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【ネタバレ有!!!!】「容疑者Xの献身」はミステリー小説ではなく、純愛小説だと思う。

彼女に勧められて「容疑者Xの献身」を初めて読みました。
結論から言うと声も出せずにさめざめと号泣してしまいました。
読了のダメージを回復するのをまって、反芻しながらこの感想を書いています。

以下、決定的ではありませんが、ネタバレを含みます。







私にはミステリーの皮を被った純愛小説のように読めました。
私のミステリーの読み方は推理をしたりすることはなく、物語の展開に任せて「誰が犯人だろうなー。どんなトリックを使ったのかなー。」となんとなく読むことも「純愛小説」と感じた理由だったりするのかなと思います。
また、すべてを読み終わった後には、物語のオチも含めて、「異種恋愛譚」
にありそうなビターエンドだと感じました。

石神は、本編で湯川が評していましたが、恐ろしいまでに「論理的」でした。まさに『怪物じみた論理性』でした。それが今回の「誰も幸せにならない」結末を招いたと感じました。
いいえ、この物語は物語の冒頭で富樫が登場した時点で、ハッピーエンドになる未来はなかったのかもしれません。

石神の行動や思考は、同じく「怪物じみた論理性」を持つ湯川にしか読むことができませんでした。当の湯川にさえ「信じられない」行動を起こしたわけです。まさに「怪物じみた論理性」をもつ天才同士でしか、理解し合うことができない。そういう意味では、湯川さえ物語にいなければ、石神の予定通りに警察の捜査が進めば、だれも不幸にならなかったのかもしれません。しかし、そうなると石神は本当の意味では理解し合える友人をもてず、孤独となることを意味しています。

物語はビターエンドを迎えました。石神は『怪物じみた天才』ゆえに『普通の人間の感情と論理性』を理解しきれていなかったのだと思います。もちろん理解していた故に、靖子が罪悪感を覚える事がないように様々なトリックをちりばめました。すべて、靖子を愛しているからこそできたことです。しかも、石神自身はその愛が報われないことをわかっています。しかし、だからこそ、自身が選ばれないことを知っているからこそ、自身の愛が報われないことを知っているからこそ、愛したことこそあれど愛されたことがないからこそ、『普通の人間』がそこまで大きな愛を受け取った時に『論理的』でいられないことを知らなかったのだと思います。
仮に、湯川が靖子にすべて話したとしても、靖子が自首してくることはないと思っていたのでしょう。

『論理的』に考えて

  • 今自分が殺人を犯した証拠はどこにもない。

  • ある程度お金を持っている異性が、好意を寄せてくれている。

  • しかも、その異性には昔悪くない思いを抱いていて、
    お互いの立場からあきらめた過去がある。

  • 守らなければいけない子供もいる。

  • 「罪悪感など持ってはいけない。」「私の行為はすべて無駄になる」などの『石神自身が納得してこうしている』ことも伝えている。

そのような状況で自首することはないと思っていたのでしょう。

しかし、どんなに「罪悪感など持ってはいけない。」と言われても、持ってしまうのが人であり、頭で考えても自然と湧いてきてしまうものが『感情』です。
石神は『感情』への理解が足りなかったからこそ、湯川に『恋という感情』を持ったことを悟られ、『論理に幸せになれる未来』と『罪悪感という感情』を天秤にかけたときに、『罪悪感』が勝ることが予想できなかったのだと思います。
正確には先に靖子の娘が罪悪感に潰れてしまったようですが…。

この物語は『数学の怪物』が『人間』によって『恋(愛)という感情』を覚え、一途に愛しぬいた純愛小説だと思いました。

しかし、怪物と人間は最後まで分かり合うことはできませんでした。
正確には、人間には怪物の気持ちも考えもわかりましたが、その大きすぎる愛に耐え切れなかった。
ある意味、

価値観が異なる存在を愛してしまった怪物の悲哀

を書いた物語だと思えてならないのです。

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