TM.

拙いながらにも創作短編小説を書いていこうと思っています。皆様の目に留まっていただけたら…

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拙いながらにも創作短編小説を書いていこうと思っています。皆様の目に留まっていただけたら幸いです。

最近の記事

冬の夜、君が問う

ゴーン、ゴーンと鐘が鳴っている。誰が鳴らしたのだろう。夜の闇に響き溶けていく鐘の音は、なんとなく趣深いなとか思ったりした。 横に座っているのは意中の子だった。正月が少し過ぎた頃の静夜。凍てつく空気が鼻の奥をツンと冷やす。冷たかったベンチの温度にも慣れてきた頃、彼女は少し赤らんだ指先を鐘に向けながら楽しそうに囁くように話しだした。 「除夜の鐘の除夜ってね、大晦日って意味なんだって。古いものを捨て去って新しいものを取り入れるって意味が込められてるから。」 どうして突然、そん

    • 夏の思い出

      最近暑いな〜とお決まりの状況で親友と駄菓子屋の前でアイスをほうばっていた。テスト終わりの放課後。ちょうど日が照りだす時間帯。セミの大合唱。ぎりぎり涼める程度の日陰。買ったばかりで白い冷気を出す俺のグレープアイス。時々申し訳程度に鳴る風鈴。夏の風物詩がこれでもかと揃っているにも関わらず、全然魅力的に感じないのは暑すぎるからだと思う。これをクーラーの効いた部屋で聞くならちょっと羨ましいなんて思ったりしたかもしれない。 それはそうとやっぱりアイスは美味い。グレープアイスを選んで正

      • 【超短編】3秒間

        三秒間。三秒間のはずだった。なのに、やけに長い。 数分前のことだった。 「ねぇ、三秒間目を合わせたら、恋に落ちるらしいよ!やってみない?」 同僚のいつもの思いつきである。貴重なお昼休憩中だったが、たった三秒間だしと思ってやってみることにした。が、これが間違っていた。思っていたよりも長く感じる時間に、以前から何かと意識していた同僚、純白の白衣に負けじと白い肌についた端正な顔は謎に真面目だった。無垢な劣情が蘇る。自分より遥かに優秀な彼女に、今、まじまじと見られていると思うと

        • この社会の片隅で

          彼の生き方というのは非常に悲惨なものであった。 彼は五人兄弟の末であったが、能力は最も高かった。臆病故に用意周到であり、それが彼を価値のあるものにしていた。しかし、結局はものでしかなかったのである。両親、ひいては兄弟の鬱憤バラシのものでしかなかった。私は、一度、彼が、家の近くの公園に連れ出されているところを見たことがある。彼は、引きずられるように、それが、せめてもの反抗であるかのように、黙ってついていった。その後の光景はあまりに数奇であり見るに耐えなかった。彼が、砂利で隠さ

        冬の夜、君が問う