飛翔

昔は自由に翔べてたんだ。檻の中でも空が見えていたからさ。白く輝く羽で力強く羽ばたいて、胸を張って。それで。それで。それで。ある日真っ黒に染まって、私はどうにもそれが赦せなくて、翔ぶことも忘れて俯いてとぼとぼと歩いた。『あら、綺麗だったのに。それはそれでいいと思うけれど、もう翔ばないの?』って。仲の良い隣人に話しかけられた。その時、私のよき隣人は青々と茂る駅の近くにある街路樹だけだった。わたしの羽が黒く染まった日は、わたしが私を嫌った日。翔ばないのではなく、翔べなくなった。見えていたはずの空はそこには無かったから。そして、酷く重い翼になったから。

5年目の春。看守が眠っている間に、檻を静かに開けて振り返ってゆっくり閉じた。それから7年ずっと、折れた翼を運んでいる二足歩行の生き物は、とうとう折れた翼を不完全な魔法陣の上におく。骨だけになった翼に寸分違わず羽を置いていく。もう一度、翔びたいと思えるように。夢の中でたくさん翔ぶ練習をしたから、何色の羽でももう問題なくて。わたしは私を思い出す。

   今度こそ自由に翔んでみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?