「食堂み」の女たち25

マスクを外したその女は、とても美しかった。口の横のホクロ二つが色っぽい。「夫が襲いかかってきたところを押してしまったら、机の角で後頭部を打って…それで動かなくなって…」そのとき心は壊れていた。長い間ずっと暴力を受けてきたのだった。どうしていいか自分で判断できず、とにかく夫から離れなければという思いだけが頭の中にあり、部屋を飛び出したのだと言う。いろいろなどころを彷徨い歩き、どこでどう生きていたかの記憶も定かでない。幼い頃、親に捨てられ孤児になったこと、施設で育って学校でいじめられて辛い思いをしたことも全て話した。
「そうか。辛かったな」
光恵も自分の過去を語り「うちも死のうかと思ったこと一度や二度やない。何度もある。けどな、生きていれば必ずええこともある。死んだらあかん。死んだら負けなんや…」涙ながらに言う光恵の力強い言葉に、女の涙は止まらなかった。一晩中二人で泣き続けた。
「これからどう生きていったらええか、決まるまでここでおったらええ」「いいんですか」「当たり前や。あんたのような人を住まわせるために二階がある。大歓迎や。浅井則子、ノリちゃんでええな」光恵は女を思いっきり抱きしめた。


続く

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