見出し画像

【Management Talk】「あそびから未来をかえる」優れたあそび道具と豊かな遊び場づくりで、世の中をよりよい方向に

株式会社ボーネルンド 中西弘子

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第18回のゲストは、株式会社ボーネルンド 代表取締役社長 中西弘子氏。知育玩具を日本に普及させるとともに、さまざまな企業、団体とともに「遊び場づくり」を手がける中西氏。子どもたちの未来へ込めた思い、そして、「あそびから未来をかえる」というブランドメッセージについて詳しくお話をお伺いしました。

株式会社ボーネルンド
子どもの健やかな成長に「あそび」を通して貢献するため1977年に創業。公園や幼稚園、保育園などの遊び場づくり、世界の優れたあそび道具の輸入販売と開発、室内遊び場の運営を手掛けている。社名はデンマーク語の「ボーネ=子ども」、「ルンド=森」を意味する造語で、ボーネルンドの森で生まれたあそびが広がっていくようにとの願いを込めている。


自分でものを考えて能動的に遊ぶことが大切


別所:まずはボーネルンドさんがどんな企業なのかお伺いできますでしょうか。

中西:ボーネルンドは、あそびを通した子どもたちの成長の役に立ちたい、という思いで創業した会社です。主に、子どもたちが室内で遊ぶ玩具と屋外で遊ぶ遊具を手がけています。まず、遊具についてお話しすると、1977年の創業当時、日本で主流だった鉄製の遊具は、子どもたちの成長や発達を考えてつくられたとは言い難いものでした。そうした状況のなかで、ボーネルンドが最初にデンマークから輸入した木製の色彩豊かな遊具は、デザイナーが、子どもがどういう風に活動するのか、遊具に登るときにはどこを掴むのかまでを含めて、きちんと考えて設計されたものでした。そういう、子ども目線を大切にした遊具を、日本に初めて導入したのが当社だったのです。

別所:僕は昭和40年生まれですが、たしかに、当時、小学校や中学校にあった遊具は鉄製でした。ボーネルンドさんは木製のものを輸入することで新しい潮流をつくられたわけですね。

中西:ええ。そして、室内の遊び道具については、当時、キャラクター玩具が中心の世界でした。子どもにとって本当に役に立つおもちゃよりも、キャラクターさえついていればどんなものでも……という。他方、ヨーロッパに目を向ければ、子どもたちの発達に合わせた質の高い玩具がたくさんあったわけです。それで、商社に勤めておりました私の夫が、「いずれ日本でも絶対にこういう優れたあそびの道具が必要になるときがくるだろう」と予見して、海外で目利きした質の高いおもちゃを日本で広めよう、とこの会社をスタートさせたわけです。

別所:海外のおもちゃと日本のおもちゃでどんな違いがあったのでしょうか?

中西:まず、商品の設計段階から違うのです。おもちゃを、子どもたちが初めて使う「道具」だと捉えているので、それぞれの年齢層や発達ニーズに合わせて、「こうあるべき」という深い考え方をもとにデザインされています。ヨーロッパにはキャラクター玩具がほとんどありません。自分でものを考えて能動的に遊ぶことを大切にしているので、キャラクターは必要ないと考えられているのです。

別所:うちにも娘がいて、ボーネルンドさんのおもちゃを持っていますけど、娘よりも親のほうが熱中してしまうところもあって、コミュニケーションの道具にもなりますよね。直感的に手触りで遊び方がわかるので、自分で発見していく面白さや喜びがありますし。

中西:まさにそういうことです。ボーネルンドの商品は、赤ちゃんから7、8歳の子どもが対象ですが、この人生のスタート時期に、たくさんのあそびの実体験を通して、いろいろなことを学んでいくことが非常に重要だと感じています。その期間にどれだけしっかりとしたものに触れさせられるか。それも、子ども一人ではなく親子で一緒に楽しく過ごす時間が大事。その時期によって、それからの人生がだいぶ変わってくるのではないかと思います。


知育的、教育的なものがいいものだと認識される時代に


別所:いま、ボーネルンドさんではどのくらいの商品を展開されているのでしょうか? 時代が進んで、まさに御社の商品が広く受け入れられる世の中になっていると思うのですが。

中西:現在、カラーバリエーションも含め、点数にすると約1万点、種類で言えば3千点ほどを扱っています。おっしゃる通り、いま大きな変化が起きています。象徴的なのは日本でもキャラクター商品がだんだん減ってきていることでしょう。知育的、教育的なものがいいものだと認識される時代に突入してきています。そして、その分野では、私たちに一日の長があるかと思います。

別所:たしかにそうですね。そして、どんな業種業態でも、お客様とどうつながっていくかということが重要だと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

中西:ボーネルンドは、ビジネスをはじめたときに、日本の玩具業界では初めてインストラクター制度を導入しました。ボーネルンドの商品について理解していただくのがまだ難しかった時代、その良さをどう伝えていくかを考えたときに、ただの販売員ではなくて、子どもの発達とあそび道具についてしっかり学んだ上で売り場に立って、お客様とコミュニケーションをとることが重要だと考えたわけです。現在では、北海道から九州までで約90店舗300名以上のインストラクターがおります。

別所:なるほど。では、Web上の展開はどうでしょうか? 近年では企業のブランディング動画をネット上で展開してお客さんとコミュニケーションをとる企業も増えています。

中西:昨年、百貨店の売り上げと主要なEC企業の売り上げが逆転するという現象が起きました。ボーネルンドでも、インターネットでの展開は積極的に取り組むべき課題だと認識しています。ただ、まだまだ研究の最中です。動画については昨年からテレビコマーシャルをはじめましたが、ネットでもより発信していかなければと考えていますので、別所さんにぜひ映像の世界について教えていただきたいと思っています。

別所:ありがとうございます。僕たちとしては、ボーネルンドさんのプロダクトや環境づくりのなかにある一人一人の物語を映像にして、子育て世代に届けられたら、みなさんの持ってらっしゃる哲学が伝わるのではないかなと思っています。僕にとっても、子どもの頃、両親や祖父母と遊んだ記憶やおもちゃ自体がとても貴重なものですから。

中西:まさにおっしゃる通りで、私たちも同じことを考えてまいりました。幼い頃、親子あるいは祖父母や保護者の方と楽しく過ごした思い出が記憶のどこかに残っていて、成長してから、今度は自分が次の世代に同じ役割を果たす。これはどんなに技術が発達しても絶対に必要なことですよね。機会がありましたら、ぜひそのような映像をつくっていただきたいです。

別所:ぜひよろしくお願いします。そして、いまの僕たちとのお話もそうですけど、御社は、さまざまな企業とコラボレーションされていると伺っています。


子どもたちは将来この国を支える存在になる


中西:そうですね。ボーネルンドは、公園に遊具を導入するという仕事からスタートしましたが、近年では、環境全体を提案させていただく機会が増えました。たとえば、公共施設やマンションのなかに共有の遊び場をつくったり。子どもたちが苦手な病院の待合室や診察室のなかにスペースをつくって、子どもたちにとって楽しみな場所に変えようという試みも増えています。また、自動車のショールームでの展開も年々大きくなってまいりまして、最初は全体の一角に遊び場を、ということだったのが、最近では、店内のほとんどが遊び場というお店も増えてきました。

別所:そういった場づくり、空間プロデュースが、マンションやカーディーラーさんにとって付加価値となるわけですよね。僕たちもショートフィルムの映画祭をやっていますけど、同じように、パブリックなスペースや企業のスペースで上映を行なっています。それは、ブランディングにつながることとも言えるかもしれません。そして、御社のブランドメッセージは、「あそびから未来をかえる」。こちらについてもお伺いできますでしょうか。

中西:もともと私どもは、「あそびと教育をつなぐ」と謳っていたのですが、2001年に本社を移転し、路面店もこのビルの一階に開設したときに、もう一度ブランドをしっかりと見直してみようと考えました。全従業員の考えていることを集めて、私たちの志を改めて明確にしたのです。その結果、私たちは、「受動的になりがちな今の時代の遊びを、本来の意味での、子どもの興味関心から始まる能動的な“あそび”に変えていくことで、自立した子どもを育て、未来をより健やかなものに変えていきたい。」と考えていることに気付いたのです。「あそびから未来をかえる」というスローガンはそのようにして生まれました。


小さな積み重ねが世の中を変える


別所:そういう意味では、ボーネルンドさんの手がけていることは、ビジネスと同時に社会貢献とも言えますね。

中西:ありがとうございます。ビジネスをはじめたときに、ただものを売るだけではなくて、社会にどう貢献できるのかをきちんと考えようと決めました。それがいまも続いています。

別所:素晴らしい。さきほど、海外のおもちゃのお話がありましたが、そういった考え方も海外から学ぶことが多いのではないですか?

中西:そうなんです。私は、かつては、ヨーロッパを訪れることが多かったのですが、最近ではアメリカにもよく行っています。アメリカには、子どもを育てるという観点で、本当に真剣に考えてつくられた施設がたくさんあるのです。「Children’s Museum」と呼ばれるそういった場所を拝見するだけでも非常に勉強になります。企業のドネーションで建てられるケースも多いので、そういった側面は、日本企業も学ぶべきではないかと感じています。

別所:そういう意味で、CSRに取り組もうとうする企業が御社と組みたいということも多いんでしょうね。それでは最後に、今後のビジョンをお伺いできますでしょうか。

中西:子どもは当然重要なのですが、一方で日本では老人が増えております。私たちは、そういった方々の経験を活かすことができる環境をつくるべきだと考えています。そのひとつとして、数年前にはじめた「トット・ガーデン」という、赤ちゃんと親子のための遊び場が挙げられます。そこでは、人生経験を重ねたシルバーのみなさまにサポーターとして入っていただき、ご自身の子育てやお仕事の経験をお話しいただいています。みなさまには、いきいきとお仕事をしていただいていますし、お母さま方からも、子育ての大きな参考になるとの声をいただいています。


別所:子どもたちの遊び場づくりが、同時に、高齢者の知見を生かす受け皿となる。まさに社会基盤づくりですね。

中西:ありがとうございます。そういった場所をつくるときには、ボーネルンドが単体で取り組む場合もあれば、行政と組ませていただくケースもあります。各地方で抱える課題を解決するために、ボーネルンドに遊び場をつくってほしいというご相談が増えておりまして。そうした取り組みのなかでも、シルバーのみなさまにご活躍いただいています。おこがましいかもしれませんけど、そういった小さな積み重ねが世の中を変えることになると信じています。

別所:僕も子育てについて義母から色々教えてもらいましたが、若い夫婦にはわからないことが多いから、経験者にアドバイスをもらえる場所はとても貴重ですよね。まさに、地域で家族になるというような。

中西:ええ。そして、私にはもう一つ目標があります。これからさらに、私自身と同じように高齢になる方々が増えていくでしょう。そのときに高齢者が、いわゆる老人ホームではなくて、楽しく快適な環境で過ごせるような場所をつくりたい。まだ形にはなっておりませんけど、自分の最後の仕事としてそれを手がけたいなと思っています。

別所:楽しみにしています。ありがとうございました。


(2018.4.24)


中西弘子(なかにしひろこ)
1945年大阪府生まれ。帝塚山短期大学卒業後、結婚、子育てを経て1981年ボーネルンド創立メンバーに加わり、94年社長に就任。バイヤーとして世界中をまわり、生活道具としてのあそび道具を提案。1999年には、子どもから大人、お年寄り、健康な人、障がいのある人、誰もが楽しく遊ぶことのできる遊具「ユニバーサル・プレイシング」を世界に先駆けて提案。2004年には、子どもが遊ぶ時間・空間・仲間の欠如に警鐘を鳴らし、解決方法の一つとして、親子で遊べる室内あそび場「キドキド」を開発。あそびを通して子どもの健やかな成長に貢献する事業を推進し続けている。