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PSP goの革新と課題:デジタル時代の先駆けか、早すぎた挑戦か?

出典:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/PlayStation_Portable_go

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1.はじめに

PSP go(PlayStation Portable go)は、2009年10月1日に当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が発売した携帯型ゲーム機です。

このモデルは従来のPSPシリーズ初代モデルから数えて、4世代目のPSPシリーズになります。
一歩進んだ革新性を追求し、最大の変更点としてそれまでPSPで採用してきたUMDドライブを廃止し、ダウンロード専用コンテンツに特化した設計を採用しました。

PSPユーザーの新モデルとして、買い換え需要が期待されながらも、その市場評価は大きく分かれました。
最終世界販売台数にゲームユーザーがどのような評価を下したのかを垣間見ることができます。

2.PSP goの強み

① 革新的なデザインと携帯性

PSP goの最大の特徴は、従来のPSPと比べて劇的にコンパクトで軽量化されたデザインです。
PSP-3000に比べ、全体のサイズは43%縮小し、重さは158gに抑えられました。

出典:https://ascii.jp/elem/000/000/475/475458/

スライド式のディスプレイは、閉じた状態でゲーム画面を保護し、外観がさらに洗練されました。
また、スライドを開くことでアナログスティックやボタンが現れ、コンパクトながらも操作性を損なわない工夫がされています。

この携帯性の向上は、持ち運びやすさを重視するユーザーから高い評価を得ました。

② ダウンロード専用機としての先駆け

PSP goは、UMDドライブを廃止し、ダウンロード専用のゲームやコンテンツに完全にシフトした初の携帯ゲーム機です。

PlayStation Storeを通じてゲームやアプリケーションを直接購入・ダウンロードでき、ユーザーは物理的なディスクの交換を必要とせず、手軽に複数のゲームを管理できました。

また、16GBの内蔵メモリとメモリースティックマイクロ(M2)の追加メモリスロットが搭載されており、ゲームやメディアを大容量で保存することが可能です。

この利便性は、ユーザーにとって物理メディアを持ち歩かなくても良い、という新たな選択肢のひとつとなりました。

③ マルチメディア機能とWi-Fi対応

PSP goはゲームだけでなく、音楽、ビデオ、写真などのマルチメディアコンテンツに対応していました。

出典:https://ascii.jp/elem/000/000/473/473950/

MP3、MP4、JPEGなど、当時の主流フォーマットに対応し、エンターテインメントデバイスとしての汎用性が高かった点が特徴です。

出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/02826/

さらに、Wi-Fi機能を活用したインターネットブラウジングや、PlayStation Networkを通じてフレンドと通信プレイを楽しむことも可能でした。

ユーザーインターフェースも直感的で使いやすく、PSP goはただのゲーム機に留まらず、マルチメディアデバイスとしての側面も持ち合わせていました。

④Bluetooth規格や携帯電話通信に対応

https://www.allion.co.jp/certification/bluetooth/

Bluetooth規格にも対応し、Bluetooth規格に対応したヘッドホンを利用することでワイヤレスでPSP goに保存した音楽や音声を楽しむことができました。

また、PS3のコントローラーを利用してゲームなどの操作を行うこともできました。
ただしPSP専用ゲームでは、PSPに対応したボタンでしか機能せずLRボタンやアナログレバーはPSPに一つずつしかないため、たとえPS3のコントローラーでも完全に割り振りすることはできなかったのです。

ゲームアーカイブスで使う場合は、LR2や右アナログレバーなどが有効になり、初代PlayStation同様の機能を持たせることができました。

PSPシリーズとして、この機種から携帯電話回線に接続してネットワーク接続ができるようになりました。

⑤対応ストレージでメモリの拡張が可能

出典:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/メモリースティック#メモリースティック_マイクロ_(M2)

・16GB 内蔵フラッシュメモリ
・拡張としメモリースティック マイクロ(M2)スロット搭載

3.PSP goの弱み

① UMD互換性の欠如

最大の弱点は、UMDドライブを廃止したことで、従来のPSP-1000/2000/3000シリーズ用に販売されたUMDタイトルをプレイできないことです。

当時、2004年12月に初代PSPが発売され、PSP goが発売された2009年10月の時点で多くのユーザー数を抱えていたPSPは、既に多数のUMDゲームを所有しており、これらが利用できないことはPSP goを購入した場合に、大きなデメリットとなります。
ソニーはUMDタイトルのデジタル化を推進するプログラムを計画しましたが、地域的な制約や一部のゲームが対応しないなど、ユーザーの期待には十分に応えられませんでした。

既存ユーザーにとって、UMDの互換性の問題はユーザーの買い換え需要に対し、大きな足枷となりました。

② 価格の高さ

PSP goは、当初26,800円(北米では249.99ドル)という高価格で発売されました。

これは従来型のPSP-3000(約16,800円)と比較しても、かなり高額で、UMDが使えないことを考慮すると、約10,000円高額な設定の価格に見合う付加価値が提供されていないとの批判を招きました。

さらに、PSP goはダウンロード専用機であるため、ゲームを購入するには新たな費用と、インターネット環境が必須であり、当時の日本では定額制のブロードバンドが全国に普及しきっておらず、公衆Wi-Fiなど気軽に接続する事などができる環境が整っていたとは言えませんでした。

物理メディアを利用できず、ダウンロードしてソフトを追加するしか方法が無かったユーザーにとっては死活問題となります。
このような通信環境についても普及を妨げる要因となり、購入を思い留まらせる結果となりました。

③ コンテンツのラインナップ不足

出典:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/PlayStation_Store

PSP go発売当初、PlayStation Storeで提供されるダウンロード版ゲームのラインナップは、物理メディアに比べて限られていました。

出典:https://ascii.jp/elem/000/000/473/473950/

特に、初期の人気タイトルなど含め、全てのUMDで発売されたタイトルが発売されたわけではありませんでした。
ダウンロード専用のPSP goへユーザーを移行させるにはコンテンツ不足により移行を踏みとどまらせることになりました。

その結果、ユーザーはダウンロード専用のPSP goに魅力を感じにくく、特に既存のPSPユーザーの買い替え需要を掘り起こす事や新たなユーザーの獲得など、市場への浸透が難航しました。

4.競合機との比較

PSP goが登場した当時、Nintendo64やゲームキューブなどの反省点から、据え置き機のWii含めブルーオーシャン戦略で復活を目指してきた任天堂のNintendo DSシリーズが市場を席巻していました。
Nintendo DSは、タッチスクリーンを採用した革新的なゲームプレイと、幅広い年齢層にアピールするソフトウェアライブラリを武器に、世界中で爆発的な売上を記録しました。

DSの販売台数は全世界で1億5,400万台以上に達し、これに対し、PSP go単体では約100万台の販売に留まりました。
任天堂は、ゲームソフトの価格設定やタイトルの豊富さでも優れており、特に子供やファミリー層に強い支持を得ていました。

PSP goは、デザインやマルチメディア機能、Wi-Fi対応などハードウェアなどの技術的な優位性は持っていたものの、UMDが利用できず、過去の遺産とも言える人気タイトルや、手持ちのソフトをプレイできない事、PSP goの設定価格の高さが障壁となり、さまざまなユーザーに対して広く普及することが難しかったのです。

5.市場とユーザーの声

PSP goが発売された当時、ユーザーの声は賛否が分かれました。

出典:https://ascii.jp/elem/000/000/473/473950/

・肯定的な意見


「コンパクトで持ち運びやすい」
「UMDを持ち歩かなくて済むので便利」

といった携帯性や利便性に対する評価がありました。

・否定的な意見


「UMDが使えないのは不便」
「既存のPSPユーザーには魅力がない」

といった声が多数を占めました。

特に、UMDをすでに所有しているユーザーにとって、これらのソフトをPSP goで使用できないという事は大きな不満となりました。
また、価格の高さも購入を躊躇させる要因となり、買い替え需要によるユーザーの獲得、新規ユーザー層の開拓には相当な苦労がありました。

インターネット上のレビューでも、

「デザインは良いが、値段に見合った価値は感じられない」

といったようなコメントが目立ち、販売台数の伸び悩みにつながりました。

6.開発秘話

PSP goの開発背景には、ソニーのデジタルメディア戦略を加速させる意図がありました。

当時、ソニーはUMDディスクの製造・流通コストの削減を目指し、より効率的にコンテンツを提供できるデジタル販売にシフトしようとしていました。

しかし、開発段階でUMDの廃止を巡る社内の議論は激しく、特に既存ユーザーがどのように反応するかが懸念されていました。

開発者のインタビューによれば、PSP goは「未来のゲーム機」を象徴する製品として、デジタル時代の先駆けとして作られたものの、市場の準備が十分ではなく、特に日本市場では物理メディアに対する需要が根強いことが課題だったとされています。

また、デジタルコンテンツの充実に時間がかかり、PSP go発売初期のタイトルラインナップの不足が致命的な問題となったことも失敗の一因でした。

7.PSP goの影響と後継機への教訓

PSP goの市場での失敗は、ソニーにとって重要な教訓となりました。

この経験を踏まえ、次世代機であるPlayStation Vitaでは、物理メディアとダウンロードコンテンツの両方に対応する戦略が採用されました。

出典:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/PlayStation_Vita

PSP goのようなデジタルコンテンツ専用機は将来性を見込んでいたものの、当時の市場では時期尚早、かつ初代〜3世代までのPSPユーザーには、それまでユーザーが購入してきたUMDが利用できない為、実質的にPSPとPSP go双方が無いとそれまでのソフトへの資金投下は無駄になってしまい、オンラインラインナップの少なさもあり、既存ユーザーには特に魅力的とは言えないデバイスだったことが証明されました。

また、PS Vitaが発売される頃には、デジタルコンテンツの充実や定額制ブロードバンド回線の普及、公衆Wi-Fiなどのインフラ整備が遅れていた点も改善されていき、PlayStation Networkの強化やタイトルラインナップの拡充が進められました。

出典:https://www.wallpaperbetter.com/ja/search?q=プレイステーションのロゴ

最終的に、PSP goは商業的には成功しなかったものの、デジタル時代の到来を先取りした革新的な試みとしてゲーム業界に影響を与えた製品であることは間違いありません。

8.まとめ

PSP goは、コンパクトなデザインやダウンロード専用機としての革新性が評価されながらも、UMDが利用できない事や本体価格の高さ、そしてデジタルコンテンツの不十分なラインナップが原因で、期待された成果を出す事はできませんでした。

しかし、その挑戦は、後に続くPlayStation Vitaや他のデジタルデバイスの製品開発や販売戦略に大きな影響を与え、ゲーム市場の基盤を築く重要な一歩でした。

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