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かっこよく。

私は生まれつき足に障害があったため小さい頃から入退院を繰り返していた。
親と離れての入院生活のなかで「看護師さん」というのは幼い私にとって最も身近で安心できる存在だったと思われる。

という話をすると「それで自身も看護師の道を選んだのですね」と誰もが口にする。

が、幼い私には単純に「看護師さん」という人は「腕時計の文字盤を手首の内側にして着けていて、脈を測る時にその文字盤を見る仕草が超絶かっこいい人」という記憶でインプットされた。

退院した私はさっそく自分の手首にマジックで黒々と腕時計を描き、ぬいぐるみの脈を片っ端から測りまくった。
自分の手首の内側に描かれた不格好な文字盤を見ては満足した。
ぬいぐるみだけでは飽き足らず兄のプラモデルまでもが私の毒牙にかかった。

で、今である。

そもそも腕時計の文字盤を内側にして着けている人なんてもういない。
実際に看護師になってから、あの仕草をしたことは一度もない。
あれだけ練習したのに残念である。

しかし、どうせなら「かっこよく」働きたいという思いは今も残っている。
背筋を伸ばし颯爽と歩き、美しい所作で動くことを心がけている。
つらい仕事ももちろん多い。
泣きたくなることもある。
人様の看護どころではないときもある。
それでも「かっこよく」振る舞いたい。

思い出のなかの看護師さんたちは皆やさしい笑顔を浮かべている。
颯爽とかっこよく私達の前に登場し、柔らかく美しい所作で仕事をしていた。
あの看護師さんたちだってきっとつらいことや悲しいことを抱えていただろう。

あのころ憧れた看護師さんの年齢をとうに越えてしまったが、私も1ミリくらいは近づけただろうか。
かっこいい看護師さんに。

#仕事の心がけ