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「もう1つのPBR」 ー 社外取締役は取締役会の実効性向上の鍵


「もう1つのPBR」

今回の記事のタイトルの「もう1つのPBR」ですが、7月17日の日経新聞の次の記事のタイトルを引用しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK124C60S4A710C2000000/

PBR=株価純資産倍率ですが、この記事のPBRはP=株価、B=ボード(取締役会)、R=リアリティチェックということです。上手い表現だなと思いました。この中で、最近、機関投資家と会話をして気になるのは、Bです。特に、取締役会における社外取締役の役割です。

社外取締役と機関投資家の対話をされた企業の方は肌感覚としてもご認識されているかと思いますが、社外取締役の果たす役割に対する資本市場の関心はこの1~2年でとても高くなっています。これまでは社外取締役の数を増やすことが関心事項でしたが、今後は社外取締役の機能が関心事項となっています。

社外取締役の機能は?

今更くどくど書く必要もないと思いますが、少し前に「持続的な企業価値向上に関する懇談会」が中間報告を開示しており、ここに非常に簡潔に社外取締役の役割が整理されています。ちなみに、同懇談会は一橋大学の伊藤氏が座長で、ブラックロックジャパン、りそなアセットはじめ著名な投資家の方々や大手の事業会社の方も委員に入っています。

取締役会の実効性向上の鍵は、社外取締役である。 上場企業の取締役は、会社法に基づき株主からの付託を受け、株主共同の利益の最大化に向 けて、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与する役割・責務を負っており、社外取締役も、取締役の一員としてこのような役割・責務を負っている。 社外取締役には、取締役会の構成員として、経営陣から独立した立場から、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現できる優れた経営者を選び出すとともに、取締役会等での経営の助言や監督等を通じて、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を強く意識した経営を 行うことを促すことが期待されている。 社外取締役がこのような役割を果たすには、個々の知識・経験・能力が優れていることはもち ろんであるが、経営戦略に照らして取締役会の全体として備えるべきスキル等を特定し、スキ ル・マトリックスを策定するなどして、適切な人材を配置し、取締役会を構成することが重要な のではないか。本懇談会では、このような観点も踏まえ、企業は社外取締役の選任の状況やプ ロセスの実態について改めて検証した上で、適切な社外取締役を選任することが必要との意見 があった。

①優れた経営者を選ぶことと②取締役会で執行サイドである社内取締役(指名委員会等設置会社であれば執行役)に対して経営助言をしたり、監督をして、経営陣の企業価値を高める経営の実践を促すことが期待されています。これってシンプルですが、大事ですね。

②の点はご認識の方は多いと思いますが、①の点が意外に盲点のような気がします。では、優れた経営者とは何でしょうか?

企業には、従業員はじめ様々なステークホルダーがいるので誰に対して優れた経営を実践するかにより定義が異なりますので、一概には言えないと思います。けど、上場企業にとって重要なステークホルダーの1つである資本市場との関係に焦点を当てた場合、企業の稼ぐ力を高め、ROEを向上させ、さらには株価を上げることの出来る経営者が優れた経営者と考えられています。つまり、社外取締役はこういう経営者を選べということが期待されているわけです。

経営トップの不再任も社外取の役割になりつつあります

多くの企業では経営トップ(サラリーマンの場合)の在任年数は内規で決まっています。4年という企業もあれば、6年の企業もあるし、もう少し長い企業もあるでしょう。よっぽど大きな不祥事がない限り、内規で定めた年数が終了するまで経営トップの職におります。これはほとんどの企業でそうだと思います。

けど、果たしてこれで良いのか?が最近、課題としてクローズアップしています。この点、先ほど紹介をしました中間報告でも次の記載があります

社外取締役の役割で特に重要になるのが、経営者の選任・再任/不再任・解任の機能である。経営者の選任後も、優れたパフォーマンスを発揮している経営者に対しては力強くエンドースし、そうではない経営者に対しては究極的には、不再任・解任を判断し、実行することも時には必要となる。社外取締役には、大局的な視点で、経営者を厳しく監督するとともに、力強くエ ンドースすることができる知識・経験・能力などの資質を備えていることが求められる。 しかしながら、経済産業省の調査結果では、CEO の不再任基準を設けていないプライム市場 上場企業は約半数であり、設けている場合も法令定款違反・不祥事・欠格事由・心身の健康状 況が中心となっている。このことからも日本企業では、取締役会が CEO のパフォーマンスに基 づいて選任・再任/不再任・解任を行う機能が十分に働いてない可能性があるのではないか。その 結果、企業経営者が予定調和的に変わる、いわゆる社長任期制のような慣習が一部の企業で存 在しているのではないか。現に、日本企業の CEO の在任期間は4年~6 年の間に集中してお り、中には、長年の慣行や内規で、完全同一年数で CEO が複数代交代するケースもある。

2018年のコーポレートガバナンス・コード改訂の際に経営トップの解任基準を明確化せよとなりました。当時は、話題になった気がします。でも結果として多くの企業では、心身喪失になった場合、最終利益の大きな赤字が数期続いた場合などを不再任の基準にしたと聞いています。

けど、これって「当然だよね」という事項ばかりです。こんな当たり前の事項を定めて「当社はCEOの解任・不再任基準があります!」と胸を張って言われても機関投資家からしたら「は?」ということだと思います。

経営トップの不再任の判断は難しいところだと思います。今は業績が悪くても将来、業績改善に向けて施策を打っているのであれば、資本市場から見たら続投という判断になるでしょうし、明確な施策がないということであれば交代ということになりますが、この判断はビジネスに対する理解力が求められます。

社外取締役に必要なスキルは?

ではどういう人材を社外取として招聘すべきかは自ずと明確になると思います。つまり、企業のビジネスが理解できる企業経営経験又は企業経営を数値で見ることの出来るスキルが必須な気がします。

来年の株主総会に向けて、これから社外取締役候補の人選を考える企業も多いと思います。社外取締役は今後、機関投資家と対話をする機会も増えるでしょうから、対話でボロが出ない人選が大事です。

これまでは黒衣の存在であった社外取が表舞台に登場することになるのです。黒衣のままであれば、能力は低くても露見しませんでしたが、今後は表舞台に立つ機会も増え、能力のないことが露見し、「なんでこんな社外取締役を選定したの?」と見られるケースも出てくるでしょう。社外取締役は美味しい職業ですので、社外取になりたいという人々は世の中に沢山いますが、人選をしっかりしないと会社は後になってえらい恥をかくことになります。

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