哀しいホスト 第4話 華やかさの裏にあるもの
第4話 華やかさの裏にあるもの
ナンバー1ホストとしての地位を手に入れた俺は、毎晩のように多くの女性客に囲まれ、店内では常に注目の的だった。高級なスーツを身にまとい、贅沢な酒を飲み、女性たちと笑い合う――表面的には、これ以上ないほど華やかな生活だった。売り上げが増えるたびに、店からの報酬も増え、俺はその金で欲しいものを手に入れ、夜の街で豪遊する日々を送った。
だが、その反面、次第に心の中にぽっかりと穴が空いていくのを感じていた。毎晩繰り返される接客、笑顔を作り続けること、女性たちの期待に応えること。それらが全て虚しく感じられる瞬間が増えていった。確かに、ホストとして成功することは誇りだったし、それを達成した喜びもあった。しかし、その成功はどこか空虚で、心の底から満たされることはなかった。
ある夜、仕事を終えた後、俺は店の裏口からひっそりと外に出た。賑やかな音楽が遠くから聞こえる中、夜風が肌寒く感じられた。誰もいない路地裏に立ち尽くし、ふと、自分が何のためにここにいるのかを考えた。華やかな舞台の上で輝く俺だが、その舞台を降りた瞬間、周りには誰もいない。ただ静かに時間が過ぎていくだけの孤独な世界だった。
そんな俺を救ってくれたのが、同じ店で働く仲間たちだった。彼らもまた、同じように夜の世界で生きている者たちだった。時には競い合い、時には助け合う、その関係は複雑でありながらも、どこか兄弟のような絆があった。
特に、同期で入ったタケルとはよく一緒に飲みに行った。彼もまた、ナンバー2として店での地位を築いていたが、俺と同じように心に葛藤を抱えていた。ある晩、タケルと二人で安い居酒屋で酒を飲んでいると、彼がふとこう呟いた。
「キク、お前も感じてるだろう?この虚しさをさ」
俺は黙って頷いた。彼もまた、成功の裏にある孤独を感じていたのだ。ホストとして生きることは、常に他人に求められる存在でいることだ。だが、仕事が終わり、店を離れると、その求められる感覚が一瞬にして消え去る。そのギャップが、俺たちを苦しめていた。
「でもさ、俺たちには他に道はないんだよな」と
タケルは少し笑ってそう言ったが、その笑みにはどこか寂しさが滲んでいた。俺たちは互いに酒を注ぎながら、無言の時間を共有した。言葉にしなくても、お互いが抱える孤独や虚しさを理解していたからだ。俺たちは、ホストという世界でしか生きられない。それが分かっているからこそ、余計にこの生活の虚しさが胸に響いてくる。
「タケル、お前はホストを辞めたいと思ったことはないか?」俺は、ふと口に出してしまった。自分でも驚くような質問だった。タケルはグラスを置き、少し考え込んでから答えた。
「あるさ。でも、俺には他に何もない。これしかできないんだよ、俺は。お前もそうだろ?」
その言葉に、俺もまた深く頷いた。ホストとしてのキャリアを捨てることは、自分自身を否定することに等しい。俺たちはこの仕事でしか生きられない。だからこそ、その世界で成功し続けるしかなかった。
「結局、俺たちにはこの道しかないんだよな」俺は、自嘲気味に言った。
タケルはそんな俺を見つめ、肩を軽く叩いた。「そうだな。でも、だからこそ、俺たちは互いに支え合っていかなきゃならないんじゃないか?一人で抱え込むには、夜の世界はあまりにも重い」
その言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。確かに、俺たちは孤独を感じていたが、それでも仲間がいるという事実が、どこかで俺を支えてくれていたのかもしれない。
その夜、俺たちはしばらく黙って酒を飲み続けた。華やかな世界の裏で感じる孤独と虚しさ。それでも、同じ道を歩む仲間がいることが、俺にとって唯一の救いだった。タケルとの友情は、俺にとってかけがえのないものとなっていった。
翌日からも俺は店での仕事を続けた。毎晩、多くの女性たちと過ごし、笑顔を作り続ける。タケルや他のホストたちと時には競い合い、時には励まし合いながら、この夜の世界で生きていく。心の中の虚しさを完全に消すことはできなくても、俺にはこの世界での役割がある。それを忘れないように、俺は今日もまた、笑顔を作って店に立つ。
華やかな夜の街の中で、俺たちは孤独と虚しさを抱えながらも、互いに支え合い、夜の世界を生き抜いていく。成功と栄光の裏にある影。それを乗り越えるために、俺はホストとして、仲間として、そして一人の男として、戦い続けるしかなかった。
つづく
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