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銀河鉄道999 2巻 第1話 昔の自分に伝えたいこと

「大四畳半惑星の幻想」

停車駅:明日の星

 いよいよ第2巻にはいりました。ただ999の感想をまとめたいと思い、自分のためにはじめた投稿ですが、少し読んで頂ける方もいてとても嬉しく思っています。
 それでは引き続きよろしくお願いします。

 昔の自分に伝えたいことはありますか?
 
 特に貧乏で将来に希望がもてなかった時の自分に今なら言えることがあるでしょうか。
 「元祖大四畳半大物語」は別冊漫画アクションで1970年から連載された漫画です。松本氏が昔下宿に暮らしていた時の経験をもとに描く、青春葛藤漫画です。主人公の足立太はチビでメガネでしかも貧乏という男のコンプレックスを全て背負ったような男です。この青年にあるのは明日という可能性だけでした。

 この松本氏の分身ともいうべき大四畳半大物語の世界になんと999号が降り立ちます。これはファンにとってもたまらない展開ですね。しかもこの世界の人々は銀河鉄道の存在を知りません。鉄郎も999の事を話さないよう降車前に念を押されます。

 「明日の星」に降り立った鉄郎とメーテル、2つの事件に出会います。
 ひとつめはラーメンとの出会いです。なんとテクノロジーが進み切った未来ではラーメンの原材料はもはや入手困難になっているそうです。しかしこの星には当たり前にラーメン屋があり鉄郎は人類の夢と言われるラーメンを食べる事ができました。あまりに感動する鉄郎を店主が気味悪がり店を追い出されてしまいます。いつでも安く暖かくおいしいラーメンは昔の若者にとってなくてはならない食べ物だった事でしょう。それを未来社会で希少価値を持たせているところに松本氏のラーメン愛を感じます。

 もうひとつの事件は、やはりというかなんというか、またもやパスを盗まれてしまいます。平和な世界と聞いて武器の類もすべて置いてきてしまったので二人はなすすべもありません。
 停車時間は2週間その間にパスが戻ってこなければ999は発車してしまいます。お金も一緒に盗まれてしまったのでホテルに泊まることもできず、二人はオンボロのアパートに身を寄せる事となります。そうです、そこが足立太がいる下宿屋だったのです。昭和を思わせるこの場所は、貧しく何も持たない住民たちがお互い身を寄せ合って暮らしていました。下宿のおばさんも気の毒な二人のために、精一杯の優しさを見せてくれるのでした。
 お隣に味噌や醬油を借りたり、玄関のカギはかけた事もない世界が、少し昔に間違いなく存在しました。999をはるか未来の話だと思って読んでいたら、こんな世界が描かれるなんて本当に驚きです。

 この星の人たちは現代ではけっして出会う事ができない素晴らしい人ばかりです。その素晴らしさとはかわいそうな鉄郎とメーテルを過度に慰めたりするわけではなく、不安なふたりが一番ほしいであろう「安心」を与えてくれるからだと感じました。
 「何とかなるよ」下宿のおばさんは玉子酒を作ってくれます。出会って間もない関係ではご飯一食分は重過ぎるけど玉子酒なら遠慮なく頂けますよね。そんな気遣いが自然にできるのも素晴らしいと思いました。

 同じ下宿の足立は鉄郎にこんな事を言います。
「おいどんの一生は長いもんねーあわてんのよ そのうちみちょれとおもうとるんよ」
 これ誤解をするところなんですが、足立くんがのんびりした人というわけではありません。完全にやせ我慢なんです。内心では不安があるけどそれを表に出さずに何事もないように暮らす、それが男だと思っているんです。
 今回のエピソードでは出てきませんが、「元祖大四畳半大物語」では何度も夜に悔し泣きをする足立太が描かれます。

 松本作品にはこれからも一見しただけではわからないキャラクターが何人も登場しますが、私なりにできるだけその人物の本当の気持ちに近づきたいと思います。でも間違うこともあると思いますので、その際にはやさしくご指摘よろしくお願いします。

 結局999出発の間際、泥棒は見つかり無事パスも戻ります。パスを盗んだのは鉄郎と年の変わらない少年でした。どこからか銀河鉄道の噂を聞きこの暴挙に出たようです。この星では何をしてもうまくいかず、噂で聞いていた銀河鉄道に乗り込もうと思っていました。
 現代の日本では異世界転生ものがとても流行っています。これもこの少年の感情から出てくる事だと思います。ここからの展開はそんな異世界転生に憧れている人にとっては少し耳が痛いかもしれません。

 少年は999に乗り込む寸前にパスを捨ててしまいます。そしてそのパスを拾った(本当の持ち主とは知らず)メーテルにこう言うのです。
「ここで仕事がうまくいかないからって・・にげだしてみても結局なんにもならないとおもったから・・ここでできないことはよそでもできない・・」
 この少年は最後にそれは卑怯者とまで言うのです。
 
 現代いろいろな問題がある中、逃げることも必要だと認められる時代です。この少年を現代ではどう考えればいいのでしょうか。旅を続けていけば答えが出るのでしょうか。

 その後鉄郎は寝ている足立君の部屋の前にカップラーメンを置いてこう言うのです。
「おまえがくじけずがんばるようにぼくもがんばるからな! しっかりやれよ!!」
 これが明日の星の物語です。自分に負けず信じてやっていけば明日はくるというメッセージではないでしょうか。999神回のひとつだと思いました。

「明日の星には明日の人間が住むと人はいう・・いつも夜空には明日を信じる明日の星が数かぎりなく輝いていると人はいう・・」

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