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混浴で

混浴に入ったことはあるだろうか?

私は1度だけ混浴に入ったことがある。

20代半ばの頃だったか。
同僚3人と女子旅に行った。
山奥にひっそりと佇む旅館への道中、険しいデコボコ道を走るバスの車内で私達は何度も天井に頭を打ちつけていた。

記憶をいくつか失ったかもしれない頃、ようやく旅館に到着した。

その旅館は渓流に沿って露天風呂がいくつもあり、美しい景色と美味しいお料理が売りであった。

露天風呂と美味しいお料理。

天国である。


しかも平日で旅館は空いていた。
用意された部屋も広く、大きな窓からは新緑に輝く山々と美しい水が流れる川が観えた。

私達はさっそく旅館自慢の露天風呂に入ることにした。
混浴(水着の着用なし)ということに多少の抵抗を感じていたが内風呂は男女別になっており、また、これだけ空いているのだから露天風呂も貸し切り状態だろうとたかをくくっていた。

読みどおり貸し切り状態の露天風呂。
渓流に沿っていくつもの大小様々な形をした風呂がある。
「わースゴい!」
「猿が入ってくることもあるって!」
「猿と入りたいなあ!」
などキャアキャア騒いでいるそのとき。

私達のかしましい声を上回るクソデカボイスが聴こえてきた。
ビクッとして振り向くと、そこには外国人の老若男女グループが立っていた。

日本のオバサンが英語で風呂の説明でもしているのか、外国人の方々は「ダイナマイトなバディでも良いんじゃなーいフッフー♪」なバディ丸出しで何やら頷いている。

ダイナマイトと比べると線香ほどの勢いしかないバディの私達は何となく居心地が悪くなり、お湯に首までしっかり浸かったまま風呂の奥にある小さな洞窟へと進んで行った。

洞窟の行き止まりには男性器そのものを形にした岩が祀られていた。
私達はその岩に隠れるように湯につかっていた。

しばらくはあちこちの湯船から外国人の雄叫びやド派手に飛び込む水の音が聞こえてきていた。
「良かった。こっちには来ないみたいね。」 
「さすがにね。」
と私達が安堵するのも束の間、

フゥーーー!!!

という奇声がすぐ近くで聴こえた。
声の方向をシンボル岩の陰から覗くと、真っ白な美肌の外国人男性が大股開きでジャンプして私達のいる湯船に飛び込んできた。
スプラッシュマウンテン並みのしぶきが上がる。

彼がジャンプした瞬間、私達が身を潜めていた岩のリアル版が彼の足の間にハッキリ見えた。
世界まる見え!など言ってる場合ではない。

続けざまに年若い、まだ少年のような子が後ろ向きに飛び込んできた。

ヘイッ!!

リアルが見えとるじゃろうが!!!

湯船に飛び込んだあともバシャバシャ泳いで奇声を上げているためさすがにちょっと嫌になってきた。
注意したいが英語が話せない。
ハローハワユ?くらいしか知らない。

私達は仕方なく別の湯船に移動することにしたが、ここで問題発生だ。
深い湯船からあがるためには片足を高く上げる必要がある。
私は少し腹が立ってきた。
マナーの悪さに加え、なぜ知らない外国人男性に私の大切なお尻(の穴)を見せなければならないのか。

混浴だからである。

仕方ないのだ。だって混浴だから。
そういう(?)文化だから。

こそこそと尻を隠すのも負けたみたいで癪に障る。
私は丸出しで堂々と湯から上がることにした。
見るなら見るが良い。
これが大和撫子の尻(の穴)だ。
ところが彼らは洞窟の奥にある例の岩に夢中で私の尻など見ていなかった。


翌朝早くに私と友達の2人で露天風呂リベンジに向かった。
今度こそ思う存分ゆっくりとお風呂を満喫したい。
ニホンザルもまだ見ていない。

川に最も近い湯に浸かり向こう側の山からニホンザルがやって来るのを待つ。
しばらくすると山を下ってくる猿の群れが見えた。
猿の群れはロープを渡り次々とこちらへやって来るではないか!
親の背中に乗った小猿もいる。可愛い!

私達の周りをぐるっと猿が囲む。
人慣れしているのだろう。大人しくただ座っている。
こんなに近くでニホンザルを見るのは初めてだ。
めちゃくちゃ可愛い!!

猿の可愛いらしさで昨日の外国人男性のリアルが薄れてきた頃、背後から「おはようございます」とバリトンのエエ声が聞こえた。
振り向くと全裸のニホンオジサンが仁王立ちしている。

(またか…………。)


友達と私は心の中で同時に落胆する。
いくつも露天風呂があるのにオジサンはわざわざ私達がいる湯に入ってきた。
「いや〜。滅多にない機会だから若い女性と一緒に入らせてもらおう。ハッハッハ。」

ニホンオジサンの全裸をこんなに近くで見るのも初めてだ。

オジサンはブラブラさせながら私達に「どこから来たの?」「おいくつ?」「彼氏は置いてきちゃったの?」「肌が真っ白だね。」「得しちゃったなあ。若返りそうだよ。」など一方的に話し続けていた。

友達は完全に背中を向け無視を決め込んでいたため、私がそのつどいい加減でデタラメな返事を繰り返していた。

前日の外国人男性といい、このニホンオジサンといい恥ずかしそうな様子が1ミリもない。

出し慣れているのだろうか。


部屋に戻り、留守番していた友達にニホンブラブラオジサンの話をしたところ「うーわ!行かなくて良かったー!」と手を叩いて喜んでいた。

チェックアウトの時間になり下へ降りると、さっき露天風呂で遭遇したブラブラオジサンがフロントにいた。

私と友達は「あ、おはようございます。」と声を掛けた。
ところがオジサンはギョっとした顔をし、私達を完全に無視して足早に去っていった。

「何だアイツ。さっきと全然ちがうじゃん。」
「裸の付き合いまでしたのにねえ。」
と友達と話していると、ブラブラオジサンは若いキレイな女性の手を引き急いで旅館の外へと出て行った。

なるほどね。

野生のニホンオジサンは身の危険を察知して安全な場所へと逃げて行った。
……といったところだろうか。


混浴に入ったのはあれっきりだが、もうこの先の人生で混浴には入らなくても良いかなとニホンオバサンは思っている。
やはりお風呂は何も気にせずリラックスして入るのがいちばんだ。
でもサルやカピバラとなら混浴も良いかもしれないな。

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