見出し画像

永遠なるもの~Live Forever~

昨日、東京散歩の道すがら、ふと足を止めた古書店で、大学時代に愛読していた雑誌を見つけた。

値段も300円だし、買おうかどうか、悩んだけど、荷物があったから、諦めた。

というか、買っても、たぶん読まないことが予め分かっていたから。

それくらい、内容をよく覚えていた、というのが買わなかった本当の理由、

なのかもしれない。

特に当時、新進気鋭のアーティストを取り上げた巻頭インタビューは、活字のフォントの形や段組みさえ鮮やかに思い出せるくらい、何度も何度も何度も繰り返し読んだ。

ちょうどビーチボーイズのブライアン・ウィルソンが長い沈黙を破って「スマイル」というアルバムをリリースした時期で、その中の「ラブ アンド マーシー」という曲を、そのアーティストは大絶賛していた。

「らしいな・・・」

と思ったのをよく覚えている。

僕は、彼のデビューアルバムに、とんでもない衝撃を受けた、当時の、そう多くはない若者の1人だった。

確かにロッキンオンの渋谷陽一が、十年に1人の逸材だと絶賛し、実は日本語ラップの始祖である、いとうせいこうが、あのサザンの桑田佳祐を引き合いに出して、そのユニークすぎる言語センスに脱帽していたけれど、オリコンチャート10位になったとはいえ世間的にはほぼ無名だったし、そもそも当時の街は小室ファミリーで溢れかえっていた。

EZ to DANCE!!!

僕自身は、まずは、ビートルズをベースにした底はかとない懐かしさをまといつつ、同時に、「なんか今まで聴いたことないすんごい新しいものを聴かされているぞ」という感覚を惹起させる、そのユニークなメロディの虜になった。

しかし、聞き込むうちに、僕の頭に自然と浮かんできたのは

「ああ、なんでこの人は、自分が言語化できない人生の真理のようなものを、こんなにも分かりやすい言葉で説明できるのだろうか」

という思いだった。

というわけで、当時、周りの人たちに馴染めずに(厳密には未だにそうだけど(苦笑))、悪友と徹マンする以外は、ほとんど下宿に引きこもっていたポンコツ大学生だった僕にとって、

いつのまにか、彼はまるで

"人生で初めて出会った話の合う友達"

みたいな存在になっていた。

後で知ることになるのだが、彼は子供の頃、両親から虐待を受けて引き取られた祖父母の家の自室(その部屋を彼は「状況が裂いた部屋」と名付けた)にこもって、いわゆる宅録でたった1人で、このアルバムを完成させたそうだ。

そういう意味では、彼は今、流行りのYoutubeアーティストの先駆けと呼べる存在かもしれない。

それはともかく、彼とはまったく別の理由ではあるけれど、高校時代の二年間、僕もまた彼と同じようにずっとあの

"状況が裂いた部屋"

に閉じこもっていたわけだから、お互いに話が合わないわけがないよね。

そして、あのアルバムが一部の音楽ファンに絶賛されるもほとんどの人は関心を示さなかった、という事実、そして、何よりもその後の僕自身の体験が証明するように、当時も今も、僕らのような考えを持つ人は、決してこの世の中では多数派(マジョリティ)ではなかった。

だから、あのとき僕が青天の霹靂のごとく感銘を受けた彼の言葉の数々を

いわゆる

"人生の真理"

というふうに普遍化して語るのは、きっと間違っているのだろう。

それこそ、ひろゆきが言うところの

「それってあなたの感想でしょ?」

ってやつに過ぎない。

しかし、その一方で、あれからもう20年以上が経つというのに、あの言葉たちは、まったく色褪せることなく、僕のハートをびんびんに震わせてくれるのもまた事実だ。

「まったく成長しとらんね」

と自嘲したふりをしながら、

本当のところは、

"この幼稚な気持ちをまだ忘れられずにいる"

自分のことをまんざらでもない、と思っている。

さあ、今日もまた、あの"永遠"へと続く、いつもの朝が始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?