生保や機関投資家の本年の株主総会議案に対する反対率 ー 上場企業は来年の株主総会に向けて10月以降に準備を開始
本日のテーマ
9月も間もなく終わりますが、多くの上場企業では9月末時点の株主名簿を締め(中間配当の関係)、外部業者を起用して実質株主判明調査をする時期だと思います。
前回の記事で生保の議決権行使について少し触れましたが、本日は生保の本年の株主総会での議決権行使結果や機関投資家の議決権行使結果について紹介しつつ、10月以降に企業が来年の株主総会に向けて取組むべき事項のお話をしたいと思います。
生保の投資先企業の総会議案への反対率
まず生保の議決権行使結果ですが、本年の4月~6月の総会での会社提案議案に対する議決権行使の個別開示結果は次のとおりです(フコクは2023年度のデータ)。
日本生命:反対率1.2%(3,603議案中、43議案に反対)
第一生命保険: 3.1%(11,508議案中、358議案に反対)
フコク生命(特別勘定):4.5%(2,033議案中、91議案に反対)
低い反対率ですね。各社ともスチュワードシップ活動に取り組んでおり、結構厳格な議決権行使基準を公表していますが(個人的には日本生命の基準など相当気合を入れている印象を受けます)、蓋を開けてみると、例えば日本生命などはわずかに1.2%の反対率にとどまり、多くの投資先企業の株主総会議案に結局は賛成しているという結果になります。
生保各社とも投資先企業で議決権行使基準に抵触する企業とは積極的に対話をしていると思われますが、国内機関投資家にならって気合を入れて厳格な基準にしているが、運用は全く厳しくないといった感じでしょうか。
上記の数値が掲載されている各社の個別開示の結果は以下です
日本生命
https://www.nissay.co.jp/kaisha/csr/shisan_unyou/ssc/pdf/kekka202404_202406.pdf
第一生命
https://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/investment/pdf/ssc2_039.pdf
フコク生命
https://www.fukoku-life.co.jp/about/activity/stewardship/upload/giketukenkoushi2023sa_2.pdf
国内主要機関投資家の総会議案の反対率
次に国内の主要な大手国内機関投資家の議決権行使結果を見ます。基本的には各社とも本年4月~6月の期間です。
三菱UFJアセット:反対率 19.2%(16,732議案中、3,219議案に反対)
野村アセット:反対率 10.3%(15,285議案中、1,582議案に反対)
アセマネOne:反対率 23.4%(13,464議案中、3,146議案に反対)
大和アセット:反対率 10.5%(15,366議案中、1,611議案に反対)
三井住友DSアセット:反対率 24.3%(17,336議案中、4,210議案に反対)
ブラックロック:反対率 8.7%(16,637議案中、1,443議案に反対)
反対率は高いですね。特にアセマネOneや三井住友DSは反対率が20%を超えており、かなり厳しいです。三菱UFJアセットも20%近くあります。
10年以上前であれば機関投資家の議決権行使は自社グループの取引先か否かで賛否を付けていたというようなことを良く聞きました。「国内機関投資家=ほぼ安定株主」であったかと思います。今更ながら時代も大きく変わったものです。
野村アセットマネジメント
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/pdf/vote2024_q2.pdf?20240902
アセマネOne
https://www.am-one.co.jp/img/company/16/year-2023.pdf
大和アセットマネジメント
https://www.daiwa-am.co.jp/company/stewardship/files/giketsu202406.pdf
三井住友DSアセットマネジメント
https://www.smd-am.co.jp/corporate/responsible_investment/voting/report/pdf/202404-06_report_of_voting_rights_jp.pdf
来年の株主総会に向け企業が10月以降に取り組むべきこと
10月以降になると各機関投資家は議決権行使基準の改定作業に入ります。
例年ですと国内機関投資家の中では、野村アセットマネジメントの改定作業が一番早いような認識でおりますが、12月になると多くの機関投資家の改定の方向性もかなり固まるのだと思います。
とすると企業としては何をすべきかですが、まずは自社の株主である機関投資家各社の議決権行使基準の改定動向を把握することです。手段としては、株主判明調査をしている外部業者に確認したり、自社を担当しているアナリストに聞くなどすることがあります。大きな方向性はつかめると思います。
その上で、まずは9月末時点の実質株主ベースで来年の株主総会の各議案の賛否シミュレーションをします。株主総会で議決権行使をする株主は3月期決算企業であれば3月末時点の株主ですが、まずは9月末時点の株主で賛否のシミュレーションをしておくことが大事です。
この結果を踏まえ、このままだと来年の株主総会での議案の賛成率が「少し危険」「ヤバい」ということであれば、来年の株主総会までの間の機関投資家とのエンゲージメンメントの充実、今後の決算説明会での説明資料の充実、個人株主の議決権行使の促進策(個人株主相手の施策は効果はしれていますが)などを検討することになります。それを年内に固めて年明けに具体的施策を講じるということになると思います。
そのためにも、9月末時点でまず一旦シミュレーションをして社内の関係部門と共有して、場合によっては課題・危機意識を社内で共有しておくことが今後の対策を講じる上で重要です。