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俳句を読む

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2024年1月の記事一覧

俳句を読む 40 寺山修司 書物の起源冬のてのひら閉じひらき

書物の起源冬のてのひら閉じひらき 寺山修司

 意味はそれほどに複雑ではありません。てのひらを閉じたり開いたりしていたら、なんだかこれが、書物のできあがった発想の元だったんじゃないかと、感じたのです。では、てのひらの何が、書物に結びついたのでしょうか。大きさでしょうか、厚さでしょうか、あるいは視線を向けるその角度でしょうか。また、てのひらを開いたり閉じたりするたびに違う思いがわいてくる。そのことが

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俳句を読む 39 辻貨物船(辻征夫) 冬の雨下駄箱にある父の下駄

冬の雨下駄箱にある父の下駄 辻貨物船

玄関脇の、靴を収納する場所を今でも「下駄箱」というのだなと、この句を読みながら思いました。わたしが子供の頃には、それでも下駄が何足か下駄箱の中に納まっていました。けれど、マンションに「下駄箱」とは、どうにも名称がしっくりいきません。下駄というと、「鼻緒をすげる」というきれいな日本語を思い浮かべます。「すげる」というのは「挿げる」と書いて、「ほぞなどにはめ

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俳句を読む 38 久留島春子 初しぐれ鳩は胸より歩き出す

初しぐれ鳩は胸より歩き出す 久留島春子

しぐれにまで「初」がついているのかと、新年に寄せる日本人の思いをあらためて感じ入ります。しぐれは漢字で書けば「時雨」。冬にぱらぱらと降る通り雨のことですが、この漢字を「じう」と読めば「ちょうどよい時に降る雨」という意味を持ちます。「時雨心地(しぐれごこち)」となれば、「涙の出そうな気持ち」になります。さて、句はそんな情けない気持ちとは関係なく、年があらた

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俳句を読む 37 吉田花宰相 末の児に目くばせをして読む歌留多

末の児に目くばせをして読む歌留多 吉田花宰相

読めばだれしもが微笑んでしまうような、かわいらしい句です。季語は「歌留多」、もちろん新年です。昨今の、難解なマニュアルを読まなければはじめられないゲームとは違って、昔の遊びは、単純ではあるけれども、それだけにどんな年齢の子にも、その年齢にあった遊び方ができたように思います。歌留多を読んでいるのはお父さんでしょうか。日ごろは子供と時間を費やすことなど

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