004; SongBai, 2005 )。しかし、シリーズ記事では、Vedemuthu(1991a-h, 1992a,b)がそのトピックを幅広くレビューしており、一方Mann(1984,1985,1987,1990a,b,1992a,b,1994a,b, 1998a,b, 2002, 2003a,b, 2004, 2005a,b)は定期的にヨーグルトについての国際的出版物の“ダイジェスト”を発行している。さらに、国際酪農連盟(IDF)は定期的に発酵乳の技術的、化学的側面を更新した研究論文(モノグラフ)を発行している(IDF, 1984, 1988a, 1992a, 1998, 2003)。

 ヨーグルト製造用の乳の固形分(脂肪分も含む)は低脂肪ヨーグルトで9g/100gという低さからその他のタイプのヨーグルトで30g/100gの高さの範囲となる。最も良いヨーグルトはおそらく全固形分が15-16g/100gを含む乳から作られたものであり(Tamimeら, 1987)、最も市販されているヨーグルトの組成は14-15g/100gの範囲に落ち着く。‘スーパー’ヨーグルトの製造には全固形分30g/100gが提案されているが、最終製品の硬度は通常のヨーグルトよりも‘濃縮’ヨーグルトに似ている(第5章参照)。さらに、ヨーグルトミックスの全固形分が25g/100gを越えると、スターターカルチャー菌株の水分利用効率に負の影響を及ぼし、その活性を阻害してしまう(Pulay and Krasz, 1974; Patel and Chakraborty, 1985)。

 ミックス中のSNF含量の増加の結果として、乳の滴定酸度は添加したタンパク質、リン酸、クエン酸、乳酸およびその他の様々な乳成分の緩衝作用によって上昇する(Walstra and Jenness, 1984)。そしてこの機能はゲル形成時間の短縮を引き起こす。Davis(1973)によっても同様の知見が得られており、彼らは乳のSNF含量を倍にした結果、滴定酸度も2倍になると報告している。しかし、乳中の様々なSNF含量がヨーグルトスターターカルチャーの増殖時間と細胞数に影響を与える;最適な条件はL.ブルガリクスとS.サーモフィルスでそれぞれ12g/100g、14g/100gである(Al-Dabbagh and Allan, 1989)。

 ヨーグルトミックスの全固形分の強化は様々な方法によって行われている。

 4.1伝統的な方法

乳の加熱処理は古くから伝統的に行われている。例えば、乳中の全固形分を濃縮するために乳を沸騰させることでその体積を元々の2/3まで減らす。そしてこのような加熱処理は同時に多くの物理化学的変化を引き起こす(加熱処理については2.9で触れている)。沸騰工程によって得られる濃縮度は正確に算出していないが、例えば乳固形分が13g/100gの場合、体積を2/3にする乳沸騰の結果、全固形分はおよそ19-20g/100gに上昇する。このような固形分強化法はヨーグルトの製造規模が非常に小さい地方の共同体で行われている。

4.2 粉乳の添加

粉乳(全脂または脱脂)は粘性がありなめらかなヨーグルトの製造向けの乳強化法として乳業界で幅広く使用されている(Boijgaard, 1987)。英国で製造されている市販ヨーグルトの大半は低脂肪タイプであり、脱脂粉乳(SMP)がよりポピュラーな原材料と思われる。ヨーグルトミックスへの添加率は最低1%から最大で6%の範囲であるが、粉乳の添加量が高くなるとヨーグルトに粉っぽい風味を与えるため、推奨濃度は3-4%である。

 高品質のヨーグルトはヨーグルトミックスに以下の原材料を強化することで製造されている(a)脱脂粉乳(SMP)2%(Wolfschoon-Pombaら, 1984; Resubalら, 1987;Mehanna, 1988; Mehanna and Hefnawy, 1990)、(b)生乳と再構成(還元)乳を1:1の比率で混合する(Kurwijilaら, 1983; Caricら, 1986; Balasubramanyamら, 1988)(c)SMPを還元する水分の半分をスイートホエイに置き換える(El-Safty and El-zayat, 1984)(d)高たんぱくSMPをたんぱく質含量が5.2g/100gになるまで添加する(Mistry and Hassan, 1992)。

 一部の発展途上国では、ヨーグルトはSMPと無水乳脂肪(AMF、~99.9%脂肪/100g)だけで製造されており、SNFが約12g/100gになるように粉乳に加水するのが一般的な方法である。全粉乳は古い製品だと酸化臭の問題があるため、発酵乳の製造では全粉乳よりもSMPの使用が好まれる(Harper, 1985; Caric and Kalab, 1987; McKenna and Anema, 1993; McKenna, 1997)。SMP製造の最新のアプローチは乳たんぱく質含量の季節偏差を克服するため、そして機能的特徴と保存安定性を高めるために、たんぱく質調整を行うことである(Kieseker and Healey, 1996)。しかし、いくつかの国では、例えばデンマークとイタリアでは、ヨーグルト乳への粉乳の強化は禁じられているため、固形分を上げる他の方法が採用されている。

 たんぱく質高含有粉乳(全脂または脱脂)が一部の市場で利用でき、これは乾燥前に乳糖含量を減らすために限外ろ過した後、透析ろ過を行うことで製造される(表2.4参照)(Bjerre, 1990; Mistry and Hassan, 1991a,b; Mistryら, 1992; Aguilar and Ziegler, 1994a,b)。特にニュージーランドミルクプロダクツはヨーグルトの組織を改善する特別粉乳、ALACOを上市している。(Russel, 1994; Anon, 1994a; Harnett and Muller, 1995)似たような粉乳はオランダのDMVインターナショナルでも開発されており、これはExcellionと呼ばれ、たんぱく質を51-85g/100g含んでおり、SMP/安定剤の置換に適している(Mass, 1997)。;その機能的特徴はヨーグルトの粘度、組織、口当たりを改善し離水を低減するというものである。この粉乳は硬質ヨーグルトの製造に利用される(El-Samragyら,1993a,b; Thomopoulosら, 1993; Panfil-Kuncewiczら, 1994; Getlerら,1997)が、SMPよりも高価である。

 SMPはヨーグルト製造中の再結合(Recombination)に広く使用されている。この粉乳の規格は重要であり、製品品質に影響を及ぼす。米国乳製品協会(ADPI、1990)によって発行されている現在の粉乳規格は国際的に認められている。;以前、この組織は米国粉乳協会(ADMI)として知られていた。一般的に、粉乳はあらゆる阻害剤を加えてはならず、良好な微生物学的品質と物理的基準を有していなければならない。基準の見直しを含む粉乳規格の賞味期限に対するレビューと予測がSjollema(1988)、Kjaergaard-Jensen(1990)によって報告されている(以下も参照)。再結合に使用されるSMPの規格条件がWilecek(1990)によって報告されており、それには以下の内容が含まれる:

●ホエイタンパク質窒素指標 4.5-5.9

●システイン数、38-48

●チオール価、7.5-9.4

●Heat number、80-83

 さまざまな市販SMP製品を使用してヨーグルトの品質が研究されているが(Klupsch, 1987, 1989; Blondeau and Goursaud 1992)、製品の特徴(風味、組織、酸度)はかなり異なっていた;いくつかの粉乳は撹拌タイプのヨーグルトよりも静置タイプのヨーグルトに適していた(Augustinら, 1999も参照)。Chungら(1999a,b)は古いSMPの使用によってヨーグルトの品質が影響を受けるため、粉乳の規格を確認することが製造したヨーグルトの品質において重要であると報告している。

 Cheng(2002)は泌乳期間の様々な間隔で生産した粉乳を強化した脱脂乳から静置タイプと撹拌タイプのヨーグルト(SNF含量10、12、14g/100g)を作り、以下のように結論した;(a)静置ヨーグルトのゲル強度はSNF濃度と季節に依存して変化した(b)粘度とホエイ排出量(静置ヨーグルト)も同じ因子に影響を受けた。同じ研究者はSMPによる乳ベースのTS(全固形分)標準化はシーズンを通じて一定の物理的性質を持つヨーグルトの製造には不十分であると結論している(Denin-Djurdjevicら, 2001, 2002a参照)。さらに、SMPの水和時間はミネラルの再平衡を正確に達成するために重要であり、約3時間が必要とされる(Anema and Li, 2003)。

4.3 バターミルクパウダーの添加

 バターミルクパウダー(BMP)はスイートクリームバターの副産物であるが、発酵クリームのチャーニングから酸性タイプも得ることが出来る。この低脂肪粉乳はそのリン脂質濃度により食品、乳業界で価値があるものとされ、十分な乳化特性を持ち、その化学組成はSMPに類似している。再構成(還元)乳原料からヨーグルトを製造する方法はGilles and Lawrence(1979,1982)によって報告されている;彼らが提案している配合はAMF25kg、脱脂粉乳125kg、バターミルクパウダー10kg、水分840kgである。

 バターミルクパウダーは、低脂肪ヨーグルト製造向けにSMPの最大50%の置換が受容でき、コントロール製品と品質が類似していた(Vijayalakshmiら, 1994)。SMPを強化した新鮮なバターミルクによって高品質のヨーグルトが製造できた(El-Batawyら, 1987; Vodickovaら, 1987; Mansourら, 1994/95)。限外ろ過(UF)またはNO膜で濃縮した新鮮なバターミルクを低脂肪ヨーグルトの製造に使用した場合、硬度、風味、芳香に影響を与えたが、ゲルの安定性には影響がなかった(Reierstad, 1993; Corredigら, 2003参照)。

 TrachooとMistry(1998)も乳ベースへのバターミルクパウダーとUFバターミルク(低濃度と高濃度)を強化したときのヨーグルト(低脂肪、無脂肪、~0.5g脂肪/100g)の品質への効果を研究しており、以下のように結論している:(a)無脂肪ヨーグルトの微小構造は低脂肪タイプと比較してよりオープンだった。これはおそらく後者のヨーグルトの方がたんぱく質含量が高かったためだと思われる、(b)UFバターミルクの使用は密度の濃いマトリックスを形成した、(c)バターミルクパウダーの低脂肪乳ベースへの添加によってより軟らかく滑らかなヨーグルトが作られた。

4.4 ホエイパウダー、ホエイたんぱく質濃縮物の添加

この基本的な原料はチーズ製造由来であり、その食品、乳業界での利用についてはZadow(1983, 1994a,b), Alais and Blanc(1975), Smith(1976), Robinson and Tamime(1978), IDF(1988b), Sienkiewicz and Riedel(1990)によってレビューされている。市場で入手できるホエイパウダー(WP)にはたくさん種類があり(例.ホエイたんぱく質濃縮物-WPC、分離WPC‐WPI、加水分解物-WPH)、それぞれの特徴は乾燥工程前に用いられる加工技術に関連している。例えば脱塩処理、乳糖分離、ホエイたんぱく質の濃縮または直接乾燥などである。濃縮ホエイたんぱく質の製造と利用についてはHowelら(1990), Morr and Foegeding(1990), Dybing and Smith(1991), Wilmsen(1991, 1992), Harper(1992), IDF(1992b), Caric(1994), Barbut(1995), Blenfold(1996), Urbiene and Leskauskaite(1996)によって報告されている。JelenとHorbal(1974), Hatman(1975), Nielsen(1976) and Spurgeon(1976) によると、ヨーグルトミックスへのホエイパウダーの推奨添加率は約1-2%であり、これ以上高濃度になると好ましくないホエイフレーバーが生じてしまう。しかし、ヨーグルトの風味の調整は乾燥した発酵チーズホエイに基づいており(van der Schaft, 1991)、このような製品をヨーグルトに添加すると風味が改善し、甘味が付与される。

 1970年代以降、ホエイ技術は発達し、ヨーグルト製造向けに特定の機能的特徴をもった様々な製品が作られた。ヨーグルト製造中のホエイたんぱく質の熱安定性についてはBucheimら(1986), Jelenら(1987)、Patockaら(1993), Hollarら(1995)によって報告されている。しかし、ホエイたんぱく質パウダーを0.6g-4g/100gの濃度でヨーグルトミックスへの強化のために使用したところ(Guirguisrら, 1984, 1987; Mehanna and Gonc, 1988; Rockell, 1989; Timmermans, 1993; Venkateshaiah and Jayaprakasha, 1995; Morrisら, 1995; Venkateshaiahら, 1996; Kailasapathy and Supriadi, 1996; Kailasapathyら, 1996a,b)、以下のような結果となった:(a)より多くのアセトアルデヒドが生成された、(b)粘度が上昇し、離水が減り、官能特性が改善した(c)低pHの緩衝能が高まった。良質のヨーグルトはSMPとスイートWPを75:25の比率で混ぜ合わせることで製造された(固形分約12g/100g)が(Gonzalez-Martinesら, 2002も参照)、乳糖を75%加水分解したヨーグルトでは50:50の比率が推奨される。;後者の製品は以下の理由により水溶性窒素濃度が高い:

●WPの添加;

●β-D-ガラクトシダーゼ調剤の酵母たんぱく質分解活性のキャリオーバー;

●スターターカルチャーの活性(Shahら1993)

 ホエイカゼイネートによるSMPの50%置換によって製造コストが低減し、ヨーグルトの品質も受容できるものだった。しかし、ヨーグルト製造中に乳糖分解酵素を用いるとわずかにコストが上がる(Whalenら、1988)。さらに、ミックス中にホエイたんぱく質パウダーを使用したヨーグルトおよびその他関連製品の製造の様々な工程はKoenraads and de Boer(1986)、Tomitaら(1992), Hiranoら(1994)によって特許化されている(Hoffmannら, 1998; Elferink, 1998; Guzman-Gonzalezら, 2000)。

 液体WPC(固形分~14g/100g)をヨーグルトミックスに最大30%まで強化したところ製品の品質に影響を与えなかった(Broomeら, 1982; Greig and van Kan, 1984; Gruev and Flejtas, 1985; Tratnik and Krsev, 1985, 1988; Hofietら, 1994/95; Maricら, 1997)。GreigとHarris(1983)は液状乳の40%をWPCに置換した結果、‘チーズ様’の臭いとヨーグルト粘度の低下が認められ、最も良い結果は10%置換で得られた。一方、Abou-Dawoodら(1984)はSNFを1%増加するまでのWPCの使用を推奨している。

 エジプトでは、Domiatiチーズ由来の加塩ホエイを塩含量の低減のために2回脱塩処理を行った後(UFにより固形分約12.5g/100g)、そのWPCをヨーグルトミックス乳の40%置換することに成功した(Abd-Raboら, 1988)。その代わりに、加塩ホエイを水ではなくスイートホエイを使ってUFおよびダイアフィルターで脱塩し、最終的にこのWPCをたんぱく質含量3.5g/100gになるようにスイートホエイで希釈した(Abd El-Salamら, 1991)。このようなWPCを水牛乳に最大20%まで加えると、その乳で製造されたヨーグルトは組織、口当たりがよくなり、離水が低下した。BaigとPrasad(1996)はカッテージチーズホエイを真空濃縮機(VE)で全固形分(TS)40g/100gになるまで濃縮して、より酸性のWPCを作るためにその一部をpH4.6まで酸性化した。これらのホエイ濃縮物をそれぞれ分けてヨーグルト製造中にSMPと置換した結果は満足のいくものだったが、ホエイ固形分の取り込みはS.サーモフィルス、B.ビフィダムの生育を促進した一方、L.ブルガリクスの菌数を低下させた。にもかかわらず、乳と濃縮カマンベールチーズホエイで製造した‘クリーム’ヨーグルト(脂肪10g/100g)の硬度と離水はホエイ/カゼイン比に大きく影響を受け、推奨される最適値は1.2-2.2だった(Kulkarniら, 1990a,b; Plock and Kessler, 1992)。

 1990年代初期、de BoerとKoenraads(1992)は以下の条件で液状WPCによるヨーグルト製造中の脱脂乳の部分置換をおこなった:

●欧州諸国のほとんどの法律は統一性からかけ離れている;しかし、オランダの法的規格に基づくと、認められているWPCによる乳のSNF最大置換率はドリンクヨーグルトで10%、プレーン攪拌ヨーグルトで20%、フルーツ攪拌ヨーグルトで30%である。

●発酵中のヨーグルトスターターの微生物活性はわずかに高まるが、これはおそらくL.ブルガリクスの増殖曲線が短縮したためである;しかし、L.アシドフィルスの刺激作用が確認された(Marshallら, 1982)。文献で報告されているスターターカルチャーの結果は矛盾があるが、これは菌株の種類によるものと考えられる。

●ヨーグルトのレオロジー、官能特性は時に改善し、時にその風味はネガティブな影響を受ける。これは以下の理由による:(a)WPCの強化濃度、(b)ヨーグルトミックスの調整中に用いた加工条件。しかし、その調整中にWPCの特性のバリエーションを見落としてはいけない。

脱脂乳に様々な粉末WP、WPCを混合した効果に関する最新の研究では以下の内容が示唆された:

●WPCによる乳固形の置換率が増えると熱処理に対する乳ベースの不安定性によってヨーグルトの粘度とゲルの形成が阻害される。;WPCの調整に使用されるホエイのバッチも重要である(Augustionら, 2003; Onwulataら, 2004; Williamsら, 2004)

●ある条件下において、ホエイたんぱく質の過剰添加(濃度)は粒状の組織を引き起こす(Lucey and Singh, 1997)

●ヨーグルト製造中に乳固形分強化のためにチェダーチーズホエイから作られたWPCs(乾燥前にUFもしくは蒸発機を使用)を使用した結果、製品の見かけ粘度と離水が減少したが、ゲル硬度(静置ヨーグルト)はWPCの添加量の増加に伴い上昇した;風味はホエイの由来に影響を受けた(Haque and Ji, 2003)

●保存14日後のヨーグルトの粘度の改善効果が乳ベースに脱塩ホエイを強化し90℃で加熱した製品で報告されている(Denin-Djurdjevicら, 2002b)。

●WPCsにSMPを様々な濃度で混合すると、乳ベースのカゼイン/ホエイ比率が変化し、Puvanenthiranら(2002)はこの比率が下がるほど、ヨーグルトのゲル強度は増加し、ゲル構造はより緻密になり、小さな気孔を含むと結論づけた;カゼイン/ホエイ比率を一定に維持すること(様々なWPCsを使うなどして)によって、ヨーグルトの物理的特性は類似する。乳ベースのたんぱく質を5g/100gにするためにSMPとWPCを1.5:0.5の比率で混合して作った低脂肪ヨーグルトは組織特性、離水の程度、官能プロファイルにおいてコントロールのそれと類似していた。(Antunesら, 2004)

●アセチル化WPCsを乳ベースに強化すると静置ヨーグルトの品質に影響を与え、UFによって製造したWPCを2g/100g強化した製品で最も高い感覚刺激スコアが得られた(Zedanら, 2001)。しかし、この半分の強化率がBozanicら(2000)によって推奨されている。

●WPCまたはWPIを補給したホエイ中のL.ブルガリクスの成長は前者の製品を使用したときにより速くなるが、その刺激に関与している成分についての報告はない(Buryら, 1999)。ヨーグルトの品質に及ぼす原料(乳糖分解したWP、WPC、トリプトン、システイン、カゼイン加水分解物)の影響についてはShah(1999)とDaveandShah(1998a,b)によって報告されており、彼らはこう結論している(a)SMPからヨーグルトを製造できるが、その25%をWPに置き換えることが出来る、(b)WPCとシステインを使用したとき硬度は高くなる、(c)使用した原料によってゲル構造は影響を受ける、(d)これら添加原料はペプチドやアミノ酸の優れた供給源であり、これらの成分はヨーグルト中の健康促進菌の生存能力を改善する上で非常に重要である(Tamimeら, 2005; Amatayakulら, 2005, 2006も参照)。ちなみにCPG(Controlled-pore glass)で固定した微生物由来トランスグルタミナーゼ(mTg-ase)をWPIのレオロジー特性の調整のために使用した。mTgaseを接種後、固有粘度は増加し、ゲル化温度は低下し、強く脆いゲルが加熱中に形成された(Wilcox and Swaisgood, 2002);mTg –ase処理したWPIのこのような変化はヨーグルト製造において興味深いものと思われる。

●乳たんぱく質(カゼイン、ホエイ由来)加水分解物の添加は発酵時間を短縮し、ヨーグルトの粘度と粒状化を低減させる。しかし微小構造はよりオープンとなり、分岐たんぱく質鎖は少なくなる;このような側面は乳ベースに加える加水分解物の量に影響を受ける(Sodiniら, 2005a,b)。別の研究で、この研究者の同じグループがカゼイン加水分解物の添加がヨーグルト中のプロバイオティク菌の細胞数を増やすことを確認している(Sodiniら, 2002)。別のアプローチがde Greef TrialとQueguiner(2003)とQuengunerら(2003)によって報告されており、その中で細菌由来のカゼイン分解酵素をκ-カゼインの加水分解のために~6.0gたんぱく質/100g含む乳ベースに添加したところスターターカルチャーによる発酵過程でのゲル化が促進した。

●熱変性WPIは球状たんぱく質の展開を引き起こし、その静電反発力はたんぱく質間の凝集を止めて、ゲル形成を阻害する;しかし、塩化カルシウムを冷却WPI溶液に加えるとゲル形成が起きるが、ショ糖の添加(0-30g/100g)はゲル化率を低下させ、これはショ糖濃度に依存する。これは砂糖が水和水を得るために競合し、たんぱく質間の引力を増やすためである。このような挙動は乳を使ったデザートの低温硬化にWPIを使用するときに重要である(Kulmyrzaevら, 2000)。

●Antunesら(2005)は乳ベースへのWPCの添加はヨーグルト菌の生存能力に影響を与えず、L.アシドフィルス、B.ロンガムの増殖と生存性を改善する;官能パネリストはWPCで作ったヨーグルトの品質に大きな違いは認めなかったと報告している。

 WPCはヨーグルトの特性をわずかに変化させるが、プロバイオティク菌を含むスターターカルチャーの生存性を改善し、ヨーグルトのカルボニル成分の生成は増え、製品の組織特性が改善することは明らかである。しかし、ヨーグルト製造中の乳ベースへのWPCの置換率は主に工程レイアウトと総合的に求められる品質に依存するが、強化率が乳ベースのSNFの25%以下である限り、SMPを高品質WPCに置換できる(Schkoda, 2003; Sodiniら, 2005a; Dickinson and Parkinson, 2004; YongKangら, 2004; Schierら, 2004; Ottosen, 2005; Jayaprakasha and Yoon, 2005; Doganら, 2005)。

2.4.5 カゼインパウダーの添加

様々なカゼインパウダー(酸カゼインまたはレンネットカゼイン、Na-、K-、Ca-またはNH3カゼイネート、カゼイン加水分解物)が脱脂乳から製造される。これらの特性は元々のカゼインを沈殿させる技術によって変化する。例えば、酸カゼイン(塩酸、乳酸、硫酸沈殿物)、カゼイン共沈物、レンネットカゼインなどである。その名前が示唆するとおり、カゼインパウダーは主にカゼインから構成されており、ヨーグルトミックスに添加すると製品のたんぱく質含量と粘度が高くなる(Sen, 1985; Hendrickx, 1996)。;SMPと比較すると、その添加率は低い(図2.5)。よって、高たんぱく質パウダーの利用可能性に先立って、カゼインまたはカゼイネートの乳ベースへの強化が以下の利点を提供することは驚くべきことではない。:

●たんぱく質含量を増加させるための乳の濃縮は必要ない;

●ヨーグルトの自然な風味や組織は維持される

●すでに存在しているたんぱく質の親水性を高めるため、安定剤の役割を果たす

●ヨーグルトの粘度を高め、冷蔵保存中のホエイ離水を軽減する

脱脂粉乳と比較して、その推奨強化濃度はそれぞれ1/3の比率である。ヨーグルトの硬度を高める脱脂乳に対するカゼイネートの有用性は図2.4に示した。

 様々な粉末製品がヨーグルトミックスのたんぱく質含量の強化に使用でき(表2.5参照)、使用する粉末製品の種類に依存して、その物理的、官能的特性が影響を受けるのは明らかである。Caric(1994)はホエイたんぱく質濃縮物(WPC)を含む粉末製品の製造に使用される様々な技術についてレビューしている。WPCの機能的特性はKinsella(1986)とKjaergaard-Jensenら(1987)によって報告されており、Robinson and Tamime(1986)はヨーグルト製造におけるたんぱく質の役割についてレビューしている。

 様々な乾燥原料で製造したヨーグルトの品質は世界中の様々な研究所の数多くの研究者によって調査されている。良質のヨーグルトを製造するために使用される原材料の例には以下の物がある:(a)Ca‐カゼイネートとホエイパウダーを1:1の比率で混合する(Conc and Uysal, 1994)(b)Na‐カゼイネートを加えるとほとんど離水のない硬いヨーグルトになる。一方、SMPと乾燥ホエイたんぱく質の差はわずかである;しかし、様々な原材料で製造したヨーグルトの官能、レオロジー特性の相関性は使用するスターターカルチャーの種類に影響を受ける(Rohm and Kneifel, 1993)、(c)異なる乾燥原料で製造したヨーグルトの離水への感受性はWPC35>Na-カゼイネート>WPC45,60,75>SMP>BMPの順で低下した。一方、116.2s-1の比率でで25分間シェアをかけた後の粘度は、Na-カゼイネート>BMP、SMP、WPC75、60、4.5>ゼラチン>WPC35の順に低下した(Guineeら, 1994, 1995; Rohm, 1993a; Rohm and Schimd, 1993; Keogh and O’Kennedy, 1998; Remeufら, 2003)(数値はたんぱく質の含有率を表している)。

 たんぱく質加水分解物をヨーグルト製造中に使用することが推奨される場合もある。約1.5の鎖長のペプチドを含むカゼイン加水分解物は遊離アミノ酸が増えることでS.サーモフィルスの増殖を刺激する(Nakamuraら, 1991)。カゼイン消化物を最大1%添加すると市販ヨーグルトから分離したS.サーモフィルス菌株(高粘度、低粘度)で製造したヨーグルトの粘度が16-87%まで上昇し、離水が26.5-30%減少した(Kim and Hwang, 1996)。最近の研究では、Sodiniら(2005b)はカゼインとホエイたんぱく質加水分解物を使用し、加水分解物の添加は発酵時間を短縮し、粘度と粒粒感を減らし、ゲル構造はよりオープンになり、分岐が少なくなると結論している。代わりに脂肪分解を制御し風味を高める目的でカルチャー乳製品に酵母自己消化物、加水分解たんぱく質を0.5-0.3g/100gの比率で添加できる(Akatuska, 1984)。サバの筋肉由来の加水分解物を0.2-1.0g/100g強化すると乳中のS.サーモフィルスの増殖を刺激したが、L.ブルカリクスには効果が無かった(Lee and Kim, 1986)。大豆たんぱく質分離物と酵母抽出物を乳に添加した結果、S.サーモフィルスと様々なビフィズス菌の増殖が刺激された(Yajimaら, 1992; 第5章も参照)。しかし、このような加水分解物の発酵乳への添加は法的規制に従わなければならない。

4.6 真空蒸発(VE)による濃縮

この乳ベースの全固形を濃縮する方法は乳業界でいまだに行われている。基本的な設備の図は第3章に掲載している。基本的に必要な設備はヨーグルトの製造ラインに容易に取り入れることが出来る単一プレート式蒸発機である。蒸発/濃縮工程は最終的な加熱処理前の乳に実施される。実際には、濃縮物中の揮発成分の微量な損失を除いて、蒸発は全ての乳成分を濃縮するため、ヨーグルト乳は最初に脂肪含量などの標準化を行う。乳から取り除かれる水分は10~25%であり、これは TS(全固形分)の2-4g/100gの上昇に相当する。しかし、Baltadzhievaら(1987)は高品質のヨーグルト製造のために全乳を真空蒸発で16-18gTS/100gにする事を推奨している。蒸発工程のその他の長所は、まず乳の水分の除去が真空下で行われることで、これは言い換えると、乳中の空気の除去を促進し、その結果、凝集物の安定性が改善し、保存中の離水が低減することである(Gradhage and Thurell, 1978; Mangashettiら, 2003も参照)。次に、’山羊'乳ヨーグルトの製造中に、蒸発工程は最終製品の硬度と“山羊風”風味を低減する(Hadland and Hoffmann, 1974)。

 ちなみに、商業的な製法では、ヨーグルト乳は乾燥工程前にこのような濃縮物を生産する工場からの濃縮乳(全脂または脱脂)またはWPCを使用して成分強化と標準化を行っている。濃縮乳製品の基本的な成分組成を表2.6に示している。濃縮乳または全乳とSMPの混合物で作った健康促進ヨーグルトの製造に関するロシアの特許が出されている。これはpH4.0-4.55でゲルを冷却後、フルーツとビフィズス菌バイオマスをヨーグルトに添加して包装後さらに8-16時間冷却したものである(Kompaniets and Orlov, 1998

4.7 膜ろ過による濃縮

膜ろ過は液体混合物から固形分を濃縮/分離するために開発された工程である。通常の膜工程は逆浸透(RO)、ナノろ過(NF)、限外ろ過(UF)、精密ろ過(MF)である。乳業におけるROとUFの利用はGloverら(1978), Hedrick(1983/84), Glover(1985), IDF(1979, 1992b, 1996), Kosikowski(1986), McGregor(1986), Cheryan(1986, 1998), Maubois(1989), Mohrら(1989), Raoら(1989)、Degremont(1991a,b), Renner and Abd El-Salam(1991), Kesslerら(1991), Grandison and Glover(1994), Caric(1994) , Bird(1996), Solanki and Rzvi(2001), Ozerら(2002), Schkoda(2003), Rosmaninho and Melo(2006)によってレビューされている。RO、NF、UF、MF(表2.7参照)の主な機能上の違いは以下の通りである

●RO工程では、非常に小さい分子量の溶質(例.約100)と水分子のみが膜を通過する。そのため、有機成分や非有機イオンに対して基本的に非浸透性(またはわずかに浸透性)であり、その結果、浸透圧がこの工程の重要な要素となる。ROシステムは高圧(例.1-6メガパスカル(MPa))で稼動させる。

●NF工程は超-浸透と呼ばれることもある。このろ過システムは水溶液から選択的に低分子量の溶質を分離する。この膜はROよりも浸透性があるが、UF膜よりは浸透性が低い。NFシステムは通常2-3MPaの圧力で稼動させる。

●UF工程は単なる乳のふるいとなり、高分子画分(例.2000以上)のみを捕らえる。そのため稼動圧力はRO工程と比べてずっと低い(0.1-1MPa)。

●精密ろ過工程は非常に低い圧力で稼動し(約0.01-0.05MPa)、最大1.0-1.4μmの懸濁粒子を水溶液から分離する。

膜を通過する物質をパーミエートと呼び、膜によって補足され濃縮される溶質/成分を含む原料の一部はリテンテートと呼ばれる。よって、原理上はパーミエートには濃縮された溶質が含まれていない。表2.7は異なる膜を使用した時の乳(全脂または脱脂)またはホエイ中の溶質の透過性を示している。パーミエート間の主な違いはROパーミエートが主に水を含むのに対して、UFパーミエートは水のほかに乳糖、非たんぱく態窒素、有機酸、灰分、水溶性ビタミンが含まれる点である。ROとUF(とそのパーミエート)によって濃縮した全乳、脱脂乳、ホエーの化学組成を表2.8で比較している。

 膜ろ過技術は特定の工程(Bird, 1996; Nielsen, 2000; Anon, 2003a)のために乳業界で利用されており、その例は以下の通りである

●ROはホエイ、UFパーミエート、(より少ない範囲だが)ヨーグルト乳の濃縮に使用される

●NFはホエイ、UFパーミエート、UFリテンテートの部分脱ミネラル/脱塩処理に利用される。

●UF工程はチーズ乳の標準化またはヨーグルト乳の成分強化のために乳中の脂肪とたんぱく質を濃縮する(図2.6参照)。WPC生産のためのホエイ濃縮にも使用される。

●MFは基本的に脱脂乳、ホエイ、ブラインの微生物を減らすため(除菌)、WPCまたはWPIの製造に使用されるホエイの脱脂のために使用される。

 RO濃縮乳またはUF濃縮乳を使用したヨーグルトの工業規模での製造についてはJepssen(1977, 1979)によって報告されており、Tamime and Deeth(1980)とFerguson(1989)によって編集されたデータによると、RO濃縮乳、UF濃縮乳で製造されたヨーグルトの品質は以下の通りである。まず UFによって固形分18-20gまで濃縮した全乳によって典型的な酸味を持つ滑らかでクリーミーなヨーグルトが作られた;乳の後処理で均質化は必要なかった。次に、先程言及したものと類似した工程だが、乳糖含量を2g/100gに調整した場合、ヨーグルトの評価は普通のブランドのものよりも優れていた。三番目に全固形13g/100gにUF濃縮した脱脂乳もヨーグルト製造に適していた。4番目に、RO膜で全固形を15g/100gまで濃縮した脱脂乳からヨーグルトを製造した結果、SMPで全固形を15g/100gに強化した脱脂乳で製造したヨーグルトとその品質(粘度、酸度と風味)が類似していた。ヨーグルト製造にROを利用することはUFと比較すると非常に限定的であると考えて間違いないだろう。にもかかわらず、Dixon(1985)はROリテンテート(乳量は濃縮後半分になる)からヨーグルトを作り、SMP強化乳で作ったヨーグルトに比べてその見かけの粘度は高くなり、離水の感受性も低下した。

 UFリテンテートで製造したヨーグルトの追加試験では以下の推奨が示唆された。まず、Atamerら(1990)は全固形分を13.23g/100gにすべきと示唆しているが、脂肪含量に関するデータはなかった;しかし、還元SMP をUFによって固形分12g/100gに濃縮してAMFを加えたもので作ったヨーグルトは官能パネルによって高い評価が得られた(Mehannaら, 1988)。続いて、UFリテンテートで作られたヨーグルトは総遊離アミノ酸とたんぱく質の比が0.0375となり、ヨーグルトの低分子ペプチドの粒子サイズに有意差は確認されなかった(Nakazawaら, 1991)。しかし、乳を2倍以上濃縮した結果、非常に硬い製品となり、カードの張力は濃縮度に比例していた(Tomitaら, 1987)。3番目に、UFリテンテートにβ-ガラクトシダーゼを添加して低乳糖(約0.75g/100g)、低塩ヨーグルトを製造して、ろ過によるカルシウム損失を補うために、ペクチン、リン酸カルシウム、リンゴ濃縮物を添加した(Rasicら, 1992)。4番目に、脱脂乳UFリテンテートのpH6.0における相対粘度はたんぱく質含量と19NaCl/100gの影響を受けた(Abd El-Salamら, 1987)。5番目にUFとROで濃縮した脱脂乳でヨーグルトを製造した;前者はたんぱく質/乳糖比が1.2であり、たんぱく質含量を35%まで増やしたときに良質のヨーグルトが製造された(Brazueloら, 1995)。

最近、Anon(2004)がヨーグルト製造向けにSNF含量を12g/100gに増やすために複合膜プロセス(UFとNF)を使用している。

 UFリテンテート中のスターターカルチャーの活性は伝導性の上昇が確認されたときにより強くなり、pHの変化は乳酸含量の増加にもかかわらず低下した(Lanzanovaら, 1993)。このような微生物の振る舞いはUFリテンテートの緩衝能によるものである(Mistry and Kosikowski, 1985a, 1985b, 1986a, 1986b, 1986c; Alvarezら, 1998; Mistry, 2002; de Castro-Morel and Harper, 2003も参照)。

 4.8 非乳たんぱく質の添加

消費量に対して乳の生産量が不足している国々では、植物、動物、その他由来のたんぱく質がヨーグルト製造用の乳に強化するために研究所で使用されている。非乳たんぱく質の使用例には以下のものが含まれる:

●豆乳とその派生たんぱく質は食品配合に幅広く使用されており、大豆ベースのヨーグルト製品の詳細は第5章でレビューしている。

●スイートポテト(SP)、乳、砂糖、ゼラチン混合物をたんぱく質高含有ヨーグルト(約19g/100g)の製造に使用した。高品質のヨーグルトが作られたが、SP含量が増えるに従って色調が暗くなった。;全体として、このヨーグルトは例えばビタミンC0.3-0.4mg/100g、ビタミンA971-1252レチノール等量/100g、食物繊維2.5g/100gといった具合に大量の栄養素を含んでいた(Collinsら, 1991a-c; Kudoh and Matsuda, 2001a,b)。

●ファーバ、ささげ、ヒヨコマメ、ヤエナリといった豆類がヨーグルト様製品の調合に使用されている。ファーバヨーグルトはエジプトで高い評価を得ている(Abou-Donia and Salam, 1981, 1982)が、ササゲとヤエナリで作った発酵乳は、官能特性は受容できる範囲内だったが、品質が劣っていた(Raoら, 1988; Ibrahimら, 1993)。メキシコで脱脂乳/ヒヨコマメ抽出物を80:20の割合で使用して作ったヨーグルトは受容できる品質だった(de Leonら, 2000)。タイと南アフリカでは、糖化米、シコクビエ、トウジンビエ粉を使用してヨーグルトタイプの製品と発酵乳飲料の開発に成功している(Wongkhalaung and Boonyaratanakornkit, 2000; Mugochaら, 2000; YingZhan, 2003; Tatsadjieuら2004も参照)。バナナと苺のフレーバーはササゲを強化したヨーグルトの受容性を改善した(Sanniら, 1999)。

●卵白、豆乳、ガム、砂糖、脱脂乳とバニラ抽出物をブレンドし加工した結果、受容でき安定な製品が出来上がった(Makenzie, 1983; Lin and Cunninham, 1984; Mullerら,1987, JingSong and MingJi, 2004も参照)。

●ひまわりたんぱく質をヨーグルト製造のたんぱく質の部分置換のために使用した。;このようなたんぱく質にはゲル形成能がないことが分かったが、カゼインと相互作用して軟らかいゲルヨーグルトを形成した(Bilaniら, 1989)。

●落花生(粉または分離物)を乳(全乳にSMPを添加したもの)に混合し全固形を23g/100gまで高めた。80℃30分の加熱によって発酵後に降伏応力の高いカードが出来上がった。その応力は落花生たんぱく質の濃度に影響を受けた(Ramana and Ramanathan, 1992;Venkateshaiahら, 1994; Hongら2000)。

●綿の実たんぱく質(複数の種類あり)をヨーグルト調合に使用した。生乳100%のヨーグルトと比較して、腺のない綿の実たんぱく質と全乳を1:1と1:3の比率で混ぜると受容できるヨーグルトが出来た(Abu-Foulら, 1992)。Jiangら(1995)は新鮮な乳と低ゴシポール綿実たんぱく質を6:4で割り、グルコース1g/100g、β-サイクロデキストリン0.1g/100gを加えた結果、受容できるヨーグルトが製造できた。

●油糧種子(大豆とごま)と米ふすまたんぱく質をパパインで酵素修飾したものをヨーグルト製造用の乳に強化した;推奨濃度は加水分解物の組み合わせで変化した(例大豆+米>10g/100g、大豆+ごま<10g/100g)(El-Tanbolyら, 2001; F.A.Hassanら, 2001も参照)

●ルーサン(Medicago sativa)と雌雄異株イラクサ由来の葉たんぱく質(Uritca dioica)を乳に溶解して80℃30分間で保持しろ過した。そのろ過物を麦芽抽出物と一緒に乳ベースに添加して、低脂肪ヨーグルトに加工したところ、高齢者向けの特別食に適したものが出来上がった(Shalygina and Enal’eva, 2002)。

●SMPを強化したココナッツミルクに砂糖を12g/100g加えたときコントロールヨーグルトと比較して受容できる製品が出来上がった(Sanchez and Rasco, 1984; Anon, 1985a,b; Davide; 1986)。

●乳に乾燥卵白を最大3g/100gまで強化した結果、L.アシドフィルス、L.パラカゼイsubsp.パラカゼイ、L.ブルガリクスの酸生成が高まり、ヨーグルトの粘度は使用した乾燥卵白の量に影響を受けた(Tae, 1997; Tae and Min, 1997)。

●豆乳、オーツ粉といったその他のたんぱく質とWP(Shiraiら, 1992)、小麦と乳たんぱく質(Lorenzen, 1993)、乾燥アロエ(Yongseoら, 1996; Lee and Yoon, 1997; CunSheら, 2004)、豆乳/脱脂乳と糖化米溶液(Kisukら, 1997)、ヤムイモ(Kimら, 1999)を乳に強化して受容できるヨーグルトを製造した。マッシュルーム(Lentinula edodes)抽出物を再構成(還元)SMPに添加(1g/100g)したところ、L.ブルガリクスによる酸生成が高まったが、その凝集物は粗い構造をしていた(Vargas and Ohasi, 1996, 1997)。

 4.9 結論

乳ベースの脂肪、SNF含量の強化/標準化にはたくさんの方法がある。このような成分の化学組成を表2.5、2.6、2.8にまとめた。与えられた状況において特定の強化法を選択する場合、主に以下の条件に支配される。

●コストと原材料の利用可能性

●生産規模

●製造設備の資本投資

しかし、様々な乳成分の強化レベルが使用する方法によって変化することに気付くことは重要である。;ヨーグルトミックス中のたんぱく質、乳糖、脂肪含量は採用する強化/標準化法に依存して高くもなれば低くもなる。しかしその他の事項は等しく相対的なものである:例えば、ある濃度を超えた粉乳(全脂、または脱脂)の添加はヨーグルトに粉っぽい風味を与えるが、これはミックス中の乳糖含量が高いためであり、保存中の過剰な酸生成も引き起こす。にもかかわらず、凝集物の粘度/硬度はヨーグルト製造においてもっとも重要であり、これは完全に乳ベースのたんぱく質濃度に依存する。;年間を通したたんぱく質含量の変化に関しても明らかに関係がある(van Gennip, 1973, 1981a,b)。商業的に、ヨーグルト乳の高たんぱく質含量はカゼイネートパウダーの添加、乳のUF濃縮で行われ、これらより頻度は少なくなるが、高たんぱく質パウダー(ホエイ又は乳)と(または)バターミルクパウダーの添加によっても達成される(表2.5、2.6、2.8;Ottosen、2004)。

 大まかに見ると、ミックス中のたんぱく質濃度は凝集物の特徴に影響を与えるが、ゲル形成はカゼイン画分の機能的特性に完全に依存する(Rohm and Foissy, 1991)。よって、スターターカルチャーから生成される乳酸はカゼインミセルを不安定化させ、pH4.6-4.7で、二価イオン(カルシウム、マグネシウム)存在下で、カゼインは液相を含む乳成分の全てを封入した立体ネットワークを形成する(第2.10.3参照)。

  そのため、濃縮乳または強化乳でヨーグルトを製造することは明らかに妥当性があり、そのたんぱく質含量の目標値は4.5-5.0g/100gが推奨される。特定の方法を分離しようという試みで、Abrahamsen and Holmen(1980), Tamimeら(1984), Becker and Puhan(1988、1989), Savello and Dargan(1995,1997)とLankesら(1998)は複数の加工処理乳(RO,UF,VE処理乳)から製造したヨーグルトとSMPを強化した乳で作ったヨーグルトの品質を比較した。乳ベースの化学組成を表2.9に示した。彼らの結論は以下のようにまとめられる

●UFヨーグルトとNaカゼイネートヨーグルトは凝集物の粘度と硬度がもっとも高かったが、後者の製品の口当たりは受容できるものではなかった(Tamimeら, 1984)。

●UFヨーグルトの嗜好性の機器評価では感覚刺激評価によって支持されなかった。VE乳で作られたヨーグルトが最もポピュラーな風味であることが分かった(Abrahmsen and Holmen, 1980; Lankesら, 1998);しかし、このような効果はRomero Estevez(1988), Gohら(1990), Biliaderisら(1992)の報告にあるとおりフルーツや砂糖を添加すると確認されない。

●ベース乳中のWPCは最終製品のホエイ離水傾向を低減させるために使用できるが(Bhullarら, 2002; Puvanenthiranら, 2002; Augustionら, 2003; Onwulataら, 2004)、ヨーグルト乳にホエイたんぱく質を過剰に強化するとざらざらした組織になる(Lucey and Singh, 1997)。乳ベースに8g/100gの比率でWPIを添加するとヨーグルトの粘度は低下した(Patockaら, 2004)が、SMPとWPCを1.5:0.5の比率で混合して、たんぱく質が5g/100gになるように乳ベースに強化したところ、組織特性、離水、官能プロファイルにおいてコントロールと同等のヨーグルトとなった(Antunesら, 2004)。

●ヨーグルトの粘度増加においてカゼイネートの方がホエイたんぱく質よりもより効果的である(Guzman-Gonzalezら, 2000)、UFリテンテートで作った高たんぱく質粉乳もヨーグルトの粘度を高めるのに効果的である(Guzman Gonzalesら, 1999; Misty, 2002)

●乳たんぱく質加水分解物の添加によってS.サーモフィルスST-7の生育が高まり(例.L.アシドフィルスLA-5またはL.ラムノーサスLR-35の混合カルチャー中の)、発酵時間を短縮し、健康促進菌を減らすが、発酵乳の保存後のこれらの菌の生存率を改善した(Lucasら, 2004)。

しかし、異なる乳たんぱく質を強化した乳から製造したヨーグルトの比較研究では以下の内容が示唆される(Modler and Kalab, 1983; Modlerら, 1983; Renner and Eiselt-lomb, 1985a-c):

●ゲル強度と離水は強化する方法とカゼイン含量に影響を受けた。

●カゼイン/非カゼイン比は1.08:1vs.4.56:1の間で変化した。

●ヨーグルトのミセル構造、例.カゼインミセルの融合、ミセル鎖と凝集乳たんぱく質の大きさ、は使用する乳たんぱく質の種類(UF乳、カゼイネート、イオン交換、UF膜または電気透析を使用したWPC)による影響を受けた。

●官能特性は強化する方法によって影響を受けた。

乳ベースの調整中には、様々な乳原料を使用する可能性があり、バランスの取れたヨーグルト乳にするためにSNFと脂肪含量を正しく計算することは必須である。このとき2つのアプローチが考えられる:(a)Pearsonスクエア法で近似公式化する(b)様々な原材料から得られる脂肪、SNFの量を正確に計算するために代数法を用いる(Hyde and Rothwell, 1973)。前者の計算方法は小規模ヨーグルト生産者にとってもっとも満足のいくものであるが、代数法は通常、大規模製造者、特に稼動の経済性を考慮する時に推奨される。これら2つの計算法の仮説例は付属書15に記載している。

 最近、Robinsonら(2006)がどんなシステムを採用しても、その“ボトムライン”は乳脂肪とたんぱく質が高価な成分であるということであり、乳ベース中の脂肪とたんぱく質の正確な測定が不可欠となる。近代的な赤外分析システムはこのようなパラメーターの日常的なオンラインモニタリングおよび調整を可能にするのに十分な速度と正確性を持って測定することが出来る(Andersenら, 1993)。さらに、もし粉乳とその他の乾燥原料を使用する場合、混合中に発生する空気の取り込みに応じて、乳ベースの脱気が必要となる:酸素の存在はラクトバチルス属の生育に影響を及ぼす(Beshkovaら,2002)。

5 安定剤/乳化剤の添加

5.1 一般的背景

安定剤/乳化剤はいくつかの乳製品の製造に使用されるが、ヨーグルトの製造では安定剤のみ乳ベースに添加される(Suriyaphanら, 2001a,bを参照)。ほとんどの国でこの利用方法は法的規則による縛りを受けている。国際レベルでは、FAO/WHO(1990)はヨーグルト製造に使用できる成分リスト(許容濃度あり)を起草しており、英国でも似たようなアプローチが取られている(Statutory Instrument(SI), 1995)。

このような食品規格における安定剤/乳化剤の分類は常に何かしらの問題があり、いくつかの異なる手法が示唆されている。例えば:

●多糖類と呼ばれる全ての成分;

●植物由来を含む名称のもの;

●その由来、例.植物、動物、合成;

●化学的分類;

しかし後者のアプローチはGlicksman(1969, 1979, 1982, 1983, 1985, 1986)によって修正されており、彼の提案した分類法には加工技術への言及が含まれている。例えば:

●天然ガム(自然に見つけられたもの);

●修正天然ガムもしくは半合成ガム(例.天然ガムの化学修飾またはガム様物質);

●合成ガム(化学合成によって作られる)

 FAO/WHO(1990)とSI(1995)によって使用が許可されている安定剤の一部を表2.10に記した。分かりやすくするため、様々な製品グループが整頓できるようGlicksmanの分類法を使用した。

 乳ベースへの安定剤添加の主な目的はヨーグルトに求められる特性、例えば、ボディ感と組織、粘度/硬度、外観と口当たりを高め、維持するためである。ヨーグルト凝集物は製造中にしばしば機械的処理に晒される。:(a)培養終了時またはタンク内冷却中の発酵タンク内で凝集物を攪拌する、(b)凝集物をプレート式/チューブ式冷却機へポンプ搬送する(c)フルーツ/香料を凝集物に入れるために混合した後、充填/包装機にポンプ搬送する(d)パスチャライズ殺菌、UHT殺菌、ロングライフヨーグルトではそれに続く発酵後の凝集物の加熱処理が行われ、結果として、製品粘度が低下し、たいていの場合、ホエイ分離を示す。安定剤の添加によってこのような欠陥が克服できる。

 安定剤は親水コロイドとも呼ばれ、ヨーグルト中の作用機序には2つの基本機能が含まれる:まず水と結合すること、二番目に粘度上昇を促すことである(Boyle, 1972, Thomas, 1982; Frostら, 1984; Phillipsら, 1986, 1992, 1994; Rother, 1994; Doreau, 1994; Williams and Phillips, 2002; Foxら, 2003; Yaseenら, 2005)。そのため、負に電化したグループ、例えば水素またはカルボキシル基の存在によって、もしくはカルシウムイオンを隔離する力を持つ塩の存在によって、安定剤は分子乳成分とそれ自身の間に結合ネットワークを形成できる。これらの負電荷グループは界面で濃縮され、Boyle(1972), Dexter(1976),Ingenpass(1980), Baird and Pettit(1991), Kasapisら(1992), Gordon(1992), Pedersen(1995), Olsen(2003)によると、乳ベースへの水の結合は安定剤によって以下のように達成される。:

●水和水として水と結合する。

●その水和度を高めるために乳成分(主にたんぱく質)と反応する

●水の自由な動きを妨害するネットワークの形成によってたんぱく質分子を安定化させる(図2.8、2.9)。

 つまり、ヨーグルト中の親水コロイドの機能は:(a)ゲル化剤、増粘剤として、(b)安定剤としてである(Rizzottiら, 1984; Schaffer, 1989; Thygesen, 1990)。表2.10は粘度のあるヨーグルトの製造のために乳に加えることができる幅広い成分を示しており、これらは単独でも混合しても使用することができる。ほとんどの市販品が安定剤成分の混合物なので、後者の手法がより幅広く用いられている(unless it is declared otherwise)。このような成分を一緒に混合する目的は特定の機能を達成するため、もしくは大半の場合、特定の成分に関わる制約を克服するためである。例えば、単一の安定化成分(X)はフルーツ/フレーバーヨーグルトの製造には適しているが、凍結、乾燥、パスチャライズ殺菌ヨーグルトの製造には適していない。よって安定剤の特定タイプの選択は次の章でも触れる要因の多さに依存する。

 5.2 様々な特性と条件

機能的特性

この特性には選択した安定化成分の効果や作用メカニズムが含まれ、製造するヨーグルトの種類も考慮しなければならない。

最適濃度

ヨーグルトに使用される安定剤の最適濃度はときに規制によって、または副作用(外観、望ましくない口当たり、大量に添加したときに生じる)によって決められる。

ヨーグルト製造のための安定剤の推奨濃度の一部は以下の通りである:

●ペクチンまたは加工でんぷん0.02-0.7g/100g(Winterton and Meiklejohn, 1978; Zmarlickiら, 1977; Gudnasonら, 1983; Kratzら, 1989; Pedersen, 1993; Basak and Ramaswamy, 1994)、1.2g/100gカラギーナンと0.25g/100gペクチン(Petersen, 1989)。

●寒天、ローカストビーンガム、グアガム、アルギン酸、ゼラチン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース0.05-0.6g /100g(Volker, 1972; Schrieber, 1973; Ledder and Thomasow, 1975; Steitz, 1975; Hannigan, 1982; van Coillie, 1989; Goncら, 1994; Anon, 1995a; Sta, 1996; Goff, 2004)。;しかし、Fisceher(1996)によると、high-bloomゼラチンのみがその改善したゼラチン/カゼイン相互作用、融点と安定化能力によってヨーグルト製造に使用すべきであるとしている(Cole,2002も参照)。

●スターチ調整剤1.2g/100g(Thomasow and Hoffmann, 1978;Chawal and Blachandran, 1986; Katz, 1991)

●アシドフィルド乳サンプル(脂肪0-20g/100g、SNF6-12g/100g)中のグアガム0.1-0.5g/100gはアセトアルデヒド、エタノール、ジアセチルの分配係数に影響を与えなかった(Loら, 1996; Garciaら, 2005も参照)。

●砂糖だいこん繊維0.5-2g/100g添加によってヨーグルトの硬度は改善し、受容できる風味となった(Saldamli and Babacan, 1997)。

●タピオカ由来のでんぷん0.6g/100gはヨーグルトの特性に影響を与えることなしにSNF2g/100gを置換する事ができた(有意なコストダウンになる);0.3gのゼラチンはでんぷんと比べて効果が低かった(特に脂肪1.5g/100g含むヨーグルトにおいて)(McGlinchey, 1995, 1997)。代わりに、調理した小麦粒とスクロースの混合物を使用し、ヨーグルトの栄養学的、官能的特性を改善した(Hamzawi and Kamaly, 1992; Williamsら2003; Sagdicら, 2004; Tihomirova and Morozova, 2004)。

●Everrt and McLeod(2005)は低脂肪攪拌式ヨーグルトに対する様々な安定剤(低メチオキシペクチン(LMP)、λ-カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、キサンタン)の効果について研究し、安定剤のメカニズムは使用する安定剤の濃度と種類に影響を受ける事を確認した。LMPとλ‐カラギーナン濃度が上がると、安定化メカニズムは不完全な立体安定構造を伴う架橋した軟凝集の領域を通過するカゼイン凝集物のモデルと一致する。この研究はヨーグルト製造中の安定剤それぞれの振る舞いを支持、反映しているが、市販の安定剤は異なる安定剤のブレンドなので、工業的ヨーグルト製造中の顕微鏡試験を使用してそれぞれの安定剤のアイデンティティを視覚化するのは難しいかもしれない。発酵水牛乳の品質に対する同種の安定剤の影響についてはAyub(2004)による報告がある。

●ヨーグルトの構造と外観は乳ベース中のκ-カラギーナン濃度の影響を受けるが、製品のこのような特性に影響を及ぼさないためには0.01-0.03g/100gの濃度が良いかもしれない(Sagdicら, 2004)

ヨーグルト乳に添加する安定剤濃度を決定する別の要素は乳固形分(%)である。Hall(1975)によると、乳固形分12.5、14.5、16.5、19.0、22g/100g含むヨーグルト乳へのゼラチン/植物ガムの最適濃度(g/100g)はそれぞれ0.5、0.45、0.4、0.3、0.25だった。その他のヨーグルト製造用のブレンド安定剤の推奨濃度(g/100g)は(a)Gelodan0.35(Mehanna and Mehanna, 1989)、(b)N-アルギン酸またはゼラチン+<1.5でんぷん(Jogdandら, 1991a,b)、(c)ゼラチン1+寒天0.2(Ajamら, 1993)、(d)アルギン酸0.2+β-サイクロデキストリン0.1(Jiangら, 1995)、(e)カルボキシメチルセルロース0.06+グアガムもしくはギンネムガム+カラギーナン、9:1(El-Etribyら, 1994;Abd El-Salamら, 1996; Hassanら, 1999)、(f)ローカストビーンガムとカラギーナン溶液(Arnaudら, 1989)、(g)GelodanYF358 2.0(食物繊維+乳たんぱく質)と1.5GelodanYF326(食物繊維+ゼラチン)もしくはGelodanYF314 1.5(食物繊維+乳たんぱく質+低メチオキシルペクチン)とGelodan361(食物繊維+ゼラチン+低メチオキシルペクチン)1.5(Carnell, 1989)、(h)Sphingomonas paucimobilis由来の微生物ジェランガム(Fayedら2001)、(i)食物繊維添加、例.非でんぷん多糖類(El-Nagar and Brennan, 2001)。しかし、ヨーグルト製造中の様々な安定剤を評価した研究はJamrichova(1985, 1990),Shuklaら(1988), Shukla and Jain(1991), Jawalekarら(1993), Khalafalla and Roushdy(1997), LiLian and YiMei(1999), Pedersen and Marr(1999), Kadianら(2000), Gupta and Prasad(2000), Salama(2001), Schmidtら(2001), Harby and El-Sabie(2001), Endress and Mattes(2001), Shalyginaら(2001), Petrovaら(2001), El-Sayedら(2002), Dubert and Robinson(2002), Anon(2003b), Unalら(2003), Nakano and Ozimek(2003), Ayub and Siddiq(2003), ChienJung(2003), Thaiudom and Goff(2003), Hongら(2004), Danら(2004), Paulettiら(2004), San Martin-Martinezら(2004), Badawiら(2004), Mori Nunezら(2004)によっても報告されている。

 酸凝固ゲルとヨーグルトに対するゼラチンもしくはペクチンの効果はFiszman and Salvador(1999), Fiszmanら(1999), Luceyら(2000)によって報告されており、彼らはこれらの安定剤が乳成分と相性がよく、離水を減らし、硬度を上げると結論している(ゼラチンを添加したゲルはそうでないゲルに比べてより硬い性質を示した)。ペクチンはカゼイン画分の凝集を抑制した(Hinrichsら, 2003)、Gadら(1998)はペクチンの添加によって再構成(還元)粉乳で製造したゲル中においてより高いpHでゲル化が引き起こされたと報告している。同じ研究者はペクチンを添加したゲルの小孔は大きくなることも報告しており、添加した安定剤によるヨーグルト様のゲルの形成にはカルシウムが重要な役割を果たしている事を示唆した。しかし、発酵乳モデル系中にカラギーナン、グアガムまたはキサンタンガムを様々な量で加えたところある種の揮発性脂肪酸の濃度に影響を及ぼした(酪酸、カプリル酸、カプロン酸を増減する)(Chenら(1999))。フェリル酸でエステル化したでんぷんをヨーグルトに加えると製品粘度がわずかに低下したが、天然のでんぷんを使用したヨーグルトに比べて、ゲルの水和力は高くなり、低温保存中のでんぷん老化が大きく低下した。そして、ヨーグルト菌の生存率も高まった(ShiYiら, 2001)。

Doreau(1998)はヨーグルトタイプの配合の開発のために特殊でんぷんを使用する利点について詳細に述べている;例えば、N-Lite D(Waxyとうもろこし由来のマルトデキストリン)は低脂肪ヨーグルトの粘度を高め、スターター菌の代謝活性に悪影響を与えることなしに製品の口当たりを改善した(Kebaryら(2004)も参照)。さらに、Riconら(2005)はEnterolobium cyclocarpumから産生されたガム(Mimosaceae)-ベネズエラで発見された種-を様々な濃度でヨーグルトに使用した研究を行い、その結果からこの安定剤を0.2g/100gの比率で使用すると高い官能スコアを持つ高品質の製品が出来ることが示唆された。

毒性または抑制作用

過去に、いくつかの安定剤、例えば、カラギーナン、トラガカント、ローカスト(イナゴマメ)ガム、は食品に使用するにあたって毒物学的許可を待っていた。しかし、このような安定剤の毒物学的許可は保証されており、乳製品へ許可された添加率も最近、公表されている(www.inchem.org/pages/Jecfa.html)。

法的側面

これらは国によって異なり、全ての安定剤成分がヨーグルト製造向けに認められているわけではない;そのため法的規制を定期的にチェックすべきである。

溶解性について

いくつかのでんぷん調整物とNa-カラギーナンの溶解性は低温で最適であるため、乳ベースの調整中に冷たい乳に添加できる。しかし、安定剤成分の大多数はより高温、例えば50-85℃のみで溶ける(寒天は90-95℃)。そのため実践的にはこのような安定剤をパスチャライズ殺菌前の温かい(WARM)乳に加えるか、加熱処理前の温かい(HOT)乳に加える。時には、特定の安定剤ブレンド(例えば、でんぷん調整剤を含むもの)の完全溶解には混合物が安定剤として活性化するために高温で保持する必要がある。

 このように複合物が異なる特性を持っているという視点では、乳ベースへの取り込みに一つの手法を推奨するというのは難しい。しかし、問題を克服する上で以下の点が助けになるかもしれない。

●製造者によって提供される取扱説明書、または情報の欠如:(a)安定剤を粉乳と混ぜ合わせそれを高速攪拌したものに推奨温度で水または乳に添加する、もしくは(b)砂糖と一緒に安定剤を混合し、それを高速攪拌下で砂糖に推奨される温度で乳ベースに添加する。

●安定剤(例.ゼラチンパウダー)を水または乳中で水和させ、高速攪拌機でベーシックミックスに添加する。

カゼイン

いくつかの親水コロイド(Na-カルボキシメチルセルロース、グアガム、ローカストビーンガム)を0.05g/100gという低濃度で乳に添加するとカゼインミセルの不安定化が起こり(Powell,1969)、不安定化したカゼインミセルは一時的に凝集するが、そのマトリックスが水を保持する能力はかなり限定的であり、離水が起きる。さらに、このような不安定化したカゼインはオープンな組織を持つ凝固物を生じさせる。しかし、この問題は上述の成分をカラギーナンもしくはアルギン酸と一緒に混合することで最小化できる(Dexter、1976参照)。

加工条件

様々なヨーグルトベースの製品のための製造条件が開発されている(第5章参照、Tamime、2006)、この成功は安定剤の添加に依存している。例えば以下のものがある。

パスチャライズ殺菌、UHT殺菌、ロングライフヨーグルト-ローカストビーンガムと寒天、キサンタンのブレンドから構成されるゲル化剤を加えることが推奨されている(Anon, 1980a);でんぷん派生物(ジアミロペクチン グリセロール エーテルまたはリン酸ジアミロペクチン)は加熱処理したヨーグルトの外観を改善する(Vanderpoorten and Martens, 1976)。

フローズンヨーグルト‐Gautnebら(1979)により安定剤/乳化剤の混合物(詳細不明)が推奨されているが(Gautnebら(1979))、加工でんぷんでは満足の行く結果が得られなかった(Winterton and Meiklejohn, 1978)。

攪拌型ヨーグルト-Na-proteinate(おそらくカゼインNa)1g、FrimulsionJ5 0.1g、Genu gumCH200 0.1g、Genu カラギーナンとマルトデキストリン0.3g/100gまたはFrimulsion JQ0.16g/100gのブレンドは製品粘度を改善した(Luczynskaら1978)。

ドリンクヨーグルト-寒天ベースの安定剤を0.25g/100gの比率で添加すると製品中のフルーツの緩衝能の維持を促した(Morley, 1978)。

凍結乾燥ダヒ-コーンスターチとレシチンまたはグリセロールモノステアレートを乾燥前の発酵乳に添加することで製品の品質が改善した(Baisya and Bose, 1975)。

カゼインの沈殿はスイートミルク中または酸生成中に起こるが、一部の安定剤は凝集物の形成の後でもヨーグルトに添加できる。この場合、安定剤成分(例.液化寒天、予備膨張させたゼラチン)を砂糖と混ぜ合わせ、凝集物の中に取り込ませる。ヨーグルト関連製品の安定剤使用に関するさらなる詳細と最新の情報は第5章を参照のこと。

固結特性

ヨーグルト製造に使用される安定剤の大半は通常の冷蔵温度で固結特性を示す(それぞれ25℃、42-45℃で固化するゼラチンと寒天は除く)。よって、このような安定剤成分は冷却工程で問題を起こす(例.ポンプ搬送や充填が困難になる)。さらに、ゼラチンの使用は凝集物を粗い組織にする。この後者の欠陥は微細格子の網、ふるいに凝集物を通過させることで低減もしくは排除できる。

衛生基準

適切な衛生基準が安定剤に適用されることが推奨される。しかし、ヨーグルト乳の加工に使用される温度(85℃30分もしくは95℃5-10分)は安定剤に存在している微生物の大半を殺すのに十分な温度である。乳酸菌摂取後の凝集物に添加する安定剤は優れた微生物学的品質を有していなければならず、そうでない場合には製品の賞味期限が短くなってしまう。

 6 甘味料の添加

6.1 はじめに

甘味成分はフルーツ/フレーバーヨーグルトの製造中に添加され、時には、“甘い”ナチュラルヨーグルトにも添加される。;しかし、後者の製品の需要は限定的である。ヨーグルトに甘味料を添加する主な目的は製品の酸味を低減させるためであり(Nahon, 2005)、添加量は以下の内容に依存する。:

●使用する甘味成分の種類

●消費者の嗜好

●使用するフルーツの種類

●法的側面

●経済的な判断

平均すると、フルーツ/フレーバーヨーグルトには20g/100gの炭水化物が含まれており、その由来は(a)元々の乳に含まれる糖(乳糖。ガラクトース、ブドウ糖)-この濃度は乳ベースの固形分と強化方法によって変化する、(b)フルーツ中の天然の糖(ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖)、(c)ヨーグルト製造者またはフルーツ加工業者によって添加された糖、である。

 フルーツには天然の炭水化物がさまざまな濃度、さまざまな種類含まれており、その総含量はレモンの1.6g/100gからレーズンの65g/100gまである(Shallenberger and Birch, 1975; Hollandら, 1991)。一般的に需要のあるフルーツに含まれる天然の炭水化物の含量は以下の通りである(g/100g)

アプリコット 7.5

ブラックチェリー 12.0

ブラックカラント 6.6

マンダリン    14.2

桃       9.0

パイナップル  11.6

ラズベリー   5.6

いちご     6.2

 フルーツに存在する主な炭水化物はブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖であり、フルーツそれぞれの甘味は存在する炭水化物の濃度と種類に依存する。乳糖、合成甘味料を含む様々な炭水化物の甘味度比較を表2.11にまとめた。;ショ糖を公称定格の1とした。

 ヨーグルトに使用されるフルーツ調整品は主に2つのカテゴリーに分けられる。添加した甘味料を全く含まないフルーツプレザーブと添加した甘味料を含むフルーツである。後者のタイプはよりポピュラーであり、ヨーグルト製造向けの加工フルーツ中の添加甘味料の濃度は25-65g/100gの範囲で、もっとも一般的な濃度は30-35g/100gである(J.G.Spinks,個人的な聞取り)。

乳ベース中に炭水化物が存在しているとヨーグルト細菌の生育を阻害するため、出来上がったヨーグルトにプレザーブや類似した原料を添加するのは今やほとんど普遍的な方法となっている。Tramer(1973)は糖濃度を6から12g/100gに引き上げたとき濃縮乳(16.5gTS/100g)中のS.サーモフィルスとL.ブルガリクスによる酸生成率が低下したと報告しており、さまざまなタイプのヨーグルトの顕微鏡試験ではまずS.サーモフィルスの方がL.ブルガリクスに比べて高い糖濃度に対する耐性が高いことが明らかになった(Steinsholt and Abrhamsen, 1978; Marshall and Mabbitt, 1980; Dimitrovら, 2005a)。次に形態学的な変化が起きる、すなわち細胞が曲がったり、伸びたりして“不健康な見た目”になる。Kimら(1995)は乳ベースに糖9g/100g以上使用したときに酸生成率が低下し、ヨーグルトの粘度が低下したと報告している(Coghill, 1983,; Grandi and Lopes-Andrade, 1989; Latrilleら, 1992; Cislaghiら, 1995も参照)。フィンランドでは、脂肪3.5g/100g、ショ糖10g/100g含むストロベリーヨーグルトは男性パネリストからの評価は高かったが、女性では低かった。そしてこのような知見は製品の成功を予測するための消費者のセグメンテーション(区分け)に利用できるかもしれない(Tuorilaら, 1993)。しかし、スターターカルチャーの耐糖性には菌株依存性があることが分かっており、甘味をつけた乳に用いるスターターカルチャーの菌株は注意深く選定しなければならない。

 商業的に利用できるスターターカルチャーの糖濃度に対する耐性は乳ベース中で最大12g/100gだが、最近9g/100gの糖を含む乳で増殖させたとき、このようなカルチャーの一つが発酵期間のわずかな遅れ(約30分間)を示した(Tamime, 非公表データ)。しかし、韓国で行われた最近の研究では、S.サーモフィルスとL.ブルガリクスの生育が以下に示す甘味料濃度(g/100g)で抑制された。ショ糖≧4、果糖≧2.7、アスパルテーム≧0.02、フラクトオリゴ糖≧7.3、イソマルトオリゴ糖≧7.7。

 糖(10-12g/100g)を添加した乳中のヨーグルトスターターカルチャーの抑制作用は主に乳中の溶質の逆浸透圧効果によるものであるが、低水分活性(Shallenerger and Birch, 1975; Labuza, 1980)の影響もあるかもしれない。食品の水分活性(Aw)は以下の様に表される:

Aw=Pf/Po=ERH/100

Aw=水分活性、Pf=食品中の蒸気圧、Po=同じ温度の時の純水の蒸気圧、ERH=平衡相対湿度。

この後者の概念は品質管理という視点から重要である。食品中の微生物生育、酵素活性の両方がAwと関連しているからである(Acker, 1969)。そのため、浸透圧とAwの両方がヨーグルトスターター菌の抑制効果と関連していることを示唆することができる。しかし、例えば30gTS/100gといった高全固形分の乳で増殖させたスターターカルチャーも活性の低下を示し(Zmarlickiら, 1974)、その状況は成長培地のAwに関連していた。このような知見はTraimerによっても報告されており、彼らは乳(21gTS/100g)+添加糖3g/100gで増殖させたヨーグルトスターターカルチャーの抑制を確認し、;その抑制作用はAwに起因していた。なぜなら溶液中の3g/100gの糖が細菌の生育を遅らせるだけの十分な浸透圧をつくるとは考えられないからである。

 上記のデータを考慮すると、甘味料の添加に使用される一般的な方法としては以下のものがある:(a)ヨーグルト製造者が最大5g/100gまで乳ベースに甘味料(糖)を添加する(b)最終製品で求められる甘味は甘味付けしたフルーツ調整品の添加によって達成される。この段階で通常のフルーツ/フレーバーヨーグルトよりもフローズンヨーグルトの方が糖含量が高いことを指摘しておくのは価値がある。乳ベースに加える砂糖(ショ糖)は凍結前の冷却ヨーグルトに添加して、その量は10g/100gを超えるべきではないことが推奨されている。さまざまなタイプの炭水化物が甘味付けフルーツ/フレーバーヨーグルトの製造に使用されており、これらの一部については次のセクションで言及する。

6.2 炭水化物系甘味料の種類

スクロース(ショ糖)

スクロースは植物界に豊富に存在しており、一般的に砂糖と呼ばれる。スクロースはC12H22O11という化学式を持ち、この精製炭水化物はサトウキビもしくは砂糖大根から商業的に得られる。スクロースは甘味料として食品業界で幅広く使用されており、顆粒またはシロップの形態で利用できる。前者は液状乳に加えたときに完全溶解させるのに強い攪拌が必要となり、実用的には約40℃で残りの乾燥原料と一緒に添加する。シロップタイプは砂糖を65-67g/100g(20℃で飽和)含み乳ベースの液相に簡単に混合できるが、水分を33-35g/100g含んでいるため、ヨーグルト乳の固形分を希釈してしまうことから、乳ミックスを計算する際には添加された水分も考慮しなければならない。

 乳の加熱処理の前に砂糖を添加するのが望ましいが、それはあらゆる植物由来の汚染、例えば酵母やかびの死滅を保証するからである。しかし、もし砂糖を凝集物の形成後に添加しなければならない場合は、砂糖の不均一な分布と製品硬度の過剰な低下を回避する為の工程を加えなければいけない。最近、Dufseth(2004)が`消費者の食事におけるヨーグルトの添加糖の役割について議論しており、彼は一部のヨーグルトに含まれている相対的に大量な砂糖は懸念材料であると報告している。

転化糖

このタイプの炭水化物は右旋性の光学活性を持つ砂糖を左旋性または逆の光学活性のものに転化した結果、生成される。転化糖の種類は原材料に依存する。例えば転化スクロースシロップはスクロースを加熱しながら酸加水分解して形成され、その転化度は10%から90%の範囲である。

計算式

・・・・・

この変換の長所のひとつは製品(50%転化)の水分含量が23g/100g(Junk and Pan Coast, 1973)であり、結晶化なしにこの高い砂糖濃度で扱うことができることである。しかし、転化コーンシロップはコーンスターチの加水分解によって形成され、その際、D-グルコース(デキストロース)が作られる。変換(転化)の度合いはデキストロース当量(DE)を単位として測定し、タイプⅠ(20-37DE)、タイプⅡ(38-57DE)、Ⅲ(58-72DE)、IV(>73DE)(Junk and Pancoast, 1973)がある。加水分解の工程は通常、以下の方法のいずれかによって行なわれる。

●全酸加水分解

●酸液化/酵素糖化

●全酵素加水分解

 近年、でんぷんシロップもその他の糖、例えば麦芽糖もしくは果糖が高含有のシロップのために加工されている。後者のシロップは食品業界において多くの潜在的な応用性を持っており、Martin(1979)によるとアメリカで42g、55g、95g/100gの果糖を含む高果糖(コーン)シロップが商業的に生産されている。;スクロース換算(スクロース1)の甘味度はそれぞれ1、1.1-1.2、1.5である(Dordovicら, 1981も参照)。

フルクトース(果糖)

フルクトースまたは果糖はグルコースと同じ化学式C6H12O6を持ち、表2.1.1を見れば分かるように、スクロース、グルコースよりも甘い。商業的には、フルクトースは主にでんぷんの転化由来であるが、最近はフルクトースを含むぶどうが甘味付ヨーグルトに20g/100gの割合で使用されている(Calvoら, 1981)。

グルコース(ぶどう糖)

グルコースはフルクトースと同じ化学式、C6H12O6を持ち、商業的にはコーンスターチの加水分解によって製造される。

グルコース/ガラクトースシロップ

これはチーズやカゼインの副産物であるホエイまたはUF濃縮乳のパーミエート(透過液)から製造される。ホエイ中の乳糖含量は通常5g/100gの範囲であるが、表2.11で示した通り、その相対甘味度はスクロースと比べてわずか0.4である;よって、真の甘味を感じさせる前に乳糖をその単量体成分-グルコースとガラクトース-に変換しなければならない(表2.11参照)。乳糖の加水分解工程は酸または酵素を使用することで達成できる。Sienkiewicz and Riedel(1990)のレビューではこのような工程の詳細、様々なシロップの化学組成、使用する酵素の特徴(市販調整品や原産国など)が記載されている。

 現在、スイスでは加工加水分解ホエイ(NF使用)、乳糖高含有UFパーミエート(透過液)がこのような製品を廃棄する経済的、環境的解決策の要求に応えるかたちで糖液製造に使用されている。製造工程は、ホエイの予備濃縮と部分脱塩、加熱処理、乳糖の酵素加水分解、糖液と塩溶液の分離と濃縮から構成されている(Thometら, 2005)。UFを組み合わせた連続的な乳糖加水分解は高価な酵素の使用を劇的に減らし、工程の有用性と経済性を改善することも報告されている。

このシロップの供給先のひとつは甘味付したフルーツ/フレーバーヨーグルトである。

その他の甘味料

ソルビトールはアルコールである;グルコースから水素添加工程によって商業的に製造される。つまり、グルコース分子のアルデヒド基(CHO)をアルコール基(CH2OH)に変換する。ソルビトールの甘味度はスクロースのわずか半分だが(表2.11参照)、糖尿病患者向けのフルーツ/フレーバーヨーグルトに利用可能である。というのもソルビトールの腸管吸収はグルコースよりも穏やかであり、血糖値にほとんど影響を与えない。大量に摂取すると下痢を引き起こすため1日当たりの推奨摂取量は設けられていない(Garrow and James, 1999)。

 サッカリンとチクロは人工甘味料であり、スクロースと比較した甘味度はそれぞれ240-350、30-80である(表2.11)。しかし、その毒性の可能性から、チクロは添加物としての使用が多くの国で禁じられており、サッカリンはまだ認められているが、その使用は世界中の食品医薬管理者によって注意深く監視されている。そのため食品業界でのこれらの甘味料の使用は制限されている。現在の状況で、ヨーグルトスターターカルチャーの活性に及ぼすこれらの甘味料の効果に関する情報がいくつかあることを述べておくべきだろう。Gautnedら(1979)はS.サーモフィルスとL.ブルガリクスによる酸生成がヨーグルト乳にソルビトール99.9g/100g、チクロ0.1g/100gの比率で含んでいる甘味料を添加した時に抑制されることを報告している。予防手段としてこれらの甘味料は乳の発酵後に加えるべきである(Hyvonen and Slotte, 1983も参照)。表2.12にヨーグルトの品質、スターターカルチャーの生育特性におよぼす人工甘味料の効果と保存中のこれら甘味料の安定性に関する情報を記した。しかし、人工甘味料のさらなる技術情報はHoughら(1979)、Grenbyら(1983),Genby(1987)を参照のこと。ヨーグルトの関連データだと、読者はHugill(1980), Harrison and Bernhard(1984), Homler(1984), van Tornoutら(1985),Billauz(1989), Sasso(1989), Akahoshiら(1990), Pedersen(1991), Sardesai and Waldshan(1991), farooq and Haque(1992), Borrego and Montiano(1997), Kingら(2000, 2003), Nikolelis and Pantoulias(2001), Drakeら(2001), Muller and Raschke(2003), Raschke(2003), Hatano and Nakao(2003) , Nojiriら(2003)のレビューを参照して欲しい。

 Haque and Aryana(2002)は糖と甘味料がヨーグルトの微小構造に影響を与えると報告している;前者はカゼインミセルのクラスター形成を引き起こし、アスパルテームはカゼインミセルから2重で長鎖の重合体を形成させる。いくつかのフルーツ/フレーバーヨーグルトの市販ブランドは製品のカロリー値を下げるために人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース)を使用しているが、中にはこのような製品について難色を示す人がいる(Oliviera and Damin, 2004; Pinherioら, 2005a,b)。さらに、Decourcelleら(2004)は甘味料(フルクトース、フラクトオリゴ糖、アスパルテーム、アセスルファムK)と安定剤(でんぷん、ペクチン、ローカストビーンガム、グアガム)のせん断条件下における無脂肪攪拌式ヨーグルトの複合的な芳香の放出に対する効果について研究し、以下の通り結論づけた(a)製品中にペクチン、でんぷんが含まれているとヘッドスペース分析によって分析したときの芳香成分の放出が低下する傾向にあった。一方、ローカストビーンガムでは芳香成分が増加する効果が確認された。(b)甘味料またはグアガムはフレーバーリリースに影響を与えなかった (c)せん断条件下でフルーツ調整剤の組成が芳香リリースに主要な役割を果たした(Wouter, 2001も参照)。

 これらさまざまな甘味料がフルーツ/フレーバーヨーグルトの製造に使用され、次のうち一つもしくは複数の要素によってある特定の糖を選択する。

●甘味料の利用可能性とコスト:この理由からスクロースが最も広く使用されている。

●法的側面:その糖が食品添加物として認められているかどうか(人工甘味料を除いて、ほとんどの甘味料は天然物質由来であり、禁止の可能性は低い)

●保存性:顆粒製品は多層袋もしくは大きなサイロで保存し、保存エリアの湿度管理は“固化”を防止するために必須である。;保存に必要とされる条件はJink and Pancoast(1973), Kaplinsky(1989), Chen and Chou(1993), Spencderら(1993) によって議論されている;シロップは主に大きな金属製の容器かサイロに保存する。

●栄養学的側面:フルクトースはとても甘い糖であり、スクロース/フルクトースシロップを低濃度で使用すると甘味とカロリー低減の両方が提供できる。;さらに、フルクトースは、ソルビトールのように、血流にゆっくりと吸収されるので、それを使った“糖尿病向け”ヨーグルト製造は明らかに可能性がある。

 

7その他の成分の添加

乳ベースの準備中に、ある特定の目的を達成するために乳にその他の成分を添加するヨーグルト製造者がいる。その添加物の例は以下の通りである。

7.1 ペニシリナーゼ

乳牛の乳房炎の治療のための抗生物質の乳房内への注入は広く行われており、乳中のこのような成分はS.サーモフィルスとL.ブルガリクスの増殖を抑制する(第6章参照)。抗微生物薬の構造、作用機序、その他の生物化学活性に関連するデータはWilliamsら(1996)、Prattら(2000)によって確認されている。乳中のこのような抑制成分の濃度を制限するために様々な国で法規制が導入されているが、許可された量でもヨーグルトスターターカルチャーの活性を低下させる。その結果、様々な抗生物質を不活性化するための方法が考案され、ペニシリンで特筆すべき成功を得ることができた。ペニシリンの不活性化はペニシリナーゼ(β-ラクタマーゼ,EC3.5.2.6)によって酵素的に行われ、これはBacillus種の異なるカルチャーからのろ過液に含まれている。このような調整剤のひとつがBacto-Penaseという名前で市販されている。ラクタマーゼは環状アミド、すなわちペニシリン中のβ-ラクタムを加水分解する特徴を持つため、抗生物質的に効果のない成分を産生する。ペニシリンの構造とβ-ラクタマーゼの中和作用を図2.10に図示した。

 ペニシリナーゼ調整剤は化学的もしくは微生物学的手法で評価できる。前者の技術による結果はLevy単位(LU)またはKersey 動的単位(KKU)で表される。一方、微生物学的手法は不活性化されるペニシリンの“数(ユニット)”で測定される。例えば、Bacto-Pense1mlは潜在的に2000LU、200000KKUであり、1000000ユニットのペニシリンGを不活性化できる。;濃縮Bact-Penseは標準的なペニシリナーゼ調整剤の10倍の活性を持つ。

 商業的な利用では、ペニシリナーゼは他の原材料と一緒に乳に添加され、室温で添加することが推奨されている;高温、例えば、ヨーグルト乳の加熱処理で用いられる温度はペニシリナーゼを不活性化する。しかし、ペニシリナーゼはペニシリンに対してのみ効果を発揮することとペニシリンに汚染されたことが確認されている乳(確認するのは難しいが)にのみ添加すべきであることについて書き留めることは重要である。そのため、ヨーグルト乳への日常的な添加は長期的に見ると不経済かもしれない。特に英国では乳房炎に使用される抗生物質の60%はペニシリンではない。

 乳中のペニシリン含量を不活性化する別の手法が英国とポーランドで研究されており、これらの国ではヨーグルト乳をMicrococcus spp.の選択株で処理している(Reiterら.,1961;Czarnocka-Roczniakowa and Maciejska, 1985)。

 その他の研究では、Microcucus spp.と乳酸菌を同時に接種し、後者の微生物は約0.3IUml-1という低濃度のペニシリン存在下で増殖することができた(MAciejska and Czarnocka-Roczniakowa, 1985, 1989)。しかし、Hanwayら(2005)は全乳にペニシリンGを混ぜ、過酸化水素を使用して(例.0.34%濃度)加熱したところ米国食品医薬品局(FDA)基準以下の濃度まで抗生物質を不活性化できた。

 様々な分析技術(免疫化学スクリーニング検定、質量分析法によって紫外線検出される液体クロマトグラフィー、様々なイオン化技術)が乳中の残留異物の検出(例.クロラムフェニコール グルコルニド、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロテトラサイクリン、ceftiofur、アベルメクチン、モキシデクチン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、コリスチン)に用いられていることがHonkannen-Buzalski and Suhren(1999), Bluthgen and Heeschen(1999), Fergusonら(2005), Andersenら(2005), Makeswaranら(2005), Turnipseedら(2005), Gaudinら(2005), Suhren and Knappstein(2005)によって報告されている。このような成分の除去は難しいが、加熱処理や冷蔵保存の効果が乳中のsuphamethazine(SMZ)の安定性に関するPappnagiotouら(2005)の研究によって確認されている。彼らは次のように報告している:(a)乳のパスチャライズ殺菌はSMZ濃度に影響を与えなかったが、煮沸とオートクレーブ殺菌によってその濃度が低下した:SMZは乳たんぱく質と結合するので、このような濃度の低下はたんぱく質の変性によるものだと考えられる、(b)SMZ濃度は少なくとも3、5ヶ月の間、乳中で-20℃、-70℃で維持されていた。

 7.7 保存料

食品業界では様々なタイプの保存料が使用されており、その中にはフルーツの加工も含まれており、保存料は酵母やカビの増殖抑制因子として効果を発揮する(Restanoら, 1982; Eklund, 1983; Andres, 1985)。このようなフルーツをヨーグルトに添加した結果、安定剤のキャリオーバーが起きるため、英国では、例えば、SI(1995)がフルーツヨーグルトで使用が認められている(ただし、プレーンヨーグルトでは認められていない)保存料に関する一般的な情報を提供している。似たような手法がFAO/WHO(1990 )でも取られており、ヨーグルトへの使用が許可されたフルーツ調整物由来の安定剤はソルビン酸(Na-、K-、Ca-塩)、二酸化硫黄、安息香酸であり、最終製品の最大許容濃度は50mg/kgである(単体または複合)(FAO/WHO、1990)。

 保存料がフルーツヨーグルトで使用を認められているという観点から、一部の製造者は製品の保存品質延長を期待して乳ベースに1種類の保存料(二酸化硫黄、ソルビン酸、安息香酸、安息香酸エステル、エチル、メチル、プロピル、パラオキシ安息香酸など)を強化する傾向がある。しかしこの方法では最終製品が市場の法的基準に合致しない可能性があることや、乳中のこのような成分の存在がスターターカルチャーの増殖に影響を及ぼす可能性があることから推奨できない。このような規則の例外となり、乳業(チーズ、チーズ製品)で幅広く使用されている保存料にソルビン酸がある。

 この成分は酸の状態(CH3.CHCH。CH-CH.COOH)、またはカリウム、ナトリウム塩の形態で市販されている。これらの塩は酸よりも広く使われており、その抗真菌活性は塩が遊離酸を産生するためにイオン化される低pH(<6.5)で発揮される(Anon, 1974,1981b)。ソルビン酸Na、ソルビン酸Kの抑制力がソルビン酸の示すそれのわずか75%であることも触れておくべきである。例えば:

 

 0.13g/100g ソルビン酸NaもしくはK≅0.1g/100gもしくは1000μg/g ソルビン酸

 

ソルビン酸は静菌剤であり、製品中の酵母やかびの数を減らすわけではなく、その活性を抑制するだけである。これはおそらく菌の脱水素酵素系を干渉するためである。 ヨーグルトスターターカルチャーの活性に及ぼすソルビン酸Kの効果についてはHamdanら(1971)によって研究されており、彼らは菌の増殖、酸生成、アセトアルデヒド産生が低下すると報告している。ソルビン酸Kの添加率は0.05と0.1g/100gであり、これはそれぞれ遊離ソルビン酸の375、750μg/gに相当する。3つの異なる市販スターターカルチャーによる酸生成率を表2.13に示した。 濃度が下がると、その抑制効果によって加工時間が1時間遅れた。

 Obentrautら(1982、1984)はオーストリアでそれぞれ安息香酸14-16μg/g、10-19μg/gを含む静置ヨーグルト72種類、撹拌ヨーグルト92種類のサンプルについて報告している。日本では、安息香酸含量が190、282μg/g(フレッシュヨーグルト中では約26、39μg/gの安息香酸エステルに相当)の2種類の乾燥ヨーグルトとソルビン酸233μg/g含む(フレッシュヨーグルト中では約32μg/gに相当)乾燥ヨーグルト1種類があった(Arimotoら,1987; Serrano1991; Kucukcetinらも参照)。

 トルコでは、ソルビン酸を0.06g/100g含むアイラン(発酵乳飲料)の賞味期限が冷蔵保存で70日まで延長した(Oysun, 1988)。異なる添加率で安息香酸Naとソルビン酸Kを使用したところヨーグルトの品質保持期間が延長し、官能特性への作用も最小限だったが、一部で保存期間終了時にスターターカルチャーの数が減ったことも記しておく(Sanyalら,1990; Rajmohan and Prasad, 1994; Souadら, 1994)。しかし、Pazら(2002)はゼラチン(0.25g/100g)と一緒にソルビン酸Kを使用(0.03/100g)したところスターターカルチャー(B3もしくはB3とRRの混合物)に影響を与えず、出来たヨーグルトも4-6℃で30日間保存後に生菌数が8H108cfu/ml確認される高品質のヨーグルトだった。Sieberら(1995)とHorakら(1997)によるレビューでは発酵乳製品とチーズ中の天然に生じる保存料としての安息香酸の最先端の視点を取り上げており、その形成の代謝経路を示している。

 ヨーグルトの保存品質を延長する代替手法がニシンの添加であり、これはラクトコッカスラクティスsubsp.ラクティスのある菌株によって産生される天然のバクテリオシンである。S.サーモフィルスとL.ブルガリクスの感受性については多くの研究者によって研究されている。ニシン100-200RU/ml含む乳でヨーグルト菌の最大抑制効果が起きると結論づけてよいだろう(Naguibら,1985a; Lee and Kin, 1985a,b; Gupta and Prasad, 1988, 1989a-c; Kebary and Kamaly, 1991)。しかし、Bossiら(1989)はS.サーモフィルスはニシン(最大5RU/mlまで)に対して感受性がないのに対して、L.ブルガリクスは同じ濃度で抑制された。この結果からこのようなラクトバチルス属の菌株に感受性があることが示唆される。ニシン産生菌(1000IU/ml)がインドにおいてダヒの製造に使用されたが、このバクテリオシンは保存期間中の酵母とカビの増殖を抑制しなかった(Rajmohan and Prasad, 1995a,b)。

 Kumarら(1998)はスターターカルチャーとしてLF-40とB.ビフィダムで製造した健康促進系のダヒにニシン(25RU/ml)を培養期間後に添加した。ニシンを含む製品を15℃で35日間保存して、この研究者は以下の通り報告した(a)保存期間中の後酸性化(postacidification)が低減した(b)カルチャー細菌叢によるたんぱく質分解活性と揮発成分の産生量が高くなった(c)官能スコアは15℃保存5日後に最高値となり、その後低下した;ニシンを添加していないサンプルではより早くスコアが低下した(d)病原菌に対するニシンを含む製品の拮抗活性は15℃25日以上ダヒを保存した後も維持されていた(MinMinら, 2004も参照)。噴霧乾燥ラクティシン3174(バクテリオシンの一種)パウダーをヨーグルトに添加したところモデル実験でのListeria monocytogeneseとBacillus cereusの細菌数が低下し、この手法は発酵乳製品の病原菌、腐敗菌の制御にも適用できた(Morganら, 2001)。しかし、あるヨーグルト菌株は製品製造中に馬尿酸を安息香酸に変換でき、このような菌株の使用はヨーグルトの賞味期限の延長を助ける(Hejtmankovaら, 2000)。別の成分(ProPis)をヨーグルトに0.1ml/100mlの比率で添加したところ酵母の増殖を抑制し、品質に影響を与えることなく製品の賞味期限が延長した;この成分は化学保存料の使用を置き換えることができる(Yi Yang, 2005)。

 次の数年で重要になると思われるヨーグルト向けの保存料はナタマイシンで、しばしばプリマリシンとも呼ばれる。これはStreptomuces natalensis由来のポリエン抗生物質である。これは、今の文脈でいうと、以下の機能を提供する。

●酵母とカビに対して殺菌採用があり、ソルビン酸のように単にその増殖を抑制するものではない。

●スターターカルチャー菌には影響を与えない。

●95℃7-10分の加熱前にヨーグルト乳に添加しても保持されるだけの耐熱性がある。

●pH4.0で2-3週間保持できるだけの酸安定性をもつ。

Delvocid(Gist-Broacades、Delft、オランダ)は市販の防カビ剤であり、グラム当たり500mgのナタマイシンを含む。10-20mg/kgのナタマイシンが4週間までのヨーグルトの微生物腐敗を抑制するのに効果的であることが確認されている。また発酵工程または乳酸菌の生存度に影響を与えないことも確認されている(Robinson、非公表データ;Varら2004も参照)。

 ソルビン酸と同様に、ナタマイシンの最適活性は酸性の範囲にあるが、この範囲外のソルビン酸カリウムの活性が制限されるのに対し、ナタマイシンの活性はpHに依存して低下する。ナタマイシンの活性はエルゴステロール(酵母やカビの細胞壁膜の成分)との反応に基づいている。この反応によって、細胞膜は破壊され、細胞内液と塩が漏出し、細胞死が起こる。細菌はその細胞壁膜中にこのようなステロール様の成分を含んでいないため、ナタマイシンは抗細菌活性を持たない。

 現在、ナタマイシンはチーズの皮(リンド)のカビの増殖を防ぐことを目的に法的に使用できるが、ヨーグルトへの使用は規制の承認を得ていない。しかし、この状況は改善されるかもしれない。Floyerら(1991)はナタマイシンはたとえ500mg/kg/日の比率で摂取してもヒト腸管から吸収されず1000mg/kg/日の摂取でも吐き気と下痢の症状のみが現れると発表しているからである。ラットにおけるナタマイシンの経口摂取のLD50は1500mg/kg体重である。1日推奨摂取量(RDI)がわずか0.3mg/kgである(FAO/WHO,1990)ことは明らかに重要であるが、なぜこの数字がこれほど保守的なのかの理由は明らかではない。にもかかわらず、この数字は70kgの男性(11Stone)が1日当たり20mg以上のナタマイシンを摂取すべきではないということのみを示唆しており、ヨーグルトに適用される含有率は15mg/kgであり、ほとんどの消費者はRDIの推奨量を超過しないものと思われる。

 ヨーグルト製造に使用されるその他の保存料には以下のものがある。(a)硝酸カリウム:LactococciとStreptococciの増殖を抑制する(Naguibら, 1985b)、(b)硝酸、亜硝酸:ヨーグルトの酸生成と粘度を低下させる(Baranovaら, 1996, 1997; Steinka and Przybylowski, 1997も参照)、(c)リゾチーム:ラクトバチルス属の増殖を抑制するが、S.サーモフィルスは抑制しない(Kontova and Prekoppova, 1990)、(d)MicrogardTM:0.5g~10g/100gの濃度でヨーグルト中の酵母やカビの増殖を抑制できる(Weber and Broich, 1986; Salih and Sandine, 1990)。しかし、いくつかの例では実験室レベルで発ガン活性を示すエチルカーバメイトが発酵の結果もしくはジエチルピロカルボン酸の変換反応の結果としてヨーグルト中に存在している可能性があり、その濃度は<0.1と4.3μg/kgの範囲であると報告されている(Canasら, 1989; Hasegawaら, 1990; Senら, 1993)。ヨーグルト中のこのレベルのジエチルピロカルボン酸は消費者の健康にリスクを及ぼさない。

 このような保存料は全て粉末の形態で入手できるので、他の乾燥原料と一緒にヨーグルト乳に添加される。;乳の加熱処理はその安定性に影響を与えない。しかし、保存料から最大の効果を得るためには、ヨーグルトは高品質でなければならず、その使用が本当に正当化されるかどうかは議論の余地がある。

 7.3 ミネラル、ビタミン、脂肪酸

フッ化

Assali and White(1985)はヨーグルト乳のフッ化(例.4μg/g)について調査し、コントロールとの有意差がないことを確認した。Frank and Christen(1985)は乳酸菌の増殖はフッ化ナトリウムを添加した乳で有意な影響を受けなかったと報告している。このようなアプローチはヨーグルトを含む乳製品が水のフッ化が実践されていない地域において子供に添加フッ化物を供給する“乗り物”として使用できることを意味している。しかし、ヨーグルト製造者はフッ化の問題が極端に賛否を生む問題てあることを認識するようにアドバイスされるだろう。歯磨き粉による局所的なフッ化物の利用にはほとんどの人が抵抗を感じない一方、飲用水やヨーグルトのような食品からの摂取は状況次第では健康に有害となる。例えば、歯の深刻な変色や骨格の損傷がガイドラインで認められている容量以下のフッ化物の摂取でも報告されており、ヨーグルトの持つ健康的なイメージを考えると、もし製品のパブリックイメージが世の中に流行している不安材料によって損なわれるなら、それは最も望ましくないことである。

脂肪酸

 カプロン酸もしくはパルミチン酸を0.01g/100gの比率で添加したところパスチャライズ殺菌乳、均質化乳でオフフレーバーは検出されなかった(Pantuluら, 1993)。乳牛の飼料の修正またはヨーグルト乳への大豆油の添加はスターターカルチャーの活性に影響を及ぼさなかったということも明記しておく(Zbikowskiら, 1982)。サラダ油ヨーグルトの製造はその詳細について第5章で議論されている。

ビタミン

ヨーグルトへのビタミン強化は子供をターゲットにしており、このような製品は一部の国で市販されている(Anon, 1983a)。ヨーグルト中のビタミンA、Cの安定性はIlic and Ashoor(1988), Fiedlerovaら(1993), Nohら(1995)によって評価されている。どちらのビタミンも保存期間中に減っていく。ビタミンAの効果(低下)はβ‐カロチンの水混和性のBeadletsを使用することで最小化された(Parkerら, 1992)。イタリアでは、ビタミンAとEが“伝統的な”ヨーグルトやL.アシドフィルスを添加した類似製品の強化に使用されているが、このヨーグルトの機能訴求について消費者に尋ねても、全く関心を持たれていないことが分かる(Saba and Rosati, 2002)。

低ナトリウム

低ナトリウムヨーグルトはその栄養学的特性から生理学的機能食品としての重要度が増してきている。強酸樹脂を含む陽イオン交換ユニットで乳ベースを処理する(Nakazawaら, 1990)。低ナトリウム乳から製造されるヨーグルトの品質はコントロールと類似しており、低下したナトリウム濃度はスターターカルチャーの活性に影響を及ぼさなかった。しかし、ナトリウムとカリウム含量は乳と比較したときに次のようにそれぞれ低下、増加した。540から63μg/g、1530から2360μg/g。このアプローチのその他の発酵乳製品への応用例についてはPetck(1987)によってレビューされている。

修正ミネラル含量

ヨーグルトのミネラル含量の修正は多くの研究者によって報告されている。いくつかの例では乳ベースにおいて以下の処理が含まれる

●カルシウム含量を50%低下し、マグネシウムを1g/gまで高める(Pechery, 1985; Szanto and Papp, 1999も参照)

●乳を発酵するために鉄のタンクを使用することによって(Coutsoucos and Colli, 1995; Szanto and Papp, 1999参照)、乳ベースに鉄を添加することによって(Hekmat and McMahon, 1997)、もしくは鉄とビタミンVのマイクロカプセルを加えることによって(Kimら, 2003)、ヨーグルトの鉄含量を高める。

●グルコン酸カルシウム(Flingerら, 1988; Hansen and Flinger, 1996)またはUF乳のリテンテート(補足物)から調整したリン酸カルシウム(El-Garawany, 2004)によってヨーグルトのカルシウム含量を高める;後者の研究者は乳ベースへのカルシウムの強化(90mg/100ml)によって素晴らしく受容できるヨーグルトが出来たと結論している。

●カルシウム強化した乳ではS.サーモフィルスの増殖が低下するが、接種量を増やすと、酸生成率は回復する(Yousef and Rusli, 1995)。

●乳の発酵によって以下の効果が引き起こされる:(a)鉄と亜鉛の利用効率を高め、最も高い鉄利用効率はアスコルビン酸を添加した製品で確認された、(b)アスコルビン酸の酸化は最低限であるが、硫化鉄とビス-グリシン酸鉄を強化した製品ではそれぞれ50%、30%分解した。(c)アスコルビン酸の添加によって亜鉛とカルシウムの利用効率は変化しなかった(Drago and Valencia, 2002)

●多くの鉄成分が乳製品、食品の強化に使用されており、Junejaら(2004)は超分散ピロリン酸鉄(SDFe)が乳および食品での利用においてもっともよい鉄利用効率をもち、安全性、使用の簡便さも優れていると結論している(Akahoshiら, 2004も参照)。

●焼いた無脂肪の小麦胚芽を乳ベースに添加するとヨーグルト中のCa、Mg、Zn、Fe、リンといったミネラルの含量が増える;小麦胚芽を焼くと製品中の粉末臭が低下し、フルーツを添加するとさらにこの風味がマスキングされる(Ayarら, 2005)。別のアプローチは栄養特性を改善するために乳ベースに食物繊維やカルシウムを強化することである(Aportela-Palaciosら、2005)。Singhら(2005)は乳に50mg/100mlの比率でカルシウム塩(塩酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム)を使用したときにダヒの硬度が低下し、低下の度合いは使用したカルシウム塩の種類に影響を受けたと報告している。しかし、Nancibら(1999)はdete-seed加水分解物をミネラル源として使用し、S.サーモフィルスの増殖と乳酸生成が高まった。

その他の添加物もしくは処理

人工ごま油乳剤(エマルション)は強酸の胃酸または胆汁酸の(摸擬)条件に晒したとき菌の生存性を保護するためにヨーグルト菌をカプセルに包むのに効率的に使用される(Houら, 2003; Mooreら, 2000も参照)。一方、ヨーグルト製造中のごまバターの乳への強化によってスターターカルチャーの増殖が加速し、保存期間中の生存率にも影響を与えなかった。;安定剤の添加は弱いボディを改善し、離水を減らすために推奨されている(Rosenthalら, 2001)。魚油、サラダ油がヨーグルトの製造に使用できる(Camejoら,2001; Burnsら, 2000と第2章4.8と第5章も参照)。水素添加大豆レシチンはレシチンに関連するオフフレーバーを出さずに発酵乳製品に使用できた(Suriyaphanら, 2001a,b)。

 他で言及したように、野菜がフレーバーヨーグルトに使用されている(Lozanovaら, 2000; MingJuら, 2001; Gornaら, 2002)。植物由来の原料(オーツ麦から調整された基質、発芽したマメ科の植物、Chlorella spp.やScenedesmusといった藻類)が発酵乳の調整に使用されており(Grozova and Tchorbanov, 2002)、乳やホエイへのビールやトマトジュースの添加によってヨーグルト菌の増殖が刺激された(LanWeiら,1999)。Spirulina platensisの微細藻類バイオマスがヨーグルトスターターカルチャーとプロバイオティクスの細菌叢の増殖を刺激することが確認されている(Paradaら, 1998; Vargaら, 1999, 2002)。最近では高品質の撹拌式ヨーグルトが大豆たんぱく質とS.platensisを(XiuLan and XiangZhong, 1999)または藻のみ(Varga and Szigti, 1998; Sprigerら, 1998)を強化した乳ベースによって製造できた。中国では、Schisandra chinesisと液糖(9g/100g)を乳に加えてヨーグルトを製造し、その製品はその液体(ジュース)の名前で呼ばれた(HaiZhiら, 2004; KyungHyunら, 2004a,b)。Pueraria radixをヨーグルト製造用の乳に添加したところ製品の品質に影響を与えずに、保存期間中の後酸性化(ポストアシディフィケーション)のレベルも低下した(CuiHuanら, 2005)。

 韓国では、Lycii fructus,Lycii folium、Lycii cortexの乾燥原料、抽出物がヨーグルト製造に使用されている;L.fructus由来の添加物(乾燥物または抽出物)は官能パネルによって高い評価が得られ、添加率が上がるにしたがって、製品のスターターカルチャーの微生物活性、粘度、乳糖加水分解率がその他の添加物と比較して高くなった(ImShikら, 2004; Baeら, 2005)。韓国では、ビワ抽出物(Eribotrya japonica)を脱脂乳に10ml/100mlの比率で混ぜたところS.サーモフィルスとL.アシドフィルスの混合カルチャーの増殖が高まった(JinKyoungら, 2005)。発酵米のろ液をヨーグルト様製品の製造に使用したが、この添加物は製品のにおい、組織、硬度に影響を与えた(YiChungら, 2002)。

 Moktong and Jimoなどある種のハーブの薬理作用はプロバイオティクス(ABT-4とABT-D)を加えたヨーグルトの製造にも活用されている。;このハーブを<1g/100gの濃度で添加したときビフィズス菌の増殖が高まった(Limら, 2002)。乳ベースに2mg/100mlの比率でハーブ抽出物(Sambucus nigra、Matricaria chamomilla、Rosa canina、Hypericum perforatum)を使用したところスターターカルチャー活性は高まり、保存期間中の酸生成が抑えられた。また後者の2つのハーブはヨーグルト中のカビの増殖を抑制した(Anon, 2001a)。さらに、その他の薬理的ハーブ抽出物がプロバイオティクヨーグルトに使用されており、そのABT-4とABT-Dカルチャーに対する効果はLimら(1999)によって報告されている。ヨーグルトにさまざまなハーブを使用した同様の観察はEl-Nawawyら(1998)とBakirici(1999)によって報告されている。良質のアロエベラヨーグルトはクエン酸とNa2SO4で安定化した植物汁(XiaoMinら, 2001)または植物穀物から作られる(XiaoMinら, 2003)。;どちらのヨーグルトも、ヨーグルト製造前にスクロース(8g/100g)を乳ベースに添加している。

2.8 均質化

均質化はまさしく文字通り、油/脂肪と水のような2つの非混和性液間の均質なエマルションを提供することを意味する。乳製品に存在しうるエマルションのタイプは以下の2つに分類される:

●水中油膜型エマルション:油の小滴が液相中に分散している-均質化した乳製品の大多数はこのカテゴリーに分類される。

●油中水膜型エマルション:水滴が油相中に分散している-代表例としてバターがある。

ヨーグルト乳は典型的な水中油膜型のエマルションであり、結果として、脂肪は立った状態で分離する傾向がある(特に培養期間中の発酵タンク内で)。これを防ぐために、乳ベースを高速混合もしくは均質化処理する。つまり、高圧下で乳を小さな穴(オリフィス)またはアニュラスに押し出す。表2.14にヨーグルト製造に対するこの工程の総合的な関連性をまとめた。しかし、この一般的な効果は特定の乳成分に対する均質化の影響を反映したものである。

2.8 乳成分に対する効果

乳中の脂肪球の直径は1~10μmの範囲であり、平均は約3.5μmである。この脂肪球サイズの変化は乳の化学組成に影響を与える同じ要因に直接的に依存する(牛の飼育状態、乳の分泌時期、牛の年齢と健康状態、飼料の種類など)。均質化の効果は脂肪球の平均直径を<2μmに減らすこと(図2.11参照)、クラスターの形成と脂肪が表面に浮上する傾向を抑制すること、カゼインミセルとサブミセルの吸着による凝集と選択的浮力を低下させることである。

 乳中のたんぱく質(カゼインとホエイ/血清タンパク質)は以下の変化のひとつか複数を受ける(a)いくつかの血清タンパク質の変性が起きる(b)カゼイン/ホエイたんぱく質の相互作用がホエイたんぱく質の変性と塩バランスの変化の結果として生じる(c)変性ホエイたんぱく質からスルフヒドリル成分の産生が確認される。その他の乳成分の効果や変化は表2.14で記録されており、均質化によるこれらの望ましい効果はある工程条件が確認されてのみ達成できる。つまり:

●工程ミックス中の脂肪が適切な濃度であること

●適切な均質圧

●適切な均質温度

 様々な哺乳類の全脂肪乳を加工する前に、主な乳成分、つまり、たんぱく質(β-ラクトグロブリン(β-Lg)、α-ラクトアルブミン(α-La)とカゼイン)、脂肪および乳糖の間に相互作用はない(Walstra and Jnness, 1984)。生乳の脂肪成分はたんぱく質、脂質、リン脂質で作られた膜内でカプセル化されている(Mulder and Walstra, 1974)。熱誘発、高圧誘発工程は乳脂肪球の化学的および物理的変化を引き起こす。化学変化には残留脂肪酸も含まれるが、均質化と加熱処理の効果によって乳成分間で複雑な相互作用が起こる。Mulder and Walstra(1974)、van Vilet and Dentener-Kirkkert(1982), Dalgleish and Sharma(1993), Sharma and Dalgleish(1994), McCrae and Muir(1991), McCrae(1994), McCraeら, Tomasら(1994), van Boekel and Walstra(1995), Dalgleishら(1996), Sharmaら(1996), Walstra(1998) ,Lee and Sherbon(2002)は多くの乳製品の品質に対するこのような物理的変化の効果についてレビューしている。加熱処理前の均質化で起こると考えられる変化は以下の通りである:

●脂肪球を壊してサブ⁻ミクロン範囲の粒子サイズにする

●一部のカゼインミセルが壊れ新たに形成された脂肪球と結合して安定化する

●血清たんぱく質の役割は相対的に小さいが、その一部は熱処理がなくても脂肪球と相互作用する

●均質化乳の脂肪粒子はもともとの脂肪球とは異なる構造をしているため、酵素や熱による乳の凝固において異なる特性を持っている;この酵素とはチーズ製造に関連するものである。

しかし、乳を加熱したとき、(均質化によって)引き起こされた相互作用はより有用(詳細は2.9章参照)になり、これは以下のように要約される:

●α-Laとβ-Lgの変性が起き、次に主にβ-Lg ホエイ/血清タンパク質の相互作用が起こる。

●β-Lgが不対スルフヒドリル(SH)基の存在によって変性後により反応性が高まる

●変性β-Lgの考えられる反応には他のβ-Lgとの相互作用、カゼインミセル表面におけるκ-カゼインとの相互作用、脂肪球膜との相互作用などがあり、その結果、脂肪結合たんぱく質の量はおよそ2倍になる

すなわち均質化乳の70℃以上の加熱は結果的に新しい構造を形成し、それは主に変性ホエイ/血清タンパク質からなり、さらに以下のような反応を受ける:

●その他の変性β-Lgと相互作用しゲルを形成する

●懸濁液中のミセル表面でκ-カゼインと相互作用する

●脂肪球に吸着したκ-カゼインと相互作用する

●残りの脂肪球膜と相互作用する

●脂肪球表面に吸着する、すなわち、吸着カゼインと置き換わる

8.2 加工処理の側面

脂肪を高濃度含む製品(クリームなど)では一段式、二段式の均質化設備(ホモゲナイゼーション)の使用のみが重要であり、クリーム中の脂肪は最凝集する傾向があるため、二段式の均質化設備が推奨される。しかし、ヨーグルト乳は通常一段式のホモゲナイザーによって約65-70℃、15-20MPaの圧力で処理される(Schkodaら, 2001a,b)。30MPaまで圧力を上げる例も報告されているが、実際には広く利用されていない。Kebary and Morris(1989)は再構成(還元)乳の脂肪球の分布と脂肪の凝集に対する均質化処理の効果(2段式で27.6+3.5MPa)について調査し、この効果は均質加圧と脂肪含量が高くなることで上昇した。Tamime and Marshall(1997)のレビューによると、ヨーグルト乳の均質化効果と製造された製品の品質は以下の通りであった: 

●脂肪表面積は増加し、脂肪球の大きさは低下し、膜の構成は変化する

●部分的に、脂肪表面は界面活性物質、主にたんぱく質で覆われている

●均質化の乱流効果は血清たんぱく質(5%)のカゼインミセルの吸着を促進し、脂肪球表面積の25%を覆う

●再構成した(均質化処理した乳脂肪を脱脂乳に加える)場合、脂肪球膜は血清たんぱく質のみで構成される

●均質化された脂肪球は大きなカゼインミセルとしてふるまい(膜が主にカゼインから構成されるため)、効果的なカゼイン濃度を増やすため、酸降下のようなカゼイン反応に関与する。

●小さい脂肪球の数が増えることで、光を反射する乳の能力が高まり、結果的に、発酵乳はより白く見える

●離水(静置タイプの発酵乳の表面上に遊離ホエイが染み出る)のリスクは低下し、最終製品の硬度は増し、口当たりが良くなる。

 いくつかの例で、ヨーグルト乳の均質化は乳ベースの加熱処理の後に行うが、このアプローチはもし高い衛生基準を確認していない、または無菌の均質機を使用していない場合にはコンタミネーションのリスクが伴う。Kulkarniら(1990c、d)はクリームヨーグルト(10g脂肪/100g)の製造にWPC30%(全固形分約25g/100g)を使用したとき、以下の加工処理を推奨している:(a)脱脂粉乳を2%添加することで製品の品質を改善する(b)β-Lgを70%変性させるために乳を95℃、22秒間加熱する(b)最後に75℃20MPa圧で均質化処理する。しかし、他のレポートで、Plockら(1992)とHuss and Kessler(1991)は様々な工程パラメーター(カゼイン:ホエイ比、5~30MPaの圧力条件での一段式の均質化処理、95℃80秒の加熱処理前後の何回にもわたる乳ベースの均質化など)を評価し、ヨーグルトの最大ゲル硬度と水和力は加熱処理後25MPa以下での均質化によって達成されると結論している。加熱処理後の乳の均質化が製品品質に有益かどうかについては、もちろん更なる検証が必要である。全固形分16%(真空蒸発)の牛乳バッチを2つに分けて、一つは加熱前にもう一つは加熱後に均質化したが、組織(静置ヨーグルト)と粘度(攪拌式ヨーグルト)は同一だった(Robinson、非公表データ)。おそらく強化の方法や正確な温度管理は重要だが、この状況については明らかにさらなる説明が必要である。Ozer(非公表データ)は牛乳と羊乳で同様のパターンを確認しているが、加熱処理後の均質化は山羊乳ヨーグルトの組織特性を改善しなかった。乳の均質化に伴って報告されているヨーグルトの粘度改善は主に以下の要因によるものである:

●乳たんぱく質の水和力の変化、これは離水を減らす傾向がある(Grigorov, 1966a; Kessler and Kammerlehner, 1982; Kneifel and Seiler, 1993; Schkodaら, 2001a,b)

●乳脂肪球膜を構成する成分量(脱脂相のリン脂質やたんぱく質)の増加、これも凝集物の水和力を改善する可能性がある(Samuelsson and Christiansen, 1978)

●均質化圧(0-15MPa)の上昇によって増加する乳の酸性化率(Volkova and Radulov, 1986)

●バイオヨーグルトのカード張力はSNF含量(18g/100g)と2段式均質化処理(14.6と3.5MPa圧)によって有意(P=0.01)に影響を受ける。一方、脂肪含量(4.5g/100g)もカードの特徴に影響を与える(P=0.05) ;しかし、90℃での加熱乳の保持時間は効果を与えなかった(Asgar and Thompkinson, 1994)。;

●ヨーグルトの物理的特性の改善はUF処理乳、100、120℃の間で4秒または16秒の乳の加熱、乳加熱後の55℃2段式均質化処理によって行われる(Savello and Dargan, 1995);

●ヨーグルト乳の0、10.3、34.5MPaでの均質化は離水と水和力のみ違いが認められた(Schmidt and Bledsoe, 1995)。

さらに、乳ベースの均質化の際に採用された加工条件(温度と圧力)は変化の程度に影響を及ぼす(Misra,1992)。Storgards(1964)は乳を加熱せずに徐々に圧力を上げる(約5~30MPa)ことによって酸乳の粘度を上げた;同様の傾向は熱処理をした乳でも報告されている(図2.12)。この効果は以前Galesloot(1958)によって報告されており、その結果の概要を表2.15に示している。Abrahamsen and Holmen(1981)は均質化乳、非均質化乳から製造した山羊乳ヨーグルトの品質について研究を行い、次のように結論した:

●山羊乳の均質化処理はヨーグルト製造に必須である(図2.13)。

●14日間保存後、静置ヨーグルトの硬度の低下が報告され、もっともよい結果は山羊乳をUF濃縮したときに得られた;

●山羊乳ヨーグルトは山羊乳のたんぱく質含量が低いため、牛乳ヨーグルトと比べて粘度が低かった(Abrahamsen and Holmen, 1980, 1981)

同様の観察結果はMuir and Tamime(1993)によっても報告されている(成分強化していない均質化乳、非均質化乳で製造した羊乳の硬さに関する研究)。より詳細は第5章参照。

9 加熱処理

乳の沸騰など熱の利用は乳ベースの乳固形分濃度を上げる方法としてヨーグルト製造において長い間実践されているが、現在の文脈では、加熱処理の効果は大まかに次のようにまとめられる:

●病原菌とその他の望ましくない微生物の破壊と排除

●ヨーグルトスターターカルチャーの刺激/抑制因子の産生

●ヨーグルト製造に関連する乳成分の生理化学的特性の変化

 商業的な実践法として、乳の加熱は幅広い乳製品の製造でもっとも広く使用されている単位操作である。時間-温度の組み合わせは65℃以上(Thermisation)数秒から150℃数秒(超高温(UHT)殺菌)の範囲である。ヨーグルト製造用の乳はさまざまな温度で加熱されており、液体乳の加工を含む報告されている処理方法を表2.16にまとめている。ある特定の時間-温度の組み合わせの選択は因子の数に基づいているが、工場自らが課す制限がないと仮定すると、上述した内容が主要な検討事項となる。

 乳の加熱処理の研究は乳成分の熱による変化、乳の栄養特性の変化、酵素の不活性化(内因性、細菌由来)、乳製品の機能特性(例えばUHT乳、濃縮乳、粉乳の熱安定性)といった多くの側面に関連して広範囲に行われている(表2.17参照)。;さらに詳しく知りたい場合はFoxら(1989、1991、1995)によるレビューを勧める。ヨーグルトの製造中、70℃以上に加熱したとき、乳ベース中で起こる物理的、化学的変化は複雑で多機能である。ヨーグルトの機能的特性に関連する加熱処理の影響は以下のとおりである。

 

9.1 微生物/病原菌の破壊

ヨーグルト乳の85-95℃の加熱処理(表2.15)はすべてではないが、生乳に関連する微生物の栄養細胞の大半を殺すのに十分である(Glimour and Rowe, 1990; Chambers, 2002)。しかし、胞子形成菌や一部の熱安定型酵素は残留する。このような細菌の競争性の低下によって加熱処理乳がヨーグルトスターターカルチャーにとって良い成長培地を提供するが、それにもかかわらず生乳と乳ベースに使用する乾燥原料の細菌学的品質は非常に重要である。

 そのため、高濃度の好冷菌はβ-カゼインとαs-カゼインの両方(DeBeukellarら, 1977)と脂肪成分を破壊し、一方でカゼインの分解は弱い凝集物の形成とそれに続くホエイ離水を引き起こし、加水分解による酸敗臭は深刻なオフフレーバーを生じさせる(Cousin, 1977; Cousin and Marth, 1977a,b)。一部のPseudomonas spp.の酵素(ペプチド加水分解酵素とリパーゼ)は熱安定性があり、それらを不活性化するにはかなりの高熱処理(150℃)が必要となることも重要である(Mayerhferら, 1973; Kishonti, 1975; Adamら, 1975; Barachら, 1976, 1978; Hedlung, 1976; Adams and Brawley, 1981; Fairbairn and Law, 1986; Stead, 1986; McKellar, 1989; Driessen, 1989; Stepaniak and Sorhang, 1995)。

 生乳には内因性の酵素(c.60)が検出されており、これらの酵素の一部は熱に不安定である一方、乳のUHT処理でも生存するものもある。乳業におけるこれらの酵素の役割についてはFox(1991)とFarkye and Imafidon(1995)によって批判的にレビューされている。乳酵素の活性は哺乳類の乳房の疾患および生理学変化、乳に採用した加工条件、乳製品の風味や品質に影響に与える因子の有用な指標である。幸いなことに、これらの酵素の生存はヨーグルト産業において重要な問題として認識はされていない(Cogan, 1977)。

 

9.2 刺激/抑制因子の産生

乳の加熱の結果、乳スターターカルチャーの活性を刺激もしくは抑制する複数の因子が放出される。Greene and Jezeski(1957)は全体の現象を以下の通りまとめている:

●62℃30分、72℃40分の間で加熱処理した乳のスターターカルチャーの活性は刺激される

●72℃45分、82℃-10分から120分の間、もしくは90℃1-45分で加熱処理した乳のスターターカルチャーの活性は抑制される

●90℃60-180分の加熱、120℃15-30分のオートクレーブ殺菌した乳のスターターカルチャーの活性は刺激される

●オートクレーブ(120℃)によって30分以上加熱した乳のスターターカルチャーの活性は抑制される

 この明らかな刺激/抑制/刺激/抑制サイクルは血清またはホエイたんぱく質によるものであり、このサイクルは変性ホエイたんぱく質またはシステイン塩酸塩の添加で活性化される。異なる加熱処理に応じた、あるサイクルから別のサイクルへの移動は変性窒素成分の放出(0.15-0.20mgml-1の濃度)もしくはシステインの10から20μgml-1(の変化)をよく反映している。というのもシステインを人工的に加えた時にスルフヒドリル基が熱処理によって利用されやすくなるためである。:システインは生乳やローヒート乳では刺激因子となるが、ハイヒート乳では同じ濃度でも抑制因子となる。この考えをさらに押し進めて、同じ研究者は刺激/抑制サイクルについて以下の説明を行っている。

●最初の刺激は表2.1でリスト化した多数の因子によるものである。

●システイン、グルタチオン、チオグリコレートの放出と酸素の排出の結果、刺激作用が発揮される。

●抑制は乳中のシステイン濃度が過剰になるためであり、このとき同時に毒性の揮発性硫化物の濃度が上昇する。

2番目の刺激サイクルは毒性硫化物濃度の低下によりものであり、これはさらなる加熱の結果もしくはおそらくはギ酸の形成によるものである。

結論として、Greene and Jezeski(1957a-c)はハイヒート粉の使用を推奨したが、このような見解は現在では以下の視点から受容されないかもしれない:(a)粉乳製造技術の発達、(b)スターターカルチャー株の選択方法の改善。しかし、更なる詳細については2.4.2章を参照してほしい。

 Dutaら(1973)はS.サーモフィルス、L.ブルガリクスを含む乳酸菌の様々な株による酸やフレーバー産生に対する様々な加熱処理の効果について検証した。その結果の概要は表2.18にまとめている。全体的に加熱処理(の程度)はヨーグルトスターターカルチャーの活性にかなりの影響を及ぼすが、その振舞いの理由については議論されていない。;しかし、ある乳成分(表2.17)の変化がスターターカルチャー活性で確認される変化を促進しているというのがもっとも考えうる原因である。

9.3 乳の物理化学的変化

新鮮な液体乳は約87g/100gの水と13g/100gの全固形分から構成されており、標準化ままたは成分強化したヨーグルト乳の組成はわずかに変化し、水84-86g/100g、全固形分14-16g/100gとなる。あるデータから乳の組成はシンプルだが、一方で乳はとても複雑な構造(図2.2)を持っていることが明らかになっている(その成分が主に水、炭水化物、脂肪、たんぱく質、ミネラルであるにも関わらず)。このような様々な構成要素は2つのコロイド系、つまり脂肪球とその膜(図2.11)およびカゼインミセル複合体の間で分散していることがわかっている。一般的にどちらのコロイド系も熱に安定であり、これらに及ぼす加熱処理の効果とヨーグルト製造への関連性については表2.17にまとめた。このデータからヨーグルト乳は加熱処理中にいくつかの変化を起こしていることが分かる。

たんぱく質に対する効果

牛乳中のたんぱく質に関する詳細な研究がCheeseman(1975)、Whitneyら(1976), Eigelら(1984), Banks and Dalgleish(1990), Walstra(1990), Dalgelish(1990a), Farrellら(1990)、Creamer(1991), Jakob(1994), Fox and Flynn(1994), Holt and Horne(1996), Harte and Chobert(1999), Sawyerら(2002), Fox and McSweeney(2003), Singh(2004a,b), Savaら(2005), Yuksel and Erdum(2005), Kellyら(2006), Walstra(2006)によって報告されている。さらに、様々な食品系の乳たんぱく質の基本的な化学的、行動的性質を含む乳成分の相互作用についてはWit(1990a), Jostら(1990), Creamerら(1994), Pearce(1994), Singhらによってレビューされている。乳の総たんぱく質含量を作り上げる成分としては以下のものがある。

カゼイン  総たんぱく質の76-88%        

αs1-  45-55%(総たんぱく質中の構成比)

β-   25-35%       

κ-  8-15%

γ-  3-7%

ホエイたんぱく質  総たんぱく質の15-22%

 血清アルブミン  0.7-1.3%

 β-ラクトグロブリン 7-12%

 α-ラクトアルブミン 2-5%

 免疫グロブリン   1.9-3.3%

プロテアーゼ/ペプトン 総たんぱく質の2-6%

乳成分中のカゼインは牛乳たんぱく質の主要なグループであり、ヨーグルトやチーズのような乳製品の製造中に重要な役割を果たす。これらのたんぱく質の構造はいくつかのモデルが基本となっており、カゼインは基本的にカルシウムとリン酸カルシウムに関連したκ-カゼインによって安定化したαs1-、β-カゼインから形成されたミセル、またはサブミセルの凝集物として存在しているとされている(Banks and Dalgleish, 1990)。

 その他のたんぱく質(すなわち血清もしくはホエイたんぱく質)は液体に溶けており、カゼインに比べてより定義が明確で、コンパクトな球状のたんぱく質である。この構造はジスルフィド結合の形成(システイン残基が存在する結果として)、リン酸基の不足および天然状態でカルシウムに反応しない(カルシウムと一緒に凝集しない)事実によるものである(Banks and Dalgleish, 1990)。ホエイたんぱく質の機能的特性は乳の加熱処理によって、より明らかになる。というのも80℃以上の温度では、ホエイたんぱく質は変性し、κ-カゼインと結合して、より安定なミセルを形成するからである。

 この効果の良い例は乳を90℃(forewarmed)で様々な種類のたんぱく質の間で完全な反応が保証される時間、加熱した時に確認される。120-140℃(例えばUHT乳)で加熱すると安定な最終製品が出来上がる。様々な乳たんぱく質(カゼインを含む)に対する加熱処理の効果の比較データを表2.19に示す。

 他で言及したとおり、カゼインはホエイたんぱく質と比較して熱に安定である。β-Lgとα-Laは乳ベースの加工に用いる温度で変性するが(Dannenberg and Kessler, 1988a, b; de Wit, 1990b; Pearce, 1994; Law and Brown, 1994; Law, 1995)、β-Lgが変性した時に他の乳成分と反応する一方、α-Laは激しい加熱処理の後でのみ熱誘発性の相互作用を引き起こす(Dalgleish and Sharma, 1993; Sharma and Dalgleish, 1994; Croguennecら)。ここで考えうる相互作用は以下の通りである:

●変性β-Lgの小さな凝集物が繋がってより大きな凝集物を形成する(Xiongら, 1993)、もしくはpHと温度の機能として(MacLeodら, 1995)。

●乳の加熱の結果としてのβ-Lgとκ-カゼイン間の相互作用には、露出したSH基の疎水的相互作用が含まれる(Haque and Kinsella, 1988; Noh and Richardson, 1989; Oldfieldら, 1998; Dalgleish, 1990b)

●90℃以下での乳の加熱中、β-Lgとα-Laのカゼインとの相互作用は似たような動力学を持っているが、UHTで乳を加熱した時には、α-Laはその急速な熱伝導度によってβ-Lgよりもゆっくりと反応する(Correig and Dalgleish, 1996a,b)。

●加熱処理は脂肪球膜たんぱく質(c.49kDa)のひとつを大きく修正し(Kim and Jimenez-Flores, 1995)、その結果、変性ホエイたんぱく質と脂肪球膜たんぱく質の相互作用は単に-SS結合だけでは説明できないかもしれない。

●脂肪球膜上へのκ-カゼインの接着は結果的にトリアシルグリセロールの欠乏につながり、80℃20分間で乳を加熱すると脂肪含量が変化する(Houlihanら, 1992a,b; Singh, 1993 ; van Boekel and Walstra, 1995)

●β-Lgの均質化乳の脂肪球表面との相互作用は吸着したミセル状カゼインを置換するかもしれない(Xiong and Kinsella, 1991a,b; Dalgleish and Sharma, 1993; Sharma and Dalgleish, 1993, 1994)。

●カゼインによるコロイド状リン酸カルシウムとその他のイオンの結合;イオン成分のこの変化は酸ゲル形成においては重要ではない(Schmidt and Poll, 1986; Aokiら1987a,b, 1988, 1990; Wahlgrenら, 1990; Holt, 1995; Zhang and Aoki, 1995)

●100℃以上でカゼインミセルは凝集してより大きな粒子になり、または解離して水溶性のカゼインを形成する(Singh, 1993; Law, 1996)

●全脂肪乳の加熱処理中におけるα-Laとβ-Lgの乳脂肪膜たんぱく質との相互作用はジスルフィド結合によるものである。このように相互作用したホエイたんぱく質は80℃までは温度の上昇に伴って増加し、その後はほとんど一定となる;相互作用するα-Laとβ-Lgの最大値は~1.0と~0.2mg/gだった。脂肪球たんぱく質に対する加熱の効果は:(a)キサンチンオキシダーゼとbutyrophilinは影響を受けなかった、(b)PAS6は加熱でわずかに減少するが、PAS7は熱に安定だった(AiQianら, 2004)。

●使用する酸味料の種類とpH値によってβ-Lgゼラチンの性質を修正できる(Reschら, 2005)

●低温加熱、中温加熱した再構成(還元)SMPを90℃60秒で加熱するとミセル状カゼインの安定性、水溶性カルシウム、Ca:P比率の変化などの点においてそれぞれの粉乳中たんぱく質の完全性に異なった影響を与える(Zbikowska and Szerszunowicz, 2002)。

 乳中のたんぱく質の熱誘発性の変化がその他の特性に影響を与えることも明らかである。例えば、乳を85℃30分間加熱した時にたんぱく質の最適な親水特性が得られる(Grigorov, 1966a-c)。牛乳の凝集に対する異なる加熱処理の効果を表2.20に示している。確認されたゲル形成率の改善はおそらくβ-Lgとカゼイン間の相互作用によるものである(80℃30分間の乳の加熱によってα-Laがわずか60%しか変性しないのにβ-Lgは90%以上変性するため)(Larson and Rolleri, 1955)。たんぱく質の最大水和化は、Grigorov(1966c)によると、乳を85℃で加熱した時に発生し、温度が上がるにしたがって徐々に減少する:この見解はProdanski(1967)、Iyengarら(1967)など多くの研究者と共有されている。カゼイン/β-Lg複合体の親水特性のこのような低下はヨーグルトの品質に悪い影響を与え、おそらく離水の傾向を高める。よって、他の要素を無視すると、ヨーグルト製造に向けた乳の加熱処理は85℃~95℃の間にすべきである(Zedanら, 1998; de Brabandere and de Baerdemaeker, 1999; Lozanovaら, 2000; Shakerら, 2000; Kiesner, 2001; Denin-Djurdjevicら, 2002c; Thomet and Eberhard, 2003; Sengeら, 2004; Dimitrovら, 2005bも参照)。

 Parry(1974)によると、たんぱく質に対する熱の効果は2段階の工程がある。:まず、構造が変化し、変性を引き起こす。次に凝集(aggregagtion)が起き、加熱のレベルと期間に依存して、凝固(coagulation)が伴う。;β-Lgは-SH基が加熱の結果として反応するときにこのようなプロセスを引き受ける(Walstra and Jenness, 1984)。この凝集物は含まれる反応基に依存して、2つのサイズがある。すなわち-SH基と内部結合しているβ-Lg(3.7S)の小さな凝集物と-SS結合の形成が重要だと思われるβ-Lgのより大きな凝集物(29S)である(一部の初期の参照文献はSawyer, 1969; McKenzie, 1971; Lyster, 1979によって引用されている)。

Choら(2003)はモデル系でβ-LgAとκ-カゼインBの相互作用について研究し、以下の通り報告している:

●κ-カゼインを予備加熱したβ-Lgに添加してその混合物を再加熱したとき、κ-カゼインはもともとの重合体よりも熱誘発性β-Lg重合体とより速やかに反応した:β-Lgの二量体、三量体の形成は減少した。

●κ-カゼインとβ-Lgを一緒に加熱すると、後者のたんぱく質画分がチオール露出した単量体を形成し、両方のたんぱく質画分の相対濃度に依存して、単量体同士が反応するか、元々のκ-カゼインと反応した。

●そのため、これらの反応生成物には1:1(κ-カゼイン:β-Lg)の比率のジスルフィド結合複合体、一部のκ-カゼイン、そしてジスルフィド結合と疎水結合の両方またはどちらかでまとまったさまざまな凝集物が含まれる(Almereら, 1998; Vegarudら, 1999; Anema, 2000, 2001; Creamerら, 2004)。

1970年代、β-Lgの熱変性について出版された情報ではβ-Lgとκ-カゼインの相互作用について認識しているが、Elfamg and Wheelock(1977、1978a、b)では(その相互作用に)α-Laも含まれていると書かれている。簡潔に言うとその相互作用は以下の通りとなる:

 β-Lg(小さな凝集物) → β-Lg(大きな凝集物) + α-La → α-La(β-Lg)

  • κ-カゼイン(カゼインミセル)

     α-La(β-Lg)κ-カゼイン(血清たんぱく質/カゼイン複合体)←

 

しかし、より最近になってMottarら(1989)がわずかに修正したモデルを提案しており、これは変性β-Lgがカゼインミセルのκ-カゼインに結合するというものである。その結果、不規則な構造をしたカゼインミセルへの付属物が形成され、その表面は高い疎水性を示す。α-Laが変性し始めると(すなわち第二相)、β-Lgと相互作用し第1相で形成された構造的な間隙を満たす。ミセル表面に存在するα-Laの量は加熱工程とその強度に依存する。その結果、たんぱく質マトリックスの疎水性が低下し、水分保持力が高まった、より滑らかな表面となる。(Hill,1989も参照)。最近の研究では、Calvoら(1993)が熱誘発性のα-Laの凝集はその他のホエイたんぱく質に存在する遊離の-SH基の濃度に依存すると結論づけている。;これはα-La中の分子内-SS結合が開裂を誘発し、凝集を引き起こすことによって得られる機能であると思われる。 

ホエイたんぱく質の変性率に対する効果

Law(1995、1996)は70-90℃で加熱したさまざまな哺乳類の乳のホエイたんぱく質(免疫グロブリン、血清アルブミン/ラクトフェリン、β-Lgとα-La)の不可逆的な変性の相対比率について定量的に調査した。この結果報告から以下のことが示唆される:(a)牛乳、山羊乳、羊乳のそれぞれのホエイたんぱく質の濃度は異なり、例えば、全ホエイたんぱく質含量はそれぞれ0.65、0.61、1.1g/100mlだった(b)加熱中にこの3種の哺乳類の乳の変性度の順番は免疫グロブリン>血清アルブミン/ラクトフェリン>β-Lg>α-Laだった(c)90℃では、ホエイたんぱく質の変性のしやすさは羊>山羊>乳牛の順だった。Law and Tziboula(1992、1993), Lawら(1993,1994), Brownら(1995), Tziboula(1997), Qiら(2004), Tolkach and Kulozik(2005)により、他にもたんぱく質に対する加熱の効果に関する研究報告がある。生乳にβ-LgAの熱不安定性の変異体を添加すると乳ベースを70℃で加熱したときヨーグルトの離水が減少した(Leeら, 1994; Battら, 1994)。;ヨーグルト製造におけるこのようなアプローチは牛の乳房での合成中における(これら)たんぱく質成分の将来的な操作を促すだろう。

たんぱく質/脂肪相互作用に対する効果

再構成(還元)乳のたんぱく質/脂肪相互作用はSingh and Creamer(1991)、Singhら(1993、1996a)、Yeら(2004a)によって幅広く研究されている。この相互作用は以下のような多くの因子に依存している:

●脱脂乳のたんぱく質含量が増加することで、脂肪表面上にに堆積するたんぱく質は増加し、最大約6mg/m2に達する。

●大きな脂肪球のたんぱく質堆積量は低くなる(主にホエイたんぱく質)。

●脱脂乳中のホエイたんぱく質/カゼイン比の変化によって脂肪球に吸着するたんぱく質積載量は低下し、たんぱく質層の構成に影響を与える。

●加熱前にpH6.5-7.1の再構成(還元)脱脂乳のSNFを10g/100gから20g/100gに増やした場合、もしくは同じ還元乳をpH6.5で2-11分間120℃で加熱した場合、κ-カゼインのかい離の度合いは拡大する。

●脂肪球表面、カゼインミセルからのκ-カゼインのかい離率はpHに依存する。

●脂肪球表面のたんぱく質積載量は低下し、吸着したたんぱく質の構成はコロイド状リン酸カルシウムの脱離を伴うカゼインミセルの崩壊で変化する。

その他の乳成分に対する効果

ヨーグルトの製造で用いられる温度での加熱処理によって最も劇的に変化する乳成分はホエイたんぱく質であることは明白だが、乳中では加熱によるその他の変化も発生し、以下の様に重要なものもある:

●乳の加熱によって乳中の塩、特に、カルシウム、リン酸、クエン酸、マグネシウムの状態が影響を受ける。すなわち、これらの塩は乳中で水溶性のイオンもしくはカゼインミセル複合体の一部としてコロイド相中に存在しており、85℃30分間の加熱によって水溶性カルシウムの16%がコロイド相に移行する(Kannan and Jenness, 1961)。

●乳を加熱すると酸素含量が低下する。すなわち酸化還元電位が低下し、スターターカルチャーの生育が促進される。

●乳中の望ましくない風味は通常の加熱処理によってしばしば除去される。しかし激しい加熱処理は、乳糖とたんぱく質のアミノ基とのメイラード反応の結果、生じるキャラメル臭といったオフフレーバーを引き起こす。

●乳中のビタミン類は2つのグループに分割される。乳の脂肪成分と関連する脂溶性ビタミン(例.A、D、E、K)と水溶性ビタミン(例.B群、C)である。前者のビタミンは極めて熱に安定である一方、ビタミンB6、B12、Cは熱に不安定である。表2.21に様々な加熱処理における乳中の熱感受性の高いビタミンの損失率を示している。ヨーグルト製造に用いる加熱処理は相対的に高温なので、一部のビタミンの有意な低下を引き起こし、溶存酸素の存在によって熱不安定型のビタミンの感受性は大きく高まる(Hartman and Dryden, 1974; Renner, 1983, 1989; Walstra and Jeness, 1984; Burton, 1994; Andersson and Oste, 1995; Sharma and Lai, 1995; Walstraら2006)。

●ヨーグルト乳ベースの加熱は一部のビタミンを破壊し、ヨーグルトの栄養特性にネガティブな影響を与えるが、消化管でのたんぱく質の消化性は非加熱処理の乳タンパク質と比較して改善する(Puhan, 1988)。

●加熱処理中の乳成分の(熱誘発性の)変化の結果として、加工設備の表面に付着物や沈殿物が生成される。そのため、熱交換機の稼働時間は短くなり、洗浄がいっそう必要となる。加熱表面の付着物の種類や乳成分の役割に関する研究についてはKessler(1981), Dannecberg and Kessler(1988c), de Jongら(1992), Gothamら(1992), de Jong and van der Linden(1993), Hinrichs and Kessler(1995), Fryerら(1995), de Rafael and Calvo(1996)によって報告されている。新鮮な液体乳を加工するプレート式熱交換機の稼働時間は同じ温度で再構成(還元)乳を加熱した時よりも長くなる。

 しかし、ほとんどの技術データは全乳、脱脂粉乳を使った研究を照合しており、ヨーグルト乳では様々な物理化学的変化が起きているが、その程度は乳ベースの組成に依存することは明記しておくべきだろう。

 9.4 ゲルの物理的特性に対する加工の効果

第2.4章から乳固形分の強化法がヨーグルトゲルの硬さや離水に影響を与えることは明らかである(Rohm, 1989, 1993a,b; Rohm and Schmid, 1993; Horne, 1993; Jaros and Rhom 2003a,b; Anemaら, 2004, Tamime, 2006)。同様に、このような特性は使用する均質圧によっても影響を受ける(第2.8章参照)。しかし、乳のたんぱく成分の物理化学的変化は製造したヨーグルトの品質に影響を及ぼす主要な変化の一つであると考慮される一方、酸生成に関連するスターターカルチャーの役割についても見過ごすべきではない。

 加熱、非加熱乳由来のゲル構造に関する走査型電子顕微鏡(SEM)研究で、カゼインミセルの独特な特徴が明らかになった。加熱乳では、ゲルは次第にサイズが大きくなり、鎖状のマトリックスを形成するカゼインミセルとして形成される。この挙動の結果、ヨーグルト中のタンパク質は均等な分布となり、液相はネットワーク内に固定される;その結果できる凝集物は硬く離水しにくくなる。一方、非加熱乳のカゼインミセルはたんぱく質が不均一に分布している凝集物もしくはクラスターを形成し、この不均一性は水の固定化を阻害する;凝集物はずっと弱く、加熱した凝集物と比較して強度は50%である(Kalab and Harwalkar, 1973, 1974; Kalabら, 1983; Modlerら, 1983)。このような対比は図2.14によくまとめられている。また全固形分を10g/100g含むヨーグルトのカゼイン粒子(すなわち鎖とクラスター)がもっとも大きく、全固形分が増えるにしたがって粒子の大きさは小さくなる(Harwalkar and Kalab, 1986)。一般的に、たんぱく質マトリックス中の孔が大きくなるにつれて、ホエイが分離しやすくなり、一方、pH3.85で離水に対する抵抗性が高くなるのは、pH4.5のヨーグルトと比較してゲルの硬さが強まることを反映している。

 加熱処理した(95℃10分間)乳の研究からβ-Lg/κ-カゼインから構成されるフィラメント(糸)状の付属物の存在が明らかになり、その相互作用には‐SS結合が含まれており、おそらく、リン酸カルシウムやクエン酸などの様々な塩が含まれていると思われる(Daviesら, 1978; Harwalkar and Kalab, 1981, 1988)。このような付属物は発酵後に“拡散”する傾向があるが、加熱乳の凝集物中に存在することでミセルの癒着を抑制し、離水しづらいより硬いカードを生じさせる。

 ヨーグルトの微小構造はミセルの短鎖もしくは中鎖そしてミセルクラスターのたんぱく質マトリックスから構成されており、脂肪球がこのマトリックス中に組み込まれている。乳中のカゼイン/非カゼインたんぱく質の比率とSNFの強化法のどちらもたんぱく質マトリックスの多孔性に影響を与える。Modler and Kalab(1983), Modlerら(1983), Tamimeら(1984)によって2.9:1から4.6:1の比率が報告されている。後者は3.3:1の比率を推奨しており、これは、より高い比率だとカゼインミセルの溶解が起き、その結果、組織的問題(でこぼこになったりざらついたりする)のために満足できない製品となってしまう。図2.15に脱脂粉乳(SMP)とカゼインナトリウムを強化したヨーグルトの微小構造(SEMとTEM)を示す。ちなみに、VEとROによって固形分を強化したヨーグルトもSMPの写真と同様のイメージを持っており、一方、UFヨーグルトはカゼインミセルのごく限定的な溶解を示していた(Tamimeら, 1984)。しかし、UFリテンテート粉(全脂または脱脂-表2.5参照)を使用すると、元々のカゼイン/非カゼインたんぱく質比は乳ベース中で維持され、硬く離水を最小限に抑えられるヨーグルトが出来上がる。

 乳ベースの均質化と高熱処理によって凝集物の親水性は高まり、ホエイたんぱく質の変性とκ-カゼインとの関連に基づいてヨーグルトの安定性も改善する。Labropouloら(1981a、b、1982、1984)は82℃30分間で加熱した乳から製造したヨーグルトの物理的特性は、149℃3.3秒の加熱と比較して、優れており、後者の処理はドリンクヨーグルトもしくは硬度が低い、カードの硬さが軟らかいヨーグルトの製造にのみ適していた。良く似た観察結果がヨーグルト製造向けに85℃10-40分(バット殺菌)加熱、98℃30-112秒(パスチャライズ高温殺菌)加熱、140℃2-8秒(UHT殺菌)加熱した全乳についてParnell-Clunies and Kakuda(1986), Parnell-Cluniesら(1989a,b,1988a) and Parnell-Clunies(1987)によって報告されている。彼らは以下の通り結論している。:

●加熱方法によるヨーグルトの硬度と粘度の順番は、バット殺菌>パスチャライズ高温殺菌>UHT処理となる。一方、凝集物の最も高い水分保持力はパスチャライズ高温殺菌で確認され、それにUHT殺菌とバット殺菌が続いた。

●バット殺菌で製造したヨーグルトは離水と粒状の組織を示した;UHT処理の結果、ヨーグルトの凝集物は弱い組織となった;高温処理(98℃1.87分)が最も良い工程であり、工業生産に推奨される。しかし、その他の研究者はスターターの活性を最大化するために85℃30分間を推奨している。

 

 Krasaekooptら(2003、2004)は脱脂粉乳を強化したUHT乳から製造したヨーグルトの品質を通常の加熱処理した乳と比較し、以下のように結論付けた。(a)文献ではこのような乳をその微生物活性によって分けているが、発酵過程中のスターター活性で両者に差は認められなかった(b)UHT乳から製造したヨーグルトの方が粘度とゲル強度が低かったが、ホエイオフはしにくかった(c)どちらのヨーグルト製品も風味は同じようなものだった。(d)2つの製品の微小構造にわずかな差が認められた(e)組織の違いはUHT処理と85℃30分の加熱の間のホエイたんぱく質の変性度に起因していた(f)乳ベースへの脱脂粉乳(SMP)の強化とUHT処理によってヨーグルトの組織が改善した。

 にもかかわらず、Schmidtら(1985)は以下の乳加工法を適用することでヨーグルトの硬度、離水、組織を改善した。1日目に、全乳を37℃で分離し、脱脂粉乳(SMP)を強化し、約50℃に温め、17.2MPa(第1段階)と6.9MPa(第2段階)で均質化処理し、4℃で14時間冷却した。2日目には、Labropoulosら(1981a、b)が報告しているよりも長時間138℃で乳を加熱し、42℃に冷却、スターターカルチャーを接種し、培養後、pH4.3で氷の入った容器(バス)で冷却し、4℃で1週間保存した。もしヨーグルト製造にこの方法を適用すると、工業生産では不便かもしれない。報告されている文献の総意からヨーグルト乳のパスチャライズ高温殺菌が最も適していることが示唆される(Dannenberg and Kessler, 1988d, e; Mottarら, 1989; Kesslerら, 1990; Kaytanli, 1993)。UF-WPCを強化したヨーグルト乳では、乳ベースの加熱処理において、加熱ミセルの微小構造がミセル表面に接着した、たくさんの不規則な形をした小粒子(図2.16a)とカゼインミセルを取り囲む(もしくは分離物としての)硬く凝集したたんぱく質を示していることも重要である(Kalabら, 1982, 1983; Modler and Kalab, 1983; Kalab and Caric, 1990; Kalab, 1992)。Hollarら(1995)はカルシウムを含む模擬UF乳に対してWPC混合物(全固形分16g/100g)を透析したところ、加熱時に、ホエイたんぱく質の変性は以下による影響を受けた:

●カルシウム含量が低下するにつれて、より水溶性の高い凝集物と水溶性の低い沈殿物が形成される。

●pHが上昇すると(5.8から7.0)、たんぱく質変性が起きやすくなり、水に溶けにくい凝集物とより水の溶ける沈殿物となる。

●66℃と71℃でα-Laはβ-Lgよりもより広範囲に変性する。

●低温加熱脱脂粉乳(SMP)の添加によってWPC中のホエイたんぱく質の変性は制限される。

SEM研究(Kalab、1979a)によって明らかになった別の側面は、S.サーモフィルスとL.ブルガリクスがヨーグルト凝集物のたんぱく質マトリックス中で〝ポケット”を形成することである。このようなポケットは一部の研究者からサンプルの凍結乾燥によって生じる人工物であるとみなされた。しかし、透過型電子顕微鏡とヨーグルトの凍結破砕のどちらも、すなわちまだ液相が存在している切片にもポケットの存在が確認された(Kalab、個人的な聞き取り情報)。図2.14 は”空隙”中の乳酸菌を示している。さらに、SEM顕微鏡写真(Kalab, 1979b, 1992, 1993)でもヨーグルトスターターカルチャーの“スライム”、“ロピ”株から産生されるEPS(菌体外多糖類)の繊維を確認できる(Brooker,1979,1987も参照)。EPSの化学的組成に関する更なる詳細情報は第7章に掲載している。1990年以降に報告されているヨーグルトゲル中のEPSフィラメント(繊維)に対する多くの研究者の現在の視点はこのフィラメントが人工物であり、真の構造ではないということを記述する事も重要である。

 ヨーグルト乳中のカゼイン粒子の大きさは乳ベース中の全固形分の影響を受け、Kalab(1979b)はカゼイン粒子の大きさが乳の固形含量の増加に伴い小さくなることを確認している(図2.14);この挙動の理由はよく分かっていない。

 ヨーグルトの微小構造の研究のためにSkiverら(1997)によってTEMを使用した画像分析が行われ、彼らは以下の内容を確認した(a)カゼイン凝集物は高温で加熱した乳で作ったヨーグルトでより大きくなった。同様の観察結果がKalabら(1976)によっても報告されている(b)ヨーグルトゲル中の〝孔″の平均サイズの測定に用いられるstar volumeは乳に提供される熱レベルに影響を受け、カゼインマトリックスの構造にも影響を受けた(c)共分散関数は加熱温度が同じ85℃だが、保持時間が10分または30分で加熱した乳で作ったヨーグルト間で区別ができた。

 冷却乳の正常なクリーミングはグロブリンの活動による影響を受け、この活動は浮上する脂肪球間のクラスター形成を助ける(Mulder and Walstra, 1974)。よって、加熱処理の結果としての乳のグロブリン画分の変性はクリーム層の減少を引き起こす(Walstra and Jenness, 1984)。このような振る舞いは製造ラインに均質機をもたない小規模ヨーグルト製造者にとって好ましい働きである。さらに茶色の見た目になる前に、乳は加熱処理でより白くなる。Burton(1954)によるとこれは以下の理由によるものである。

●ホエイたんぱく質の軟凝集;

●カゼイン凝集物中の変化

●カルシウムが水溶性の状態からコロイド状、不溶性の形態に変わる

9.5乳ベース加工の新技術

最近開発されたヨーグルトの組織を変えることができる新技術/手法として、乳たんぱく質の酵素的架橋結合(トランスグルタミナーゼなど、第5章参照)、二酸化炭素処理乳の使用(2.2.3参照)、乳の超音波均質処理(HongYuら, 2000)、ホエイたんぱく質の変性を引き起こし、水和力を改善し、発酵時間を短縮し、粘度を上げ、離水を減らし、製造後の酸性化を抑制するための高静水圧(HHP)の使用などがある。

ヨーグルトやその他の乳製品の製造のための乳のHHP加工(~600Mpa)の適用について研究や商業的な興味が示されている(Datta and Deeth, 1999; Jayaprakasha and Brueckner, 2000; Trujilloら, 2002; IDF, 2002; Geciovaら, 2002;Huppertsら, 2002; 2006; Kulozik, 2003; Jankowskaら, 2004; Nabhanら, 2004; Dattaら, 2005; Hayes and Kelly, 2003; Hayesら, 2005; Anemaら, 2005; Sandra and Dalgleish, 2005; Wanら, 2005)。乳ベースへのHHP(i.e.400-500MP)と加熱処理の組合わせ処理によって降伏応力、粘度、弾性係数は増加し、離水は低下する。しかし、発酵中にカゼインサブミセルの再凝集が起こる(Harteら, 2002, 2003)。UF、MF濃縮乳から作りHHPを適用したゲルはより硬くなった(Falmelartら, 1998; Guerzoniら, 1998)。、HHP処理した(e.g.200-600MPa、30℃ 0-5分)ヨーグルト乳ベースと中温性スターターカルチャーを接種した乳で発酵時間の短縮が確認された、そしてその製品は保存期間中も安定だった(Hinrichs and Fertsch, 2000; Huppertzら, 2004a)。;同様の知見はHHP処理した山羊乳ヨーグルトでも報告されている(Ferragutら, 2000; Walsh-O’Gradyら, 2001)。

 WPCを強化しHHP処理を行った乳では90%以上のβ-Lgの変性が起きるが、カゼインミセルはミセルが損なわれていない加熱処理乳と比較して解離した状態になっている。;ヨーグルトゲル形成中、さらなる変化が起き、このような変化は最近公表されたミセルモデルの観点で議論されている(Needsら, 2000; Capellas and Needs, 2003; Guamisら, 2005)。さらに、HHPによって引き起こされるβ-Lgとα-Laの変性は乳とホエイの混合物中の乳の比率が高くなったときに増加した。そして、スルフィドリル‐酸化剤(KIO3)を乳またはホエイに添加するとβ‐Lgの変性度が高まったが、α‐Laの変性度は低下した(Ahmed and Ramaswamy, 2003; Aouzellegら, 2004; Huppertzら, 2004b-d; Hinrichs and Rademacher, 2004, 2005)。HHP適用によって乳で起こるその他の変化には、(a)羊乳チーズのタンパク質分解度が高まる(これは細胞溶解と酵素放出によるものと思われる)(Juanら, 2004)(b)乳中のプラスミンの不活性化(Bordaら, 2004)(c)HHPによる乳脂肪球膜たんぱく質と乳たんぱく質間の相互作用(Yeら, 2004b)(d)脂肪球の大きさへの効果(Thiebaudら, 2003)がある。さらに、Huppertsら(2005)は100HHP-600MPaで30分間HHP処理した時の水牛乳の変化について以下の通り報告している。

●カゼインミセルの大きさはほんのわずかに影響を受けたが、800MPaの圧力では大きさが35%増加した。

●非ミセルαs1-、β-カゼイン濃度が上昇した;非ミセルカルシウム濃度とpH(i.e.~0.07ユニット)も上昇した。

●α-La(>90%)とβ-Lg(~100%)の変性が800Mpa、400MpaのHHPによって起きた;しかし、β-Lg含量のすべてはカゼインミセルと結合していた。

脱脂乳中で増殖する望ましくない微生物を不活性化するためにHHP処理(250-500MPa)とニシン(250または500IU/ml)を組み合わせて使用した。Blackら(2005)によると、(a)乳中のLactobacillus viridenscensとListeria innocuaは500IU/mlのニシン存在下で5分間、20℃、500MPのHHP処理によって>8log cfu/mlまで低下した(b)同様の細菌数の低下は、500IUニシン/mlで5分間20℃400MPaおよび250MPaのHHP処理でEscherichia coliとPseudomonas fluorescensでも確認された(c)HHP処理後の細胞へのニシンの添加は細胞に対するHHPの効果が細菌の種類によって変化すること、そして、一部のHHPによる致死未満の損傷は不可逆的であり、そのためグラム陰性菌のニシンへの感作が起こること(d)HHPによって引き起こされるP.fluorescensの可逆的な膜ダメージは圧力処理前、中、後の蛍光色素の取り込みによって実証されている。

 HHPは発酵後の冷蔵ヨーグルトにも用いられる。この加工方法によって保存期間中の製品の粘度とアミノ酸含量が増加した;しかし、300MPaと400MPaの圧力によってラクトバチルス属の生菌数が多くの国の法的な数をはるかに下回るほど低下した(de Ancosら, 2000)。同じ研究者はHHPヨーグルトの官能特性がコントロールと比べて異なっていたとも報告している。Repsら(2001)は400MPa30分間の条件でS.サーモフィルスを接種した乳にHHP処理した結果、使用した菌株に依存して、生存率が35~99.9%の間まで低下したと報告している。

10 発酵工程

10.1はじめに

ヨーグルトの製造中、加熱処理乳はスターターカルチャー(S.サーモフィルスとL.ブルガリクス)の培養温度まで冷却される。そして一般的に乳は40-45℃、すなわち短時間接種法における混合カルチャーの最適な生育条件で発酵される。ある場合には、培養時間は、スターターカルチャー(3%)が活性状態であり、棒状菌と球菌の比率が良いバランスであると仮定して、22時間(2.2時間?)という短さになる。しかし、より長い培養方法(例.夜通し)を用いることもでき、培養条件は30℃で約16-18時間または求める酸度に達するまでとなる(Hrabova and Hylmar, 1987; Merlo, 2000; Rodgers, 2001も参照)。Zebadi(エジプトのヨーグルト)は30℃、もしくは35℃で製造されており、その製品の離水は最低限で、硬さも改善され、滑らかさもあり、風味もよい(Mehanna, 1991)。しかし、Cho-Ah-Yingら(1990)は異なる好熱性スターターカルチャーの菌株(例.EPS産生菌、EPS非産生菌)を使ってヨーグルトを製造し、38℃と43℃で乳を発酵した結果、彼らは培養温度が一つの官能特徴(例えば組織)のみに有意な影響を及ぼし、全体的に38℃で製造したヨーグルトがより高い評価スコアを獲得する傾向があった(第8章; Ricciardi and Clementi, 2000; Laws and Marshall. 2001; Duboc and Mollet, 2001; Haqueら, 2001; Ruas-Madiedoら, 2002; Sieber and Frohlich-Wyder, 2002; Kristoら, 2003; Duggan and Waghorne, 2003, Krishnamurthi, 2004)。

 培養温度がヨーグルトゲルの特徴に影響を与えることは明らかである。42℃がヨーグルトの基本的な発酵温度ならば、より低い培養温度(例.40℃)ではわずかにゲル化時間が長くなるが、ポジティブな面としては以下の長所がある:(a)製品がより硬く、粘度も高くなる、(b)ゲルは離水しにくくなる、(c)冷却工程中に凝集物を攪拌する際に粒々が生じる欠陥が少なくなる(Robinson, 1981; Lucey, 2002; Lee and Lucey, 2003)。より低い培養温度では、疎水結合が少なくなる。その結果、カゼイン粒子間の接触領域が増えるため、カゼイン粒子の大きさが大きくなる(Lee and Lucey, 2003)。;同様の傾向はゲルを冷却した時にも起きる。高い培養温度もゲルネットワークを転位しやすくし、このような変化からホエイ分離が大きくなる(Lucey, 2001; Mellemaら, 2002)。ネガティブな面では、発酵温度が低くなるとスターターカルチャーによる風味成分の生成が低下するが、この作用は後工程でヨーグルトに風味付けする場合には重大ではない。プロバイオティクスカルチャーを使用するときは、より低い培養温度が好ましい(例.38℃)。

 ある工業的管理下において(例えば一日当たりの製造量が増加するなど)、乳ベースに30℃の培養温度を適用し、この培養温度でSNFや安定剤を減らしてもゲルを作ることができる(Lee and Lucey, 2003)。別の方法では、低培養温度で粘性ヨーグルトを作ることができるが、このとき最終pHは低くすべきであり、長い発酵時間が必要となるS.サーモフィルスのテクスチャリング株を使用すべきである(Bealら, 1999)。

 冷蔵ミルクを発酵タンクへポンプ搬送している間、スターターカルチャーは通常、乳へ直接計量される:別の方法として、多目的タンクを使用する場合は、スターターカルチャーを手動で添加するか、タンクの大きさが大きい場合は、スターターの必要量をタンクへポンプ搬送する。後ほど示すように、実際の発酵工程は静置ヨーグルト製造用の商品容器で起きるか、攪拌ヨーグルト製造用のバルクタンク内で培養される。しかし、どのタイプのヨーグルトであれ、ゲル/凝集物の形成に必要な生化学的反応は全く同じである。発酵工程の複雑性についてはその詳細を第7章で議論している。そのため、静置タイプ、攪拌タイプのヨーグルト間の唯一の違いは凝集物のレオロジー特性であり、前者は培養期間中に静置されているので、そのゲルは連続的な半固形の塊の形態であり、一方、攪拌ヨーグルトはこれとは対照的に、培養期間の終わりと冷却前に、そして更なる加工時においてゲル構造を壊す結果となる(より詳細は第5章を参照)。

10.2 スターター菌

背景

ヨーグルトの商業生産ではS.サーモフィルスやL.ブルガリクスのような定義された乳酸菌混合物が使用されるが、他の製品では異なる配合が必要となるかもしれない。例えば、バターミルクはL.ブルガリクスだけで製造されるし、一方インドのダヒはS.サーモフィルス、ラクトコッカス ラクティス次亜種 diacetylactisとラクトコッカス ラクティス 亜種クレモリスを含む混合スターターカルチャーから製造される(Tamime and Marshall, 1997; Surono, 2003)。

健康促進ヨーグルトはヨーグルト菌(単菌、または混合菌)とラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス種を含む、定義された様々なスターターカルチャーで製造される。;さらなる詳細は第5章、Tamime and Marshall(1997), Tamime(2005) and Tamimeら(2005, 2006)を参照。

 ヨーグルトおよび関連する発酵乳製品の製造中に使用するスターターカルチャーの組み合わせを選択する理由は製品の風味特性(主に乳酸、芳香成分(アセトアルデヒド、アセトン、ジアセチル)とEPS)を望ましいものにすることと、消費者に幅広い治療製品の選択を可能にするためである。前者の側面は非常に重要であり、そのためヨーグルト菌の様々な菌株を注意深く選択することは製造者にS.サーモフィルスとL.ブルガリクスによって産生される風味強度とEPSについて以下のような幅広い選択肢を与える。

風味 高 中 低

EPS 低 中 高

低風味生成菌株は高EPS産生株と分類される傾向があるが、同じパターンはヨーグルト中にEPSが存在することで製品の風味がマスキングされてしまうため、感覚刺激的に発生する;このような製品は異なる口当たりにもなっている(Wacher-Rodarteら, 1993)。

 スターターカルチャー開発の最新のアプローチには、スクリーニング、特徴づけ、ヒトでの安全性の確認、動物モデルでの有用性検証、ヒトでの臨床試験(例.プロバイオティク菌(Adams, 1999; Franzら, 2005; Dernanda Fernandezら, 2005も参照)と市販品製造前のブレンディングなどが求められる。このような側面はMyra and MakineとBigret(2004)とTamimeら(2006)によってレビューされており、予想通り、これらの戦略や選択のプロセスは簡単でも単純でもない(Hellerら, 1999; Hansen, 2002; Mogensen, 2003; Skriverら, 2003も参照)。

 にもかかわらず、Rohm(1992、1993a、b)、Rohm and Kovac(1994、1995)、Rohmら(1994)とvan Marle and Zoon(1995)(Jaros and Rohmn2003a、bも参照)は市販されている一部のヨーグルトスターターカルチャーによって与えらえる組織的、官能的特性について研究し、以下のように結論付けた;

●ゲル硬度を除き、それぞれの官能特性でヨーグルト間に有意な差があった;

●快不快尺度を使って得られた官能スコアの重回帰分析は主に粘性と風味特性に影響を受け、それぞれネガティブ、ポジティブに荷重されていた; 

●攪拌ヨーグルトの見かけ粘度はEPSカルチャーによって増加したが、粘度とEPS産生量の間に相関性は確認されなかった;グルコン-δ-ラクトン(GDL)、EPS、非EPSゲルの透過性をガラス管を使って測定したところ(van Marle and Zoon, 1995)、有意差が認められ、最も低い値はEPSゲルで確認された;そのため、攪拌ゲルの透過性と見かけの粘度は逆相関がある;

●シェアストレスと長い緩和時間の関係性はEPSカルチャーで製造した製品の粘弾性特性でより明確だった。

この後者の側面はたんぱく質マトリックスへのロピ細菌細胞の接着による影響を受け、その結果、ヨーグルトゲルの硬さは低下する。図2.17はEPS産生スターターカルチャーで作ったヨーグルトの微小構造のいくつかの例を示している。ちなみに、ラクトコッカス種のロピ株で作るフィンランドの発酵乳、Villiについても同様の構造があることがTobaら(1990)によって報告されている。

 Schellaass(1983)とSchellaassとMorris(1985)はEPSカルチャーで作ったヨーグルトが非EPS産生株と比較して離水の起こりやすさが低下し、粘度が高くなることを示した(Robinson, 1988);しかし、乳を32℃で発酵させると、過剰なEPS産生が起きた。このようなEPSヨーグルトの物理的特徴は細菌細胞とカゼインマトリックス間の繊維状のネットワークによるものだが、この相互作用はヨーグルトを220s-1のシェアストレスにさらした時に破壊される(Teggatz and Morris, 1990; Skriver, 1995; Skriverら, 1995)。Hassanら(1995a、b)は天然状態におけるヨーグルトの構造を確認するために共焦点レーザー走査式顕微鏡を使用して、以下の内容を確認した:(a)S.サーモフィルスとL.ブルガリクスから産生されたEPSの膜がはっきりと細胞を取り囲んでいた(b)膜の直径は細菌の種類に依存して異なっていた(c)カゼインミセルの凝集と細菌細胞の移動が止まることによって決まる乳のゲル化はpH5.35で始まり、pHが下がり続けると、EPS菌はゲル中で非反射領域の形成を引き起こすが、これはおそらくカゼインマトリックスの収縮によるものである。このようなカルチャーで作ったヨーグルトの組織的、レオロジー的特性はHassanら(1996a,b), Jarosら(2002a,b), Bianchi-Salvadori(2003), Sodiniら(2004), Guzel-Seydimら(2005)によって報告されている。

 EPSヨーグルトの挙動に関する研究に“傾斜した加熱黒色ガラス上のヨーグルトの離水を監視する(Tamime, 1977)”、“ヨーグルトから採取したアクリル酸ロッドの端に形成されるEPS‘糸’の長さを測定する(Watanabe, 1987)”といった非常にシンプルな技術が採用できることを指摘することも適切である。 ヨーグルト技術の進化には膜透析発酵槽使用による相互作用的な発酵が含まれる。このような発酵槽は滑らかな構造、マイルドな酸味、保存中の発酵後過酸性化が低下するヨーグルトを得るためにオランダで開発された(Klaverら, 1992a)。同じ研究者はバターミルクの製造でもこの技術を採用している(Klaverら, 1992b)。保存中の酸度上昇や苦味を抑制する他の方法がKlaverら(1991)によって報告されており、このシステムは以下のように記述されている:(a)加工乳を培養温度まで冷却しラクトバチルス属で発酵し、スターターカルチャーを不活性化するために加熱処理する、(b)部分発酵乳を冷却しストレプトコッカス属で発酵する;甘味づけされた乳か非発酵乳をオプションとして添加できる。エジプトでは、El-Kenanyら(1996)が乳にヨーグルトスターターカルチャーを45℃の冷却前に、60℃または70℃、保持時間5分で接種した;この発酵方法によって製品の保存期間が改善された。

構造形成と間隙に対するEPSの効果

他で言及しているとおり、ヨーグルトの構造は多くの因子の影響を受ける。:

●乳ベースの組成(脂肪やたんぱく質含量など)

●均質化、加熱処理、添加物といった加工パラメーター

●使用するスターターカルチャーの種類と培養時間

EPS産生ヨーグルトスターターカルチャー(ロピ株)はヨーグルトの物理的、官能的特性に大きな修正を引き起こす。例えば、EPSはカプセルとして微生物細胞にくっついたり、乳中に分泌される。どのEPSもropiness(粘着があってねばねばした特性)を確保することは出来ず(A.H.Hassenら2003; Shah, 2003; Ipsen, 2003)、カプセル状または非接着性のEPSは共に同じ微生物細胞から産生される。しかし、一部のロピ株はカプセル化されておらず、カプセル形態のみの産生は確認されていない。スターターカルチャーの一部の非ロピ株はロピ株によって産生されるのと同量のEPSを産生する(van Marle and Zoon, 1995; Zoon, 2003)。以上より、ヨーグルトの物理的、官能的プロファイルへのEPSの効果は以下の内容に依存する:(a)EPSの種類(カプセル状か非接着タイプか)、(b)EPSの分子量と化学組成(架橋の種類や分岐の度合いを含む);分子量は最も重要な因子である(Kleerebezemら, 1993; 第7章も参照)。

 EPSスターターカルチャーの産生量とカプセルサイズは菌株依存的であり、菌株の中にはカプセルを最大5μmまで産生するものもある。CSLM(共焦点レーザー顕微鏡)は乳中で増殖するカプセル化されたスターターカルチャーを直接見るために反射モードで使用される。そして、Hassanら(1995a)によると、カプセル状のEPSは細菌細胞を取り巻く非反射領域で認められる。同じ研究者によってヨーグルトの構造形成に対するカプセル状EPSの効果を研究するために同じ顕微鏡技術が使われている。カゼインミセルはカプセルを貫通できないため、カプセル形成EPSスターターカルチャーで作ったヨーグルトの微小構造は乳中のこれら微生物の分布に依存する。期待どおり、ヨーグルト乳の発酵中に、以下の現象が起きる:

●カプセル化された微生物の数が増え、カゼインミセルに支配されないより多くの大きな領域を形成する

●pH5.5で、CSLMを見ると微生物の移動が減り、カゼインミセルがより粗い状態になる、つまりゲル化の始まりを示唆している、ことが認められた。

●pH5.35では、カプセル形成細胞はもはや見えず、低シェア動的測定を用いることで、カプセル形成株で発酵した乳のゲル化は非カプセル形成スターターカルチャーで発酵した乳よりも高いpHで生じることが確認できた。;大きいカプセルの存在はカゼインを凝集させ、より狭い空間に占めるようにさせる(Hassanら, 2002a, b; ゲル形成の類似した視点を確認するには第2章の2.10.3を参照)。

●カプセルのこのような体積排除効果によって、多数のたんぱく質が接触し、その結果、ゲル化が早まる。一度ゲル化が始まると、凝集したミセル内での収縮の結果、よりコンパクトな凝集物となり、細菌細胞の周囲のカゼイン-フリーの領域がより大きくなる。

凝集後、ホエイ層は通常、カプセル形成カルチャーで作ったヨーグルトの表面上に形成される。そして、このような離水はこのようなヨーグルト中の大きな孔の存在の結果として形成されると考えられる。;さらに、ホエイ層は凝集物の冷却中にカードに再吸収される。

 非カプセル形成スターターカルチャーを使用したとき、カゼイン凝集は均一なサイズと分布の孔を持つより連続的な構造を形成する。ヨーグルト微小構造のSEM顕微鏡写真から一部の微生物がヨーグルト中の“間隙”によって囲まれていることが分かった(図2.14、7.3参照)、その由来については異なる説明が与えられている。:(a)酸の働きによる細菌細胞を取り囲むカゼインの可溶化(b)たんぱく質分解酵素。しかし、酸生成率と“間隙”形成の間に相関性は認められなかった。さらに一部のたんぱく質分解酵素陰性の突然変異スターターの最近が間隙空間によって囲まれていた。一部で公表されている情報(Hassanら2002a)では“間隙”が細菌カプセル由来であり、カゼインが凝集するに従ってそのサイズが大きくなり、微生物細胞とそのカプセルから離れて収縮することが確認されている。このような“間隙”空間はヨーグルト構造的完全性と物理的特性に影響を与えるだけの大きさに達する事ができる。カプセル形成カルチャーで作ったヨーグルトを3次元(3-D)顕微鏡で見ると、大きな孔がカプセル化細菌細胞の存在と関係していることが分かった(Hassanら, 2002a,b)。Andersenら(2003)はCSLMを使用して離水の原因について研究し、この顕微鏡写真を角度測定法(AMT)を使用して複雑なスペクトルに変換した。;この結果は多変量データ分析に適していた。

 ヨーグルト製造中、特に乳ベースの加熱処理を85℃から95℃に上げて20分間で行ったときに、EPSカルチャーの発酵時間が短縮されるとLorenzenら(2003)は報告している。乳酸含量は85℃、90℃で加熱した乳では同じだが、95℃の乳では異なる;また乳ベースの加熱温度を上げるとL(+)-乳酸が増え、D(-)-乳酸が減る傾向があるが(非ロピカルチャーの場合)、この状況はEPSカルチャーでは逆になる。さらに、両カルチャーのたんぱく質分解活性は同じであり、乳ベースの加熱処理が高くなるにつれてわずかに低下した。Lorenzenら(2003)は85℃20分間の加熱処理がヨーグルトの最終的な特徴に関して最適であると推奨している(Zisu and Shah, 2003も参照)。

EPSの形成とそのヨーグルトにおける安定化メカニズムについて

Hassenら(2002a)は商業的に利用できる蛍光抱合体を持つ炭水化物結合たんぱく質であるレクチン抱合体をCSLMと組み合わせて使用し、完全に水和したヨーグルト中のEPSを観察した。EPSとたんぱく質はネットワークの孔の中に見られるEPSと一緒に分離されるように見られ、スターターカルチャーの高ロピ株で作ったヨーグルト中では、大量のEPSが製品の構造中にはっきりと確認された。このタイプのEPSはよく定義されているたんぱく質のネットワーク形成を阻害し、ゲルを攪拌することで、たんぱく質マトリックスが壊れる;結果として、EPS-EPSの相互作用が高まり、たんぱく質凝集物間の液相中のEPSの濃度が高くなる。EPS-EPSの相互作用がさらに起こった場合(すなわち、より多くのEPSとその産生タイプによって)、EPSの長い鎖(ストランド)が形成され、これはヨーグルト中のロピの外観、組織、硬度に反映されている。このような理由から、ヨーグルトはEPS産生、非産生スターターカルチャーがそれぞれ攪拌に対して異なる反応を示すと考えられるためropinessの試験の前に攪拌する。例えば、EPS非産生スターターカルチャーで作った攪拌ヨーグルトはホエイによって分離された密なカゼイン凝集物を含む顆粒構造を持つ密なたんぱく質ネットワークを生成する。

対照的に、攪拌EPSヨーグルトは液相中のロピ成分を濃縮し、物理的に離水を抑制し、水と結合する能力も有する。

 完全に水和したサンプルを調査するのに適した顕微鏡技術がないという問題もあり、ヨーグルト中のEPSの役割と機能については長年議論されてきた(Tamimeら,2007を参照)。EPS含有ヨーグルトのSEM画像から細い糸(フィラメント)(サンプル調整中に生じた人工物であると現在は考えられている)が細菌細胞とたんぱく質マトリックスに接着していることを示したが(図2.17 7.3)、この技術はEPSヨーグルトの微小構造の研究には適しない可能性がある。他のケースでは、SEMヨーグルトの公表、非公表の研究画像でEPSがスターターカルチャーに接着しているのを確認できなかった(Kalab、個人的な聞き取り)。これはカゼインミセルとEPSの違いを明らかにするのが難しかったためと考えられる。レクチンでラベル化したEPS含有ヨーグルトの顕微鏡写真からロピ成分とたんぱく質マトリックスが分離しており、ネットワークの孔にEPSが存在していることが明らかになった(A.N.Hassanら, 2001, 2003a,b)。ヨーグルト中のこのような分離効果から2つの成分間には両立不能性があり、その結果、より厚く密なたんぱく質凝集物となることが示唆される。ヨーグルト中のEPSの存在は凝集したカゼインミセル粒子間の相互作用を低下させ、その結果として、粘弾係数、降伏応力、硬さが低下する。EPS含有ヨーグルト中の血清相の高分子様挙動は硬度指標とヨーグルトの粘度を増加させる。

 低温走査式電子顕微鏡(cyro-SEM)はその十分に水和したサンプルの構造を視覚化する高い能力のため、ヨーグルト中のEPSを研究する上で役に立つツールのひとつである。cyro-SEMでは、ヨーグルト試料を液体窒素で‐270℃に凍結し、凍結状態で真空下のチャンバーに移して、粉砕し、エッチングして金でコーティングする;その後、真空下で冷蔵ステージに移して画像化する。この技術では、サンプルの脱水を最低限にして表面水を取り除くのに短い昇華時間が必要となる。しかし、長い昇華時間は凍結乾燥と似た効果を示し、人工物を誘導する。Cyro-SEMはコンパクトでよく定義づけされたたんぱく質ネットワークをEPS非産生カルチャー発酵乳中で確認し(EPS陽性ヨーグルトのCSLM画像でも確認)、そしてオープンな構造がEPS産生カルチャーの使用と関連していることを確認した。そのEPSは部分的または完全にヨーグルト微小構造内の孔を満たしており、EPSとたんぱく質マトリックスは分離しているが、2つの成分間に相互作用がある証拠が確認された。さらに、cyro-SEMはCSLMよりもEPSの塊の微小構造の詳細を提供し、EPSは硬い塊のように見えた。Hassanら(2003b)によるとS.サーモフィルスの´中程度‘のロピ株で産生されたEPSはよく定義づけされた多孔質のネットワークを形成するが、EPSの高いロピタイプは太いフィラメント(糸)がランダムに分布したより密度が濃く、絡まった外観をしていた。EPSヨーグルトのこのような違いはEPSのタイプの分子レベルの差異を反映しているかもしれない。

 10.3 ゲルの形成

最初に

ある乳製品製造中のゲル形成は基本的にカゼイン複合体の不安定化によるものである。このようなゲルは不可逆的で以下のグループに分類される:(a)酵素的ゲル、カルシウムイオン存在中にカゼインの凝集を許すようにκ-カゼインを不安定化する凝集活動の結果として形成される(b)熱誘発性ゲル、もしたんぱく質画分がよく安定化していない場合、欠陥としてUHT乳もしくは蒸発乳でゲル化が生じる(c)乳の酸発酵によって形成される酸ゲル、例えばヨーグルト(d)塩/熱-誘発性ゲル、通常リコッタチーズの製造中に生成される。しかし、ヨーグルトの製造にはたんぱく分解凝集酵素を添加しないが、ヨーグルトスターターカルチャー由来のたんぱく質分解酵素が同じ役割を果たしているとも言える。よって、ヨーグルトは単純に酸‐誘発性ゲルでなく、そのたんぱく質分解酵素がヨーグルトのゲル特性に関連する変性たんぱく質マトリックスに寄与していると理解すべきである(Tamime and Marshall, 1997)。

 酸‐と酵素‐誘発性乳ゲルの主な違いはWalstra and van Vliet(1986)とvan Vliet(1989)によって報告されており、それは以下の通りまとめられる:(a)酸-誘発性ゲルの透過性はゲル化後の最初の24時間には変化しなかった。一方、酵素-誘発性ゲルでは、同じ時期に連続的に透過性が上昇する(b)凝集酵素によって形成された乳ゲルは酸-誘発性ゲルに比べて頑丈である。;後者のゲルは壊れやすく、非常に簡単に粉砕される。Muir and Hunter(1992)は発酵乳の官能特性(匂い:強度、酸っぱい、フルーティー、バター様、酵母臭、クリーミー、甘い、他;フレーバー:強度、酸味、フルーティ、バター様、ランシッド臭、クリーミー、塩味、苦み、レモン味、甘味、ケミカル、他;後味:強度、苦み、酸味、その他;組織:硬さ、クリーミー、粘度、粘液性、カード特性、口内被膜、粉を吹いた状態、血清分離)をプロファイルしており、これらの特徴が消費者の受容性に重要であることを確認した。

 ヨーグルトの微小構造はよく研究されているが、30-45℃でのS.サーモフィルスとL.ブルガリクスによる乳ゲルの酸誘導のメカニズムについて公表されているデータはほとんどない。しかし、カゼインミセルは様々なたんぱく質画分を構成しており(2.9.3参照)、リン酸カルシウム架橋によってお互いに結びついている。乳の発酵中、ミセルまたはコロイド状Ca2+含量(そしておそらく比較的規模は小さいが、マグネシウムとクエン酸)はミセルのリン酸カルシウムの可溶化に応じてpHが低下するにつれて増加する(Pouliotら, 1989; Legraet and Brule, 1993)。カゼインミセルの物理的性質は酸誘発性ゲル内で主要な役割を果たす。

酸ゲル化の背景

酸‐誘発性ゲル中のカゼインミセルの分離と凝集についてはTamime and Marshallによってレビューされており(1997;このセクションはBlackie Academic & Professionalの認可を受けて複製されている)、彼らは以下のように報告している:

 HClまたはグルコノ‐δ‐ラクトン(GDL)を使用した乳の直接酸性化とカルシウム緩衝剤の添加はスターターカルチャーの代謝的干渉なしに制御された条件下で乳のゲル化を研究するために用いられる技術である(Roefら, 1985; Holtら, 1986; van Hooydonkら, 1986; Visserら, 1986; Roefs, 1987; Bremerら, 1990; Bringe and Kinsella, 1990, 1991; Banon and Hardy, 1991, 1992; Horne and Davidson)。

 乳の酸‐誘発性ゲル化におけるカゼインミセルの分離と凝集に関する研究から含まれるメカニズムとしてpH、イオン濃度、温度-依存度があることが示唆される(Aokiら, 1986, 1987a,b, 1988; Holtら, 1986; Singhら, 1996b; Teoら, 1996, 1997)。その大部分は、低pHでのカゼインミセルからのβ-カゼインの分離である(van Hooydonkら, 1986);しかし、ミセルからのその他のカゼイン画分(κ-、αs1-、αs2-)の分離がRoefsら(1985), Roefs(1987), Dalgleish and Law(1988), Wardら(1996)によって報告されている。これらの研究者は全て血清中の分離カゼインの含量と比率がpHと温度に依存していることも報告している。pHが5.6のとき、主要なカゼインは全て分離する傾向があり、この分離はサブミセルの内層よりも外層で起きた(van Hooydonkら, 1986)。ミセルのリン酸カルシウムの可溶化がpH5.3以下で起こり、Ca2++Mg2+と無機リン酸(Pi)+クエン酸(cit.)の間には直線的な関係性がある。カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンのカゼインへの結合はpH5.6~6.7の間においてpHに依存しないことが分かっている。カルシウムの結合にはカルボキシル基が含まれる;しかし、pHの低下も正に帯電したグループと負に帯電したグループ間の静電的相互作用によって空間能力に影響を与える(van Hooydonkら, 1986)。DalgleishとLaw(1989)はpH-温度-誘発性条件によるミネラル可溶化の類似するパターンを確認したが、ミセルからの塩イオンとカゼインの分離を描写する普遍的な関係性は示唆されなかった。pHの低下によって反発力が低下し、カゼインミセルの凝集を引き起こす疎水的相互作用を可能にする。しかし、脱脂乳を90℃で予備加熱しGDLのゆっくりとした加水分解によって30℃で酸性化すると凝集pHが5.5よりも高くなり、凝集時間が短縮された(Horne and Davidson, 1993; Cobosら, 1995a, 1995b)。

 再構成(還元)SMPまたはカゼインNaで作ったカゼイン溶液を静止加熱し、0-2℃で酸性化するとカゼイン粒子の物理的に安定な懸濁液ができた(Roefsら, 1990a, 1990b)。ゲル化は10℃以上で置き、ゲル形成後4℃まで温度を下げると以下の効果が認められた:(a)カゼイン粒子は複雑で不可逆的な構造を形成した(b)酸-誘発性ゲルが形成され、温度の上昇に伴って低下する活性化ギブスエネルギーにさらされる(c)ゲルが>10℃で良好な場合、動的係数、G′とG′′は少なくとも1週間、時間の対数で直線的に増加した。(d)カゼイン粒子の大きな、小さな塊から構成されるゲルネット―ワークは、ゲルネットワークは約1-10μm空隙空間を持つストランドとノードの形で集合していた。;これよりこのストランドとノードが約105N-1の係数を持つ濃縮たんぱく質(約25%)から作られていることが示唆される((Roefsら, 1990a, 1990b))。β-Lg、α-Laの画分(市販品)についても同様のゲル特性があることがRojasら(1997)によって報告されている。

 乳中のカゼインミセルの分離は塩溶液(CaCl2、MgCl2、NaCl)またはEDTA、ヘキサメタリン酸、シュウ酸、クエン酸、オルトリン酸のようなカルシウム緩衝剤といった他の手段によって引き起こされる(Holtら, 1986; Aokiら, 1986; Rollema and Brinkhuis, 1989; Bringe and Kinsella, 1991; Johnston and Murphy, 1992; Goddard and Augustin, 1995; Goddard, 1996)。遊離リン酸、リン酸カルシウム緩衝液に対する透析はカゼイン分離が起きる前にコロイド状リン酸カルシウムとPiの両方を低下させた(使用した緩衝液の種類に依存して)。Holtら(1986)はカゼインと無機成分間の結合が分裂した結果、分離が起こると報告している。しかし、イミダゾール緩衝液で透析した乳の限外ろか液中のカゼインミセルの分離はリン酸エステル含量に依存していた(Aokiら, 1988)。カゼインリン酸とカルボキシル基に関連するCa2+、Mg2+、Na+の添加はミセル間の反発水和力が低下することによって水素イオン濃度を上昇させる傾向があった。そのため、水素イオンがカゼインミセル中の結合Ca2+、Mg2+、Na+イオンと置き換わるために水和引力が凝集を引き起こす。リジン、アルギニン、ヒスチジン基に結合しているイオン(Cl、NO3、Br、SCN)もカゼインミセルのコロイドイオン間の反発水和力を低下させる(Bringe and Kinsella, 1991)。

 乳への直接酸添加によって引き起こされるゲル化のメカニズムに関して公表されている研究からいくつかの限定的な情報が提供されている;しかし、発酵乳製造向けの乳ベースは様々な方法で調整され、均質化と髙い加熱処理に晒されるため、発酵-誘発性のゲル特性は異なっているかもしれない。Roefsら(1985)は、ローヒート脱脂粉乳をこの研究で使用したことから次のように結論している:‘pHと温度という両方の点で、サンプルの履歴の結果の依存性のため、どんな変化が起きているかを正確に決定するのは骨の折れる研究になるだろう’。

 ヨーグルトゲルの形成が乳ベースの成分強化、均質化、加熱処理やエネルギーを必要とするスターターカルチャーによる乳糖の異化、その結果としての乳酸およびその他の成分の産生といった生化学的、物理的活動の結果であることは明らかである。このような効果は乳のゲル化を引き起こす。Heertjeら(1985)はGDLによる30℃での脱脂乳の酸性化中に、カゼインミセルがさまざまなpHで以下の変化を受ける可能性を報告している(Mulvihill and Grufferty, 1995も参照)。

●6.6-5.9、カゼインミセルが変化するエビデンスはない、大きさは0.1μmで乳中に均一に分布している。

●5.5-5.2、部分的なミセルの分解が起き、5.2以下で、カゼイン粒子が凝集しカゼイン粒子間に空間を持つ構造を形成する。;しかし、このようなミセル間の相互作用が起きたとき、乳ゲルは阻害されるべきではない。

●5.2-4.8、カゼイン凝集物の収縮が起こり、このような粒子サイズはもともとのミセルよりも大きくなる。

●4.5以下、カゼイン粒子の転位と凝集が起こり、ミセル鎖とクラスター(塊)から構成されるたんぱく質マトリックスの形成を引き起こす。

 Parnellら(1988b)は乳の酸-ゲル形成は低粘度の最初の遅滞期(ラグ期間)、急速な粘度変化の期間、高粘度の期間から構成される多段工程であると結論づけている。しかし、同じ研究者はカゼインミセルの分離がpH5.1で起き、コロイド状CaからCa2+への置換による影響を受けると考えられると報告している。pH4.8ではこのようなカゼインの副粒子は再結合し、特定の形や体積を持たないより大きなカゼイン凝集物を形成する。

酸ゲル化に関する最近の知見

 加工乳ベースのスターターカルチャー活性の結果として、酸度は数時間で>1g100ml-1(pHとして~4.4)に上昇し、乳たんぱく質が凝集してゲルを形成する(Lucey and Singh, 1997, 2003; Luceyら, 1998a,b; O’Kennedy and Kelly, 2000; Gastaldiら, 2003; Vasbinderら, 2003; Laligantら, 2003a,b; Remeufら, 2003; Nassarら, 2004; Yeら, 2004a,b; Panouilleら, 2004; Lucey, 2004; Robinsonら, 2006)。乳の酸-誘発性ゲル化に関するさらなる理解を得るために以下も推奨される(Tourneur and Guyonet, 1998; Warinら, 1998; Ikedaら, 2000; Shaker and Tashtoush, 2000; Jumahら, 2001; Gaoら, 2002; Famelartら, 2003)。

 乳中のpH低下の結果、カゼインミセルの表面電荷(ゼータポテンシャル)がpH6.7での高い負の電荷からカゼインの等電点(pH4.6)周辺ではほとんど電荷はゼロになる。表面電荷のこのような変化は以下の状態を許容する:(a)カゼインミセルの疎水結合と静電結合による凝集(b)“毛のような”構造(κ-カゼインマクロペプチド)がその立体反発力を保持するが、乳のpHが低下したときにわずかに“丸まる”かもしれない。ゲル形成を始めるカゼイン粒子凝集の最初の兆候は様々なpH値で起こる。:

●~5.3(加熱処理乳)

●~5.0(非加熱乳)(Robinsonら2006;WeiFengら, 2005も参照)

このような違いは高い等電点(pH~5.3)を持つβ-Lgによるものであり、これが変性したときに、乳の酸性化や加熱中においてκ-カゼインと関係する。結果として、凝集とゲル化はより高いpHで起こるようになる。それは、非修正カゼインミセルの前に不安定になるため、ゲル化を始めるκ-カゼイン/β-Lg複合体または粒子である。ヨーグルト製造に使用する培養温度(30-45℃)では発酵期間中にミセルからのカゼイン分離はほとんど起こらないということを記載していくことは興味深いことであろう(Lucey and Singh, 2003)。

 Horne(1999)はコロイド状リン酸カルシウム(CCP)が負に帯電したホスホセリン基間の中和架橋として振舞うためカゼインミセルの安定性の鍵を握る役割を果たすと報告している。非加熱乳でpH 6のとき、CCPの可溶化が乳の酸性化中に起きはじめ、その結果、露出したホスセリン残基間の静電的反発力が付随的に増加する(Lucey, 2002)。さらに、乳がゆっくりと酸性化されると、ほとんどすべてのCCPがpH5.1までに溶解し、非加熱乳ではpH <5.0になるまでにゲルが形成されるので、CCP欠乏カゼイン粒子(酸ゲルネットワークを形成する)は元々のカゼインミセルとはまったく異なっている(Robinsonら, 2006)。

 しかし、加熱乳では、pH5.3という高いゲル化点は一部のCCPが最初のネットワーク形成後もカゼイン粒子内から溶出し続けていることを意味していることから、酸-誘発性ゲルでは異なる状況が起こっている。CCPが失われたとき、ゲルネットワークの“弛緩”が起こり、その結果、ゲル表面上にホエイ離水が生じる。この“弛緩”状況を促す要素には以下のものが含まれる:

●乳の低温加熱処理

●乳発酵中の高い培養温度(Shakerら, 2001も参照)

●非常に低いスターター接種率

このため、pH5.0以下では、ゲル硬度が高くなり、pH~4.6(カゼインの等電点)で最大値に達する。乳ベースの高い加熱処理によってゲルはさらに硬くなり、ゲル化も早まる。さらに、ゲル硬度は時間とともに増え続ける。すなわち製品の冷蔵保存期間中でも(Lee and Lucey, 2003)。

さらに、発酵期間中のCCPの可溶化率と程度はヨーグルトや発酵食品の組織に異なるインパクトを与える。例えば同じ培養温度だが接種率が異なる条件(低、0.5ml/100ml、髙、4ml/100ml)で製造したゲルはゲルの硬さに違いが認められる:少ない接種率の方が弱いゲルとなる。この後者の効果は酸性化率(速度)が遅くなり、カゼインミセルからのCCPの分解にかかる時間が長くなったこと(特に乳のゲル化メカニズムの初期において)に起因する。わずかに低い培養温度(38℃)も発酵時間を延長するが、45℃で製造したものよりもゲル硬度は高く、より安定なゲルとなる。わずかに低い培養温度で生じたゲル硬度の改善はたんぱく質分子の膨張が増加し、カゼイン粒子間の相互作用が強まることによるものである(Lee and Lucey, 2003, 2004; Robinsonら, 2006; Lauberら, 2001も参照)。

酸-誘発性ゲル化への顕微鏡の使用

その高い解像度のため、SEMはゲル表面だけでなく内部構造の特性も見る強力な技術だが、乳ゲル化の研究ではそれほど重要視されていない。その問題点として:(a)電子顕微鏡の前に試料を脱水もしくは凍結する。この結果、内部構造、特に形成中の非常に弱いゲルを扱う時に、その初めの構造に大きな変化が起こる。(b)構造へのダメージや離水を引き起こすことなしに乳ゲルの形成中に試料を得ることが不可能である。にもかかわらず完全に水和した試料を試験する可能性からCSLMは乳中のゲル化プロセスを研究するための潜在的に有効な技術となった。そして、最初にHassanら(1995a,b; Andersenら, 2003も参照)によってリアルタイムでの乳の凝集とpHによる構造変化をモニタリングするために使用された。この技術は非常にシンプルである。;40℃で乳にスターターカルチャーを接種し、これをpH微小電極を挿入したガラス製のチャンバーに分注する。乳の温度をその状態で維持し、焦点面を発酵工程中一定に維持する;構造が発達しているときにpHを監視し、さまざまなpH値での画像を記録する。よって、pHの変化とヨーグルト微小構造の変化の同時モニタリングが可能となる。乳中のカゼインミセルはCSLMの2つのモードで確認できる。まず、カゼインミセルと細菌細胞はレーザー光線を反射する能力があり、この特性は乳および乳製品中のミセルの確認に利用できる。次に、たんぱく質に特異的な蛍光着色料を使用して乳のたんぱく質を染色するという別のオプションがある。Hassanら(1995a,b)によって報告されている研究ではGDLによって酸性化した乳の微小構造の発達を、反射モードのCSLMで確認したところ、カゼインミセルによって遮られるため見ることが出来なかった非カプセル形成細胞、白い点として観察できる乳中のミセル、黒い背景として観察できる乳血清から構成されていた。結果として、以下の3つの段階が確認された:

●第一段階(pH6.6-5.5)-カゼインミセルの大きさに変化は見られなかった

●第二段階(pH5.5-5.3)-カゼインミセルはより荒くなり、これは凝集の発現を示唆している

●第三段階(pH5.3-5.0)-カゼインは非反射相(血清)空間によって分離された大きなミセル状の凝集物としてあらわれ、これは3-Dネットワークの発現を示唆している。この段階では、カゼイン凝集物内の収縮が起こり、より広い非反射空間(血清の穴)とより細いストランド(良く定義されたネットワーク)を介して結合したたんぱく質クラスターを形成する。

 乳成分のゲル化(酸性化、凝集剤(レンネット)の使用やホエイたんぱく質の加熱ゲル化)を研究するこれに代わる貴重な手法が超音波分光法である(Corredigら, 2004)。彼らは酸-ゲル形成がゲル化プロセス発現の前にカゼインミセルの構造内で起こる変化のために超音波の速度および減衰パラメーターに非常に小さな変化を引き起こすこと、しかし乳のレンネット添加や加熱によるゲル化はよりはっきりと確認されることを報告している。同じ研究者はこのような変化が研究されたあらゆるシステムで確認されたが、超音波パラメータの変化をタンパク質もしくはたんぱく質粒子の特定の分子もしくは立体配座の効果のせいにするのは現時点では難しい、とも結論している。

 全体としてはκ-カゼインとのα-La/βLgの相互作用(-SHと-SSで架橋された)が部分的にミセルを保護すると結論または示唆することが妥当である;しかし、乳中のpHが低下するにしたがって、ミセルの不安定化もしくは崩壊が起き始める。結果として、ゲルネットワークもしくはたんぱく質マトリックスはミセル鎖と(又は)クラスターから構成されており、その中に水相を含む乳ベースのその他のあらゆる成分を取り込んでいる。

11.1 冷却

ヨーグルト製造は生物学的工程であり、冷却はスターターカルチャーとその酵素の代謝活性をコントロールするために用いられる一般的な方法のひとつである。凝集物の冷却は製品が求められる酸度(製造するヨーグルトの種類、冷却方法、熱交換の有効性に依存する)、たとえば約pH4.6、乳酸0.9%に達した直後に開始する。

 ヨーグルト菌は約10度で生育活性が制限されるため、冷却の主要な目標は製品の最終酸度を制御できるように出来るだけ速やかに凝集物の温度を30-45℃から10℃(最も良いのは約5℃)に落とすことである。ヨーグルトの冷却工程は一相、二相冷却を使用して実行される。

11.1 一相冷却

この工程では凝集物はフレーバー成分の添加や容器包装の前に培養温度から直接<10℃に冷却される。この手法は冷却した凝集物が約20℃のものよりも安定であり、次工程(フルーツ/フレーバー添加や商品容器充填の際の機械的処理)で起きるダメージも少ないという仮説に基づいている。しかし、実際には、約20℃の凝集物は粘度が低く、その結果、製品をある加工設備から別の設備へ最小の構造的ダメージで移送できる。そのため、一相冷却は大規模製造では幅広く使用されていない。

 11.2 二相冷却

冷却の第一相ではフレーバー成分の添加や容器充填の前に凝集物の温度を30-45℃から約20℃に低下させる。冷却の第二相は冷蔵倉庫内で行い、ここでヨーグルトは<10℃まで冷却される。そのため、ヨーグルトの最終冷却は、製品容器の中で行われ、凝集物は静置されるため、ヨーグルトの粘度は1-2日の保存後に改善する。

 この冷却方法は受容できる粘性のヨーグルトを製造するために産業界で幅広く用いられている。しかし、攪拌ヨーグルトの物理的特性に対する冷却率の影響はDanish Dairy Reserch Institute(Anon, 1997)で評価されており、彼らは以下を推奨している:

●攪拌ヨーグルトの品質は24℃でヨーグルトを包装し、その後、容器内で製品を最終冷却することによって大きく改善する。

●ヨーグルト品質に最大の効果を与えるために、冷却の2相目は可能な限りゆっくりと12時間以上かけて行わなければならない。

●ヨーグルト乳の濃縮(蒸発や約10%の水分除去による)はヨーグルトの品質を最も改善する要因として確認されている。

●推奨される手順は以下のとおりである:(a)冷却を開始する前に、混合物が均一化されるまで培養タンク内でヨーグルトを攪拌する(b)ヨーグルトを24℃まで冷却(最初の冷却)し、容器に包装する(c)容器に入ったヨーグルトを2段式温度制御装置(最初は7-10℃で5-6時間、次に残りの冷却期間で1-2℃の温度)によって制御された冷凍庫内で冷却する(d)容器に入ったヨーグルトを均一に冷却するために冷凍庫内での強制空気循環が強く推奨される、(e)製品を詰めるクレートのデザインと構造および材料は容器に入ったヨーグルトの冷却率に影響を与える。

 しかし、産業界ではこのような提案を十分に適用していないように思われる。大規模設備で一般的な実践方法は容器に入ったヨーグルトを冷蔵冷却倉庫に入れる前に冷却トンネルで中間ショック冷却するという方法である(Tamimeら, 2001; Anon, 2003a)。White(1995)は以下の基本相からなるヨーグルトの多段冷却工程を記している。:

●42℃から30℃へのショック冷却

●30℃から20℃へのDysgenticalステージ

●14.5℃のLact-less相

●2-4℃の保持相

この手法はAnon(2003a)によるシステムをわずかに修正したものだと考えられるが、もし製品包装前にこのステージの一部が兼ね備えられない場合には産業レベルでの使用は難しいかもしれない(第3章参照; Tamimeら, 2001)。

 さらに、ヨーグルトの冷却は相対的に高いpH値で始まるため、冷却率(遅い、または速い)が最終酸度を決定し、冷却率は乳ゲルの構造に影響を与えるということは記しておくべきだろう。非常に速い冷却はホエイ離水を引き起こすが、これはおそらくたんぱく質マトリックスが非常に早く収縮したためであり、言い換えるとその親水的特性が影響を受けたためである(Rasic and Kurmann, 1978)。

 保存期間中の後-発酵による乳酸を生成しない、または低濃度しか生成しないスターターカルチャーを使用することは可能だが、~<1.0℃でヨーグルトを保存することが賞味期限内の製品中の酸度レベルを制御する現在の実践的な方法である。ヨーグルトへのキトサンの添加がヨーグルト中の酸生成を制御する効果的な方法として示唆されており、保存期間中の生き残ったスターターカルチャーの活性を制限する(El-Khair and Mahmoud, 2003)。ヨーグルトのスターターカルチャーの代謝活性を制御するこの手法は将来的な可能性はあるかもしれないが、ヨーグルト製造に使用される前に各国の法定基準によってキトサンの使用が認められなければいけない。

12 フルーツ/香料/色素の添加

主要国における一人当たりのヨーグルトの年間消費量の増加はフルーツ/フレーバーヨーグルトの供給量が右肩上がりであることと、製品の多様化によるものである。例えば英国では、ヨーグルトの小売経済価値は1981年の1.03億ポンドから2002年の814ポンドに増加しており、これは7.9倍の成長率となる(Anon, 1984a, 1991a; 第1章も参照);この売り上げの90%がフルーツ/フレーバーヨーグルトである。

 多種多様なフレーバー原料(フルーツ、天然香料、合成香料)が現在、ヨーグルトに添加されており、表2.22に利用できるフルーツ添加物を示している。これを見ると定番のフルーツフレーバーの数は驚くほど少なく、残りは単に製品の人気拡大のためにヨーグルト製造者によって紹介されているものであることが分かる。ヨーグルト産業で使用されているフルーツ/フレーバー原料の種類は以下のとおりである。

12.1 フルーツ

新鮮なフルーツをフレーバーヨーグルトに使用することができるが、その季節的な利用可能性と変化しやすい品質のため、産業界での使用は非常に限定されている。

そのためフルーツ加工品がより幅広く採用されており、特に望ましいフルーツの混合物が消費者の求める規格に合致するようにフルーツ加工機によって標準化することが出来る。一般的にヨーグルト向けのフルーツプレパレーションはフルーツ、糖(液糖、人口甘味料)、安定剤、香料、色素、食品規格のpH調整剤で構成されている(Hegenbart, 1990; Mogensen, 1995; MacDougall, 1998; Unterholzner, 1999; Bodicot, 2003)。フルーツのこのようなタイプはフルーツプレザーブ、缶入りフルーツ、冷凍フルーツ、その他のフルーツ製品に分類される。

フルーツプレザーブ

フルーツプレザーブは最終製品の構成が(g/100g)、フルーツ70、水30になるように少量の液糖内で加工される。この製品は、色素や保存料を添加しないため、純粋、天然という風にうたえるかもしれない。加工技術に依存して、製品には高い芳香性が得られるが、どのフルーツもその天然の色は加熱処理の影響で鈍くなる。このような製品は高価なため、ヨーグルト産業での全体的な需要は限定的である。

缶入りフルーツ

缶入りフルーツは、ある添加物、すなわち(a)色素(フルーツの天然色の損失を補う)(b)安定剤(加工フルーツの構造を保護し、フルーツ製品の粘度を改善する)(c)香料(最終製品の消費者へのアピールを高める)の添加を認めていることを除けば、上述した製品と類似している。

 缶入りフルーツは特別にラッカー塗装された缶、プラスチックドラム、Polyliner、ラミネートプラスチックバッグ(Mora, 1996)またはステンレス製のタンクに包装される。糖濃度は30-35g/100gに維持し、pHは<3に調整する。後者の要素は腐敗から製品を保護するが、ホエイ分離という問題を引き起こす可能性がある。さまざまなフルーツの加熱処理のために異なる時間-温度条件が用いられ、このような製品の規格は‘無菌’かフルーツ加工業者によって提案されている基準である(第10章参照)。フルーツの加工は大規模な製酪組織で行われることもあるが、大半のヨーグルト製造メーカーはスペシャリストであるフルーツ加工業者に依頼している。

冷凍フルーツ

冷凍フルーツは必要とされるまで約-20℃で保存される。それから製品を解凍し、甘味料を加え、最終的に加熱処理する。フルーツの酸度に依存して、加熱温度は60℃から95℃の範囲で変化する。冷凍工程でフルーツの構造はダメージを受けるので、損傷が最小になるような注意を働かせる。つまり、ある範囲の熟度でフルーツを収穫する、急速冷凍する、加熱時に安定剤を添加する。解凍/加熱中に起こる褐色化反応(酵素的または酸化による)を相殺するために加工中に色素を添加する場合もある。冷凍フルーツの最終加工は乳製品工場で実施され、このような手法は大規模工場で魅力的である(Maestrelli, 2002も参照)。

 フルーツ加工で最近開発された方法としては‘osmodehydrofrozen’の使用があり、これは糖液の浸透圧処理、Awを減らすための空気を制限した脱水、凍結、保存から構成されている(Torreggianiら, 1988)。この技術で加工したフルーツでは保存料が必要なくなり、天然のフレーバーと色が維持され、受容できる組織となる(Erbaら, 1994; Cataneoら, 2002a; Brimarら, 2003)。さらに、このようなフルーツや乾燥フルーツ(Mastrocolaら, 1997)をヨーグルトに添加すると、ヨーグルトゲルから遊離水または非結合水の一部を吸収する傾向があり、そのため保存中の製品のホエイ分離の低下を助ける。Giangiacomoら(1994)はosmodehydrofrozenアプリコットまたは高固形分の桃の角片を添加したヨーグルトの硬度が有意に改善したと報告している;osmodehydrofrozenフルーツの再水和特性は液糖中のソルビトールの存在によって高まる(Erbaら, 1994)。

その他のフルーツ製品

これらには次のものが含まれる:(a)最終製品がペースト状になるように均質化したフルーツピューレ;フルーツの形は完全に失われ、繊維物質も除去される(b)固形分はなく甘味料を加えた透明な製品であるフルーツシロップ。これはフレーバータイプの静置ヨーグルトの製造やドリンクヨーグルトに使用される;静置ヨーグルトではシロップは包装、培養前の乳酸菌接種ヨーグルトに添加される(c)ある種の静置ヨーグルトの製造にのみもしくは他の加工フルーツ源がない場合に使用されるジャム。ジャムは高粘度によってヨーグルトと混ざりにくくなるため攪拌ヨーグルトへのジャムの添加は望ましくない。;混合時間が長くなるとホエイ分離が起きたり、ヨーグルトの粘度が低下する。しかし、ジャムをフレーバータイプの静置ヨーグルトに使用する場合、乳酸菌接種ヨーグルトで容器を満たす前に製品容器に必要量のジャムが蓄積できるように特別な測定装置を充填機に導入しなければならない。

 人口甘味料を組み合わせることで低糖ジャムを作ることができる。;しかし、キシリトールとソルビトールは組織に影響を及ぼし、増量剤としてのマルトデキストリンの使用は製品の外観や風味に影響を与える(Hyvonen and Torma, 1983a)。このようなジャムの品質維持についてはHyvonen and Torma(1983b)によって研究されており、彼らは以下のとおり報告している:(a)ソルビトールとキシリトールで作ったジャムは品質が良く、ショ糖をベースにしたジャムと類似していた(b)果糖、高果糖ジャムの保存中に色、風味、嗜好性の劣化があったが、キシリトールを加えると、このような欠陥は最低限に抑えられた(c)キシリトール⁻マルトデキストリンジャムの品質の結晶化と劣化が保存中に認められた。

 バルクフルーツ(フレッシュタイプ、亜硝酸化タイプ、凍結タイプ)は加工前にすでに異物(野菜、虫、石、金属、小枝)やカビの生えた、傷ついた、未熟なフルーツを除去している。しかし、残留農薬、一般微生物学基準、望ましくない添加物の存在は加工向けのフルーツを受け入れる前に考慮しなければならない。虫のかけらについてのヨーグルトに使用されるフルーツ252サンプルの調査がLocatelli(1988)によって報告されており、彼らは大粒の果物の15%、ベリーの58%で収穫後に虫に汚染されていることを確認した。

 フルーツの加熱処理は85℃10分間のバッチ式加熱か100℃の連続式加熱によって行なわれる(G.Spinks個人的な聞き取り; Spinks and Davey, 1970; Szemplenski, 1981)。バッチ加工用のタンクは加熱中のフルーツのダメージが最小化されるように設計されていることが重要であり、一方、表面-研ぎ出し熱交換器が連続方法で使用されている(Sommi、1996も参照)。フルーツ加工の将来的な開発手法としては、オーム加熱、高圧もしくは超音波加熱(Langley-Danysz, 1996)、放射線殺菌(Kiss, 1975)があるが、その使用は現時点では限定的である。しかし、加工フルーツを無菌容器にホット充填すれば保存料の添加なしに製品の賞味期限を延長できる(Kivi, 1981; Eller, 1988; Ehrhardt, 1991; Anon, 1993c)。ガスフラッシング/修正大気包装に窒素を使用することで分かるように(Anon, 1993b)。

 最近、10~17㎜の大きさのいちご、パイナップル、アプリコット片の加熱処理の貴重な新しい検証方法、すなわち時間-温度積分器の利用、が提案されている;Bacillus amyloliquefaciensのα⁻アミラーゼがシリコン粒子の中心に注入された後、マーカーとして使用され、加熱処理前のフルーツに添加された(Tucker, 1999)。加熱処理前後のα-アミラーゼ活性をP-値に変換し、ヨーグルト製造に使用されるフルーツ向けに90℃160秒の最小P値を計算した(Tref=90℃、Z値の動的係数=10℃)。この手法はヨーグルト製品向けフルーツに使用されるオーム加熱工場でうまく活用されている。

 フルーツに推奨される加工法には以下のものが含まれる:(a)りんごペクチン(Weiss, 1983)、もしくは低メトキシペクチン、キサンタンの混合物(Leipold, 1983)、hydroxypropylatedスターチ(Walter, 1996)、Ca2+塩とイナゴマメ(オプション)(Kratz and Dengler, 1995a-c)で標準化したアミド化ペクチンを使用した製品の安定化(b)ヨーグルト混合前にシリアル/ミューズリを油中水膜型エマルション処理するとサクサクとした食感が維持される(Kaufmanら, 1990)(c)加熱処理前に塩酸カルシウム溶液(0.3g/100g)中に桃のスライスを浸すと新鮮な硬さが維持される(Kim and Choi, 1983)(d)刻んだレーズンをヨーグルトに10g/100g添加したところチリの消費者に高い評価が得られたが、レーズンのどの種類よりも特別な品種の使用に依存していた(Nichollsら, 1984)(e)加熱処理前のいちごの真空注入(VI)はフルーツの組織を改善し、ヨーグルトに添加したとき、その製品はVI処理していないフルーツ入りのヨーグルトに比べて風味パネリストによってより受容された(Cataneoら, 2002b,c, 2003)。

 果汁はヨーグルト製造には広く使用されていないが、中国では加熱処理した(80℃30分間)パイナップル果汁とイチゴ果汁のブレンドをUHT処理した乳ベースから作ったヨーグルトに混合している。;この製品は非UHT乳で作ったヨーグルトに比べて色、風味、組織が良くなっていると主張されている(SuChunら, 1999)。しかし、SMPや安定剤の添加を含む、乳ベースのさまざまな処理もオレンジジュースヨーグルトの製造において中国で報告されている(ShuLin and YouLiang, 2004)。トルコとスペインでは高品質の“フルーツ”味ヨーグルトを濃縮グレープ、マルベリー果汁もしくは精製グレープ果汁を使って製造することに成功した。:しかし、濃縮グレープ果汁で作った製品(例えば10g/100gの添加率で)は3g/100gのショ糖を含むコントロール品に比べて甘かった(Ozturk and Oner, 1999; Calvoら, 2002; Celik and Bakirci, 2003)。さらに産業界のニーズに合うために設計された迅速官能分析技術である’Flash’プロファイルがいちごヨーグルトの評価に使用されており、その手法は従来の官能評価法と比べてわずかに識別性が良くなる(Delarueら, 2003; Delarue and Sieffermann, 2004)。

 ちなみに、ヨーグルト中のフルーツ含量を測定する特定の方法はないが、最近、Fugelら(2005)がいちごヨーグルト中のペクチン、ヘミセルロース、セルロース含量の算出に基づく方法を開発した。製品をまず市販のプロテアーゼ調整剤によって酵素消化させ、アルコールに不溶な残留物を分離し、次に上述した多糖類に分化した。ヨーグルト中のいちご含量は重量測定法で定量化したセミセルロースに基づいた。この方法の正確性は良好だった;例えば添加したいちご含量が少なくなるほど偏差は大きくなった。この方法はフルーツプレパレーションでより正確であるが、ヨーグルト中のフルーツ含量の測定にも使用できる。

 いちごヨーグルトのガス/マトリックス界面でのフレーバーリリースについてNongoniermaら(2006)によるモデルで研究されており、彼らは以下のように結論している:(a)ヨーグルトの芳香成分の保持はたんぱく質の物理化学的相互作用と分散した脂肪中の可溶化によって引き起こされた(b)低脂肪ヨーグルトへの糖液の添加によって芳香成分の保持がわずかに高まったが、これはペクチンとショ糖の相互作用によるものだった(c)全脂肪ヨーグルト(5g/100g)中で、芳香成分は溶解しており、その放出(リリース)は分散している媒質の組成による影響を受けなかった(d)4℃から10℃への温度上昇によってリリースされる芳香成分全体の含量が高まった。

12.2 香料

フルーツプレパレーションの加熱処理の結果、フレーバー強度は低下するため、このような損失を補うために香料の添加が実践されている(Nursten, 1982, 1992; Werry, 1982; Heath, 1983; Cowle, 1985; Hudson, 1986; Hodrien, 1990; Jaubert, 1992; Fisher and Scott, 1997; Marsili, 2002; Reineccius, 2005)。香料はその原料に依存して3つのカテゴリーに分類される。

●天然香料、香味物質(植物由来)

●天然⁻同一香味物質(植物由来)

●人口/合成物質(化学品由来)

上記の分類はシンプルに見えるが、実際は使用可能な香料のリストは数千に達する。化学/合成由来の香料成分はときに天然成分と類似した風味を付与するために使用される(表2.23参照)が、認可された成分のリストは国によって異なっている。英国では、SI(1995)が食品に添加できる香料のリストを含んでいるが、しかし、FAO/WHO(1990)によると、フルーツ、フレーバーヨーグルトとその関連製品に使用が認められている人工香味物質に関するリストの提供は必要とされてない。代わりに、製造管理および品質管理に関する基準(GMP)によって最大使用量が制限されており、これは問題になっている添加物が技術的な側面に関してはヨーグルトを含む加工食品において自己制限的であることを意味している。つまりGMPも製造中に加工食品に加えた物質量が目的を達成するのに必要な量(その添加物が食品への添加が認められている)を超えてはいけないということを意味している(FAO/WHO, 1990)。このような成分はフレーバーヨーグルト(静置式、攪拌式)、ドリンクヨーグルト、フローズンヨーグルト、おそらく乾燥ヨーグルトの製造でも使用されている。アルコール飲料を含む様々な加工食品がフレーバーヨーグルトに使用されており、これらの一部には以下のものがある:

●甘味製品(はちみつ、メイプルシロップ、バタースカッチ)

●ナッツ(ココナッツ、ヘーゼル、ブラジル、ウォルナット)

●シリアル(ミューズリ)

●野菜もしくはそのペースト(きゅうり、トマト、セロリ、にんじん、赤唐辛子、サヤマメ)

●その他(コーヒー、モカ、スパイス、パプリカ、バニラ、芳香成分、乳由来の香料)(Gassenmieir, 2004; Sibeijnら, 2004)

風味は食品の品質の重要な側面であり、食品中の化学成分によって引き起こされ、おそらく加工中に化学成分同士の相互作用やスターターカルチャーやその酵素の活性によって生じする。後者については第7章で議論されているが、風味の化学に関してさらに追及したい場合には以下を推奨する:Birch and Lindley(1986), Heath and Reineccuis(1986),Acree and eranishi(1993), Ashurst(1999), Bauerら(2001)。にもかからず、ヨーグルトの風味添加物としていくつかの特定の成分が提案されている。:(a)ベリー風味を調節、高めるための置換テトラリンもしくはインダンを含む着香剤、香料組成;推奨添加率はフレーバーヨーグルトで0.1-2.0μg/gだった(Gonzenbach and Ochsner, 1983)(b)ホップから得られるフムロンをヨーグルトのフレーバーエンハンサーとして約10μg/g使用する;この成分はフレーバーを増強する一方でフルーツの甘味をわずかに抑制する傾向が見られた(Klusters and Paul, 1987)(c)ハーブ(Anon, 1993a)、ゼラニウム、エルダーフラワー、りんごの花、ローズヒップ(Winwood, 1987)など普段あまり使わない香料のヨーグルトへの使用。しかし、ビルベリーとブラックカラント抽出物は優れた抗酸化源であり、乳や発酵乳に使用されている。;これらの抗酸化作用は容器材料(ガラスもしくは厚紙材)、照明(暗いもしくは蛍光灯)、保存期間(Skerdeら, 2004)による影響を受けなかった。

2.12.3 着色料

製品をより魅力的にするために色素をフルーツ、フレーバーヨーグルトに添加する(Paschら, 1975; Ulberthら, 1993)。この活性物質は天然由来か由来がはっきりしているかキャラメルか人工物かもしれない(Collins and Timberlake,1993)。食品添加物として使用される色素のリストは国によって異なっているが、ある国で認められた色素が他の国で認められたものとは同じでない可能性があることは指摘しておくべきだろう。しかし、FAO/WHO(1990)は色素が主にフルーツ/フレーバー原料由来であると仮定して、使用が認められるべき色素とその濃度に関するいくつかのガイダンスを提供している(表2.24参照)。E-ナンバーを含む食品に使用できる天然色素のリストが提供されており(Anon, 1993d)、一方Hod(1995)はコーシャー対応の食品向け色素原料をリスト化している。

 南アメリカで許可された14の食品色素がヨーグルトの製造で評価され、認可量の75%が添加された(Venterら, 1988);加熱と乳の発酵が色素の漂白を引き起こす工程であることが分かった。Otte(1988)は乳ベースの脂肪含量が増えるにつれて、色強度が低下すると報告している。一方、色合いと彩度はほんのわずしか影響を受けなかった。サンダルウッド(Pterocarpus santalinus)とローゼル(Hibiscus sabdariffa)のフラボノイドがヨーグルト向けのフルーツピューレの天然色素の増強のために使用されている(Labatut, 1989)。

最近の研究で、Calvoら(2001)がヨーグルト中のフルーツ(いちご、森のフルーツ、オレンジ)の色強度が製品の色と甘味に関する味覚パネルの知覚に影響を及ぼすことが確認されたと報告していることは興味深い。例えば、森のフルーツのフレーバーを使用した時、色素濃度が高くなるほど、甘味の感覚が強まり、その他のフレーバーでは色素の濃度が高まるほど、色強度の感覚が強まった。

13 包装

13.1 はじめに

包装はヨーグルト製造において重要な工程であり、Paine(1967)は食品包装の目的を以下のように定義している:‘包装は最終消費者に無傷かつ最低限のコストで製品を安全に届けることを保証する手段である’。

 一般的に、あらゆる食品包材の規格には以下の情報が含まれるべきである:

●物質の毒性;

●汚染レベル;

●水分に対する抵抗性/水蒸気の透過性

●N2、CO2、O2といったガスの透過性(前者2つはガス置換包装で重要である)

●揮発性の芳香成分/環境中の化学物質の透過性

●可視光もしくはUV光への透明性

●土/微生物の透過性

●包材から製品への分子の移動

全てではないが、上述した包材の規格のほとんどはヨーグルト包装にも適用できる。しかし、次の章で確認できるように、多くの異なる包材があり、食品包装の理論と実践に関するいくつかのえり抜きの出版物がPaine(1969), Sacharow and Griffin(1970), Griffinら(1980), Peleg(1985), Paine and Paine(1992), Mathlouthi(1994), Briston(1989), Jenkins and Harringtion(1991), Stollmanら(1994), Soroka(1995), Colesら(2003)によって報告されている。定期的にIDF(国際酪農連盟)が乳および乳製品の包装に利用できる技術情報を更新したモノグラフ(論文)を発行しており、発酵乳に関する特定の側面についてはFluckiger(1976, 1980, 1982)、Odet(1984, 1988, 1995)、IDF(2000)によって報告されている。

 

13.2 包装の機能

ヨーグルトが無傷で消費者に届けられた場合、包材は重要な役割を果たし、商品パッケージは以下の要求を満たすように設計されるべきである;製品を保護する、取扱いが簡単、パッケージの絵柄が受容できる。 

製品の保護

ヨーグルトは非常に傷みやすい製品であり、容器の目的は環境からヨーグルトを保護することである。環境とはすなわち(a)土もしくはその他の異物(b)微生物(細菌、酵母、カビ)、これらはヨーグルトの保存品質に影響を与える(c)酵母やカビの発育を助け、製品を台無しにするガス(例えば酸素)(d)フルーツ/フレーバーヨーグルトの変色、脂肪の酸化を引き起こす光。

 製品の保護にはこぼれや中身の盗難、蒸発による損失を防ぐ目的もある。後者の側面は、水分の損失は製品の化学組成に影響を与えるだけではなく、パッケージで宣言している重量から逸脱し計量機関で問題になる可能性もあることから、二重の意味で重要である。さらにパッケージは揮発性フレーバーの損失または好ましくない臭いの吸収を防がなくてはならない。しかし、Bosset and Fluckiger(1986a,b,1987), Bossetら(1986a,b, 1995)による詳細な研究は光や温度といった環境側面が与える様々な容器(ガラス瓶(色つき、透明)、ポリスチレンカップ(透明着色もしくは無着色)、段ボールスリーブで上包みした非透明のもの)で包装したヨーグルトの品質へのインパクトを評価し、以下の通り示唆した。

●使用した包材の種類によって保護効果は異なっていた。光からの保護は酸素からの保護よりも製品の品質に影響を与えることが分かった。しかし、これらの要素はシナジー効果をもっている:O2の包材の透過率はロングライフもしくはパスチャライズ殺菌ヨーグルトでは非常に低くすべきである。

●透明無着色ガラス瓶またはポリスチレンカップは光の保護効果が最も低かった。後者の包材はガス透過性も高かった。

●商品陳列棚で包装容器がどのように保存されるか(on its side, upright, upside down)に応じてアルミホイルのカバーやポリエチレン蓋の製品の効果的な保護効果が低下する。

●製造中に無菌設備がない場合、8℃のヨーグルト保存は16-18日を越えるべきではない。;蛍光照明、例えばPhilips TL82は日光に比べてダメージが少なかった。

●製品中の光崩壊の程度を測定するために使用した分析手法の感受性が変化したことも記載されている。

取扱いのし易さ

ヨーグルトおよびその関連製品は通常粘性のある液体の状態で存在している。製品容器は工場内、保存中、輸送中、スーパーマーケットや店舗での販売期間を通じて製品の取扱いが簡単にできるようにしないといけない。

メッセージの提供

容器の外側(表面)の印刷、その他のグラフィック処理は製品に“ブランドイメージ”や潜在的な購買者の購入を促すメッセージを提供するのに役立つだろう。これには食品表示のためのガイドラインで提案されている以下の情報が含まれる:

●製品名

●製造者の名前と住所

●製品のおおよその化学組成、栄養データもしくは重量順にリスト化された原材料(Mantoanelliら, 1999も参照)

●賞味期限

●レシピや他の利用方法の提案

●製造バッチが確認できる製品コード(Chidgey, 2001; Anon, 2002, 2003d)

その他の機能

一般的に食品に直接接触する包材は無毒性であり包材と食品製品の間で化学反応が起きてはならない(Crosby, 1981; Jensen, 1972を参照、さらなる情報は2.13.1に)。このような理由から、乳業界ではプラスチックが幅広く使用されており、ヨーグルトが酸性のため、アルミホイルが蓋に使用される(もしプラスチック製の“プッシュオン”蓋がより適している場合を除いて)。

 このような一般的背景に対してヨーグルトのマーケティングには以下のアプローチが発展している。

 13.3 包材の種類

ヨーグルトの包材は基本的に2つのカテゴリーに分かれる:まず、ユニット(単位)容器は実際にヨーグルトと接触する容器であり、理想の包装に関する上述した規格がこのような容器に適用できる;2つ目の、外側もしくは輸送容器はヨーグルトに接触していないが、小売りチェーンでのユニット容器の取扱いと販売を円滑にするために使用される(Zhao, 2004, Robertson, 2005を参照)。

 さまざまなタイプのユニット容器が市場で利用でき、このような包装は容器の物理的強度に依存して3つのタイプに分類される。

硬質ユニット容器

ガラス瓶は一部の国でヨーグルトを包装するためにいまだに使用されている(フランス、東欧、中東のある地域など)(Fluckiger, 1980)。ガラスは優れた包材であるが、製造コストが高い事や´片道旅行′を好む現在の市場トレンドによってその使用は限定されている。にもかかわらず、ガラス瓶は非常にポピュラーだったし、今日でさえ、広口のガラス瓶はフレーバーヨーグルトにとって最も魅力的な包装形態である。;閉封は金属製のプルリングかスクリュー式の金属キャップによって行われる。ガラス瓶にアルミホイルラミネートをヒートシールすることを含む閉封システムが様々な市場で利用できる。

 自発的に空容器をリサイクル、回収するシステムはガラス瓶の利用に影響を与え、いくつかの研究がスイスとドイツで行われている(Anon, 1983b; Berndt, 1984; Regez, 1984)。環境改善と消費者啓発への圧力の増加はヨーグルト包装への返品可能なガラス瓶の利用を増やすかもしれない。

 土器は泥から作られ、ヨーグルトに接触している容器の一部は通常光沢がある。この容器は再利用可能で静置ヨーグルトやダヒを包装するために中東とインドでそれぞれ使用されている。培養時間中、このポットは表面上に表皮が形成されるように蓋をしない状態を保ち、冷却工程前に、輪ゴムを使用して硬く結んだ羊皮紙で蓋をする。このような容器は高い衛生基準を満たさなければならなかったり、製造コストの問題から広く使用されていない。そのため、Singh(1978)はダヒに使用する土器ポットの細菌叢について評価し、総菌数も大腸菌数も高いことを報告している。スタフィロコッカス属と酵母、カビも普通に存在していた。このようなポットの微生物学的基準の改善は最低2分間沸騰水に浸すか250-500μg/gの塩素に浸すことで達成される。しかし、このような土器製造に使用される泥は鉛を30-100μg/g含んでいる可能性があり、結果的に、この土器で作ったセットタイプのダヒの鉛含量は1.743μg/gだった。このような鉛含量はアメリカの食品医薬局(FDA)で提示されている許容限界(7μg/g)以下ではあるが(Nagaraja and Vishweshwaraiah, 1986)、これは土器の使用に対して影響を及ぼす要素の一つである。

 ヨーグルトベースの製品のいくつかのタイプ(例えば乾燥ヨーグルト)の包装に推奨されているその他の硬質容器は金属缶、アルミホイルラミネートパウチである。製品の保持品質はガス置換(窒素もしくは二酸化炭素)によって改善し、窒素がより幅広く使用されている。このような金属容器は全粉乳の包装に使用されるものと類似している。プラスチック層で内部がコーティングされた合成容器として、硬い、半硬、柔らかいプラスチック容器も使用できる(後述)。

半硬質ユニット容器

このタイプの容器は通常プラスチックから製造され、ヨーグルト用の容器として使用できるプラスチック材の様々なタイプの特性がKumar(1989), Cuqら(1995), Guilbert and Gontard(1995)によって報告されている。実際のプラスチック原料(ポリマー)は相対的に不活性だが、製造中に使用する化学物質やモノマーは最終原料でも残る。このような成分はそれ自体無害だが、食品と反応し、オフフレーバーを生じさせる。そのためこのような成分が存在しないことを保証するために最大の注意を払わなければいけない。

 ヨーグルトの場合、容器は酸-抵抗性を有し、揮発性フレーバーの損失を防ぎ、酸素を透過してはいけない(酸素の存在は酵母とカビの発育を促すため)。ヨーグルト容器の製造に使用できる材料の例としては:ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)がある。英国では、容器の大多数はPSで製造されている(PPの使用が一般的になってきているが)。しかし、材料に関係なく、容器は硬い、半硬、軟らかくすることができ、前者のカテゴリーは通常静置タイプ、攪拌タイプのヨーグルト、濃縮ヨーグルト、フローズンヨーグルトの包装に使用され、軟らかいいタイプ(フィルム、後述)は乾燥したヨーグルトベース製品の包装にのみ使用できる。

完成した容器はカートン、タブ、カップと呼ばれ、消費者への訴求力を持つと思われるデザインや形で製造することができる。;基本的な例を図2.18に示した。基本的にプラスチックカップの製造に使用できる技術は2つある。まず、硬いクーラー/モールド(型)の中に高圧下で射出する前に原材料を加熱したシリンダー内で軟らかくする射出モールディング工程。カップは成型後、モールド(型)から押し出される。このタイプの容器は相対的に厚さが厚くなるのが特徴で、そのため、硬いカップとなる(Astrrom, 1989,;de Groof, 1993)。このように作られたカップは細いPE袋(25μmの薄さ)内で連続的に入れ子にして乳製品工場に送られる。通常、この袋はほこりやその他の汚染物質を防ぐためにシールされており、安全な輸送と潰れを予防するためファイバーボード(繊維板)製の箱に入れられる。乳製品工場でカップの列は充填機のフィラーにセットされるため、包装工程は充填/シール工程と呼ばれる。2番目の熱成型工程は、連続的なロール状で乳製品工場にプラスチック原料を送る工程で、ヨーグルト充填/包装機の最初のセクションに供給される。プラスチックシートはユニット容器がヨーグルトの充填直前に成型されるように熱で軟らかくしてモールド(型)の中もしくは周辺で成型される。この包装システムは成型/充填/シール作業と呼ばれる。熱成型工程では、ヨーグルトカップは射出モールディング工程に比べて相対的に弱い薄壁であり、容器は半硬タイプとして分類される。

 ちなみに、輸送および保存中の損傷を防ぐためにこのリールはよく上包みして乳製品工場へ運ばなければいけない。

 どのタイプのカップを使用しても、容器の封は通常アルミホイル(キャッピング/圧着またはヒートシール)もしくはプラスチック(プレスオン蓋、ヒートシール)を使用して行われる。ヒートシールカップが最も一般的である(このカップはしっかり密閉されており二次汚染や漏出を防ぐため)。アルミホイルはそのガスやにおいの透過性が無視できるほど小さいこと、さらに、油をはじき、不透明であり外観が“素晴らしい”こと、簡単に装飾できることから使用されている。ヨーグルトは酸性なので、このホイルは腐食を防ぐためにラッカー塗装すること、ヒートシール中に結着を供給するために、ホイルをPE、エチレン酢酸ビニール、PSもしくはPVC(さらに詳しい内容については後述する)でコーティングすることが推奨される。ヒートシールプラスチック蓋が時々使用される。

 プラスチック包材もいわゆる消費者向けのfresh crunch product(パリパリとした食感が楽しめる製品)を提供するためにヨーグルト業界でも使用されている。ある発明の例がColangelo(1980)とAnon(1983c、1991b)から報告されており、その中でヨーグルトは“豚の背中”構造と呼ばれるもの中に包装されている。このシステムでは、フレーバーヨーグルトはプラスチックカップに充填、シールされている。同じ機械か異なるユニットのどちかで、ナッツ、レーズン、イナゴマメチップス(グラノーラとして知られる)はヒートシールもした他の透明カップに充填される。それから2つの容器がヒートシールされるかもしくは一緒に圧着される前にグラノーラが入ったカップが完全にヨーグルトタブを覆うようにヨーグルトタブとグラノーラの入ったカップは一緒にスロットに入る。理論的に、フルーツ/ナッツ混合物の鮮度は消費者が食べる直前にこの2つの内容物を混ぜるまで保持される。しかし、追加の作業を正当化することを古臭く考えるエビデンスはほとんどない。

 半硬質カップ(深さ2-4cm)の別のタイプはフランス(Verdier, 1987)で特許化されており、これは消費者がスプーンの助けを借りずに自分の舌を使用して食べられるようなヨーグルトの包装に適している。適量のヨーグルトが提供するように2つのポットはくっつけることが出来るが、このタイプの包装はまだ実用化されていない。

 硬質プラスチックビーカーのコストを削減するため、薄いポリスチレンビーカーが提案されており、これはリサイクル紙で覆われている(Poldervaart, 1994)。このタイプの包装はK-3システムとして知られ、空にしたときに容器を平らにすることによってプラスチックから紙が簡単にはがれやすくなっている。にもかかわらず、プラスチック製造会社の最近の関心はPSからPPに移ってきている。それは(a)コストが削減できる(Recaldin, 1990)(b)製品中のスチレンモノマーの残留効果がある(c)PSを<1200℃で燃やすと環境問題を引き起こす大量の煤が生じるためである(Lokkeberg, 1993)。しかし、PSとPPから構成されるプラスチック混合物のリサイクルの目的のために、2つのプラスチックは有機物質を取り除く為に洗浄し粉砕した後、比重に基づいて液体遠心分離機かSwim-sinkプロセスを用いることで分離できる(Wirths, 1991)。

軟らかいユニット容器

軟らかいユニット容器はプラスチック袋か紙カートンのどちらかである。前者はラミネート(例.PE/アルミホイル/PEもしくはPE/紙/アルミホイル/PE)から作られ、脱水ヨーグルトの包装のみに使用される。充填の最も一般的な方法は成型-充填-シールというアプローチである。この容器はガスや水蒸気を透過してはいけない。

 紙カートンはワックス処理したカートンが登場した1950年代に乳製品のポピュラーな容器となった。このような容器は過去にヨーグルト包装向けにも使用されていたが、プラスチックカップやラミネート加工した紙カートンが好まれるようになってその需要は減少している。ワックスカートンの弱点のひとつは製造面での改善があるにもかかわらず(ワックスとEVA共重合体の多層コーティングの採用)、漏れやすい傾向があることである。英国でのヨーグルト容器としての使用は限定的なままである。

 しかし、液体乳の包装でのカートンの使用は北米、欧州、英国で広く実践されており、このようなカートンはヨーグルトの包装にも容易に利用できる(図2.17)。2種類のカートンが通常利用でき、普通の紙をプラスチック材(例.PE)で両側をコーティングした単純なタイプと次の層から構成される多層タイプである:PE/紙ボード/アルミホイル/PE。後者のカートンは、アルミホイル層がカートンを不透過性にするだけでなく、容器の硬度も改善するため、通常UHT殺菌乳の包装に使用されている。

採用するシステムに依存して、紙カートンは予めつぶした状態のカートン(Collapsed preformed carton)として(例.Pure Pak、Elopak、Tetra Rex法)もしくはリールの形態で運ばれる。このカートンの包装順序は:

●積層したつぶれたカートンを充填機の特別なスリーブに供給する。

●ひとつのカートンがスリーブから自動的に取り外され、開いた状態にされ底部がシールされる

●カートンにヨーグルトを充填しトップ部をシールする

●包装された製品は発送できる状態になっている

これとは別に、カートンは成型-充填-シール技術を使用してリールから成型でき、ヨーグルト充填前のこの容器の成型に含まれる包装順序を第3章、3.3.11に図示した。このような包装システム(例.Pure Pak、Tetra Rex、Elopak)の共通の特徴はカートンが切妻壁(Gable end)を持つことである。時にはこの切妻構造は製品を注ぐのに役に立つことが証明されるかもしれないが、欠点のひとつはトップ部が平らなカートンで包装されるヨーグルトに必要とされるそれと比較して保管場所を広くとることである。しかし、最近の“トップ部が平らな”Tetra REXとPure Pakカートンの改良(相対的に形が四角くなる)によってゲーブル(切妻)の望ましい機能(優れた注ぎ特性)と冷蔵棚での空間の有効利用が可能となっている。

 発酵乳製品に使用されるカートンの包材の改良(製品品質への効果も含む)は:(a)2層PEで包装したケフィア及び類似製品のCO2濃度が75%まで低下した。一方、アルミホイルカートンでは、CO2濃度の低下はほんのわずかであり、製品の風味や安定性も有意に改善した(Anon, 1986c; Castbergら, 1986; Gjengedal and Oterholm, 1988)(b)Cherry BurrellQL-9マシンを使用するゲーブルトップカートン中への特別に設計された充填バルブの挿入ドリンクヨーグルトの包装を可能にする(Anon, 1986d)(c)Ensobarrはフィンランド製の新しく開発された紙のゲーブルトップカートンであり、ヨーグルトの包装に適している;アルミホイル層はChemi Thermo Mechanicalパルプに置換し、これは紙の重量を減らして硬さを維持し、折り畳みリサイクル特性も改善している(Holmstrom, 1996)、(d)250gPure Pak用のストローもしくは1リットルカートン用のスクリューキャップはドリンクヨーグルト向けの包装の選択肢を増やした(Schlicht, 1996)。

 最後に、プラスチックラミネート紙カップが米国やその他の国で使用されており、カップは予め成型されて段ボール箱に入れ子にした状態で入れて乳製品工場に運ばれる。このようなカップはPress-on蓋もしくはヒートシールできるホイル蓋を使用してシールされる(Anon, 1984b,c)。

 上述の容器のサイズは2つのグループに分けられる。すなわち“食べ切りサイズ”カートンで内容量は150~200ml(これより少ない場合もある)、〝ファミリーサイズ”カートンで容量は250~1000mlである(Herner, 1988)。後者のサイズのものは、ヨーグルト全部を同時に食べるわけではなく、また衛生的な理由から、再封できるフタを付ける必要があるため、press-on蓋も付いている。ちなみに、非常に一般的になってきている中容量容器が、特別な目的を持つマルチパック(図2.18参照)であり、これは4個、6個、それ以上のヨーグルトカートンが一緒に包装されたものである。このようなマルチパックは1970年代に市場に導入され(Lang, 1972; Keck, 1983, 1991a; Chaussadas, 1986; Anon, 1989; Hilliam, 1992; Hartman, 1995)、新しいフルーツヨーグルトを上市するときに使用されたり、またはファミリーパックの代替として使用されている。ファミリーパックに類似するタイプが成型‐充填‐シール機(熱成型機)によって現在、広く製造されており、4つかそれ以上のヨーグルトカートン(それぞれのペアで異なるフレーバー)がひとつの構成単位として成型される。過去10年で、ツインチャンバーまたはタブパックが導入され、このパックでは、ナチュラルヨーグルトがより大きなコンパートメント(部屋)に充填される一方、フルーツフレーバーはより小さなチャンバー(部屋)に包装される。このパックの主な長所はヨーグルト製造者がひとつの製品フレーバーから別のフレーバーへ切り替える時に設備を洗浄するために製造を止める必要がないことである(Ackermann and Guays, 1984; Zott, 1989)。通常は明るい色のフルーツの充填から始め、次第により暗いフルーツに切り替えていく。高価ではあるが、この包装システムはで食べる前に自分の嗜好にあう量のフルーツをヨーグルトに混ぜることができる(というメリットを感じる)消費者にとってポピュラーである。

 ヨーグルト産業において幅広い容器包装が使用されており、最終的な選択は以下の判断による影響を受けることは明らかである。;

●ユニット容器当たりのコスト、充填速度、包装機のコスト

●ヨーグルト製品の状態(例、液体タイプ、粘性タイプ、濃縮タイプ、粉タイプ)

●保存、流通、小売り中の製品保護

●再利用容器、もしくは再利用できない容器、前者の場合、容器が洗浄、消毒できるかどうか。

●包材のバリア特性(例.O2と光透過性)を含む、特定の消費期限の期間に求められるもの

●マーケティングコンセプトと消費者の受容性(Odet, 1988)

常に乳業界で議論されるある側面はガラス容器対カートン、プラスチックカップ、ボトルを含む再利用できない容器に関するシナリオである。Anon(1983b, 1988, 1994d), Bojkow(1986), Keck(1991b), Robinson(1991), Thalmann and Schmid(1996)によりいくつかの報告書が発表されている。コストと環境面はあらゆるタイプの包材を選択する前に考慮しなければならない主要な要素だが、Robinson(1991)によると、廃棄物問題の解決は困難であり、プラスチックの場合では将来、深刻な結果をもたらす可能性がある。

13.4 複数のヨーグルト容器の透過性に関する比較研究

先に言及したように、Bosset and Fluckiger(1986a,b,1987)とBossetら(1986a,b)の仕事は様々な種類の容器に入れたヨーグルトの品質に対する光とO2の効果に焦点を当てた。しかし、別の研究によって包材の透過性とヨーグルト品質の間にある直線的な相関性は以下のようにまとめられることが明らかになった。

●PurePakカートン(PE/紙/PE)のO2透過性(KPa/日)は7℃で0.77mg、25℃で1.79mgだった。このような透過値は0.03㎜と0.015㎜のPE層のO2透過性の計算による理論値のおよそ半分の値だった(Langeveldら, 1984; Mestdaghら, 2005も参照)。

●ヨーグルト中のL.アシドフィルスとビフィズス菌(好気性、嫌気性株)の生存度に対する包材の効果(例.酸素透過高インパクトポリスチレン-HIPS、酸素バリア材-Nupak、酸素除去フィルム付Nupak-Zero2)がTalwalkarら(2004)によって研究されている;保存期間中、HIPSヨーグルト容器中の溶存酸素は徐々に増加したが、NupakとZero2で包装したヨーグルトは低いままだった。全てのヨーグルトで、細菌数の有意な低下は認められなかった(評価した全ての菌株において)。この研究者は、包材がヨーグルト中の溶存酸素量に影響を与えるが、健康促進菌の生存度には影響を与えないかもしれないと結論している。

●ヨーグルトポットのヘッドスペースのガスを窒素でフラッシング(洗浄)する効果の実験的研究がSunramanian(1993)によって報告されており、ヘッドスペース中の残存酸素は8週間保存後で0.1-0.2%だった;窒素置換ヨーグルトは8か月後も酵母やカビが生えなかったが、コントロール製品(非ガス置換)はわずか14日間しか続かなかった。

●Nilsenら(2003)は良好なバリア機能を持つ包材の適切な選択が脱脂発酵乳やケフィアの製品外観や風味を改善するが、光に対する保護効果が弱い材料ではサワークリーム(脂肪20g/100g)の風味が壊れたと報告している。

●Frederiksenら(2003)は蛍光灯の下でヨーグルトを保存したところ、n-hexanal., n-heptanal, n-nonanal,3-methyl-butanal, dimethyl disulphide, 1-octen-3-olの濃度がポリ乳酸(PLA)で包装した製品でPSカップよりも低かったこと、リボフラビンとβ-カロチンの減少はPSよりもPLAで包装したヨーグルトの方が低かったことを確認した;報告された別の側面には以下が含まれる:(a)PS容器で保存したヨーグルトのスチレン含量は保存期間中に上昇した。一方、乳酸はPLAで保存したヨーグルトで検出されなかった(b)ビタミンの酸化や損失はヨーグルトを暗所でPLAとPSで保存したとき発生しなかった。

●ヨーグルトゲル中への酸素の拡散を測定する新しい手法が開発された(C.W.Millerら, 2003)

●高密度PEボトルで包装した発酵バターミルクを1℃で保存し、白色蛍光灯に96時間露出させたところ、このような条件はオフフレーバーを引き起こし、リボフラビン濃度が0.3μg/mlまで低下した。風味パネルでは実験サンプルで光によるオフフレーバーを検知できなかった(Hoskin, 1989)。

Bossetら(1995)もヨーグルトが光感受性の高い製品であることを確認している。

●酵母とカビ(>10cfu/g)が予備成型容器のヨーグルト60個中30個で検出された。一方、成型-充填-シール容器で包装した同じヨーグルトでは検出されなかった(Jordano, 1987)。;これはO2透過性と充填前の容器の無菌性の違いを反映している可能性がある(McKay, 1992)。

●茶色のガラス瓶がヨーグルト(プレーン、いちご、チョコレート、モカ)の光酸化を防いだが、一方、透明PS容器で包装した時に光に敏感に反応したのはプレーンヨーグルトのみだった(Dieffenbacher and Trisconi, 1989)。;リボフラビンの損失によって緑と黄色の色相が劇的に減少するのは知られており(Desarzens, 1989)光酸化中に産生されるカルボニル成分としてペンタノールが検出された(Daget, 1989)。

 13.5 モノマーとその他成分の移行

英国では、農水省(現在はDefra)(MAFF, 1983, 1987)によると、1974年までスチレンに接触する食品の長期間の安全性を評価するスチレンの毒性データは十分ではなかった。その後、膨大な数の分析的研究が行なわれ、さまざまな国のヨーグルト中のスチレン含量の調査結果を表2.25に示している。しかし、ヨーグルト中の残留スチレン含量はEU食品科学委員によって提唱されている1日許容摂取量(0.6μg/g)をはるかに下回ることは明らかである(Hammarlingら, 1995)。

 PS、PPのような包材から多くの成分が移行するのに影響を与える因子としては製品充填温度、脂肪、水分含量、pHがある(Thomsen and Stena, 1987)。しかし、45℃2日後の移行率は1.1mg/dm2以下であり、ヨーグルトの色調に影響を与えなかった(Macias Matosら, 1988)。にもかかわらず、注意喚起は必須であり、キューバで作られたヨーグルトポット20個中3個で、ハンガリー基準で設けられている移行限界を超過していた(Garcia Melianら, 1988)。香港でサンプリングしたヤクルト(日本の発酵飲料)とYogo(ドリンクヨーグルト)にはスチレンモノマーは含まれていなかった(Yogoのプラスチックカップのスチレン含量が約150μg/gだったにもかかわらず)(Lauら, 1995)。ヨーグルト中に検出されるその他のモノマーにはエチルベンゼンがありその濃度は2~4μg/kgの範囲である(Ehret-Henryら, 1994)。

 3つの工場から提供されたTetra PakとElopakカートンで包装した発酵脱脂乳にはそれぞれ4℃20日保存、40日保存後で異なる濃度のアルミニウムが含まれていた。;この結果からわずかな増加が示唆(8-18μg/kg)され、一部のサンプルでは保存後のアルミニウム含量の低下(3-42μg/kg)をが見られた(Eklund and Brenne, 1990)。このような結果はアルミニウム含量の増減がカートンの種類や加工用の乳に影響を受けていることを示している可能性がある(Eklund and Brenneによるとその濃度は満足のいくレベルだが)。紙の包材からの移行研究はCastleら(1997a,b)によって詳細が触れられており、一方Linssenら(1992)は人工フレーバードリンクヨーグルトの揮発成分(>8炭素原子)や高分岐成分はPEボトルに吸収される傾向があると報告している。ちなみにこのようなPEボトルは三層で構成されていた:2%炭素含有PE層を5%TiO2含有PE層で挟み、白い内外層を作った。

 スチレンモノマーだけはある程度、包材の押出しによってポリマーから取り除くことができるが(Linssenら, 1995)、残留モノマー濃度は製品にオフフレーバーを発生させる。そのため、このようなモノマーの風味閾値は加工食品のオフフレーバーの検出に関して重要なパラメーターとなる。Jensen(1972)はヨーグルト中のPS由来のモノマーの風味閾値(μg/g)を報告している:スチレン0.2、エチルベンゼン0.9、o-キシレン7.0、クメン1.0。しかし、ヨーグルト中のスチレンの風味認知閾値濃度(TRTC)は砂糖やフレーバー成分の有無や脂肪含量の影響を受ける(表2.26; Linssenら, 1993, 1995; Startinら, 2005も参照)。

 13.6 開封明示機構のある包装

1980年代以降、食品業界の一般的な統一見解(コンセンサス)は食品小売者および消費者が簡単に包装が開いているかどうかを特定できるように開封明示機構のある包装を支持している。このような手法は、古い閉包システム(例.スナップ方式の蓋、ガラス瓶の波型にしたホイルキャップ)が公衆安全面で受容できる安全装置ではないため、ヨーグルト業界で普遍的になっている。

 食品業界向けに開封明示機構のあるさまざまなタイプの包装が開発されており、ヨーグルトに使用できるシステムには以下のものがある:

 

●プラスチック容器へのホイルラミネートのヒートシールは容器の不正開封がホイルへの視覚的な損傷を示すことができるように頑丈なシールにすべきである。

●シールされたカートン(例.PurePakもしくはElopak)は頑丈にシールされ不正開封が視覚的なダメージとして示されるフラップを有している。

●プレスオン式プラスチック蓋でシールしたヨーグルトもしくはこのポットをまとめたもの周囲に巻いたシュリンクラップフィルムは開封明示機構のある別の包装手法を提供する。

●ヨーグルトのホット充填はホイルラミネートヒートシール蓋を冷却後に凹ませる;プラスチックカップを開けると蓋の形は変化する。ヨーグルトをガラス瓶に包装した場合にも金属蓋で同様の効果が起きる。

●プレスオン式ヒートシール蓋(Johansen and Buer, 1991参照)のヒートシールは新しく開発された開封明示機能システムである。

●アルミリングプル(ガラス瓶で時々使用される)の破損は不正開示を示す。

●例えば、薄い紙がガラス瓶に使用される金属キャップ上にシールされた場合、このシールは瓶を開けるために破かなければならない。

●広口プラスチックジャー、硬質プラスチックボトル、カートン上の“プルアップ(引き上げ)”式プラスチック片もしくは盗難保証(証明)スクリューカップといった安全閉包の使用はヨーグルト業界で使用されている開封明示機構の代替となる。;このようなシステムはときに破壊式(breakable)キャップとして知られている。

●引き剥がし閉包システムには水平状および垂直状のリブから構成される開封明示装置にくっつけたプルタブが含まれる;このプルタブに入れた力を場合、このような装置(蓋の中心部からはがれる)は容易に破裂する(Anon, 1995b; Anon, 2003cも参照)。

しかし、さまざまな開封明示システムが2.13.3で言及した全てのヨーグルト容器で使用できるのは明白である。このようなシステムは製造コストを上げるが、製品の安全性は消費者を満足させる。発酵乳製品を含む食品向けの開封明示システムの詳細はHerner(1987c)、MacDonald and Cox(1988), Freeman(1992)によって報告されている。

2.13.7 アルミホイル蓋

アルミホイルはヨーグルト容器(例.プラスチックカップ)のシールに広く使用されており、ヨーグルトの酸性やヒートシールの必要性から、通常、プラスチック層でコーティングされている。予備成型型のプラスチックカップを使用する場合、アルミホイル蓋は通常、あらかじめカットされており、2500-3000枚の蓋が機械的なダメージを最低限にするために特別なカートリッジの中へ包装される。このような蓋の直径は<100㎜であり、通常、簡単に開けられるようにプルタブがついている。

 ホイルのゲージ(厚さ)は約40μmであり、それぞれの蓋は通常、エンボス加工されている。このエンボスのパターンは消費者の要求に応じて変えることができ、その印の深さは最大100μmである。エンボス加工は、蓋を充填したカップの上に置いてヒートシールする前にカートリッジから一枚の蓋を簡単に取り上げるために必須である。

 成形‐充填‐シール技術によって包装するヨーグルト向けに、アルミホイルは乳製品工場にリール状で運ばれて、リールの幅は充填機の充填ノズル(並行したヘッド)の数に応じて変化する。アルミホイル(厚さ約40μm)はプレカットタイプのものと同様であるが、エンボス加工は省略されている(特に機能を発揮しないため)。

 市場にある包装ヨーグルトを見て分かるように、どちらの蓋(プレカット、リール由来)も様々な情報や魅力的なデザインを印刷できる。印刷技術はフレキソ印刷かグラビア印刷が用いられる:後者の方法は通常5色以上の印刷が必要となった場合に使用される。蓋の反対側はヒートシール可能な材料でコーティングされており、ラミネートの厚さは6~10gm/mである。ラッカー剤の厚さはヒートシールされる材料の種類に直接的に依存して変化し、例えばポリスチレンかポリプロピレンのヒートシールを意図したホイルのEVAの厚さは6-8g/mである。後者のプラスチックカップ用に、EVAの修正バージョンが使用されており、これはすなわち、より高温でシールできるように溶媒を強くしたものである。アルミホイルの印刷面では、乳製品工場でのヒートシール工程中にグラフィックデザインが保護できるようにEVAラッカー剤は高熱(耐熱性)ニス層でコーティングされている(J.R.Englehart,個人的な聞き取り;Glimm, 2003も参照)。Elms(1989)は軟らかい容器用のシーラントとしてエチレンアクリル酸(EAA)の最新の応用例についてレビューしている。

 プラスチックポット用のさらなる蓋のタイプには以下のものがある。(a)最終的に容器の膨隆を引き起こす圧力上昇(CO2の生成による)を最低限に抑えるためケフィア製造に適した3層からなる蓋システムから構成される呼吸膜(Fluckiger, 1986)(b)製品の冷却中にポット内で発生する真空を除去するホットヨーグルト包装用に特別に設計されたポットと金属ホイルシールシステム(Padovani, 1987)(c)ストロー挿入のための薄い部分を持つ薄いホイルラミネートと軽量紙から構成されるドリンクヨーグルトを含むポット向けのシールシステム(d)強くてゆがみなく簡単に容器から剥がれる周囲縁を持つカップ(Kretz, 1987)(e)ハンガリーで開発されたPP/PEラミネートで構成される新しいタイプのホイル(Stark, 1986)(f)乳酸と反応する軟らかい紙ホイルラミネートは保存中に接着しなくなることが確認された(Olafsson and Hildingsson, 1995)。その理由の一つは酸の極性と化学構造である、(g)シールを一旦剥がしたら、ヨーグルトが一部残った空の容器上に戻すことができる溶接シールプラスチック蓋;このような開発によって蓋は開封明示できるようになる(Johansen and Buer, 1991)。

2.13.8 包材の殺菌

 ヨーグルト産業における包材(プラスチックカップ、プラスチック蓋、ホイルラミネート、紙カートン)の殺菌は製品の製造後の汚染を最小化し、無菌加工システムで使用されるときに求められる基準に合致する。このような基準には、ヨーグルトが殺菌されていること、製品を包装する包装容器、包材も無菌であること、殺菌製品と容器を一緒にする環境/製造室も無菌であることが求められる(Ito and Stevenson, 1984)。無菌ヨーグルト充填機についてはその詳細を第三章で触れている。包材の微生物学的品質に関して利用できる公表データはほとんどない。;しかし、Asperger(1983)はプラスチックカップの総菌数(主に胞子形成菌)はすすぎ水100mlあたり<100cfuであり、大腸菌、カビはいなかったと報告している。その他の包材の細菌特性についてもAspergerによって報告されており、このような情報を考慮すると、ヨーグルト包材の殺菌は‘長期保存’ヨーグルトの製造中に必要であることは明らかである。

 容器製造に高温処理が必要なため、成形-充填-シールヨーグルトのプラスチックカップは商業的に無菌であると仮定しても過言ではないだろう。しかし、予備成形プラスチックカップ/崩壊カートンは製造後の微生物汚染を最小化するためにヨーグルト充填前に殺菌することが必要かもしれない。Astrom(1989)は無菌工程向け包材の殺菌に利用できるさまざまなシステムについてレビューしており、この中には以下の方法が含まれている。

●過酸化水素(H2O2)スプレー、液、ガス

●蒸気

●過酸化水素を充満させた温風

●成形-充填-シールシステム、それにおそらく過酸化水素を加えた熱成形容器

●乾燥した温風

●エチレンオキサイド

●過酸化水素とUV(紫外線)光の組み合わせ

●ガンマ線(Ito and Stevenson, 1984; Neijssen, 1993も参照)

乳製品の包材へのガンマ線照射と過酸化水素殺菌が最も一般的に使用されている方法である;しかし、後者の方法では、H2O2を熱によって取り除かなければならず、その表面残留の問題から一部の国ではその受容を先延ばしされているかもしれない。にもかかわらず、食品へのPP、PEモノマーの移行に対するH2O2殺菌の効果は無視できるほど小さく(Castleら, 1995)、これらのプラスチックで起こるほんのわずかな変化はポリマー表面の表面的な修正だった。

 ヨーグルト向けプラスチックカップとホイルラミネートへのUV-Cランプの使用については1980年代初めにHamba充填機で報告されている(E. Moller、個人的な聞き取り)。充填/閉封作業は30-40℃の無菌エアーにより微生物汚染が起こらない状態を維持したキャビネットで行われる;この温度は凝縮を防ぐために推奨される。充填機の部品は定置洗浄(CIP)で殺菌される。Hamber用のUV-Cランプの開発についてはドイツのハノーバー大学の乳、乳製品産業学部のMollerの講演中でよく解説されている(Hansen, 1980; Moller,1982も参照)。UV-Cランプの強度は100-200mW㎝-2の範囲であり、UV-Cランプと包材の距離はカップが10.5㎝の距離になるような方法で調整される。;総露光時間は約7.5秒で、カップの全内面を殺菌するために3つのエミッタが使用される。アルミホイルの蓋は4㎝の距離で2秒間露光される。様々な菌種に対するUV-Cランプの有効性を図2.19にまとめている。Moller(1982)によると、UV-Cランプで殺菌した容器につめたフルーツヨーグルトの保存期間は5-7℃で42日間に延長した。

 ヨーグルトを袋、バッグインボックス容器に無菌充填する場合もある(Prahlad, 1989を参照)。Martin(1982)はこのような包装方法に必要とされる設備の詳細について触れており、この中には、エアー殺菌器を取り付けた薄板状のフローキャビネット、キャップ除去&充填&リキャップ装置が含まれる。キャビネットの側壁に沿って、穴がそれを通して予備包装された殺菌袋を包装を解く&充填&蓋をするようにするアクセスを提供する。UV殺菌システムが提供され、包装方法は全自動もしくは半自動である。

13.9 外装、輸送容器

この種の包材はヨーグルトに接してはいないが、産業界においては保存中またはスーパーマーケットでの運搬と展示(ディスプレイ)中に簡単に取扱いが出来たり、カップをスタッキングする手助けをするために重要である。さまざまなタイプの容器が利用でき、再利用可能、再利用不可の2つに分けられる。

 再利用可能(リターナブル)容器(もしくはクレート)は金属もしくは硬質プラスチックで作られているが、クレートは回収が必要なため、幅広く使用されていない。しかし、金属クレートはセットヨーグルトをガラス瓶で製造し、発酵工程を水風呂で行なう場合において一般的である。この加工方法は主流ではない。

 再利用不可(シングルトリップ)容器はリターナブルタイプよりも幅広く利用されており、市場で利用できるタイプの一部には以下のものがある:

●半硬質プラスチッククレート;

●入れ子型トレイ(軟らかいプラスチックもしくは同様の素材-Anon.,1980b);

●紙製トレイ

トレイの後者のタイプ(または紙カートン)はヒートシュリンク材で上包できたり、その代わりに入れ子型トレイは紙箱の中でお互いに積み重ねること(4~6トレイ)が出来る。

 ある特定のシステムもしくは外装の種類の選択は主に以下の要因による:

●コスト

●機械化の程度

●分配と取引の簡便さ

●冷蔵貯蔵庫内でのスタック性と循環空気の接しやすさ

ヨーグルトを20℃で充填し、最終冷却を冷蔵貯蔵庫で行なう場合には後者の側面は重要である。

 大きな組織の中では、通常、包装済みのヨーグルトのトレイ(ヒートシュリンク材で上包された)または段ボール箱が木製パレットの上に積まれ、フォークリフトを使用して、製造エリア→冷蔵貯蔵庫→輸送車に運ばれる。代わりに、金属トローリーを使用できる。例えばテトラグループで製造しているTetratainerがある。再利用不可(シングルトリップ)の輸送容器はこのようなトローリーにスタッキングされる。このシステムの長所は冷蔵庫から輸送車へ輸送車からスーパーマーケットまたは冷蔵陳列棚への製品の移動を簡単にすることである。このような取扱い方法は乳製品工場を離れてから消費者の手に取られるまで商品容器が手に触れないことを意味する。

 外装もしくは輸送容器の取扱いはある程度、包装/充填機と統合する事ができ、自動化の程度は主に充填機の処理能力と労働コストで決まる。このような容器を手動で扱うのは労働コストが低く製造スケールが小さいところでは非常に一般的である。ヨーグルトカップやカートンを輸送容器に移動する装置には以下のものがある:(a)特別に設計した入れ子型の包装トレイ(ダンボールまたはプラスチックで作られる)はヨーグルトポットを保持し、トレイ上部の折りたたみ式の蓋はポットを固定する(Galiegue and Thiry, 1990)、(b)手動によるパレット積載のみが可能な状況での使用に適したヨーグルトトレイのインラインパレット積載の改善についてはAnon(1987b)によって説明されている。;ちなみに、この機械的システムは‘Somic Paletta’として知られている。(c) 横列でヨーグルトポットを運ぶのに適したトレイ様のレセプタクルを形成するように積み重ねた長方形ダンボールの空白部分を取り扱うシステム;これはドイツで特許化されている(Anon, 1987c)(d)250gヨーグルト包装向けのU-型トレイまたはより大きなパック向けのラップで巻いたダンボールは2mmのプラスチックバンドを使用してパレット積載のために固定する事ができ、スリップ防止用の熱接着剤を伸縮性のあるシュリンクラッピングに置き換える事ができる(Schlicht, 1996)。Rosti(1995)は経済学、材料、様々な閉包システムを含むマルチパックやラップ巻き材の最近のトレンドと開発についてレビューしている。

2.14 冷蔵保存、輸送、販売

<10℃でヨーグルトを冷却して製品が消費者に届くまでこの低温を維持する事はヨーグルト中で起こる生物学的、生化学的反応を遅らせるのを助ける。前者の反応はヨーグルトスターターカルチャーの代謝活性とおそらくは熱抵抗性をもち発酵過程で生き抜いた微生物汚染か製造後の汚染(酵母とかび)の結果、生じる。考えられる生化学的反応は:

●酸素の存在による脂肪の酸化

●ヨーグルト中のたんぱく質成分の水和は製品粘度を改善する

●フルーツ添加物の色の変化(鈍くなったり青白くなる)が製品の酸性条件によって起こる

●わずかな脱水が起き、ヨーグルトの露出した表面はその物理的外観が変化する

●添加した親水コロイド(安定剤)やフルーツ由来のペクチンは保存中のヨーグルトの粘度/硬度を改善する

このような反応の一部を最低限に抑えるために、ヨーグルトの冷蔵は必須であり、このような条件で、製品の保存品質は製造日から最大3週間まで伸びる。しかし、24-48時間の冷蔵保存の間、凝集物の物理的特性の改善が確認され、これは主にカゼインミセルの水和と安定化によるものであり、そのため状況に応じてヨーグルトの販売を遅らせるのが望ましい。

 ヨーグルトの品質は製造後の要因の多さに依存し、以下の推奨は製品が満足いく条件で消費者に届くことを保証する。特に乳やヨーグルトを含むその他乳製品の衛生的な製造に対する推奨には、危害分析重要管理点方式(HACCP)の履行や類似したシステムを含み、この理由から乳製品はその保存⇒輸送、流通⇒小売の間で要求される温度によって3つのカテゴリーに分類されている(Anon, 1994c, 1995c)。(a)アイスクリームやそれと関連する冷蔵製品などは<-18℃保存(b)賞味期限が短く日持ちのしない製品(例.パスチャライズ殺菌乳、クリーム、ヨーグルト、発酵乳、フレッシュ、ソフトタイプチーズ、バター、硬質、半硬質チーズの小売用ポーション)は0~10℃保存(c)UHT乳、粉乳、缶入り製品、プロセスチーズは室温もしくは<30℃で保存。

 よって、ヨーグルトは0-10℃(±1℃温度許容度)で保存すべきであり(Anon, 1994c, 1995c)、輸送中も同様の温度だが、温度許容度は±2.5℃となる。しかし、製品の品質を守るために、ほとんどの大規模製造者は<10℃でヨーグルトを保存、輸送する傾向がある(Hinsperger, 1990; Farquhar and Symons, 1992)。

14.1 冷蔵ストア(貯蔵庫)

●包装したヨーグルトの乱雑な機械的処理はできる限り減らす

●可能な限り低い保存温度を維持し(<5℃)、温度変動を避ける

●貯蔵庫内では良質な冷気を循環させる。特にヨーグルトを20℃で充填した場合や最終冷却をこの貯蔵庫内で行う場合

●設計が不十分な断熱貯蔵庫の使用による冷気の損失を防ぐ

●ヨーグルトを透明容器に包装した場合、脱色や酸化を軽減するために製品が特定の光に当らないようにする。

●凝集物の最終的な安定性が達成できるように、輸送前に最低48時間包装ヨーグルトを保持する。

14.2 輸送中

●北半球、南半球の温暖な地域での夏の数ヶ月間は冷蔵輸送が必要となる;冬の数ヶ月間では断熱ローリーを使用できる。

●南国、半南国地域では、輸送車の冷蔵は必須である。

●輸送中、ヨーグルトの振動は粘度の低下やホエイ離水を引き起こす。;この欠点を克服するのは特に長期輸送の場合には難しい。

包装ヨーグルト(ユニット容器と輸送容器)は輸送、流通中に振動に晒され、製品が受ける潜在的なダメージとしては静置ヨーグルトのゲル構造が壊れたり、ホエイ離水や攪拌ヨーグルトの凝集物の組織破壊、ホイルラミネートとプラスチックカップの先端の間のヨーグルトの薄い“肌”の形成がある。Richmondら(1985)は振動テーブルを使用してワックス加工した紙カートンで包装した静置ヨーグルトの物理的ダメージについて研究した。輸送条件をシミュレーションするために、伸縮ラッピングのあるなしで12個のヨーグルトカートンを入れ子型トレイに配置して、10段の高さにスタッキングした。その結果から以下のことが示唆された。:

●安定剤を添加していないヨーグルトでは高いレベルで離水が発生した。

●伸縮ラッピングはホエイ分離の効果を最小化した。

●最も大きなダメージはスタッキングの一番上で発生した。

●包材(ユニット、輸送)の低温放置、冷蔵保存によって物理的構造に変化が生じ、スタック性が失われ、製品のロスが生じた。

同じ研究者は同様の‘チャレンジ’テストはさまざまなデザインの異なるプラスチックカップで包装したヨーグルトで行うべきだと結論している。それは容器の形が摩擦係数に影響を及ぼす可能性があるからである。

 ヨーグルトの輸送に使用する乗り物は特別な推奨(UN, 1991)に適合すべきであり、この中には自動温度探査(ATP)装置の導入や、トラックは簡単に洗浄でき、適切な棚が付けられるように滑らかな内面にすべきであり、もしあれば、ドアの開く部分が熱の損失を最小化できるようにプラスチックの帯で覆われているべきであるという要求が含まれる。

 14.3 小売店と消費者

●ヨーグルトは購入されるまで冷蔵陳列棚に陳列されなければならない。

●ヨーグルトはすぐに消費するか、または必要とされるまで家庭の冷蔵庫で保存する。

●ヨーグルトは約10℃で消費すべきであり、この温度以下ではフレーバーが冷たさに応じて正しく出ず、10℃以上だと製品は鮮度を失い、粘度の低下を引き起こす可能性がある。

 15 結論

ヨーグルト(静置タイプ、攪拌タイプ)の品質は乳ベースの準備、加工ステージ、包装、保存および流通中における多くの要因による影響を受ける。考慮すべきポイントに関する以下の概要は品質の良い製品を消費者に届けることを保証する。

●乳ベース中のたんぱく質含量

●均質化、加熱処理。非常にまれなケースだが、凝集物の添加といった加工パラメーター

●スターターカルチャーによる菌体外多糖類の産生

●プロバイオティクス菌を含むスターターカルチャー混合品の使用

●酸度の上昇、酸生成率

●乳中の抑制因子の存在

●発酵後の酸性化

●製造後の加熱処理(第5章を参照)

●流通小売りでの振動

●凝集物の機械的処理(第5章を参照)

●油、脂肪代替物の使用、発酵後の濃縮、健康促進成分の添加といったその他の処理(5章参照)


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