V41 為になる本『日本はどこで道を誤ったのか』
by 山口 二郎
政治学者、政治運動家、法政大学法学部教授、
1958年岡山生、65歳、東大法学部卒
第一刷2024年6月12日
本書との出会い
active歯科院長の推薦(良書!おおいに感謝!)
序章 政治と経済の絡みについて
経済(経世済民)の成果は、その社会で生産活動をする人みんなに広く及ぶべきというのが、経済という言葉を作ったひとの思いだったのだろう。
今日の「いびつ」な日本経済(経済指標GNPは良きにつけ悪しきにつけ、同じ方向をむいていたが、今は経済指標がバラバラに動く)を見て、 『これからの経済は、こんなもの』という人がいるなら、エコノミストの訳語を「経済」から、他の言葉に変える運動を起こすべきである。
経済の「ゆがみ」は、自然現象ではなく、人間の作為の結果である。生産活動の前提となる気象でさえ、近代における人間の活動によって変化し、人間の生存を脅かそうとしている。
人間の労働や生活の豊かさは、人間の生産活動に関わるルールの有り様や、生産によってできた「富」の分配の仕方によっておおきく左右される。
政治とは、経済活動に関するルールや富の分配の仕方を決める作業。
失われた時代が続いたということは、技術の停滞、出生数の減少による人口減、地域社会の消失などの問題について、政治が有効な解決策を決めることができなかったことに起因している!!!
最近の株高で、政界・経済界のエリート層は根拠のない幸福感をもって現状を「変える」必要を感じなくなっているのかもしれない。
他方、厳しい生活を送っている人も、別の世界があり得るという想像力を失っているのだろう。
両方の不作為によって、失われた時代がさらに続くならば、この数10年の日本を支えた世代の大罪となる!!!
第1章 今、日本に何が起こっているのか?
1、コロナ禍の後、政治の継続を選んだ日本人
停滞をもたらした日本の「個性」/自己責任の内面化
2、正常化バイアスの国、日本
「多分大丈夫」という心理で、危機対策をとらない現状肯定
3、「改革」というシンボルとポピュリズム政治
反既成政党/空虚な改革スローガン/ノスタルジアと諦観
反既成政党という政党とは、大阪発日本維新の会=政治的な「敵」を憎悪し、罵倒する言葉の解禁。全国的なBrandを必要としていた地元メデイアは報道機関としての倫理を放棄。
ポピュリズム=回帰願望
ex, ドナルド・トランプの「アメリカを再び偉大に」イギリスのEU離脱で大英帝国の栄光をめざす、=悲観的なノスタルジア
4、批判忌避とナルシズム
ディスることは悪いことか?
批判の欠如と停滞・システム転換起点の現状分析は現状批判である
第2章 高度成終了後のもう一つの道
1、失われた時代の起点
高度成長の終焉/戦後日本におけるリスク処理の仕組み
2、日本的新自由主義の経典としての「日本の自殺」
福祉国家の日本的曲解/政府に甘えたのはだれか?
「日本の自殺」著者香山健一(社会学者、学習院大教授)のいう日本衰弱の原因はエゴイズム・悪平等主義・活力なき福祉・怠慢・画一的な全体主義。そして戦後日本の経済成長を支えたとして、家族システムを正当化した。日本が女子差別撤廃条約を批准したのは1985年。
3、ポスト高度成長とライフサイクル計画
体制内進歩派の存在/市民社会と政府、企業の役割/近代的個人というモデル
4、大平研究会から第2臨調へ
大平首相の文明論/土光臨調と日本的新自由主義のはじまり
5、オルタナティブの可能性
公共的なものの必要性/時代に背を向けた社会党/遅すぎた社会党の転換
第3章 バブルの絶頂から見た未来像
1、大前研一と自由市場の教説
生活者重視の政策提言、見えない税金という重荷が生活の貧しさの原因
生活者の政治という新概念・豊かさを妨げているのは官僚と自民党の政治家
2、暉峻淑子(てるおかいつこ)埼玉大学名誉教授1989年
『豊かさとは何か』の「豊かさ」批判〜公共的基盤の脆弱さが原因
小さな政府が広げたひずみ、結果は弱肉強食の社会(ダーウィニズム)
3、生活者とは誰か
生活における消費と労働/働く場の確保という問題
4、民主主義と消費者
消費者優先の政治の難しさ/組織の功罪/反消費税路線という落とし穴
5、働くことの変化
雇用の劣化はすでに始まっていた
第4章 最初の政権交代をめぐる希望と挫折
1990年代前半の政治家の思考と失われた時代の検証
1、冷戦構造崩壊と政治秩序の動揺
・冷戦の終わりと自民党一党支配の限界/ 改革派の構図
・リクルート事件、佐川急便事件という巨大な疑獄事件発生
・冷戦構造の崩壊・改革派の構図 小沢一郎「日本改造計画」
・小沢グループ・日本新党(細川護煕)・新党さきがけ(武村正義)
2、改革論の二つの流れ
小沢が目指した民主主義のモデルチェンジ・リベラルな保守というさきがけ!
3、最初の政権交代はなぜ頓挫したか
政治改革という第一関門、選挙制度改革という焦点、改革以後の戦略の欠如
佐川急便事件で細川から羽田へ、自民・社会・さきがけの連立で村山政権
「地獄への道は善意で舗装されている」この言葉は政治改革法案を葬った社会党左派のためにあるようなもの!、強烈な諌言である。
国家像という虚像・憲法論議の意義と限界〜
自民党の延命という政治的失敗・差異を強調しあう政治討論会(メディア)➡️政治改革は議論されただけ・制度設計に至らず、選挙制度を変えただけで終了
こうして、失われた30年が始まった!
第5章 自己責任時代への転換
1、1990年代中期の政策思潮の転換
構造改革のはじまり/小さな政府にうけた競争
2、自己責任論の広がり
橋本政権と小さな政府路線/小渕政権が撒いた構造改革の種
自由な個人を支える条件/強者の自由の時代
3、不良債権問題をめぐるモラルハザードと責任論の歪曲
責任体制と不良債権の累積/金融不安と自己責任
4、「無責任の体系」における自己責任
「日本的社会主義」への批判/一億総懺悔としての自己責任論
第6章 構造改革をめぐる狂騒
1、小泉政治の斬新さ
変人、小泉の登場/有能な権力者としての小泉
2、構造改革とは何か
借金まみれの日本/成長戦略という課題
3、構造改革の定義
競争強化か透明・公正の確保か/健全な市場と政府の役割をめぐる論争
4、市場主義の展開
競争が豊かさをもたらす/「民間を見習え」の帰結
5、小泉構造改革の帰結
小泉改革は成功したのか?/金の使い方を知らない日本
第7章 民主政権は何をしたのか
1、小泉構造改革の弊害と民主党の「生活第一」路線
民主党の政権構想/市場原理主義への対抗軸
2、民主党政権の経済政策
経済政策の新基軸/民主党に与えられた様々な知恵/民主党政権の政策的混迷
3、理念と指導力の不足
バラマキは悪か?
4、消費税率引き上げと民主党政権の失速
菅 直人の錯覚/三・一一と民主党政権の終わり
第8章 アベノミクスと戦後日本の終わり
1、安倍政権への追い風
景気上昇と安倍政権/期待水準の低下と安倍政治の評価
2、アベノミクスの政治的基準
テクノクラートの脆弱さ/誰が安倍政治をささえたのか?
3、アベノミクスは何をもたらしたのか?
誰のためのアベノミクスだったのか/アベノミクスという幻想/異次元金融緩和という無間地獄
4、21世紀後半に向けての課題
アベノミクスというノスタルジア/失われた50年を振り返って未来社会の構想を!/民主主義の新しいモデルを
終章 特別対談 枝野幸男x山口二郎『立憲民主党の再生戦略を問う』
⚫️ 岸田政権の評価
山口
2021 10月岸田政権誕生してすでに2年以上経過。岸田政権に対する枝野さんの評価は?
枝野
岸田さんは実現したい政策があって総理大臣になったひとではなく「総理大臣になりたくてなった人」 「できるだけ永く続けたい」という目標のためのシフトの組み方が重要テーマ。
⚫️ 現在と過去の自民党の違い
山口
自民党は民主党政権の政権交代前と後では「変わった」といわれるが。
枝野
現在の自民党は、理念や政策で結ばれているわけではなく、損得関係で構成された政党です、派閥の影響力も大きく失われていくものと思う。
⚫️ 野党の今後のあり方について
山口
野党の現状についてお話を伺いたい。岸田政権への不満が高まっているの に、野党の支持率はあまり上がっていないが、なぜか?
枝野
二つの見方から答えたい。一つは、世論調査に対する見方の変化。知らない人からの調査を普通に対応する人は今やほとんどいない環境下でのDATAの精度判断。
もう一つの側面は、永田町全体に対する「新型コロナ」の影響。関心度は、胃の泡理のことで不安があれば、そちらを優先する。「政党や政治家が何をしたいのか」を国民にうまく伝われていない環境下で、「何をやろうとしているかわからない野党」の指示率が上がるはずはありません。ということで、あまり気にしても仕方がないと考えています。
⚫️ 国民に伝えたいフレーズは?
山口
立憲民主党というか枝野さんが訴えようとしているフレーズは?
枝野
「支え合う社会を、我々はつくるのだ」ということです。
山口
日本の衰弱を示すデータや指標は山ほどありますが、立憲民主党として国民になにを訴えていきますか?
枝野
結局、不安が大きくなっているわけですから、その不安を小さくしなけれ ばなりません。
⚫️ 財源問題
山口
この問題は、必然的に財源の問題に突き当たります。負担のあり方につい ては、どのように説明されますか?
枝野
2009年の政権交代の時に失敗したのは、「財源問題」にこだわりすぎたと いうことです。税収は経済状況によって大きく変動します、財務省のつじつま合わせに付き合う必要はありません。
⚫️ 消費税否定論について
山口
消費税否定論にたいしてのお考えは?
枝野
公共サービスを充実させて老後や子育ての不安を小さくする。
➡️そのためには公共サービスに従事する人を増やす
➡️そのためには、財政支出をする
=大きな政府にならざるを得ません。
大きな政府を目指しておきながら、減税するというのは矛盾した政策です。消費税を下げると言って反応する票は、有権者全体の500万票くらいです。500万票を得る小さな政党を作って、いじするなら、その政策は正しい。ただし、政権をとろうとするなら、2500万票は必要です。矛盾することを言っている政党が、2500万人の有権者から信頼されるはずはありません。消費税は国民にとっても合理的税収政策なのです。
⚫️ 少子化問題の有効な対処法
山口
日本の課題・少子化について
枝野
子供の数を増やすことを目的にすべきではありません。希望すれば、子供を産み、育てることができる社会を実現することが重要です。
そのためには、
①希望したら全員を正社員にすること
②希望すれば、必ず家庭を持ち、子供を産み育てられるだけの賃金を得られる仕事があること。
すぐにできることは、給付型奨学金を増やすこと。もしくは、国公立だけでも大学まで無償化することです。
⚫️ 安全保障について
枝野
『紛争に発展させないための努力』
⚫️ 立憲民主党は今後どう動くべきか?
枝野
◯比例票対策として 候補者の数を増やす
◯VISIONの明示『我々は、こういう社会をつくりたい!』
★枝野自身の願望
「現代の鈴木勘太郎になりたい!」
「日本の方向転換をするような仕事をしたい!」
以上
kentakunte私見
本書は政治と経済の絡み合いの中から過去を知り、明日を考える本!筆者山口の真の意図は、これまでの「失われた30年に終止符を打ち、これからの日本の政治・経済が新たに正しい方向転換するための覚悟を読者ひとり一人に感じさせ、行動を促すことなのでしょう。それは、『日本の常識』のひとりとして『真っ当な政治学者兼政治運動家』山口二郎氏が 本書を通じて呼びかけているように思える。そして、多くの日本国民に内蔵している「根拠のない漠然とした現状肯定「多分大丈夫」という自身の中にある心理、批判の欠如と停滞に対する警告となって響いてくる。
余談だが私は旅が好きです。
旅の目的は、自分本位なのだが、そこを作った人、そこを守っている人、そこを活かしている人の想い、熱情に触れることで、前向きなこころ・元気・諦めないこころを得ている。
お返しは、周りの人に少しでもお伝えすること。
要約本として
「JCL為になる本」
「半径100mのマーケティング」
「これだけは知っておけBIZの基礎知識」
などで、出会った感動の人々を紹介している。誰かの行動の起点になれば嬉しい!
fine
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