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【長編小説】万華のイシ 無我炸裂_39

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5章_炸裂-illness≠barbaric-


5-6 再接近リ・アプローチ


「……面倒臭ぇことになったな」
 大量の粉塵が舞う中、口元を袖で覆いながら小声で呟く。
 どうあれ、やるべきことに変わりはない。
 捕食の異能で以てヤツの暴走を止める。
 そのために必要なのはどうやって攻撃を完遂するか・・・・・・・・・・・・・という方法論だ。
 正面から叩き込むのは難しい。爆散はオレの異能そのものすら雲散霧消させるうえに、例え侵食を成功させてもその途中で反撃を受けてしまう。
(視界が覆われたなら――)
 崩落の瞬間に見えた位置関係と聞こえた声の方向から伊南の居所を推定し、それを中心に弧を描くように回り込む。
 触れるだけで万物を粉砕する爆散だが、触れなければ発動しない。
 爆散の余波で崩落した瓦礫を踏んで音を鳴らさないよう慎重に足を進め、あと数歩で手が届く、というタイミング。

「なら後ろから攻めようって、そう思うよねぇ!!」

 勝ち誇った声と共に伊南の腕が粉塵のカーテンから突き出される。
「ッ…………!」
 ドウッ…!!と悪寒が全身を駆け巡る。
 攻撃のために展開しておいた鎧が一瞬で剝がれ落ちた。
「そんな策でっ!!」
 続けざまに放たれた爆散クレイモア地雷はあらぬ方向へ炸裂するが、代わりに周囲の粉塵もまとめて吹き飛ばす。完全な除去には至らずとも、一気に互いの姿を視認できる程度までその濃度は薄らいだ。
「あは。わたしが校舎の破壊だけに専念すると思った?『相手の土俵に立たない』とは言ったけどお前を無視するとは一言も言って――」
 伊南の言葉が途切れたのは、目の前に瓦礫の欠片が飛んできたから。
 言うまでもなく、オレが投げつけたものだった。
 しかし彼女は避けもせず片手で打ち払う。
 それだけで礫は跡形も無く粉砕された。
「…………何のつもり?」
 自らの晴れ舞台に水を注されたかのように不快感を露わにする伊南だが、構わず二、三と続けてコンクリ片を投擲する。
「呆れた。こんなのでわたしに傷をつけられるワケ無いでしょ…!!」
 キャッチボールでもするようにのんびりした動きで飛来物に手を触れる。
 宣言通り、触れたそばから砂と化したそれらは彼女に一切の傷を付けず流れ落ちる。
 そして、
「――――!!」
「その隙に近付こうっての、知ってるから!!」
 人体の反射を利用した接近方法。
 初めて伊南と出会ったとき、チンピラ青年に対してオレの採った作戦もまた同じだった。
 投擲と同時に駆け出したオレの姿をしっかり見据え、ヤツは渾身の床爆散攻撃をこちらにお見舞いする。
 ――――つもりだっただろう。
「え………………!?」
 爆散は確実に機能した。
 その感触をヤツはしっかり把握しているはずだ。
 だが、彼女の思い描いていたであろう、オレの逃げ場が無いほどに特大な範囲の爆散クレイモア地雷は現れない。
 代わりに広がるのは極々小さな、手が届く範囲の炸裂のみ。
「自分の足元ぐらい確認しとけ!!」
「な――――っ!?」
 言葉に釣られて目線を下げた伊南は息を呑む。
 オレたちの足元に広がるのは旧校舎一階の床そのものではなく、ヤツ自身が崩落させた三階部分の残骸。
 すなわち、今しがた炸裂させたのはそんな瓦礫たちの一つに過ぎなかった。
「手前の破壊は連結されたひと塊単位だ、バラバラな瓦礫を触っても範囲攻撃は使えねえ!」
「だからってェェェ!!」
 不安定な足場を義経よしつねの壇ノ浦八艘飛びの如く駆け抜け、瞬く間に距離を詰める。
 既に両腕を赤黒い手甲で覆ったオレを、伊南は憤怒の表情で迎え撃つ。
 その怒りは策を弄したオレに向けてか、謀られた自身に向けてか。
 病魔のもたらす衝動に全身を委ねたヤツには、もはや判別不能な感情だった。

    ◇◇◇◇

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