見出し画像

「ブランドメッセージを伝えるためには、相手の関心をつかむこと」

ロンドンで活躍するプロデューサーが考えるBranded Shortsとは?
Branded Shorts 2016で紹介した『Cornetto Love Stories』、本作品を手掛けたイギリスの制作会社A Taste Of Space(ATOS)のプロデューサー、Lorie Jo Trainor Buckinghamさんにインタビューを行いました。ブランデッドムービーの中心地のひとつであるロンドンで活躍する彼女が考える、「Branded Shorts」とは?


あなたが考えるブランデッドエンターテイメントとはどういうものでしょうか?またその魅力を教えてください。

アテンション・エコノミーと呼ばれる現代社会で、人の関心は稀少な資源です。そんな中で、企業が従来通りの広告の打ち方でブランドメッセージを伝えたり、受け手の行動を促したりすることは大変難しくなってきました。消費者はブランドに「関心を持つ時間」を費やし、その見返り求めています。笑い、感情、楽しさ、表彰、金銭価値などさまざまな報酬が考えられます。
ブランドメッセージを伝えるためには、相手の関心をつかむことが必須です。そのためには感情を巻き込んで絆を作ることが大事であり、ブランデッドエンターテイメントはまさに最高の手段だと言えます。キーワードは「エンターテイメント」。人々が本当に面白いと感じ、彼らの感情を引きだし、関心をつかむことがブランドにとっての命題です。私たちATOSのメンバーは、人々が深く、感情的に繋がることのできる経験を生み出し、それを体験してもらうことを目指しています。感情を動かすということは、論理的にメッセージを伝えるよりもはるかに強いインパクトで人の行動に影響します。だからこそ多くのブランドがこれに注目し、また消費者も様々なブランドが提供する「経験」に時間を使いたいと感じているのではないでしょうか。

クライアントの要求に応えることと創造性では、どのようにバランスをとっていますか?

それはクライアントによるところが大きいですね!ごくシンプルなことですが、まずはクライアントのビジネス目的を理解していないといけません。つまりブランド&マーケティング戦略と、キーとなるブランドメッセージの発信です。しかし何よりも重要なのが、感情を揺さぶる経験をさせた人たちに「その結果どう感じてほしいか」という点で意見が一致していることです。アイディアが創造的であれば、一番伝えたい観客にブランドメッセージを届け、人々に感情的なつながりを築いてもらうための駆動力になります。すぐれたマーケティング・コミュニケーションも広告も、良いアイディアの上に実現します。私たちは「体験型」という手法でそのアイディアをリアルな世界に存在するものにし、一方でデジタルテクノロジーを活用してそれを多くの人に届けていくのです。ほとんどの場合、クライアントは私たちのアプローチ方法を理解してくれます。時に迷いがあることもありますが、それでも私たちは必ずブランド戦略をバックアップし、オーディエンスを惹きつける最善策を見つけます。

Buckinghamさんが活躍するイギリスはブランデッドエンターテイメント発祥の地ですが、最前線のマーケットは今どのような状況でしょうか?

私たちが目指す体験型のコミュニケーションは、いまだにマーケティング業界にとって“新しい「部類」ではありますが、それでもイノベーションに積極的なマーケターたちの間では「デジタル時代においてブランドメッセージを伝えていくためのもっとも有効な手段なのでは」と期待する声が高まっています。この変化を皮切りに、イノベーションによる実験的なコミュニケーションが勢いよく成長し、世界的に広まっていくと信じています。大きな企業であれば、伝統的な広告から予算を削り、体験型コミュニケーションに移行していくことは簡単ではないでしょう。それでも今後2、3年のうちには現実になっていくと思います。

競争の激しい業界でATOSが第一線を走り続けている秘訣を教えていただけますか?

私たちは人が何を求めているか知っていますし、感情を巻き込む方法を知っています。今私たちがいる環境でイノベーティブであるためには、アイディアの創造性もさることながら、ビジネスのニーズへの理解が要です。各ブランドが目的を持っているので、それを達成する手助けをするのが私たちです。アーティスト、セットデザイナー、マルチメディアスペシャリスト、舞台監督といったクリエーターのネットワークを活かせば、ビジネスの課題に対し、多角的でクリエイティブな視点から解決策を生み出していくことができるのです。ベストな発想がインスタレーションアーティストから生まれるのか、あるいは映画監督、照明デザイナーから生まれるか、どれも可能性があるのです。ブランドの狙いをつかみ、最適な成果をあげてくれるクリエーターにつなげるということも、私たちがすべきことの一環です。 

クリエーターとして、広告祭に参加することの意義は何でしょうか?

まずはもちろん、作品を見てもらい、新しい人に出会えるということが大きな魅力です。まわりの人がどんな活動をしているのか知ったり、同じ志を持つ人同士クリエーターのネットワークを広げたりできるというのも非常に価値があることです。

情報過多な現代だからこそ、人々に貴重な「経験」を提供すること、そして、その「経験」を通じてブランドメッセージを伝えること、その二つのバランスをうまく表現する作品こそ、本当のブランデッドムービーと呼べるのでしょう。ブランドとクリエイティブが目的を共有し、唯一無二の「経験」を作り上げていく、Buckingham氏のインタビューからはそのメッセージを強く感じることができました。


Lorie Jo Trainor Buckingham

ロンドン生まれ。見る人たちが感じている“現実”をワープさせるような、体験型の作品を生み出すクリエーター。名門芸術大学セントラル・セント・マーチンズを卒業し、その後はテート・モダン、ICA、エンパイア・デザインなどから仕事を受けている。2012年に体験型コンテンツを制作するA Taste Of Space(ATOS)を立ち上げ、2015年夏にはユニリーバの世界初体験型キャンペーンを実施。最近ではMOFILMとユニリーバと連携して作った作品がカンヌライオンズ、デザイン&アート・ディレクティング・ペンシルアワードを受賞。
 2015年からはHinterlandをパートナーに迎え、体験型広告のコンサルタントに加えて、ビジネスとアートそれぞれのプラットフォームの枠を超えたデジタルコンテンツを生み出し続けている。
http://www.atasteofspace.com/