娑婆
閉鎖病棟より、戻って参りました。
15:30に家族が迎えにくるので、それまでに外に出られる服に着替えて、部屋の私物を回収する。
再びがらんとした部屋で1人待つ。
天国のような、地獄のような、喜びも悲しみもない世界が名残惜しかった。
2週間ぶりに外に出てまず情報の多さに殴られた。動悸待ったなしである。
ドッドッドッと心臓が跳ね回るのを感じる。落ち着いて欲しい。
出てみて初めて気付いたのは閉鎖病棟内はまず色が統一されていて空調も完備で寒さ暑さがなかった。BGMもなかった。
ぶつぶつと何かしら話していたり、永遠に壁を殴っていたり(彼女の拳は大丈夫だろうか)、仲間たちによる騒音はあっても、電車や雑踏の話し声たち、肌に当たる風ほどの情報量はなかった。
穏やかな場所であれ、と工夫が凝らされていたのだ。
わたしにとって都合のいい死後の世界だった。
しかし、出てきてしまったからには生きねばならない。生きるには金がいる。
また、労働の滝壺に身を投じなければならない。
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