見出し画像

帰省、海へ還る


#わたしと海

という素敵なタグを見つけたので、綴らせてください。

去年祖母が亡くなりました。祖母は70超え、私は高校生でした。

詳しい話は聞きませんでしたが、白血病とのことでした。

2021年12月

その日は平日でした。私は学校に行って、疲れ切って帰ってくるというのが続いていました。

家に帰ると、母が突然、おばあちゃんが!
と言ってきました。背筋が凍りました。

「おばあちゃんが白血病だって」

「あなた、ばあちゃんが死んだかと思ったじゃない!変な言い方しないでよ」

とっさにこう返してしまいました。

おばあちゃんとおじいちゃんは離れたところに二人暮らし。近くにおば夫婦が住んでいます。

おばあちゃんは最近体調が悪く、病院に行ったところ発覚したそうです。

結果、即入院。
なかなか駆けつけられる距離でもなく、おば夫婦に任せる形となりました。


実を言うと、私はおばあちゃんのことを心配する余裕はありませんでした。

学校の成績も良くない、体調も悪い、休む日も出てくる。

コロナのこともあって、疲弊していました。

2022年1月

正月、父だけおばあちゃんの様子を見に帰省しました。

家族みんなで行ければよかったのですが、コロナのこともあっての判断でした。

父は病室のガラス越しにおばあちゃんを見たそうです。
たくさんのチューブが繋がり、昏睡状態にあるおばあちゃん。

後に話を聞くと、長い夢を見ていたと話してくれました。
駅に、母が立っているのを見たそうです。
夢なので支離滅裂な話でした。

2022年春

父は何回も病院と職場を行き来していました。


ある時おばあちゃんの目が覚めました。
「あんた、死にかけてたんだぞ」
と父とおばに言われたと言っていました。
父は珍しく泣いていたそうです。

珍しいどころか、私は父が泣くのを一回も見たことがありません。


2022年夏

おばあちゃんの一時退院に合わせて、家族で帰省しました。

普通の病気はともかく、コロナなんて絶対移しては行けないので、フェイスシールドやら、医療用マスクやらを着けました。

おじがお好み焼きを焼いてくれたので、みんなで食べたのを覚えています。

おばあちゃんは柔らかいのを、少しだけ食べていました。

私はおじいちゃんのビデオカメラを借りて、その様子を延々と撮っていました。

元気になったから一時退院できたのに、私には、もうばあちゃんは死ぬんだということが薄々わかっていました。



ある日、父が私、妹、母に海へ行こうと誘いました。

私はカメラを下げて、近くの海まで行きました。
小さい頃からおばあちゃんに連れられて行った海です。

お盆の季節なのに、人はいませんでした。

私は素足を入れたサンダルで、ペチャペチャと波打ち際を歩きました。
そうすると砂がサンダルにどんどん入ってきて、ザラザラするのです。

重くなった足でただただ歩いていました。

海へ還る、

という言葉をふと思い出しました。


哺乳類は海から来たので、海は母。

死んだら元いた海へ還る。

自己の解釈です。エヴァに影響されたのかもしれませんが。

当時私はうつ病で、おばあちゃんのことそっちのけで自殺だなんだと悩んでいました。

しかし、いざ海の前に立つと。

果てしない命の受容体にくらくらしてしまいます。

はて、私一人がこの海に還ったとして、一体何になるのだろうか。

私は足を洗って帰りました。

2022年秋

遂におばあちゃんは死の淵すれすれに立っています。

父とおば夫婦、そしておじいちゃんが、病室からビデオ通話を繋ぎました。

こっちは元気だとか、大変そうだとか色々一方的に話すだけで、おばあちゃんはうんうん頷いていました。

そうすると、今度はなにか言いたげなので、みんなで黙りました。

「つらい」

これが私が聞いた最後のばあちゃんの声になりました。

私達は口を開けて泣きました。

ああ早く楽になってくれ、と酷いことも思いました。

2022年12月

遂にばあちゃんが死ぬというので、父は先に帰り、追って私と母と妹が行きました。

おじいちゃんと病院に着くと、父からラインが来ました。

6時に車が来る、と。

ああ間に合わなかった、と思いながら病室に駆け込むと、そこには死体がありました。

おばあちゃんはもう海へ還っていました。

6時というのは朝の6時です。それから車を見送って、おじいちゃんの家にみんなで帰りました。

おばと父は死に際に立てたようですが、最期は眠ったままだったそうです。


私と父と妹は海へ行きました。母はおば夫婦とおじいちゃんと話していたのでついて来ませんでした。


冬も相変わらず静かな海です。
冷たいので足はつけられませんが、岩場からじっと水平線をみつめました。

冷たい風が、私を拒んでいるようです。

最期まで私達の将来を心配してくれたおばあちゃんも、もういません。

暗い青の海が、ただ波打つだけです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?