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リアル料亭・ガチ仲居 第一話

第1話 これができれば働ける


 私が勤めていた料亭は、明治初期から日本文化が連綿と受け継がれてきた老舗料亭。
 かの伊藤博文も、今は亡き安倍総理も来訪しました。

 そんな料亭でアルバイトをしたいという女の子達。
 大抵はCAさんになりたいなどの就活の一環として応募をされます。
 日本文化の神髄を学べますから、アピールポイントになるのでしょう。

 研修期間は、たったの三日。
 一日目は料亭の歴史や装飾品の名前、由来を覚える。
 店内には三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎の息子から寄贈された西洋船(レプリカではなく本物)が、待合室の暖炉の上に置かれていたり。
 かつてはお殿様と呼ばれた家からの献品が、数多く飾られているからです。
 
 絵画に関しても、お客様に「これは誰の作品ですか?」と聞かれたら、即答できなければなりません。
 お客様の中には知ってるくせに、わざと仲居に尋ねて試すようなことをなさる方も多いようです。

 二日目は着付け。
 帯はお太鼓を差し込む『なんちゃって』帯ではありません。自分で締めます。
 最初はベテラン仲居さんの指導のもとで、着付けを学ぶ。

 三日目には、足袋を履くところから始め、帯を締め終えるまで全部ひとりで出来るようになっていて当たり前。
 私の姉は半年もの間、着付け教室に通いましたが、結局着物を着られるようにはならなかったという難題です。
 若干の新入りいびりが入っています。
 そんないびりをものともせずに突撃してくる新人さんを求めます。

 美しく着付けできるかどうかはともかくとして、手順だけでも覚えていたら合格です。

 この『着付け』をすんなり身につける事が出来た子は、仲居の仕事も割合お出来になる。逆に苦戦してるなという子は、仲居の仕事の飲み込みも宜しくない。

 着付けは折り紙と一緒だという、名言があります。
 折り目折り目で、きちんきちんと折り畳んでいかなければ、美しい着付けになりません。つまり、器用さや几帳面さが求められます。
 
 私は宜しくない方のタイプです。
 最初は自宅での練習では着物を着るだけで二時間かかり、帯を締めるだけで二時間かかったダメ社員。いつも更衣室でもたもたしていて、お局様に手伝ってもらって着てました。

 それでも自宅で着付けの練習を重ねた結果、退職時には三十分ぐらいで着られるようになりました。お局様には「十五分で着られるようになったら一人前」だと言われましたが。

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