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ドラマ『かぞかぞ』を観て、生きるは大変だと心底思った件

アラフォー主婦の私からしたら家族はほぼ全て。必死に子ども育てて、ドボンせんよう死ぬまでのコマを1つ1つ進めてる。
劇中、主人公やその両親がよく言う「大丈夫」という言葉。子どもの頃は相手を安心させるためのモノやと思ってたけど、あれは言ってる本人が自分に言い聞かせるための言葉やったんやなぁ。母親である今の私は子どものホッとした顔見て、ホンマに大丈夫にせんとってスイッチ入れとるんや。

今回観たドラマは
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」
NHK BSで2023年秋に放送された異色のホームドラマ。
主役の岸本七実を演じるのは河合優実。
父は中学の時に病死、弟はダウン症、母は不治の病。

「どれかひとつでもあれば、どこぞの映画監督が世界を泣かせてくれそうなもの。それ、全部、うちの家に起きてますけど」

NHK『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

と1話のラストが締めくくられる。作家・岸田奈美の実話を元に彼女の高校時代から作家として活躍するまでを全10話で描く。

家族の死、障害、不治の病。赤の他人からしたら主人公の七実ちゃんは悲劇のヒロイン。でも物語はシュールな笑いをベースに淡々と描かれる。

その笑いに貢献している1つが演出効果。細かいカット割や早回し、一見ミスマッチなBGMに、主人公の瞬間的な感情として挿入される効果音がクスリと笑いを生み出している。

そして斜め向かいに投げられる1歩ずつズレたセリフ回し。主人公の七実が弟に遊園地に行くようせがまれるシーン。

七実「(遊園地に)連れてくなんてゆーてへん」
母「えぇーやん。明日行ってきー」
祖母「ほな弁当がいるなぁ」
七実「いらんて。遊園地なんてもんは売店でポテトとか買って食べたいねん。てか行かへんねん」
祖母「贅沢ゆーな(中略)」
七実「行かへんの」
弟「ポテト食べたいです」
祖母「あかん。弁当持って行き」
七実「行かへんからね!」
翌日、ふてくされた七実が弟と一緒に遊園地に向かう。

NHK『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

誰も話を聞いてない。言いたいこと言って最後はきっちり落ち合う感じが家族のリアル。

「悲劇も誰かに笑ってもらえたら喜劇になる」という原作の世界観を映像で見事に表現している。

「障害のある子は親を選んで生まれてくる」「これも神様が与えてくれた試練」系メッセージは部外者が自分自身を納得させるための言葉で、当事者からしたら「んなことあるかー」やないかと思う。現実はそんなキレイごとじゃないけど、悲劇的な毎日の連続というわけではない。普通の家族と同じような喜びもあれば、普通では考えられない苦労もある。

お前の納得したいカテゴリにはめるんやなくて1人1人対峙しろ
と言われてるような気になる。

悲劇のヒロイン七実ちゃんではなくただの七実ちゃんと付き合うべきだ。
それを実現する七実のただ1人の親友・福地桃子演じる天ヶ瀬環(あまがせたまき)は、かなり魅力的なキャラで目が離せない。
マルチ商法にはまる親の影響で、同級生からは疎んじられ、3軍に甘んじる通称マルチ。自分より可哀相な人間として七実に近づくが、その七実の言動に心惹かれ、いつしか親友となる。岸本家の過酷な現状を受け止めつつも、七実には対等な関係を求め、作家として成功を納めた後も陰ながら見守る存在だ。

子どもの頃から、人を笑わせたいとネットの世界に向き合っていた七実の発想力は同級生にはウケず、承認欲求が満たされない日々を過ごしていた。しかしSNSでの家族ネタ投稿がバズり、人気ブロガーになると仕事を通して対等に向き合う仲間を自らの手で獲得していく。脇を固める俳優陣はSNS運営会社社長役に林 遣都、TVプロデューサー役に古舘 寛治、書籍編集者役に山田 真歩と魅力的な実力派が勢ぞろいだ。

おっと、肝心な家族の俳優紹介を忘れとりました。
母親役に坂井真紀、父親役に錦戸亮、祖母役に美保純。そして弟役にはダウン症の新人俳優・吉田 葵が起用されている。現場では俳優の専属サポートをつけ、当事者だからこそ伝えられる世界観が最も重要視された。

描かれているのは、何も特別な世界ばかりではない。家族の面倒くささ、子離れ、老い、承認欲求、スクールカーストなど誰もが体験する人生の普遍的なテーマもてんこ盛り。生きるということは本当に大変なことや、たまたま何とか生きてこれてるけど、一歩間違えたらどうなってたことか…生まれかわるなんてゴメンやわと思いつつ、紆余曲折しながらも一度限りの今を大事に生きていこうと思える。

このドラマを見逃した方には朗報。2024年7月にNHK地上波で再放送されるとのこと。シュールな笑いに包まれて、丁寧に積み重ねられた家族の物語に号泣は避けられない。ティッシュ1箱を片手に是非ご覧あれ。

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