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真実というのは常に闇の中にある

職業柄、堅い本を読むことが多いのですが、それでは心の「栄養」が偏る。糖分が欲しいなと思ったとき、小説で魅力的な人間に会いたい。それを満たしてくれた一冊です。

   経済評論家 佐高信さんの ある小説の書評より抜粋(朝日新聞)

黒豹コメント:

小説は、魅力的な登場人物が重要な要素となりそうだ。

以前、プロ作家の先生から、
ハッとするようなご指摘を受けたことがあります。

「こういう情けない主人公を書いてはいけないね」

アジアの国から借金を背負って出稼ぎに来ている女性(エリカ)に、
主人公の男(亮:歌舞伎町、闇の仕置き人)は親身に面倒は見ているが、
金は出しません。と言うより、そんな大金はない。

先生が言うには、命がけで金を稼いで借金を返し、
女を国に帰してやれと言う。
ストーリーを変えればそれは可能。

先生は私よりふた世代も若い。
小説は歳に関係なく、人間修行なのだと反省した次第です。

ご参考までに、記事の題材となった拙作のエンドをご紹介しておきます。
お恥ずかしい文章ですが、もし興味があれば…。
※ 過激な暴力シーンが含まれます。苦手な方はスルーしてください。

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 次の瞬間、焼けた火箸を突き立てられたような衝撃が走った。
 腹に長ドスが喰い込んできた。男が口角を上げる。亮はにやりと笑い、左手で白刃を強く握った。男の目に怯えの色が走る。
「て、てめえは、あん時の――」
 亮はドスをぐいと引いた。男が半歩近づく。
 その瞬間亮は、鍛え上げた右の貫手を放った。水平に並ぶ三本の指が、柔らかな標的に吸い込まれていった。怨念の血しぶきが腕を濡らしていく。
 喉仏を破壊された男は、悲鳴を上げる間もなく、首をがくりと垂れ、ひざまずいた。
 亮は腹を貫くドスを握ったまま、フロアに崩れ落ちた。
 頬を濡らす熱い雫が、薄れかけた意識を呼び覚ました。
 すぐ上に、エリカの目があった。
「ドスを抜いてくれ」
「だめ! 血が噴き出す」
「大丈夫だ――」
 亮は笑みを浮かべる。
 腹筋が吸いついた刃が、やっと抜けた。
 晒(さらし)がじわりと、温かいものを呑んでいく。
「待って、誰か呼んでくる」
 エリカが立ち上がろうとする。

「やめろ、早く行け! まだ間に合う」亮は叫んだ。

 震えるような寒気が襲ってきた。
 小さなジャケットが体を覆った。
 懐かしいサンパギータの香り。
 エリカが悲しそうな目で見下ろしている。
「早く、行け……」
 亮は、渾身の力を振り絞った。

 ドアへとかけていくエリカの脚が、視界から消えていった。

 真っ暗な渦へと引きずり込まれる中で、神田の顔が浮かび上がった。
 弟を見るような目が、涙の中で怒っている。
「バカヤロー! 死に急ぎやがって」
「先輩――」
 意識が闇に覆われていく寸前、目の前を真っ白な空手着と、黒帯が舞った。     *********************************************************************************

最後までお読みいただきありがとうございました。


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