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【Management Talk】「楽しい世界は、楽しむ人がつくりだす。」世界シェアトップの化学品メーカーが掲げる理念

太陽ホールディングス株式会社 代表取締役社長 佐藤英志

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル &アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第50回のゲストは、太陽ホールディングス株式会社代表取締役社長 佐藤英志さんです。あらゆる電子機器が正常に安定して機能するために必要な絶縁インキ・ソルダーレジストの世界シェアNo.1企業である太陽ホールディングスは近年、ブランディング活動にも注力しています。その背景やコミュニケーションに込めた思いについて佐藤社長にじっくりお伺いしました。


太陽ホールディングス株式会社 会社概要 https://www.taiyo-hd.co.jp/
太陽ホールディングスは、ソルダーレジスト(様々な電子機器に用いられるプリン配線板の表面を保護する絶縁材料)で世界シェアトップクラスを誇るリーディングカンパニーです。数多くのエレクトロニクス製品にとって重要な電子部品用化学品部材の開発・製造販売を行うエレクトロニクス材料をはじめ、医療用医薬品の製造販売及び製造受託事業を行う医療・医薬品事業のほか、当社グループや顧客をデジタル領域でサポートするICT事業、受託合成開発を行うファインケミカル事業、再生可能エネルギーの普及促進を行うエネルギー事業や植物工場の運営を行う食糧事業など、化学の力を活かし、様々な事業活動を推進しています。

半導体パッケージ基板用で世界シェア約8割

別所:佐藤社長とは約10年前に共通の知人を介してお会いしていますよね。お久しぶりです。
佐藤:お久しぶりです。本日はよろしくお願いします。

別所:まずはさっそく、御社の事業についてお話をお伺いできればと思います。

佐藤:我が社はソルダーレジストの製造・販売をはじめとするエレクトロニクス事業を主体としています。ソルダーレジストとは、さまざまな電子部品を搭載したプリント配線板の表面を覆い、回路パターンを保護する絶縁膜となるインキのことで、あらゆる電子機器が正常に安定して機能するために必要な製品です。もともと、当社の祖業が印刷用インキの製造・販売でして、いまから50年ほど前、プリント配線板用の部材の販売を開始したのが現在の事業のはじまりでした。

別所:こちらにある緑色のプリント基板ですね。

佐藤:ええ。ソルダーレジストの開発・販売をはじめたのは1973年のことで、その後、海外でも特許が認められて世界ナンバーワンシェアを獲得します。現在でも、プリント基板用では世界の5割ほど、より高い性能が求められる半導体パッケージ基板用では約8割のシェアを占めています。

別所:すごいことですよね。

佐藤:ただ、あまり目立たないんです(笑)。

別所:いえいえ(笑)。現在も特許は有効なんですか?

佐藤:随分前に基本特許は切れています。ただ、特許のある期間中に我々が積み重ねてきた実績が大きな参入障壁になっており、他社さんは簡単には参入できません。

別所:そういった実績に加えて、ノウハウや顧客ネットワークもあるわけですもんね。それは強いでしょう。いま、生産拠点はどこにあるのでしょうか?

佐藤:アジアを中心に台湾、韓国、中国、ベトナム、アメリカに工場がありまして、そこでは主に、プリント基板に使う緑色のソルダーレジストを作っています。日本国内では、より高い性能が求められる半導体パッケージ基板向けのソルダーレジストを多く作っていますが、いまは日本の調子がいいですね。半導体不足が叫ばれていますけど、我々の材料は不足していない状況です。

別所:ソルダーレジストはなにでできているんですか?

佐藤:エポキシ樹脂がベースです。あまり色はないので顔料で色をつけています。

別所:イメージはグリーンですよね。

佐藤:そうですね。緑色のイメージが強いですが、お客様の要望に応えてブルーのものや黒のものも販売しています。光で固める工程があるため、光が通りにくい黒は調整がかなり大変です(笑)。


医薬品事業にも進出

別所:そうなんですね。ところで、佐藤社長ご自身はどのように太陽ホールディングスさんに関わるようになったのでしょうか? 佐藤社長は公認会計士の資格をお持ちで、最初のキャリアは監査法人のトーマツだったんですよね?

佐藤:ええ。公認会計士の試験に合格してトーマツに入所しました。理由は監査法人のなかでもっとも独立しやすそうだったからでした(笑)。

別所:その後、実際に独立されて、エンタメ業界にも足を踏み入れていらっしゃいます。

佐藤:いろいろなご縁があって有線ブロードネットワークス(現・USEN)で監査役を務め、その後、常務取締役に就任しました。もともと最初に関わったときのミッションは、上場させることでした。だから、2001年に上場したあと、私はいったん退いたんですね。

別所:今度は、ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)の副社長としてギャガの再建も担うことに。さらにそのあと、2008年に太陽インキ製造(現・太陽ホールディングス)の取締役になり、副社長を経て2011年に社長に就任されて現在に至る、という華々しい経歴です。

佐藤:いえいえ(笑)。実は、この会社との縁は長く、私がトーマツに入所して初めて監査にきたのが太陽インキ製造だったんですね。そこでオーナーと出会い、実は、トーマツを辞めた直後から太陽インキ製造の台湾子会社の監査役を務めていました。そしてその後、2008年に本体の社外取締役になって……という。1992年からですから付き合いが相当長いんですよ。

別所:そういうご縁があったんですね。2011年に社長に就任されてからは、どのようなターニングポイントがありましたか?


佐藤:私が社長に就任してからの太陽ホールディングスの歴史のなかでいうと、ターニングポイントはまず2つ挙げられます。一つ目は2013年に業界2位の永勝泰科技股份有限公司という会社を買収したこと。そして二つ目は、2015年に北九州に大規模な工場を建設したことです。もともとソルダーレジストは、液状のインキを基板に塗るという方法が主流でしたが、北九州の工場はフィルムタイプの製品を製造するために作りました。当時はまだ難しい技術だとされていて社内でも反対意見が多かったんですが、開発に成功しまして、現在の半導体向け材料の世界ではそれが主流になっています。いま、最初に作った埼玉県の工場と北九州の工場で半導体パッケージ基板向けソルダーレジストの世界シェアの約8割を生産しており、我が社の収益の大きな柱となっています。

別所:フィルムタイプへの需要を読んだということですよね。そして、そこに向けて大量生産体制を整えたという。素晴らしい。それでは、現在もっとも注力されているのはどのような領域でしょうか。

佐藤:我々は、半導体パッケージ基板のマーケットですでに約8割のシェアがありますので、他の用途でももっともっと使えるはずだという仮説を持っています。まだ詳細については申し上げられないのですが、まさにいま色々と研究しているというところが一つ目です。二つ目は、成長著しい中国マーケットをとりこぼさないということですね。

別所:なるほど。

佐藤:そして、もう一つの大きなトピックとして、我々は医薬品事業にも進出しているんです。これは大きな決断でした。いま我々のグループには、太陽ファルマと太陽ファルマテックという2つの医薬品事業を担う会社があります。

別所:2つの会社。

佐藤:2017年に太陽ファルマを設立し、2019年に第一三共さんから工場を買収して太陽ファルマテックという会社を作りました。太陽ファルマは、長期収載品と呼ばれる先発薬で特許の切れた薬を製造・販売する会社です。長期収載品は国からの値下げ圧力が強いため、製造を外注していてはなかなか利益が出せません。それで、自社グループ内で製造するために、太陽ファルマテックを買収したわけです。太陽ファルマテックはもともと第一三共さんの製品の大半を製造受託する会社でした。買収した当初は、太陽ファルマの製品を製造するにしては少し大きいかなという印象でしたが、医薬品メーカーをめぐる市場環境の変化もあって、いま多数のお問い合わせをいただいている状況です。買収時と比較して生産量は大幅に増加しています。


テレビCMの狙い

別所:事業全体がますます大きく広がっているわけですね。それでは、続いて、ブランディングについてのお話もお伺いできればと思います。僕の主宰する映画祭ショートショートフィルムフェスティバル & アジアのなかでもさまざまなブランディングにまつわる企画を展開していますが、太陽ホールディングスさんの取り組みについて教えてください。

佐藤:まず、我々が本格的にブランディングをはじめたきっかけは、会社が急成長したことによって社員が増えて意思統一が難しくなってきたと感じたからでした。テレビCMを流しているのも実は社内を意識してのことなんです。つまり、社内向けの発信でも、いったん社外を通すことが大事だと考えているわけです。社外を通すことによって社内での浸透率が上がってくるんですね。

別所:インナーコミュニケーションだけど社外を通す。直接伝えるよりも外からくる反応のほうがインパクトが大きいですもんね。では、中身についてはいかがでしょう? いま、佐藤社長や太陽ホールディングスさんが発信したいメッセージはどのようなものでしょうか?

佐藤:まず、私が社長に就任してすぐに手掛けたのが経営理念の改訂でした。そこで定めたのが、『我がグループの「あらゆる技術」を高め、革新的な製品をもって、夢あるさまざまなモノをグローバルに生み出し、楽しい社会を実現します。』というものです。そして、経営理念を浸透・実現させるために大切にする『太陽バリュー』をつくり、「楽しむ」「スピード」「誠実」「コミュニケーション」の4つのキーワードを掲げました。そこから、「楽しい世界は、楽しむ人がつくりだす。」というブランドステートメントが生まれてきたわけですけど、やはりすべてに共通しているのが「楽しむ」という考え方で、つまり、我々は、いいものを生み出すためには楽しむことが必要だと信じているんですね。

別所:いいですね。「楽しむ」。僕たちも映画祭を主催しているなかで、エンタメ事業としてどう「楽しさ」を作っていけるかを常に意識しています。楽しくないと持続性がないですから。そこは重視していますね。エンタメで言うと、太陽ホールディングスさんは、映画とも接点がありますよね。最近では、ディズニー映画とも関わりを持たれているんですよね?

佐藤:そうですね。ディズニーさんとの関係は、我々のテレビCMをご覧いただいたディズニーの映画プロモーション部門の方からご連絡をいただいたことがきっかけだと聞いております。

別所:引き寄せましたね!

佐藤:ええ(笑)。それで、作品にタイアップしたんです。我々のテレビCMのなかで、『映画を応援しています』というメッセージを流すというかたちです。お互いにとってウィンウィンのやり方だと思っています。

別所:作品側は宣伝してもらえて嬉しいし、御社はディズニーファンから興味を持ってもらえますもんね。では、映画「翔んで埼玉」との関わりは?

佐藤:我々の本拠地は長らく埼玉県にありますので、そういったご縁で協賛させていただきました。

別所:どんどんパワフルな作品に進化していますよね(笑)。

佐藤:ええ(笑)。あと、我々はeスポーツの大会にも協賛しています。太陽ホールディングスは化学品メーカーでエレクトロニクスを扱っている会社ですから、eスポーツの大会に集まってくる方々とは親和性が高いのではないかと考えたわけです。それに、当社の従業員のうちかなりの割合がゲーマーなんです(笑)。それでぴったりじゃないかと、「ストリートファイターリーグ」への協賛をはじめました。

別所:それに続いてぜひ僕たちの映画祭も応援いただけたら嬉しいです(笑)。最後に、今後のブランディングやコミュニケーション戦略について教えてください。


佐藤:ブランディングについては、eスポーツやテレビCM、映画とのタイアップといったいまのやり方が一つ答えとしてよしだと捉えています。ですので、これを継続していくのが一つの方法です。テレビCMについて補足すると、先ほど、インナーコミュニケーションを目的に、というお話をしましたけど、実はもう一つ狙いがあるんです。

別所:なんでしょう?

佐藤:採用活動のためです。それも、採用候補者本人に向けてというよりも、そのご家族をターゲットにしています。

別所:そうなんですか。

佐藤:「そんな会社は知らない。もっと大きな、有名な会社に行きなさい」とご家族から言われてしまうケースがあるんです。

別所:そういう意味でも認知度が必要なわけですね。

佐藤:ええ。ですから、新卒採用候補者の親世代や30代半ばくらいまでの中途採用候補者のご家族に訴求するためにテレビCMを流しているわけです。我々の会社について実際に知っていただくとファンになっていただけることが多いんですけど、その手前のところで弾かれてしまうことがしばしばあるんですね。

別所:B2B企業はそこが難しいですよね。

佐藤:ですから、最近、B2Bのメーカーが社名を連呼するテレビCMが増えていますよね。我々より大きくて有名な会社でも採用活動に苦労しているんだと思います。

別所:たしかに。テレビCMはご家族の安心につながるでしょうから。その一方で、採用候補者本人は、ネットで動画を観ていることも多いと思います。僕たちの映画祭にはHR部門もありまして、今後のますます人事採用の面でショートフィルムが活用されることが多くなってくると思います。

佐藤:たしかにそうかもしれません。

別所:僕たちの映画祭自体も昨年25周年の節目を迎え、改めて、技術とテクノロジーとエンタメの融合にも取り組んでいます。映画祭や映画というエンタメが人をどう楽しませるか、これからも突き詰めていきたいと思っています。ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

佐藤:ぜひよろしくお願いします。ありがとうございました。

(2024.1.18)


【佐藤 英志】
1969年、東京都生まれ。大学卒業後、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)へ入所。1999年、エスネットワークス設立。その後、有線ブロードネットワークス(現USEN)常務取締役、ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)取締役副社長等を経て、2011年、太陽インキ製造(現太陽ホールディングス)代表取締役社長に就任(現任)