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新人弁護士、ロースクール生に伝えたい危機管理業務の魅力

こんにちは。ブランド×弁護士の三浦です。先日、事務所の新人弁護士たちに「危機管理業務」について研修を行う機会がありました。今日は研修の中から特に「危機管理業務」の中身と魅力ついてピックアップしてお話ししたいと思います。


危機管理業務とは?

危機管理業務は新しい分野

危機管理業務と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?ちなみに事務所の新人たちのイメージは、

  • 不祥事起こした企業の記者会見で社長の横に座る。

  • ヒアリングをたくさんやる。

  • 何だかめちゃくちゃ忙しそう。

というものでした。どれも誤りではありませんが、どれもぼんやりとしたイメージです。危機管理業務は裁判や契約書チェックのような伝統的な法分野ではなく、新しい分野ですので無理もありません。

「危機」とは?

「危機」とは何でしょうか?明確な定義があるわけではありませんが、私は「企業存続の危機」(ブランド×弁護士的に言えば「ブランドの危機」)だと考えています。商品を販売することが出来なくなる、評判が下がって誰も買ってくれなくなる、多額の罰金を科せられて倒産してしまうなどが「危機管理」に言う「危機」です。

興味深いのは、何が「危機」なのかを決めるのは企業であって弁護士ではないということです。例えば、弁護士から見ればありふれたハラスメントであっても、企業が「ハラスメントを許せば従業員の士気が下がって大変なことになる」と考えれば、それは危機なのです。

したがって、危機管理の仕事は新聞に載るようなものからそうでないものまでさまざまな規模のものがあります。

「管理」とは?

次に「管理」については3つの側面があります。
1つ目は、起こってしまった危機、進行中の危機を管理する「対処」です。大きな不祥事を起こした企業を調査して、事実認定を行い法律上の評価をするという最も弁護士らしい仕事です。

最近は、法律上の評価を超えて組織風土や従業員の意識の問題に言及したり、再発防止策の提言まですることが多いので見落とされがちですが、この仕事の中心は事実認定と法的評価にあります。

2つ目は、危機が起こらないように管理する「予防」です。法律相談などを通じて事業活動を法規制に適合するよう手助けするのが典型的な仕事でしょう。社内規則の整備やコンプライアンス研修も「予防」の一つの類型です。

この仕事も弁護士的ではありますが、社内規則の整備や研修は事務所勤務弁護士よりはインハウスローヤーの方が得意かもしれません。なぜなら、社内規則や研修は法律的な正しさと同時に、組織文化に照らして無理なく受け入れられるものである必要があり、部外者である事務所勤務弁護士には少し難しい面があるからです。

3つ目の仕事は、発生している危機を迅速に見つけ出す「発見」です。典型的な仕事は内部通報制度の整備や窓口業務でしょう。この仕事も相談者から丁寧に話を聞き出し、法律問題に分解して対処するという面では弁護士的な仕事です。

危機管理業務の魅力

様々な分野の法令知識が得られる

危機管理業務に携わると実に多くの法令の知識を得ることができます。例えば、カルテルや談合では独占禁止法、投資詐欺であれば出資法、金融商品取引法や貸金業法、ハラスメントでは労働法といった具合です。

そのほかにも、事件が規制業界で発生した場合には、それぞれの規制法やその配下にある政令、ガイドライン等の知識が必要になります。業界によっては知っている弁護士がほとんどいない法分野に出会うこともあり、そうした新しい知識や、時にニッチな知識が得られるのが魅力の一つといえるでしょう。

経営陣と話ができる

「危機」とは企業存続の危機(ブランドの危機)なので、経営陣が直接案件ごグリップすることも少なくありません。したがって、危機管理案件では経営陣と直接話をすることが出来ます。これが2つ目の魅力です。

少し嫌な言い方になりますが、企業が危機に陥った時の意思決定には経営陣の特徴が色濃く表れます。つまり、企業経営の縮図がそこにあるわけです。クライアントである企業の経営陣の考えを理解し、彼らに選ばれる存在になることは企業法務を生業とする弁護士にとってとても重要なスキルです。

法律「以外の」スキルが身に着く

危機管理業務は、基本的には弁護士的なスキルを駆使して進めるものですが、それだけでは不十分です。

例えば「対処」の場面では、組織や業界がどのような論理で動いていくのか。組織で働く人びとが何を考えているのかといった知見や、組織論や社会心理学のような他分野の専門知識が役に立つこともあります。これらを十分に活用して、初めて発生した危機の「真因」や実効的な再発防止策の提言ができるのです。

「予防」の場面では、効果的なプレゼンテーションの手法や人の目を引き納得させる文章力などのスキルが必要になります。どんなに正しいルールや研修も、相手に伝わらなければ意味が無いからです。法律を仕事にしてしまうくらい好きな私たちと違って、多くの人は「ザ・法律文書」のような文体は好きではありません。読み手に合わせた工夫が必要です。

そのほかにも、チームビルディング、プロジェクトマネジメント、情報共有やロジの設計まで危機管理業務に必要なスキルには枚挙にいとまがありません。こうした幅広いスキルが身に着くのも危機管理業務の魅力の一つです。

おわりに

「法律を知っている」「契約書のレビューができる」といった純粋な法律スキルは、ITやAIの進歩によってコモディティ化の一途を辿っています。これからの弁護士が差別化を目指すには、特定の業界や企業における考え方や企業文化に精通し、チームとして動くことが不可欠でしょう。

確かに危機管理業務は体力勝負の局面もあり大変な面もありますが、存続の危機にある企業を助け、従業員やステークホルダーの利益を守る仕事であるだけでなく、弁護士として未来を切り開く視点やスキルを身に着けることが出来る素晴らしい仕事ですので、ぜひ多くの人にチャレンジして欲しいと思います。

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