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第3話 電気ケトルと煮沸消毒とプラスチック製の梅干し入れ

母が病気になりました。
病名は、急性骨髄性白血病です。

私は、8年ほど前、飼い犬の介護をきっかけに母と一緒に住むようになりました。

人の話を全く聞かないわがままな母とは、仲が悪く、口もロクにきかないような関係でした。それでも、やはり命に関わる重い病気ということで、私は、入院した日から毎日病院にお見舞いに行きました。

想像はしていたみたいですが、病院の食事は味が薄いようで、母は、入院した翌日から色々なお使いを私に頼みました。

まずは、大好きなドン・キホーテで梅干しと漬物を買ってきてほしいと。

次に、しょうゆとケチャップ。

そして暖かい飲み物を飲みたいからインスタントのスープと、電気ケトルを家から持ってきてほしいと私に頼みました。

母の病気である急性骨髄性白血病、血液のがんだと思ってください。

簡単に説明すると、がんになった細胞が増殖し、正常な血液が減少し、貧血、免疫力の低下がおきます。他の病気にかかりやすくなるリスクが高まると同時に、治りにくくなる病気です。

食べるものも注意しないといけません。生魚や、生野菜はお土産として持ち込むことを禁止されました。

母は賞味期限を気にしないどころか、お惣菜の入ったタッパーを冷蔵庫に入れるのを忘れたり、食べかけのヨーグルトを何日も冷蔵庫に入れて忘れたころにまた食べたりします。今後は私が取り締まらないといけません!

私は、病室に入る前に体温を計り異常がないか確認をし、(インフルエンザや、風邪のウイルスを病室に持ち込まないように)手はアルコール消毒します。

病室に電気ケトルを持ってきて以来、私は、毎回、シンクで母のコップや、使ったスプーンを熱湯につけて消毒します。

握力も弱くなった母は、マグカップを洗っても、あまりキレイになりません。なので、私は、いつもマグカップを洗ったあとに熱湯を入れて帰り際にもとに戻すのが日課になっていました。

ずぼらで、自分が白血病という自覚のあまりない母は、それを見て、感謝しつつも、なぜだかちょっと楽しそう、私もやりたいと思っていたようです 。まるで、子供が大人の色々な行動を真似したがるかのようです。 

ある日、お見舞いに行くと母がシンクで梅干しが入っていたプラスチック製の容器に沸騰したお湯を入れていました。

次の瞬間、

「あれ~~~!」

という大きな悲鳴が。

みるみる形を変えていく梅干しの容器。

そうです。ペットボトルと同じ素材ですから熱湯によって溶けて形が変わっていったのです。

お願いです。

白血病で免疫が低下してるのです。

何日も経っているプラスチックの容器を再利用しようなんて思わないでください。あなたは病気なんです。万が一ということを考えてください。飲みかけのペットボトルもダメです。1日で飲み切ってください。半分食べたプリンを次の日にとっておくのもやめてください。新しいプリン買ってくるから!

と色々思っても、聞いてくれません。

なので、私は、『もったいない』と怒られてもこっそり処分する術を学びました。

後日、ペットボトルなどとは違い、再利用できるように無印良品でかわいいガラス製の容器を買いました。大きさは、母の大好きな梅干しの容器と同じサイズです。私は、喜ぶ母の顔を思い浮かべながら、病室に行きました。

母は、もう煮沸消毒をしたいという欲求が消えたようで、小憎らしく言いました。

「固くて開けずらいわね~」

わたしは、まだまだお見舞いの素人のようです。(続く)

イラストは元吉茉莉花さんです。twitter(‏@marika_3o210

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