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冬の夜、君が問う

ゴーン、ゴーンと鐘が鳴っている。誰が鳴らしたのだろう。夜の闇に響き溶けていく鐘の音は、なんとなく趣深いなとか思ったりした。

横に座っているのは意中の子だった。正月が少し過ぎた頃の静夜。凍てつく空気が鼻の奥をツンと冷やす。冷たかったベンチの温度にも慣れてきた頃、彼女は少し赤らんだ指先を鐘に向けながら楽しそうに囁くように話しだした。


「除夜の鐘の除夜ってね、大晦日って意味なんだって。古いものを捨て去って新しいものを取り入れるって意味が込められてるから。」


どうして突然、そんな話をするのだろう。ただ、そんな疑問がどうでも良くなるくらい彼女の声は、真冬の夜の空気に馴染み溶けて消えていき、妙に儚い美しさを感じさせた。


「ねぇ、古いものってなんで捨て去らなきゃいけないんだろう。好きなものが古くなっても捨てなきゃいけないのかな。」


またしても突然。


「好きなものなら捨てなくてもいいんじゃない?古いものを捨て去ると心機一転するよって言いたいだけなんじゃないかな。正月だし。」


「あぁなるほどね。じゃあ私には関係ないや。」


なんの関係だろうと思ったけどなんとなく聞くのをやめた。静かで冷たく、ただただなんともないようなこの空気が好きだったから。壊したくなかったから。

一人納得した彼女は両手で口元を覆い、はぁと白い息をはいている。指先だけでなく鼻先も赤くなっていた。


「そろそろ帰ろっか。」


「うん。」


少し名残惜しそうにうなずく彼女が愛おしかった。


正月が少し過ぎた頃の静夜。いつの間にか、パラパラと雪が降り始めていた。


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