何者にもなれなかったボクから何者でもないキミへ
親愛なるキミへ
キミは今頃、あの3畳の自室にずっとひとり引きこもっていることだろう。
その理由も言わなくても分かっているよ。
キミはさんざん同級生にいじめられた挙句に、そのうちの1人の子から言われた
「おまえなんかいっそ死んじゃいなよ」
の一言がショックすぎて、翌朝から布団から起き上がれなくなったんだよね。
でも、厳しいことを言うようだけど、それは重度の対人恐怖症で誰とも目を見てまともに話せなかったキミのせいでもあるんだよなあ。
しかし、そんなキミに実は朗報を伝えたくてボクはわざわざ時の流れをさかのぼって、ここまでやってきたのだ。
というわけで、
何よりもまずはこの一言をキミに捧げよう。
大丈夫!
キミはこれから今よりももっともっと酷い目にたくさん遭うから(ドヤ顔)
いやいやいやいやいや
どうかそんな泣きそうな顔をしないで、もう少しおじさんの話を聞いてくれないか。
というのも今からボクが話すのは、これからキミがたどるであろう人生の話だからだ。
な?
少しは興味が出てきただろう?
まずキミは、ほどなくして、とても力強い覚悟の果てとかそんなんでは全然なくて、なんとなく受かった地方の大学に進学するために、なんとなくあの3畳の自室(あの中村一義くん言うところの「状況が裂いた部屋」)の扉を開けるだろう。
続いて、キミは、まるでサナトリウムのような環境のその大学で、数人の、でも、おそらく一生付き合うことになるだろう友人と出会って、その冷え切った心を少しだけ温かくするだろう。そして、その温かさに勇気づけられたキミは一所懸命、就職活動に励んで、落第生にはもったいないような有名企業への内定をゲットする。
どうだい?ちょっとはワクワクしてきたかな?
まぁ、早合点は禁物だけどね・・・。
というのも、そんな喜びもつかの間、キミは、その会社に入ってわずか数年の間に、公私ともに普通の人生ではなかなか体験できないようなとてもヘビーな体験をすることになるからだ。
そして、それがきっかけで、キミはその会社を辞めて、別の会社に転職する。
このとき、誰もがキミのその選択に反対したのは、そんな仕事(営業)、重度のコミュ障のキミに務まる訳がないと思ったからだ。まったくもって、ごもっとも過ぎるアドバイスだよな!
でも、キミの大好きなじいちゃんだけは、
「自分がやりたいなら、やってみなよ」
って言ってくれてから、じゃあやってみよう、ってキミは決断するんだよね。
でも、他のみんなが心配していたとおり、確かに、世間知らずで、ちょっとした日常会話すら満足にできないキミは、転職してからの2年間はとても苦しい思いをするだろう。
でも、先輩たちみたいに面白いトークが出来ない代わりに、キミは、何とかその欠点を補うために、誰よりも必死に商品知識を勉強し始める。そして、それを分かりやすく伝えるためのスキルも身に着け始めるだろう。
そして、転職から6年後、合コンした都銀のお姉さんから、
「あなたって、本当に典型的な営業マンだね」
と言われて、キミは晴れて営業マンとしての免許を皆伝するのだ。
キミが会社のお得意先の数社からヘッドハンティングのオファーを受けるのもちょうどこのころの話だ。
その中には、なんと君がかつて辞めたあの会社も含まれていた。
そして、一番待遇面の条件が悪いにも関わらず、
キミは
これこそ運命だ!
と思って、その会社へ転職(出戻り)することを即決するだろう(このときも両親には猛反対されるけどね)。
そして、その会社で、キミはずっと憧れていた商品開発の仕事や海外営業の仕事に携わることになる。
もちろんキミのことだから何事も全力でやるけれども、この時の君の心の中には絶えずこんな言葉がくずぶっていた。
「こんなはずじゃなかった・・・。」
だから、キミは一念発起して社内公募制度で手を挙げて、ある自分の夢を叶えるために別の部署への異動を果たす。
けれど、この選択は、表向きには完全に失敗だった。何しろ夢を叶えるどころか、直属の上司からの愛のムチ(という名のパワハラ)の洗礼を浴びて、キミの心身はまさにズタボロになってしまうからだ。そのころ、キミの頭の中には
「おまえなんかいっそ死んじゃいなよ」
という、あのときの同級生の声が再びリフレインするようになるだろう。
そして、数か月の休職の後、会社から異動先の候補として、キミは2枚のカードを渡される。
ひとつは、英語の技術情報を扱う専門職(かつてキミの仕事ぶりを評価してくれた偉い人からのお声がけがあったそうだ)
もう一つは、
社内ヒエラルキーの中では明らかに最底辺の職場であり、かつ世間一般的にもやりたくないと言われているような仕事だった(実際、昨年、世間を騒がせた「底辺の仕事ランキング」の中にもしっかり入っていたし)
しかし、詳しい説明は割愛するけれど、このときもキミは自分の心の声に従って、迷わず後者のカードを選ぶ。目の前の部長が浮かべる
「こいつはバカのなのか・・・!?」
という驚愕の表情をその眼に焼き付けながら、ね。
この選択が正しかったかどうかは、まだ結論は出ていないけれど、おそらくうまくいくに決まっているはずだと今のところは思っている。
というわけで、ずいぶん、長々と書いてしまったけれど、ボクがここでキミに伝えたかったメッセージは、実はとてもシンプルなものだ。
あの頃、「何者でもない自分」に対してキミはひどく劣等感を覚えていたけれど、残念ながら、そんなキミは未だに
何者にもなれていない。
けれど、実はそれは残念なことでもなんでもないことも併せて強調しておきたい。
なぜなら、何者にもなれなかった未来のキミ、つまりボクは、その代わりに
自分以外の何者でもない人生
をこんなにも楽しめる人間になっているからだ。
少なくとも自分になるより先に何者かになってしまった何だかとてもエラソーな人たちよりも、未来のキミ=ボクはとても楽しそうに見える。
それは、おそらくキミが「何者でもない」ありのままの自分のことをダメなところもひっくるめて好きでいてくれる家族や友人たちに囲まれて暮らしているからだろう。
そういえば、あのときキミがよく読んでいた漫画のことを最近よく思い出す。
その漫画の主人公は、小さな子猫で、道端に捨てられた自分を拾ってくれた優しい男の子に恋をして、いつかは自分も人間になって、彼と付き合う未来を夢見るようになる。
でも、その夢は絶対に叶わない、という残酷な事実を突きつけられたとき、彼女は、こう叫ぶんだ。
鳥は鳥に
人は人に
星は星に
風は風に
私は私に
そして、今のボクはまさにこう叫んでいる。
「ボクはボクになったのだ」
と
(ちなみに、さっきあの漫画を読み返したら、私は私に、とは言ってなかった。てへぺろ)
あと、すっかり忘れていたけど、この過去の自分に宛てた手紙のような記事は、「♯あの選択をしたから」というマイナビとnote主催の企画への参加記事でもあったのだった。だから、最後にそれっぽいことを言って、この文章を締めくくりたいと思う。
少なくとも人生の岐路に立つような大きな選択の際は、他人に決断をゆだねることなく、ちゃんと自分で決断しよう。
そうすれば、少なくとも簡単に言い訳をするような人間にはならなくて済むはずだから。
本当に自分に言い訳して何事も他人のせいにばかりしている人生ほどみじめでさみしいものはないからね・・・。
で、選択といえば、やはりこの曲だよね!
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