AC時代のブランドについての覚書(2)~アフターコロナの自分の仕事について~

AC時代のブランドについての覚書(2)

~アフターコロナの自分の仕事について~

第一回から続く

【ブランドから「ワールド」へ】

さて、これから「ワールド」という概念を軸に、ポストコロナのブランド(による価値付け)について、考えていきたいと思う。

さて、「ワールド」とは何か?

それはまさに「人が生き、他人と接しながら、自ら学び・実践し、成長する」ために「用意された時間と空間」であり、少し前に流行った言葉を使えば"Community of Interest”「関心のコミュニティ」である。

最近のブランド論には「ブランドコミュニティ」に触れているものも多い。ただしそれは、SNS時代にブランドを拡大する戦術という側面が大きい。

私はその「コミュニティ」こそが主役だと考え*、従来のブランドとは考え方の差を明確にするため「ワールド」という言葉を使いたいと思う。

更に、このコミュニティの大きな目的は「人の成長」である。単に集まるだけでは無く、集まりが「個々人の成長を目指している」ことは、一般的なブランドコミュニティと一線を画す点であると思う。

さて、ここで断っておくと、この「ワールド」という言葉は、私の独創では無い。これは1990年代後半に、ベネッセコーポレーションの福武社長(当時)が、盛んに発していた言葉である。では、当時の主力サービスである「進研ゼミ」を題材に、「ワールド」の実態を考えてみたい。

【進研ゼミにみる「ワールド」】

最初にお断りするが、進研ゼミというサービスは進歩しており、必ずしも90年代後半のそれと同じという訳では無い。あくまで90年代後半の進研ゼミを想定して、この稿を読んで欲しい。また、私は当時、進研ゼミに自主提案するために「主婦や子どものインタビュー調査」を行っていた。ここで展開するのは、その知見が中心になっていることをお断りしておく。

進研ゼミとは何か?

もっとも単純な答えは「通信添削」である。「教材」の充実した「成長の段階に合わせた」の「会員制」通信添削という更に続く答えも考えられる。

さて、進研ゼミをブランドとして考えると、これらの答えは、実は進研ゼミの下にあるサブブランドが担っていることが分かる。

通信添削=「赤ペン先生」

教材=「チャレンジ」

段階=「コラショ」など段階別キャラクター

会員=「チャレメ」(チャレンジメイト)

つまりサブブランドが個々の機能に対応したトレードマークなのである。子どもたちは具体的・かつ(得られる機能が)分かりやすいにトレードマークに沿って進研ゼミを体験している。やがて、その付き合いの中で自分の成長を感じながら、こう思うのである「進研ゼミって、居心地が良い」。

進研ゼミは当時、アンチとなる親も多く、「子どもがなんであんなものを気に入るのか分からない」、「商品やキャラ、マンガDMで子どもを釣っている」という声も良く聞いた。親は「勉強道具を与えている」つもりだからだ。しかし、子どもたちは違う。彼ら・彼女らは「自分の居場所」として進研ゼミを感じているのだ。「成長を感じられる自分の居場所」、そうこれこそ「ワールド」なのだ。

たとえば当時の進研ゼミの広告コピーに「なりたい自分になろう」というのがあった。

これは単純に言えば「夢を叶えよう」「叶わない夢は無い」というポジティブなメッセージである。しかし、そうやって夢への選択を進めることは、同時に一方で「自分の限界を感じ」て「何かを諦める」、つまり「痛みを伴うこと」なのである。単に「勉強が辛い」のではない。勉強が「人生の痛みを伴う」から辛いのである。

進研ゼミは単に勉強の道具では無い。勉強を通じて感じる「人生の痛み」に寄り添い(そういう意味では小中高や学年で分断される学校より進研ゼミの方が個人には長い付き合いになる)、「キミが何かを達成しつつあることを承認」し、「キミを応援する」場なのである。だからこそ、それは「サービスである以上に「成長のためのコミュニティ=ワールド」として設計されなくてはいけないし、実際に設計されるのである。

【今、ワールドを目指す企業は?】

今、このようなワールド的なブランド展開を行っているのが、パタゴニアやモンベル、スノーピークなどのアウトドアメーカーに多いのは偶然では無い。そこには人生の豊かさと同時に、危険のリスクもあり、達成への困難もある。そういう顧客と常に接するこれらのブランドが、結果として「ワールド」を志向するのは当然である。

明日からは、具体的なケースを短く紹介しながら、今までのブランドと「ワールド」がどう違うのか、キーワードを挙げて考えていきたい。

*これを書いていて、「ブランドとは集まりである」という文を書いていたことに気がつきました。雑誌に掲出したものなので、転載できませんが。

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