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中長期投資の機関投資家の投資先企業の関心事項 ー 従業員意識調査とその見るべきポイント

今回から、不定期となりますが、機関投資家が中長期で企業を見ていく上でコーポレートガバナンス、ESGの観点での関心事項を説明したいと思います。私が過去数年にわたり、多くの機関投資家と対話をする中で、「こんなところに関心があるのだな」と感じる実務経験を踏まえています。

機関投資家がこの1~2年で関心が高いESG情報(=非財務情報の1つです)は「S(社会)」ですが、その中で関心の高いと思われる事項は従業員意識調査です。聞いたことはありますでしょうか?
エンゲージメントサーベイなどとも言いますね。企業理念、仕事上の課題、やりがいなどをアンケート方式で全従業員に回答を求めるものです。外部の専門コンサル会社などを起用して実施する企業も増えていると思います。

この調査結果について近年、機関投資家は重視していると実感します。その理由は、会社を支える基盤である従業員が企業理念、全社戦略、事業戦略をはじめ自社に対してどういう意識でいるかは企業の持続的成長において重要であるからです。

例えば、ある企業の今期の業績が好調だとします。けど、従業員意識調査の結果、従業員の不平不満が非常に多く、経営陣の非難ばかりする方が多かったらどうでしょうか?また、会社の先行きに対して暗い意識の方が多かったらどうでしょうか?中長期の投資家としては、「この会社は長期で見た場合大丈夫か?」と不安になると思います。

一方、今は外部環境の影響もあり業績は芳しくないが、将来に向けての見通しが明るい従業員が多く、自社に誇りを持っている方が多いような場合、その企業の将来の成長に期待できると言えます。

そういう点で、会社の将来の成長の可能性を見る上で、機関投資家は従業員意識調査について重視する傾向にあると思います。

ただ、問題は企業サイドの開示です。調査結果を上手く開示出来ていない企業が多いです。先日、ある素材系の企業の開示資料を見たところ、エンゲージメントスコアと称して点数の過去の数位が並んでいるのですが、スコアの説明もなく「これって何?」でした。これでは開示としては問題です。改善されていること自体は分かるのですが、それが何であり、改善の理由が一切不明だからです。

従業員意識調査の開示で重要なのは次の5点かと思います。

1 従業員意識調査ではどういう項目の調査をしているか
2 その中で会社が重要と考える指標は何であるか
3 その指標が経年でどう変化しているか
4 その変化の理由は何であるか
5 課題がある場合、それをどう改善していくつもりか

「業界他社と比較すると当社は見劣りするから開示は控えよう」という会社もあるかも知れませんが、そんなことは気にする必要はないです。だって投資家は、その会社に既に投資をしているのであり、他社との比較はそれほど気にしないと思います。そんなことより、自社の変化を見たいのです。

「他社はどうしている?」という言葉は、日本のサラリーマンのお作法ですが、そんなことばかり気にしている企業は、今後どうかなと思います。サラリーマン社長の会社は、社長以下全員がサラリーマンだから、見栄えを気にする傾向が強いのは仕方ない面もありますが、そんなことばかり気にして開示に躊躇しているとこれからの時代、投資家から見限られます。個人投資
家として、私もそういう企業には、投資しないようにしています。

個人投資家・株主の方も中長期で投資する際には、機関投資家の視点は役に立つはずですので、是非、投資先企業の従業員意識調査の開示内容見て、よくわからないようであれば、上記の5点について株主総会で質問したり、IR部門に今後の詳細開示を提案することをお勧めします。