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【超短編】3秒間

三秒間。三秒間のはずだった。なのに、やけに長い。


数分前のことだった。


「ねぇ、三秒間目を合わせたら、恋に落ちるらしいよ!やってみない?」


同僚のいつもの思いつきである。貴重なお昼休憩中だったが、たった三秒間だしと思ってやってみることにした。が、これが間違っていた。思っていたよりも長く感じる時間に、以前から何かと意識していた同僚、純白の白衣に負けじと白い肌についた端正な顔は謎に真面目だった。無垢な劣情が蘇る。自分より遥かに優秀な彼女に、今、まじまじと見られていると思うと、早く終われと願うばかりである。嫉妬とも似つかない諦めに似たこの感情に振り回される自分がひどく醜く、そう思うたびに彼女と比較しては落ち込んでいる日々がフラッシュバックする。あぁ。そうだった。そういうものなんだった。恋に落ちるなんてことはもうとっくに忘れ、結局自分のことばっかり考えてしまっていた。そうこうしているうちに、三秒間は終わり彼女も満足したようだった。彼女が何をしたかったのかは最後までわからずじまいだった。

ふと、机を見ると小さな虫が止まっている。人命を預かる職業故に最近は、命に敏感になり、虫を殺せずにいた。だからといって、触る気も起きないので放っておくことにした。昼食も食べ終わり、昼休憩もそろそろ終わるため、私は席を立った。彼女はまだ座ってぼーっとしている。特に話すこともないのでそのままエレベーターへ向かう。二階のボタンを押したとき、横目に彼女が映った。どうやら虫を逃しているようだった。開けた窓から風がふわりと入る。カーテンのように彼女の白衣もふわりとたなびく。昼の陽光が、彼女を照らす。


やはり、美しかった。

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