初めてのまとめ役
私は女子高の出身である。
創立100年近い学校で「茶道」「華道」「お琴」の授業もあった。
制服は清楚を絵に描いたようなセーラー服である。
その清楚なセーラー服のスカートを、ルーズソックスとのバランスを考えながら短くすることに私たちは一生懸命だった。
(ちなみにスカートの裾に特徴的なワンポイントが入っていたため裾上げはできなかった。)
毎朝スカートのウエスト部分をグルグルと丸め込み、丈を短くしてベルトで固定する。
ルーズソックスもソックタッチで固定する。
出来上がりだ。
しかし校則は厳しい。
私たちは勉強こそ苦手だが校内では「ごきげんよう」と挨拶をしてお茶やお花、お琴までたしなむ麗しき乙女である。
なんちゃって乙女たちは学校の最寄り駅まで来るとルーズソックスを脱ぎ、学校規定の靴下に履き替える。スカートも校則で定められた膝下10センチの長さに戻す。
面倒くさい。
何故そんなことに一生懸命だったのだろう。
帰りも駅で再びルーズソックスと短いスカート姿に変身する。
めちゃくちゃ面倒くさい。
でもやらなきゃいけない。
だってそのほうが可愛いから。
そのうちヘアカラーや化粧、ピアスの学生も目立ってきたため先生たちも問題視し始めた。
あるときから先生達が駅に身を隠し、登校してくる生徒を監視するようになった。
どこからともなく飛び出してくる先生が鬼となり突如はじまる追いかけっこ。
私たち生徒は短いスカートをひるがえして全速力で逃げる。
なんちゃって乙女は勉強は苦手でも駆けっこは早い。
後ろから先生にベルトを掴まれ捕獲されるとベルトはその場で没収された。
懲りずにベルトを新調しては没収されることを繰り返し、もう引くに引けない根比べだ。
もう諦めたら良いのにね。先生たち。
諦めたほうが良いのは私たち生徒であるが、思春期女子は短いスカートを諦められなかった。
そうこうしているうちに学校も大量にたまったベルトを持て余したのだろう。
ベルトの持ち主である生徒の親を呼び出し、親にベルトを返すこととなった。
私の母ももちろん学校に呼び出された。
帰ってきた母は何故か嬉しそうに言った。
「すごい量のベルトを1本のベルトが束ねてたんだけどね、何とそれがかをちゃんのベルトだったよ!皆より長かったんだろうね〜、ベルト。」
私自身は人を束ねたりまとめたりすることに全く向いていないが、私のベルトはまとめ役に向いていたようである。
これまでの人生でベルトだけでもまとめ役に抜擢されたことを私は誇りに思っている。