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複数の事業セグメントを持つ上場企業の理論株価の算出(サム・オブ・ザ・パーツ)- セブン&アイの企業価値評価の件でも記事に出ていますね


複数事業を抱える企業の企業価値評価の手法

日経新聞でセブン&アイの企業価値評価について次の記事がありました。

サム・オブ・ザ・パーツ分析です。日経新聞では、時々、この分析を用いて企業価値評価がされていますね。

本日は、このサム・オブ・ザ・パーツによる理論株価の簡易的な評価手法について紹介したいと思います。なお、このnoteでも昨年9月にサム・オブ・ザ・パーツの記事を投稿しましたが、基本的にはその時の記事をベースに少しだけ補足したり、見出しを加えております。

1年以上前の新聞報道で、ある大手のエレクトロニクス企業(誰でも知っている超大企業)の事業が8つのセグメントに分かれているところ、事業別の収益力をもとにこの企業の事業価値を測り株式価値を算定したところ、市場株価よりだいぶ低いという記事がありました。つまり、コングロマリット・ディスカウントにあるということです。

この時の価値算定の手法は、8つの各事業について各事業の競合会社のEV/EVITDA倍率の平均値をベースにして算出した各事業価値を合算して、ネットデットを控除して株式価値を算出するというサム・オブ・ザ・パーツ(以下「SOTP」といいます)の手法です。

サム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)の手法は?意外に簡単です

このSOTPですが、複数の事業セグメントのある企業で事業価値(=EV といいます)、株式価値を簡易的に算出する際に使う手法で、個人投資家の方も是非覚えていただけると便利かなと思います。

証券会社の投資銀行部門に依頼して事業価値、株式価値を算定する際にも良く使われる手法の1つです。具体的な例をあげて簡単に紹介します。対象企業をX社として次のような前提とします。

  •  X会社はA事業とB事業の2つの事業セグメントがあります

  •  A事業のEBITDA(=営業利益+減価償却費)が30億円、B事業のEBITDAが10億円とします

1 各事業別の競合他社の平均倍率を算出します

まず、A事業の競合会社の集団、B事業の競合会社の集団の各々のEV/EBITDA倍率の平均値を算出します 。EV(事業価値)=株式時価総額+ネットデット(有利子負債ー現預金)です。そして、これをEBITDAで割り、EV/EBITDA倍率を出します。
結果、A事業の競合会社(上場会社)のEV/EBITDA倍率の平均が10倍、B事業の競合(上場会社)のEV/EBITDA倍率の平均が8倍だったとします

2 この平均倍率をベースの各事業のEVを算出します

次にこの競合会社の数値を基準にしてX社のA事業、B事業のあるべきEV(理論上のEV)を算出します。A事業のEV=30億円(EBITDA)×10倍=300億円 / B事業のEV=10億円(EBITDA)×8倍=80億円ですね。

3 合算して会社全体のEVを算出

数値を合算し、X会社の全体の事業価値(EV)は380億円となります。

4 株式価値を算出

この数値にX社の現預金を足した後、有利子負債を引くと理論上の株式価値になります。これを発行済株式総数で割り、理論株価を算定。この理論株価が市場株価と比べて高いと低いかを比較

以上になります。市場株価の方が低いと「低収益事業を抱えているためコングロマリット・ディスカウントの状況にある」「株価向上のためEBITDAの低い事業を売却せよ」という方向になります。いかがでしょうか。割と簡単に出来ると思います。

投資銀行や機関投資家も簡易的には、この手法を使用していることも多いので、この方法で算出しておけば、大きな方向感はすりあうと思います。

個人投資家の方もこのSOTPの手法で投資先企業の理論株価をざっくりと算出して、市場株価がこれより大きく下回るような場合には、経営トップに対して「理論株価はいくらと考えているか?」「低収益事業の売却をすべきではないか?」「株価をどのように向上させるのか?」などの質問をすることが可能になります。是非投資先企業でSOTPを使って簡易的に算定することをお薦めします。