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俳句を読む

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2024年3月の記事一覧

俳句を読む 50 坂本宮尾 春昼の角を曲がれば探偵社

春昼の角を曲がれば探偵社 坂本宮尾

季語の春昼は、「しゅんちゅう」と読みます。のんびりした春の昼間の意味ですから、「はるひる」と訓で読んだほうが、雰囲気が出るようにも感じます。しかし、日々の会話の中で、「しゅんちゅう」にしろ「はるひる」にしろ、この言葉を使っているのを聞いたことがありません。俳句独特の言葉なのでしょう。句の意味は明解です。書かれていることのほかに、隠された意味があるわけでも

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俳句を読む 49 与謝蕪村 遅き日のつもりて遠きむかしかな

遅き日のつもりて遠きむかしかな 与謝蕪村

季語は「遅き日」、日の暮れが遅くなる春をあらわしています。毎年のことながら、この時期になると、午後6時になってもまだ外が明るく、それだけでうれしくなってきます。この「毎年」というところを、この句はじっと見つめます。繰り返される月日を振り返り、春の日がつもってきたその果てで、はるかなむかしを偲んでいます。「日」が「積もる」という発想は、今の時代になっても新

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俳句を読む 48 福永耕二 巻き込んで卒業証書はや古ぶ

巻き込んで卒業証書はや古ぶ 福永耕二

時のめぐり合わせで、わたしは卒業式というものにあまり縁がありません。高校の卒業式は、式半ばで答辞を読む生徒(わたしの親友でした)が、「このような形式だけの式典をわれわれは拒否します」と声高々と読み上げ、舞台に多くの生徒がなだれ込み、そのまま式は中止になりました。時代は七十年安保をむかえようとしていました。そののち大学にはいったものの、連日のバリケード封鎖で、

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俳句を読む 47 榎本好宏 三月は人の高さに歩み来る

三月は人の高さに歩み来る 榎本好宏

数日前にも、窓の外には依然として寒い風が吹きつのっていました。そんななか、風の音を聞きながら、昼間、窓を閉めきった室内で春の句を拾い読みしていたら、こんな作品に出会いました。描かれている情景は分かりやすく、また親しみやすいものです。「三月」「人」「高さ」「歩む」と、扱われている単語はあくまでもありふれていて、特殊なイメージを喚起するようには作られていません。

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