夏の思い出
最近暑いな〜とお決まりの状況で親友と駄菓子屋の前でアイスをほうばっていた。テスト終わりの放課後。ちょうど日が照りだす時間帯。セミの大合唱。ぎりぎり涼める程度の日陰。買ったばかりで白い冷気を出す俺のグレープアイス。時々申し訳程度に鳴る風鈴。夏の風物詩がこれでもかと揃っているにも関わらず、全然魅力的に感じないのは暑すぎるからだと思う。これをクーラーの効いた部屋で聞くならちょっと羨ましいなんて思ったりしたかもしれない。
それはそうとやっぱりアイスは美味い。グレープアイスを選んで正解だった。グレープのジューシーさが冷気と共に口の中に広がり喉を潤してくれる。かじった欠片を口の中で転がし、できるだけ口内を冷たくするのが最近見つけた食べ方だ。溶けていくときが少し寂しいがこの食べ方が一番グレープ味を堪能できる。親友はというと、ソフトクリームをガシガシ勢いよく食べている。
「こんな暑いのによくそんな濃厚なのが食えるよな」
「冷たいのには変わらないんだから、量重視だろ!!」
「分かんね笑」
量重視の割には惜しげもなく大口で食べる姿につい笑ってしまった。
お互いしばらく黙ってアイスを味わっていると、ふと親友が話しだした。
「俺さ、彼女できた」
「おーまじか。おめでとう。誰?」
「お前の前の席の子」
「接点あったっけ?」
「告られた」
「それだけかよ笑」
鳴き続ける蝉も、食べ終わり乾ききったアイスの棒も、元気よく去っていく子供も、親友も、なんとなく俺を置いていく気がしてうら淋しさを覚えた。
「付き合ったからには大事にしろよ」
「当たり前だろ」
夏の真っ只中。この日のこの会話が今でも忘れられない。私にとっての夏は、まさに、あの瞬間だったのだろう。
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