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【Management Talk】「商品開発から物流、在庫管理までトータルにデザインする」ニトリの社長が語る「お、ねだん以上。」のワケ

株式会社ニトリ 白井俊之

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第27回のゲストは、株式会社ニトリホールディングス 代表取締役の白井俊之さんです。「お、ねだん以上。」をキャッチコピーに、32期連続の増収増益を達成中の同社。創業者から経営を継いだ白井社長に、会社の歴史から商品、ブランドについてまで、じっくりと語っていただきました。

株式会社ニトリホールディングス
1967年創業。独自のSPAモデル「製造物流小売業」を確立し、商品の企画・製造・物流・販売を全て一貫して自社で実施。「お、ねだん以上。ニトリ」のキャッチフレーズでおなじみの家具・インテリア用品を販売する店舗は現在、国内外合わせて588店舗。近年ではリフォーム事業や法人ビジネスなど幅広く事業を展開している。


完成されたものほど、つまらないものはない



別所:本日はよろしくお願いいたします。まずは、ニトリさんの50年を超える歴史や事業内容について、改めて白井社長からご説明をお願いいたします。

白井:もともとニトリは、1967年12月に北海道でスタートした家具屋さんでした。現在の会長である似鳥昭雄が創業者です。本人から聞くところによると、開業した理由は、似鳥がサラリーマンとしてなかなかうまくいかなかったときに、周囲を見渡してみたら、家具屋さんがなかったから。高度成長期で、住宅がどんどん建てられはじめていた時代だったので、自分でもうまくやれるのではないかと考えたそうです。

別所:競合がいなくて、時代的にも追い風だったと。

白井:ただ、家具という商品は、接客しなければ売れません。似鳥は、接客が苦手だったそうで、当初は苦戦していたんです。けれども、そんな頃、奥様と結婚して。奥様は、接客が得意だったので、お店はなんとか盛り返したそうです。しかし、その後、近所に大きなライバル店ができて、売上が激減。それで、悩んだ結果、似鳥は、アメリカで最先端のビジネスモデルを学ぶ、というツアーに参加することを決めます。アメリカを訪れた似鳥は、当時全盛だったチェーンストアの仕組みを知り、さらに、現在のニトリが展開しているようなホームファニシングのお店を目の当たりにしたわけです。

別所:ホームファニシングとはどういうことでしょう?

白井:ホームファニシングは、家の中にあるすべてのものをトータルにコーディネートして提案しようという考え方です。家具以外には、たとえば、カーテンや寝具、寝装品、食器、キッチン用品、バス用品などがそこに含まれます。
似鳥はアメリカで、ホームファニシングとチェーンストアの仕組みを自分の会社に取り入れようと決意しました。そこからが、会社としての本格的なスタートでした。1970年代後半のことです。

別所:白井さんが入社されたのは1979年ですよね。ニトリに入社されたきっかけはなんだったのでしょうか?

白井:私は北海道の出身で、本州の大学に通っていました。当時はオイルショックで、就職難と言われていた時代。しかも、いま、こういう立場で言うのもなんなんですけど、学生時代、あまりちゃんと勉強していなくて(笑)。就職活動もあまり真面目にやっていなかったんです。そんななか、たまたま、就職情報誌でニトリの情報を見つけました。そこには、「完成されたものほど、つまらないものはない」といった夢を語るような言葉がたくさん書かれていて。面白そうだなと思ったんです。

別所:いまでも心に響く言葉ですね。

白井:ええ。それで、品川のホテルで面接を受けたら、その場で内定が出まして。もう就職活動をしなくてもいいとほっとしていたんですけど、両親には強く反対されました。「大学を卒業したのに家具屋さんに就職するなんて……」って。まだそういう価値観の時代だったんですね。ただ、私は、似鳥や当時の役員の言葉から、「これから大きく成長するんだ」という会社の強い思いが伝わってきたので、そのまま入社したわけです。


工場選定から商品開発、物流まで自社で



別所:当時のニトリさんはどれくらいの規模の会社だったんですか?

白井:そこが問題だったんです(笑)。当時は、たった6店舗で、社員数は、私たち新入社員を含めて100名。同期が35名いましたから、それまでは65名だったんですね。だから、「これから大きく成長するんだ」というのは、「大きくなる」のではなくて、自分たち新入社員が頑張って「大きくする」ということだったんだと後からわかりまして(笑)。

別所:(笑)。でも、実際にそこから非常に大きく成長されて。いま、店舗数と売上はどれくらいですか?

白井:当時、6店舗で年商約20億円だったのが、現在では、国内外で588店舗、売上は、今年2月の決算で6081億円です。店数で、私の入社時から約100倍、売上は約300倍という形になっています。

別所:すごい。いま振り返ると、会社としてのターニングポイントはどんなところにあったのでしょうか?

白井:ニトリは、ピンチをチャンスに変えるようなところがあるんです。もし、似鳥がもともと接客を得意としていて、家具屋がうまくいっていたら、アメリカに視察にいくこともなかったでしょう。そうすると、チェーンストアの仕組みやホームファニシングを取り入れるのも随分と遅れていたことになります。また、値段が安いというニトリの特徴もピンチから生まれたものでした。当時の家具屋さんは、嫁入り道具を買っていただけるかどうかが、売上の非常に大きなポイントだったのですが、似鳥も私たち若手社員も、接客力が弱かったものですから、なかなか買ってもらえなかった。だから、それでも買っていただくために、他社よりも絶対に安くしようと、会社の方針として決めたわけです。あの頃の家具屋さんは、値札には少し高い値段を書いておいて、お客様と値段交渉しながら、最後は値引きして売る、という習慣が全国的に根強くあったんですけど、私たちはそれをやめて、最初から安い値段をつけることにしました。そういうやり方は、おそらく業界のなかではいちばん早かったのではないでしょうか。

別所:ピンチが「お、ねだん以上。」の原点になったということですね。先ほどお話しいただいた、ホームファニシングについてはどのように展開されていったんでしょうか?

白井:もちろん簡単にはいきませんでした。ただいろいろな商品を並べるだけでは買っていただけませんので。安くていい商品を開発するために、最初は寝装品、次にカーテン、食器、クリスマス用品……といったように、カテゴリごとに何年かをかけて一つずつ増やしていきました。私たちは、家具とホームファッションという形で、商品を分類しているんですけど、いまはもう売上の2/3をホームファッションが占めています。

別所:家具よりも多い。たしかに、僕も家族とお店に行かせていただくんですけど、いろいろなものがあって、楽しくなります。あの多彩な商品は、どんな風に開発されているんですか?

白井:私たちは、なるべく自社で商品を作るというコンセプトを持っています。実際、いま扱っている商品の約90%はプライベートブランドです。社内には、OEM先の工場を選定するチームと商品を開発するチーム、在庫を管理するチームがありまして。貿易、物流も自社で手がけています。

別所:貿易まで。

白井:生産の拠点はどうしても海外が多いですから。海外から船で輸入するコンテナの数量が、全産業内で国内トップクラスです。それらをいつ、どの港から、日本のどの港に運んで、国内ではどういう輸送をすると無駄を無くせるか、といった計算を自社のプログラムで行なっているわけです。

別所:それは、その道のプロがいたりもしますよね。それでも自社で行うのはどうしてでしょう?

白井:当社の物量だと、自社でやった方が間違いなくコストが安く済みます。また、自社で行うことによって、全体最適の仕組みを作ることもできるんですね。たとえば、物流のコストを下げたり、店舗のバックルームのスペースの生産性を上げられるパッケージの形を、商品開発の段階から織り込んでトータルにデザインできるんです。


お客様はオンラインとオフラインを自由に行き来


別所:最初から全体のことを考えられるから。なるほど。では、ECの取り組みはいかがでしょう?

白井:今、リアル店舗とECサイト、オフラインとオンラインをつなぐための部署を立ち上げています。近年、オンラインの売り上げは、毎年3割程度ずつ伸長しているという状況ですが、お客様のアンケートを見ると、約7割の方が、オフラインとオンラインを行き来していることがわかります。つまり、ネットで調べてからご来店いただいて商品をご購入いただいたり、逆に、店舗で商品をご覧いただいてからネットでご購入いただいたり、といった形が大半なのです。それもあって、一部の店舗で、意図的にオンラインに誘導するような構成にしているところもあります。お店に展示できる商品の数には物理的な限界がありますから。

別所:たしかに。ネットなら、ある意味、無限に商品を陳列できますもんね。

白井:ただ、やっぱり店舗の存在は重要で。ニトリが、オンラインだけでビジネスを展開した場合をシミュレーションしてみると、赤字になるんですね。どうしてかと言うと、ニトリの商品は、ネットで注文を受けて、配送すれば終わりというものではないからです。たとえば、組み立てがうまくできないというお客様もいらっしゃるでしょうし、やっぱりサイズが合わなかったというお客様もいらっしゃるかもしれません。そうなったときに、商品を送り戻していただくとなると、まず、物流コストが高い。しかも、返品された商品は、すでに開封されているため、再販売できない状態になってしまっていることが多いわけです。けれども、近所の店舗がスピーディにアフターサービスを提供することができれば、そうしたコストを抑えることができるんですね。それに、いますぐ商品が欲しい、というお客様には、実店舗でしか対応ができないですし。

別所:やっぱりリアルな店舗も欠かせないんですね。それでは、続いては、ブランディングについてのお話もお伺いしたいと思います。僕の主宰しているショートショート フィルムフェスティバル & アジアには、ブランデッドショートという部門がありまして。企業がブランディングのために製作したショートフィルムを特集しているんです。ニトリさんの動画への取り組みはどのような状況ですか?

白井:Webサイトで、別所さんの映画祭について調べさせていただきましたが、素晴らしい取り組みですね。それも、30代半ばで、ご自身が中心となってはじめられたという。本当にすごいと思いました。
動画については、映画までは作っていないんですけど、数年前から、テレビCMとWeb動画に注力しています。Web動画は1分くらいの長さで。テレビCMをご覧になったお客様にその後、Web動画で商品のストーリーを観ていただくと非常に効果があるということがわかっていますので、今後も活用していきたいと思っています。

別所:ぜひいつかなにかご一緒にできることを願っています(笑)。白井社長ご自身は映画をご覧になることは多いのですか?

白井:自分が映画に接する時間を考えてみると、飛行機の中が一番多いですね。普段はなかなかゆっくり映画を観にいく機会がないものですから。飛行機では、いろいろなジャンルの作品を観ますが、ホラー映画はちょっと苦手です(笑)。あとは、重たいテーマの作品もあまり好みではないかもしれません。

別所:ショートフィルムにも本当にたくさんのジャンルがありますから。ぜひ映画祭にもお越しいただけたら嬉しいです。それでは、今後、ニトリさんが目指すブランドについて教えてください。


人材の成長が会社としての成長につながる


白井:社内でも、ニトリというブランドについて定期的に議論することがあります。まず、私たちは、ブランドというのは、大きく二通りあると考えていまして。一つは、ブランドを決めてから事業を展開していくタイプ。もう一つは、事業を展開しながら徐々にブランドイメージが固まっていくというタイプです。ニトリは、後者だと自覚しているんですね。ニトリには、地域のより多くのお客様に繰り返しご来店いただきたいという考え方が根底にあります。ですから、特定のターゲットに向けたお店や商品を作るという戦略はとっていないんです。そうなると、やっぱり、「お、ねだん以上。」という言葉しか、ブランドを想起させるものはないんですけど、とにかく私たちは、ニトリで買っていただいたお客様が後悔しないような商品を提供しようと。品質も値段も、買ってよかったと思っていただけるようなお店でありたいといつも願っています。

別所:素晴らしいですね。

白井:くわえて、いま、とくに意識しているのが、トータルコーディネーションです。ニトリで売っているカーテンやクッション、フロアカバーリング等は、商品や柄が違っていても、たとえば、ブルーを使う場合は、すべて同じ色相のブルーで統一することによって、コーディネートしやすくしているんです。あるいは、家具についても、隙間ができないような組み合わせを提案させていただいていたり。そういうこだわりは、いろいろなところで作った商品を寄せ集めたお店ではできないですよね。自社でデザインを設計することによって実現できていることは実はたくさんあって、それが、ニトリの一つのブランドにもなっていると考えています。

別所:これから先もどんどん広がっていきそうですね。それでは、会社としての直近の優先課題はどんなところにあるのでしょうか?

白井:いま一番注力しているのは、人材の育成です。毎年、1,200名以上の社員をアメリカ研修に派遣しているんです。アメリカがすべて素晴らしいというわけではないのですが、やはり、チェーンストアや流通の生産性は、日本に比べてずっと高いですから。いろいろなところを見て、日本にまだない仕組みを学びながら、自分たちが何を目標にすべきかみなで討論しています。今後も、人材育成については、いっそう強化していきたいです。どんなにAIが発達しても、すべてをお任せできるわけではないですから。

別所:たしかにそうですね。接客で買う買わないを決めるお客さんも多いでしょうし。

白井:PCやスマホの画面だけでは、なかなか売れないですよね。私がよく、売り場のスタッフに言うのは、お客様に、「これいつの配達ですか?」と質問されたときに、額面通り、「いついつです」と答えたら駄目だということ。それではコンピュータと同じです。はじめに配達日を聞いてくださるお客様の大半は、急いでいらっしゃる。そういうときには、日にちを答えるのではなく、逆に、「お急ぎですか?」って質問しないと。そこから「実は、こうこうの事情でいつまでに必要で……」という会話がはじまるわけですから。表面的なコミュニケーションではなく、なぜそういう質問があるのかまで考えることが、接客だと思うのです。そういった対応のできる人間を増やしていくことが、会社としての成長にもつながるのではないかと考えています。だからやっぱり、人材がもっとも大切だと思うのです。

別所:言葉の裏にある心理を読むというか。俳優としても納得できるお言葉でした。本日はいろいろお話しいただき、ありがとうございました。


(2019.5.9)


白井俊之(株式会社ニトリホールディングス 代表取締役社長)

1955年生まれ、北海道出身。1979年株式会社ニトリに入社。店長、物流部や人事部のゼネラルマネージャー等を務めた後、2014年、株式会社ニトリ代表取締役に就任。2016年には創業者の似鳥昭雄より引継ぎ、株式会社ニトリホールディングス代表取締役社長に就任。