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花粉症治療薬のこと



花粉シーズン到来?

今年(2024)のスギ花粉飛散量は全国各地、おおむね平年並みと予想されています。
過去のスギ植林によって大量花粉が飛びはじめたことはご存じの通りですが、実は穏やかにスギ花粉生産面積(スギ林)は2050まで右肩あがり、しばらく減ることはありません。そして地球規模で起こっている温暖化の影響か、飛散時期が早まっており、今年は飛散が早く年明けからすでに症状を訴える方が多くみられます。花粉飛散ピークの時期には、曝露(花粉にさらされる)量が増えることによって症状は大きく出ます。
鼻アレルギー診療ガイドライン、通年性鼻炎と花粉症(2024)でも軽症~中等症~重症・最重症と治療が分けられ、数か月症状が安定を確認してからステップダウンしていくことが推奨されています。
もちろん症状はつらいものですが、大きな課題として、アレスギー性鼻炎/花粉症が「労働生産性の損失」に大きく影響していました。仕事ができないというほどではありませんが、くしゃみや目のかゆみで集中力が低下するのは確かですね。

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1185/030079906X112552

Current Medical Research and Opinion, Volume 22, Issue 6 (2006)

ということで、診断や治療方針を決めていくことが重要ですし、生活でも注意すべきことがたくさんあります。近年は舌下、注射などでの免疫療法もありますが、治療は薬というよりも体(環境)を作っていく作業となりそうです。


さて、薬剤師的には薬物療法:抗アレルギーをどう選んでいるのか、どう選ぶべきかを今回ノートに記しておきます。
おおまかに選び方としては、症状の強さはどうか(有効性)、効き目の長さはどうか(持続性)、眠気がでやすいかどうか(副作用)、仕事や日常生活への影響はどうか、腎機能はどうか、服用回数や食事との影響、例年飲んでいる方はその効き目がどうか、満足度はどうか…などでしょう。

抗アレルギー薬について


近年は眠気など副作用が少なく、長く、よく効くものが開発され発売されてきました。良い薬があれば、以前の薬はいらないのではないか、最新の薬がいくつかあればそれで良いのではないかと疑問がでてきます。薬の種類がたくさんあると間違いも起こりますし、無駄も多いのではないかと考えてしまいます。一択、二択くらいならば楽だ、というのは提供側の考え方。たくさんの種類がある中から、一番適したものを選択して最小限の薬で最大限の効果を出してこそ、豊かさがあるのではないでしょうか。
シーズンを通しても症状は変動、ひとりの人でも疾患や体調、体重や気分も変動しています。

抗ヒスタミン薬、遊離抑制薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗LT₂薬、抗PDG₂・TXA₂薬、抗ヒスタミン薬+血管収縮薬配合剤、アレルゲン免疫療法、抗原除去・回避…などそれぞれ選択と組み合わせがあり、さらにその治療法の中に薬剤の種類があります。

抗ヒスタミン薬

体に花粉など異物(アレルゲン)が入ると、その異物を「マクロファージ」という細胞が食べ、その情報を「リンパ球」に伝えます。リンパ球が異物と認識すると次に侵入してきたときに排除できるよう「抗体(IgE抗体)」を作ります。抗体は血液や粘膜内にある「肥満細胞」にくっつきます。
再びアレルゲンが体内へ侵入してくると、抗体のくっついた肥満細胞の表面でアレルゲンと抗体が結合します(抗原抗体反応)。
この反応が引き金となり、炎症を引き起こすアレルギー誘発物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が肥満細胞から放出され、くしゃみや鼻水・鼻づまりなどの症状を起こします。

ヒスタミンとは、ヒトや動物が体内で作ることができないアミノ酸(必須アミノ酸)のひとつであるヒスチジンを原料として体内で細胞の異化作用(細胞の営み)から生じる分子群(生体内アミン)の一種になります。通常は肥満細胞と好中球の顆粒の中で、ヘパリンというタンパク質と結合して働かない形で存在しているのですが、この肥満細胞の表面でIgE抗体(即時型のアレルギーを引き起こす抗体)が花粉など抗原と結合して抗原抗体反応が起こったときに肥満細胞からヒスタミンが遊離して活性化、ヒスタミンH1という受容体(特定の分子を選択的に受容するタンパク質)にくっつくとアレルギー反応が引き起こされます。

そのヒスタミンをブロックする薬「抗ヒスタミン薬」ですが、問題となるのが眠気の副作用です。脳への移行性、というよりも脳の中のヒスタミン受容体をどの程度占拠してしまうかが問題となり眠気を引き起こします。

別記事でCOVID-19感染症について触れましたが、その場合は熱が出にくいものの「目のかゆみ」がでていれば、感染か否かが分かれると考えられます。ただアレルギー性なのか、局所アレルギー性local allergic rhintis(LAR)なのか、血管運動性や老人性の非アレルギー性の鼻炎なのか、責任をもった判断をすることは難しいです。

薬剤師としては

これからも、副作用が少なく効果が期待できる薬はどんどん出てくると思います。技術の進歩で安全性も高まり、事故も減ってくるでしょう。大切なことは、使用ルールを理解して、なぜその使用方法のルールができたのかを知っておくこと。さらに、目の前の相手にどう適合させて、適切な服用や使用によりどのような状態を目指すのかを見せていくことだと思います。

薬剤師は鼻腔内の所見や症状、場合によっては鼻汁の好中球検査や血清特異的IgE検査などの抗原同定などから診断・治療方針の決定はできないため、医師の判断からの薬物治療オーダーを受けた際に、責任をもって服用から効果、その先の社会生活まで責任をもって追っていきたいと思います。

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