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【長編小説】万華のイシ 無我炸裂_36

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5章_炸裂-illness≠barbaric-


5-3 激突


『音代は……うん、そうですね。けどさっきの別谷さんの言葉を借りれば、あの子だけじゃなくて、姫毘乃っていう環境があってこそ今のわたしなんでしょうね。……そう考えると、姫毘乃に進学するよう勧めてくれた両親も関係してくるのかも』
「これまでに異能を使って殺してきた三人の人間は全員、お前自身が『自分を形作った存在』だと言っていた相手だ。なら、次に手を付けるのもその条件に当てはまるモノじゃないか……そう考えただけさ」
 すなわち、次の標的は姫毘乃という環境――学園そのもの。
「ふぅん……わたし、そんなこと言ってたんですね」
 当の本人は興味無さげに視線を逸らす。
 まるで、オレの見解が図星か当てずっぽうかなどどうでも良いと言わんばかりの態度。
「それで?」
「あん?」
 胡乱な返事をした直後。
 ――――――――ッッッドン!!
 伊南は外壁を触れるだけで消し飛ばし、脅すように睨んでくる。
 門扉や昇降口とは異なり、壁全体が一撃で粉砕されていた。今や破壊の権化となった彼女は、破壊の範囲さえも自在に操れるようだった。
「とぼけないでください。今のは二個目の質問に答えただけでしょう。一個目に対する答えを聞いてないんですけど」
「ああ、手段どうやってじゃなくて理由どうしての方か」
 抗議の視線を受け流し、
「そんなの、分かりきってるだろ」
 既に異能の片鱗が滲み出し始めていた、右腕を手の甲を見せるようにして構える。
 漏れ出た黒煙が微かな空気の流れに沿って、紅い軌跡を残しながら虚空へと吸い込まれていく。
「目醒めた直後で悪いが、その爆散の力とは今日限りでお別れしてもらう」
 その言葉が合図となった。
「ッ――――!!」
 次なる破壊対象に触れようと伸ばされた伊南の腕を、一瞬早く動き出したオレの右手が掴む。
「邪魔!」
 言うが早いか、伊南はもう一方の手をオレの腕に伸ばす。
 触れるだけであらゆるものを粉砕する魔の手。
 接触点が腕だけだとしても、一瞬でオレの全身を血の微粒子に変えてしまうはずだった。
「――――!?」
 立ち昇ったのは鮮血の霧ではなく、真っ黒な煤の破片だけだった。
 黒い霞が散り散りに舞う中、消し飛ばしたはずのオレの姿を認めたヤツは歯噛みする。
「それが貴女の――」
 言い終える前に掴んだ腕を手前に引き、その勢いを逆手に取って伊南の腹部へと膝蹴りを叩き込む。
「がっ……ほ!?」
 恐らく経験したことの無いであろう衝撃に数歩後ろへよろめき、えずき、こみ上げた胃液を床に吐く。
 いくら強力な異能を得ても、肉体は高校二年生の女子であることに変わりない。なまじ得た異能の威力が強いだけに、咄嗟にその力に頼ろうとしてしまうのは自然なことであり、その隙を突くのは造作もないことだった。
「文句は後で聞いてやる。まずはその物騒なモン、綺麗サッパリ失くしとけ」
 未だ腹を抱えて嗚咽する伊南の身体に触れ、再び異能を励起させる。
 今度は守りでなく、攻めの力。
 廃工場で中条を下した、別谷境の本性が顕れる。
(くらえ。喰らえ。食らえ、クらえ――――)
 身体の芯から湧き上がる衝動が、思考を支配しようと脳内で乱反射する。
 それに呼応するように、生じた黒煙が蛇のようにうねり、獲物を求めて蠢き出す。
 右手首を苗床にして生えた黒い触手は、物理法則を無視して伊南の身体の内側へと「侵食」していった。
「い!?ぎっ……………………あっ………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………ッ!」
 伊南の身体ナカを触手がまさぐる度、嬌声ともうめき声ともとれない吐息が零れ落ちる。
 中条が敗北したこの異能は、伊南に対しても効果覿面だった。
 だが、それはオレにとっても同じこと。
 普段は強固な鎧として使われているこの異能にとって、本来の機能を存分に発揮させている今こそ、オレの意識に対して快楽という揺さぶりをかける絶好のタイミング。
「フーッ……フーッ…………」
 ダイヤルゲージのイメージを頭に浮かべて出力を調整し続ける。
 下げ過ぎては効果を維持できず、上げ過ぎても触手が自分の制御から離れてしまう。
 ひと息に目の前の獲物オンナを犯してしまいたいという衝動に自我を吞み込まれないよう、目蓋を閉じて精神を集中させる。
 それゆえに。
 オレは気付けなかった。
 現在進行形で侵食を受けている伊南の両手が、黒い触手に触れようとしていたことに。
「ッ……………………!?」
 異変を感知した時には遅く。
 痙攣する手で触手そのものを爆散させた・・・・・・・・・・・・伊南は、荒い呼吸をしながらもオレの拘束から逃れることに成功した。
「マ、ジか……!!」
「っは……!!ハァ……ハ…………この、ケダモノ……!!」
 変質者の視線から肢体を隠すように腕を抱えた伊南がこちらを見据える。
 その目はさっきまでと違い、明確な殺意が込められていた。
 つまりこの瞬間、ヤツにとって別谷境はただの障害物から倒すべき敵へと切り替わったのだ。
「うゥゥゥゥゥゥゥゥアァッ!!」
 咆哮一閃。
 自棄にも見える動きで床を殴りつけ、直後。
 爆散によって粉砕されたコンクリートの残骸が、クレイモア地雷のようにオレ目掛けて炸裂した。

    ◇◇◇◇

次回


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