歩み方

一夜かけて物語をひとつ呑み込む。まだ続く道は遠くて、内側はざわざわと騒いでいる。窮屈な膜から抜け出したように暴れそうになる王さまを一旦押し込めて謝罪を贈る。ひとつの世界を返却し、ふたつの世界をまた手に帰る散歩道はとても月が綺麗で、猫に幾匹も出逢う。伸び縮みを繰り返す造形はしなやかで、ただただ美しいと思うのだけれど、あの毛並みに触れにいくにはあまりにも違いすぎて近づけない。ほてりほてりと歩いては、進み、都度誤っていないかと道標を空に探す。道標など無いことは分かりきっているのにね。どうしても頼りなく思ってしまう、悩み続ける曖昧なこころをそれでもわたしは持っていようと思っている。少し外に出ては内に引き返す。ほつれた糸を繕う術は知らずに、ただただ壊れてゆくのを眺めている時もある。まだ魔法は解けない。まだ解けない。もう少し。最期ノ刻を満足のゆくように。痒みと痛みに喘ぐ渇える器の中に注いだ物語はわたしに少しの眠気を贈ってくれた。あと、もう少しだけ。そう祈りながら、1日を、一時を進める。そんな世界に棲むようになった。そしてそれは酷く懐かしい薫物の香りをわたしに齎してくれるだろう。ちっとも幸せそうではない人の顔の幸せそうな顔を見てみたいと思ったから、王さまが欲しいと思ったから、今のわたしがいるけれど、変わらずわたしも王さまのための王さまで。上手くつり合っていない天秤がぴたりと止まる時までわたしは歩き続けようと思う。

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